30年の睡眠研究の知見を生かす 最新テクノロジーで睡眠の質を向上させるパナソニックの挑戦

パナソニックが3月18日に「快眠環境サポートサービス」の提供を開始。寝具メーカー大手の西川株式会社と共同で開発した睡眠環境を改善するためのサービスだ。寝具を改善するだけでなく、就寝中のデータから室内の照明や空調の最適化を図るために、先進のテクノロジーを駆使していくという。いまだに謎の多い睡眠という世界に、テクノロジーはどう貢献できるのだろうか。

約30年の睡眠研究の蓄積による
科学的なアプローチへのこだわり

日本人の多くは睡眠不足にあり、その経済的損失は15兆円に上るというアメリカの調査会社の調査結果もある。働き方改革を進める上では、睡眠不足によるパフォーマンスの低下は無視できない大きな課題でもある。どうすれば質の良い睡眠が得られるのか。この大命題に「くらしアップデート業」を標榜するパナソニックが本格的に取り組みを開始した。

くらしアップデート業とは、家電メーカーの枠を超えて人々の暮らしをよくすることを営む会社へと進化していこうとする、同社の次の100年を見据えた基本戦略である。長年にわたって照明機器や空調機器を提供してきた同社にとって、今回の「快眠環境サポートサービス」はまさにこの基本戦略に法ったものだと言える。

菊地真由美氏
パナソニック株式会社 アプライアンス社
日本地域CM部門 コンシューマーマーケティングジャパン本部
くらしサービスビジネスユニット くらしサービス開発部
サービス開発統括 サービス開発・運用課
睡眠改善インストラクター
菊地 真由美 氏

パナソニック株式会社 アプライアンス社 くらしサービス開発部の菊地 真由美氏は「光と温度は快適な睡眠にとって重要な要素です。一般的に光はメラトニンや体内リズムに大きな影響を与えると言われています。快適な睡眠のためには室内の温度も大切です。就寝前にエアコンで室内や寝具を冷やしておくと、眠りを誘う深部体温を下げやすくなります」と光や温度と睡眠の深い関係を説明する。

同社では約30年前から睡眠の研究に取り組んできた。医療施設などへの照明機器の提供を通して「あかり」と睡眠の関係を研究し、2018年からはエアコンのモニター実験にも取り組み、快眠のための制御ノウハウを蓄積してきた。ここ4年間は毎年日本睡眠学会で研究発表を行なっている。

同社が追求しているのは、データに基づく科学的なアプローチだ。「エアコンの使用データを分析すると、夏場エアコンが2時間で止まるようにタイマーをセットしておいても、しばらくしてまたスイッチを入れるといったことが分かってきました。データを通してこうした実態を把握することで、先回りしたサービスを開発して照明やエアコンの使い勝手を向上させていきたい」と菊地氏は語る。

快眠環境サポートサービス
快眠環境サポートサービスは、対応家電との連携で温度や光などを制御して睡眠に快適な寝室環境を実現する。設定した起床時刻に近づくと徐々に明るく朝日のような光で(左)目覚めの環境をサポート。入眠や起床、季節や睡眠状態に応じた快適な温度、風向き/風量にエアコンが自動制御する(右)

こうした発想も照明機器や空調機器といった家電がインターネットに接続されることで可能になった。テクノロジーによって生活の質を上げることこそが、同社の掲げる「くらしアップデート」につながるのである。

パナソニックと西川、
お互いの強みを生かした共創

そんな同社がサービス開発のために手を結んだのが寝具メーカーの西川株式会社だった。西川は室町時代から寝具を手がけ、一貫して日本の眠りを支えてきた。1984年には睡眠を科学するために日本睡眠科学研究所を設立し、2017年からは自宅での睡眠環境を可視化し、睡眠環境の改善のためのアドバイスを行う「ねむりの相談所®」をスタートさせた。

「睡眠に悩みを持つ人は今はまだ家電売り場よりも寝具売り場に立ち寄ります。寝具のトップランナーである西川さんは私たちにはない知見を持つ格好のパートナーだと考えました」と菊地氏は共創の背景を語る。西川の側としても寝具だけでは睡眠障害は解消できないというジレンマがあった。そこからお互いに持っていない部分を補い合う理想的なパートナーシップが誕生した。

実際に今回のサービスは、お互いの得意とするところを持ち寄ることで開発されている。西川が開発したのは就寝中のデータを収集できるマットレス。表面の凸凹が体圧を分散させる「[エアーコネクテッド]SIマットレス」に、ミリ単位で微細な動きを1秒ごとに検知できる精密な体動センサーを搭載した。

センサー搭載マットレス「[エアーコネクテッド]SIマットレス
西川のセンサー搭載マットレス「[エアーコネクテッド]SIマットレス」。3×3個の点による凹凸構造の独立したブロックにより、しっかりとボディラインにフィットし、体圧を分散する(左)。センサーは睡眠計測に適した位置に内蔵。睡眠中の呼吸などの微細な動きから睡眠時間、睡眠の状態などのパーソナルデータを計測する(右)

このマットレスを通して収集した就寝中のデータはスマホアプリの「You Sleep」に送られ、睡眠状態が可視化される。睡眠時間、寝付くまでの時間、就寝中の睡眠の深さの推移、目覚めの状態などだ。これらのデータに基づいて照明やエアコンを制御するとともに、ユーザーにはパーソナライズされたアドバイスが送られる。

専用アプリ「Your Sleep」
専用アプリ「Your Sleep」では睡眠深度や睡眠時間、睡眠スコアなど日ごとの睡眠状態を確認でる(左)。また、週ごとに合計睡眠時間や睡眠スコアが低い日の行動確認や(中)、合計睡眠時間や睡眠スコアなどの月の平均値を確認でき(右)、睡眠の振り返りができる

「睡眠に関する研究の難しさは、寝ている間のデータがとりにくかったことです。これまでは、寝ている間の動きを可視化するためには、専門の機械で、かつ複数回何度も測定する必要がありました。私たちは数年間に及ぶ研究結果と、これまでの睡眠に関する知見によってセンサーから測定できる”寝ている間の体の動き”から、睡眠の状態を算出することで、ある程度の睡眠データを測定値として可視化できるようになったのです」と菊地氏は語る。

今回マットレスに搭載されたセンサーは新たに開発されたもので、センサー自体が薬事申請されている。

正しいデータをとることは、就寝中の状態を把握するのに欠かせない。それがあってこそ、高い制御技術を生かすことができる。今回、西川という寝具メーカーと共創したことでこのハードルをクリアすることができたのである。

情熱とテクノロジーが
睡眠を変える

今後のもっとも重要なポイントは、いかにパーソナライズを実現するかにある。快眠環境サポートサービスではユーザーへの行動アンケートを通して、就寝前の飲酒の有無や時間帯など生活実態も含めたデータを収集し、個々人にとって最適な睡眠環境を実現していく。アンケートの回答者には個別の睡眠アドバイスが提供される。

行動アンケート
いつもより睡眠スコアが低い場合はアドバイスが表示される。さらに、行動アンケートに答えることで、パーソナライズド アドバイスを受けられ、快適な睡眠に向けての行動改善を図れる
制御イメージ
取得した睡眠データを基に対応家電を制御する。対応のエアコンでは、おやすみ開始から入眠、起床にかけて、季節や睡眠状態に応じた快適な温度、風向き/風量に自動制御。「暑がり・寒がり」、「布団の種類」などアンケートに答えることで個人に合った設定にカスタマイズできる

「どんな行動パターンをとると寝つきが悪くなるのか、年代別にはどんな違いがあるのか、飲酒はどう影響しているのか、といったこれまで感覚的に分かっていたことをデータによって裏付けて睡眠環境の改善につなげていきます。成功例を作ることができればより展開しやすくなるはずです」と菊地氏は意気込みを語る。

ただ、睡眠が衣食住という全ての要素の影響を受けることを考えると、パーソナライズされた理想の睡眠環境を追求するためには、まだまだ足りないパーツも多い。それを補完するために必須になるのが他社との共創である。

菊地真由美氏

同社は、2019年4月に原宿に「&Panasonic」という共創のための拠点も開設した。そこでは睡眠環境のための話し合いも活発に行われているという。共創するパートナーの基準について菊地氏は「眠りを良くしたいという想いが共有できて、信頼できる相手」だと話す。

医療の世界にもつながる睡眠がテーマだけに信頼性は欠かせないが、加えて科学的なアプローチを実現するためのテクノロジーの進化も今後さらに求められるだろう。

「サービスを通して1人でも多くの人の眠りを改善したい」と菊地氏は語る。睡眠の質の改善という大きな課題の解決に向けて、その熱い想いとクールなテクノロジーへの追求が今本格的に動き出したのである。

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