2020年10月7日、福岡市にて「5G協創ピッチイベント」が開催された。“withコロナ時代の5Gサービス創造”をテーマに8社のスタートアップが登壇。熱戦の模様と関係者の発言を交えながら、社会実装が見え始めた5Gの可能性を探る。

福岡のスタートアップ聖地からオンライン配信

 2020年の春を境に、人びとの生活は“新型コロナウイルスと共存する社会”へと変貌を遂げた。対面のコミュニケーションが難しくなり、オンライン文化が浸透。昨年まで笛吹けども踊らずだったテレワークが一気に定着し、それまでの常識から脱皮したニューノーマルへと世の中が切り替わった。

 くしくも、時を同じくして5Gの商用サービスが開始。いつの時代も新しいテクノロジーは社会を変革する源となる。しかも5Gは強力な次世代移動通信システムであるだけに、オンラインコミュニケーションの拡張をはじめ、我々の想像を超えた活用の可能性を秘めている。

 来たるべき5Gの本格的普及を見据え、激変したwithコロナ時代をどのように切り開いていくか――旬のテーマを掲げ、2020年10月7日、福岡市のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」を舞台に「5G協創ピッチイベント」が開催された。Fukuoka Growth Nextは福岡市や地元企業がバックアップするスタートアップ支援施設であり、全国的に有名な“福岡のスタートアップ聖地”でもある。

Fukuoka Growth Nextで行われた5G協創ピッチイベント(左)。旧大名小学校をリノベーションした施設内の様子(右)

 そもそも本イベントは、2020年2月末に行なわれる予定だったが、新型コロナウイルスの流行により延期となっていたもの。主催には福岡市、Fukuoka Growth Next、株式会社NTTドコモ、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズが名を連ねた。イベントは8社が登壇し、主催者らが内容を審査。優秀賞2組、最優秀賞1組を選出するコンテスト形式とした。主催者、登壇者には地元・福岡の関係者も多く参加し、地域活性化の狙いがあったのも特徴だ。

 テーマに即し、審査基準は5Gとの親和性、活用性に重きを置いた。それらに加え、新規性、実現可能性、収益性、将来性などの観点から評価。なおwithコロナの状況を鑑み、無観客のリアルピッチとオンライン配信のハイブリッド方式となった。

ダンスプラットフォームからスマート工場まで多彩なアイデアが集結

 以下、発表順にピッチ内容を紹介していこう。先陣を切ったジョコネ。は、2020年9月に女性向けの骨盤底筋のオンライントレーニングを開始したばかりのスタートアップ。同社の北奈央子氏は「骨盤底筋を鍛えることで女性に多い尿もれを改善できることがわかっている」と語る。まだ日本では骨盤底筋トレーニングの認知度が低いことから、北氏はオンラインで低遅延かつ高精細に体の動きを見せる手段として5Gに期待している。

ジョコネ。代表取締役 北奈央子氏

 妊娠・出産で骨盤底筋にダメージを受けることが多いため、現在は産後のママに特化しているが、いずれは更年期の女性まで広く対応するのが目標だ。「将来的には5Gを活用しながら、画像解析を用いてリアルタイムで骨盤底筋の動きを見える化したい。そうすれば、より効果的にトレーニングを提供できる」(北氏)。

 神奈川県川崎市からオンラインで参加したのがMira Robotics。遠隔操作とAI自動モードのハイブリッド制御を採用したアバターロボット、「ugo(ユーゴー)」を開発中だ。ターゲットは清掃・警備を中心としたビル管理業界で、現在は東京の品川シーズンテラスでugoの実証実験を行なっている。

 同社の松井健氏によれば、完全自動化ではなく、遠隔から人が操作して分業することが目的だという。「ビル管理業界は人材不足が深刻。さらに新型コロナが重なり、移動制限、非接触、非対面が一般化してきた。ネットワークを通じて人がロボットを遠隔操作することで省力化を図り、段階的なオートメーションが実現できる」(松井氏)。

Mira Robotics 代表取締役CEO 松井健氏

 ただし1人で1台の操作では効率が悪いため、複数台管理のプラットフォームを想定。クラウド上に構築したプラットフォームとの通信手段として5Gが貢献する。「ロボットが日常業務でビル内を移動して環境データを収集し、蓄積されたデータを活用してビル管理を効率化するのが狙い。これからの社会に向けたロボティクスサービスとして5Gと絡めて提案していきたい」(松井氏)。

 ジオクリエイツはVRによって空間体験を可視化するサービス「ToPolog」を提供している。VR映像で見ている視線や脳波のデータを蓄積してAIで分析。同社の本田司氏は「ポップサインの位置を分析して映画館で実証実験をしたところ、コンセッション(売店)の回遊率が高まり客単価を上げることに成功した」とその効果を語る。

ジオクリエイツ 代表取締役 本田司氏

 Webアプリのためスマートフォンでも閲覧可能だが「4Gでは通信量が不足し、VR映像の解像度に限界がある」と本田氏。そこで高速、低遅延、大容量を備える5Gは空間視認性が向上し、VR映像と非常に相性が良いと話す。「今まで気づかなかった場所もクリアに見えるため、そもそも目の付けどころが変わってくる。この視線の拡張に5Gを使うメリットがある。5Gを味方につけ、すべての人に最高の空間体験を提供したいと考えている」(本田氏)。

 Fukuoka Growth Nextにオフィスを構えるクアンドは、AIを活用した外付け可能な高度FAシステムを開発する。FAとはFactory Automationのことで、人材不足に悩む製造業にとってスマート工場の手段として脚光を浴びている。

 同社のシステムはカメラの映像をAIで分析してリアルタイムでのライン制御や監視を行なう仕組み。高価なFAロボットや、多数のセンサー設置などの手間がなく低コストで導入でき、データ取得のためのハードウエア選定、UI、分析のAIシステム、ソフトウエア開発までを一気通貫で開発可能な点が強みだとする。

クアンド エンジニア 新家遼士氏

 現在、銅板加工ラインを持つ工場で実証実験中だが、自動化システムが実現できればこれまで2人が必要だった製造ラインの作業人員を90%削減できると試算した。同社の新家遼士氏は「このシステムでは、映像の高いリアルタイム性、複数のカメラ映像を送るため大容量通信が必要。ここに5Gを組み合わせることでより高精度なFAシステムが実現できるはずだ」と話す。

 福岡市に本社があるグッドラックスリーは、ブロックチェーン関連事業、アプリ企画・開発、映像制作事業の3つを柱とする。今回は、5GストリーミングとARをかけ合わせ、デジタルペットをより身近な存在にするコンセプトを発表した。

 同社の福井正寿氏は「本物のペットはさまざまな飼育のハードルがあるが、デジタルペットはそれらの課題をほぼ解決してくれる」と指摘。2018年にはブロックチェーンの技術を活用した「くりぷ豚(トン)レーシングフレンズ」を発表済みで、本ゲームのキャラクターを使ったARゲームを開発中だ。

グッドラックスリー 広報 福井正寿氏

 高速、低遅延、多数同時接続の5Gを利用してクラウド上でAR映像を処理することで「端末の処理能力に依存しないリッチな表現が可能となる。今までデジタルペットは自分の端末内で閉じていたが、外出先などでデジタルペットの交流ができるようになり、可能性がぐんと広がる」(福田氏)と構想を語った。

 ROBBO JAPANは子ども向けにロボット工学の教育プログラムを提供する。母体となるROBBOは世界18カ国で展開しており、日本では東京と福岡に拠点を置く。ピッチでは福岡で事業開発を行なう久保田啓介氏が登壇。5Gによってオンラインとオフラインのギャップを埋めるプログラム「5 Go」のアイデアを発表した。

ROBBO JAPAN 久保田啓介氏

 「現状のオンラインはまだまだ平面的だが、5Gになればより立体的になりオフラインのイメージに近づく。5Gの高速性を活用してリアルとバーチャルをシームレスにつなげることで、子どもたちの創造力を発展させたい」と久保田氏。さらにグローバルの子どもたちのコミュニケーションも濃密なものとなり、異文化を吸収することが新たな成長につながるとする。

 「私自身、2画面のスマホを手に入れてどんなことに使えるかを日々考えている。2画面など不要と言う人も多いが、“なくてもいいかもしれない”ことを一生懸命考えるからこそ新しい道が開けるはず。4Gで満足せず、5Gを使って子どもたちからすごいアイデアが生まれてくることに期待している」(久保田氏)

 studio NOWHEREは、ダンサーとダンス好きのためのオンラインストリートダンスプラットフォームを構想中。自らがストリートダンスの長い経験を持つ柴田広輝氏が興したばかりのスタートアップで、創業メンバーも全員がダンサーである。

studio NOWHERE 代表 柴田広輝氏

 「ダンスとは人間の本能的な喜び。大きな可能性を秘めている。ここにテクノロジーをかけ合わせ、新しい体験を生み出すことができる」と柴田氏。1970年代に米国で生まれたストリートダンスは、間もなく誕生から半世紀を迎える。柴田氏はこれからの時代を「ストリートダンス3.0」と定義した上で「バーチャルとリアルが混じり合い、どこでもダンスを楽しめる世界になってくる」と話す。

 そこで欠かせないのが強力な通信環境だ。コロナ禍でダンスのオンラインレッスンも急増したが、現状では不安定な場所も多いために満足できないことも多々あるという。また、日本ではダンスや付随するクリエイティビティが上手くマネタイズされていない課題があり、5Gを活用したプラットフォームで「安定的に収益を得られるバーチャルダンススタジオを構築したい」(柴田氏)とする。

 「物理的な制約を可能な限り飛び越え、オフラインでは実現できないユーザー体験を提供するのが目的。5Gであればどこでも発信、受信が可能になり、一気にサービスが拡大するはずだ。ダンサーファーストでサービス品質の向上に努め、コミュニティの熱量を高めていく」(柴田氏)

 ラストを飾ったHMSは、創業3期目ながら産業用AIスマートカメラ「SiNGRAY(シングレイ)」シリーズで高い評価を得ている企業。ピッチではその技術力を応用し、5GとARスマートグラスを使った遠隔コミュニケーションサービス「ホロプレゼンス」を発表した。

HMS 代表取締役社長 胡振程氏

 同社の胡振程氏は開発の狙いを「withコロナ時代では、今まで大切にしてきた直接的なコミュニケーションが難しくなってきている。5G技術とARグラスを組み合わせて、セキュアで低遅延かつ高精細な3Dの遠隔コミュニケーションを実現したい。テレビ会議、遠隔診療、遠隔共同作業などで使えるようにするのが目的だ」と話す。

 会場にはARスマートグラスの試作機も展示し、審査員らが体感した。5Gの特徴を生かし、没入感のある映像を表示できるため、胡氏は「あたかも目の前に存在するかのようなバーチャル映像をARグラスの中で展開可能」とアピールした。

HMSのARスマートグラスを試す審査員(左)。ピッチ後には九州大学大学院システム情報科学研究院 倉爪亮教授が「人間共生ロボットの実現に向けた5Gへの期待」をテーマに基調講演を行なった(右)

高評価のポイントは「5Gだからこそ実現できること」

 審査の結果、最優秀賞をHMS、優秀賞をジオクリエイツ、studio NOWHEREが獲得。受賞者は「バーチャルがリアルに見えるような技術を5Gが後押しする」(HMS・胡氏)、「イベントの参加者はライバルでもあり同期でもある。ほかのアイデアを聞いてより5Gの理解が深まった」(ジオクリエイツ・本田氏)、「5Gを活用すれば、さまざまな国の人たちとリアルタイムでつながることができる。その点が素晴らしい」(studio NOWHERE・柴田氏)とコメントした。

左から最優秀賞のHMS、優秀賞のジオクリエイツ、studio NOWHERE

 審査員も今回のイベントに手応えを感じたようだ。福岡市の富田雅志氏は「Fukuoka Growth Nextをはじめ、福岡市では5Gを利用できる場所がいくつかある。今日のピッチを聞いて今後の可能性を感じた。新しいテクノロジーの発展に伴って、スタートアップもチャレンジする分野が広がる」と振り返った。Fukuoka Growth Nextの内田雄一郎氏は「あっと驚く技術が東京や大阪ではなく福岡から出てほしい。それが地域の活性化にもつながる」と語った。

福岡市経済観光文化局 創業・立地推進部 部長 富田雅志氏(左)、Fukuoka Growth Next 運営委員会事務局 事務局長 内田雄一郎氏(右)

 5Gを提供するNTTドコモ、そしてNTTドコモ・ベンチャーズは、協創を見据えたより深い立場からイベントを総括した。

「5Gはあくまでテクノロジー。5Gを活用して新しい価値や体験を創造することは、スタートアップのようなプレイヤーに考えていただくしかない。今日は幅広い分野で興味深い話を聞けたので大変参考になった。いろいろな形でリレーションを作っていけるヒントを見つけた気がする」(NTTドコモ九州支社 法人営業部長 兒玉大氏)

NTTドコモ九州支社 法人営業部長 兒玉大氏

 「今回のテーマが5Gと協創。4Gでは実現できず、5Gだからこそ実現できること、それを念頭に置いたスタートアップが高い評価を得たように思う。5Gの特徴として高速、低遅延、大容量が挙げられるが、データを運ぶだけの変化だけで捉えると“4Gでもある程度できる、5Gである必要があるのか?”との議論になりがちだ。だがユーザーが求めているのは“今までできなかったこんなことができる、SF映画の世界が実現できる”といったアイデア。表面的な特徴に囚われずアイデアを一捻りすれば、今後の事業の中で優位性を発揮できるのではないか」(NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 稲川尚之氏)

NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 稲川尚之氏

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