「浦和明の星女子中学・高等学校 カフェテリア棟」
大小二つの版状アーチのユニット架構が連続した空間構成が空間の質を決定しています。流通材である角材と構造用MDFを組み合わせることで、非常に合理的な架構になっています。素材を木にすることで組積造では得られない、柔らかさとのびやかさが人の集まる場を見事に創出しています。素材の持つ特質が十分に反映された建築です。
「北海道大学医学部百年記念館」
地場産のカラマツ材を使って、寺社建築に見られる「斗拱」を組物としてアレンジした独特の架構が建築の全体を印象づけています。建物周辺を巡る版状の壁が水平力を負担していると窺えますが、列柱空間をより強調することに加担しています。材積のもつ圧倒的な力強さが、北海道という厳しい環境の中で存在感をより一層感じられる建築であり、伝統と格式が木架構によって見事に表現されています。
「変わりゆく景色がある歯科医院 山王歯科」
梁背1.15mの2.4mグリッドの水平に広がる格子梁を、細いスチール柱が支えています。極めて大胆で透明感のある空間です。外に広がる公園と連続した空間のコンセプトは十分に説得力があります。北斜面という地形と方位がこの透明なガラスカーテンウォールを成立させています。2.4m桝の親密な半個室の治療空間と外の雄大な景色を楽しむというセットが、患者にとってはこの上ないサービスとなっています。
「浦和明の星女子中学・高等学校 カフェテリア棟」
卒業生に「帰ってきた」と思える場所にしたいという発注者の要求に、カトリックのミッションスクールにふさわしい、教会のような静謐な木質空間で応えています。大空間をダイナミックに3分割する木質のアーチは123mmの薄さです。105mm幅の製材をプレカットで加工し、アーチ状に組み立てて、厚さ9mmの構造用の面材MDFを両面に釘打するだけなので、特別な技術を要しません。実験で性能が検証済みの、優しい木の表情を具えた構造システムの今後の展開が期待されます。
「北海道大学医学部百年記念館」
医学部創設当時の建物群の意匠的特長を史料から読み解いて、デザインコンセプトを作り、大胆で明快な構造計画で実現しています。その手法は、モダニズム建築を学び、建築史を研究対象とする教員と学生ならではのものでしょう。4層の水平のレイヤーからなる柱頭の組み物は、約8mの長い柱を高い剛性で一体化しています。その端正で力強い意匠に、百年という歴史への誇りを感じます。不燃化の流れの中で消えていった木造校舎を現代の技術で復活させた意義も大きいです。塗料の選択と施工も注意深く行われています。
「変わりゆく景色がある歯科医院 山王歯科」
木の大きな格子梁を表わしで意匠とした作品はいくつかありましたが、格子のグリッドが建築計画上、診察ユニットとして合理的に活かされ、何よりも建物外部から見えるシルエットの美しさで、この建築に軍配が上がりました。家具も木で丁寧に作られ、歯科医院特有の苦痛を連想する患者の緊張と不安を、やさしい木肌から漂う木の香りが緩和させてくれることでしょう。塗料は抗菌性があり、安全性に配慮したものが選択されています。
「浦和明の星女子中学・高等学校 カフェテリア棟」
学生が自分達の居場所として認識されるようアーチ型の空間を提案し、夕景に我が家に帰るイメージと重ね印象に残る建築です。この空間を成立させるために新しい木造の工法を開発し、適切なスケールとプロポーションでまとめています。柔らかな発想が様々な要因を束ね解決していく好例です。ただ既存の建築や広場との関係など、その配置やスケールは少々強引な気がしました。
「北海道大学医学部百年記念館」
北海道大学は札幌市中心近くにあり、その緑豊かなキャンパスは街の印象を形作る重要な場所となっています。今回の記念館建設によりさらに魅力的なエリアとなることを期待します。道内で容易に手に入れることのできるカラマツ材を構造に用い、内外共に統一し、また道からの視認性を十分考慮し周辺の林と共に計画しているのもいいです。
寺社建築に使われてきた斗拱の構造を応用した梁は風格があり、吹き抜けのあるダイナミックな空間に映えています。
オリジナルな工法を編み出し、ここにふさわしく他にはない計画は、大学関係者のみならず通りを行き交う人々も魅き込み、人々の居場所として期待できます。
「変わりゆく景色がある歯科医院 山王歯科」
薄板梁の格子組天井により平面の自由度は増しますが、梁セイが大きく懐深い天井は時に重く感じます。この計画では歯科診療ブース2.4m×2.1mをモジュールにすることで納まりよい空間使いとなり、診療時の音もこの天井懐に吸い込まれ拡散せず効果的に働くのではと思いました。また、空間全体のおおらかなスケールと梁に使用した白色系の塗料によって、木質感を押さえ軽くみせており好感をもちました。