Vuforia Chalkを活用することにより、熟練者と現場の担当者が遠く離れていても明確な指示出しが可能
今こそ、現場を守るためのDXのすすめ ──
PTCジャパン
製品技術事業部 執行役員 副社長
成田 裕次 氏
PTCジャパンは、創業以来30年以上にわたって製造業の現場に3次元CADや製品情報を管理する仕組みを提供してきた。5~6年ほど前から、モノのインターネット(IoT)やARを駆使する最先端のITツールを提供している。
PTCジャパン製品技術事業部 執行役員 副社長の成田裕次氏は、「新型コロナウイルスの影響で人の移動が制限されているいま、生産現場に実際に赴いての作業支援が難しくなり、リアルの場での集合研修もできなくなりました。当社は、こうした課題をAR技術によって解決しています」と語る。
まず成田氏が挙げたのはトヨタ自動車の事例だ。トヨタ自動車では、PTCジャパンのARツール「Vuforia Chalk」を工場設備のメンテナンスに利用している。
現場にいる作業者があらゆる設備に精通しているわけではないが、しばしば専門家のアドバイスを求める必要があった。かつては専門家が現地に赴いて支援していたが、Vuforia Chalkの導入以降、その必要がなくなったという。
Vuforia Chalkは作業者がスマートフォンで現場の設備を撮影し、遠隔地にいる専門家とつないでリアルタイムに共有できる。専門家はチャットで指示を出せるほか、その場で映像内にテキストや絵を描き、直感的な指示ができる。
Vuforia Chalkを活用することにより、熟練者と現場の担当者が遠く離れていても明確な指示出しが可能
「Vuforia Chalkの特徴は、カメラで撮影している設備の位置情報を3Dで正確にキープできることです。そのため、作業者が動いたりカメラの画角が変わっても、専門家が描いた矢印などの指示は設備に追従して表示されます。この結果専門家の支援を早くかつ容易に受けられるようになり、作業効率の向上に繋げることができました」(成田氏)
一方研修ができないという課題に対しては、ARを用いたセルフラーニングの仕組みが有効だ。同社のARツール「Vuforia Expert Capture」は、マイクロソフトのヘッドマウントディスプレイ「HoloLens 2」を使用して、熟練者の作業を主観的な映像として記録できる。この映像は、同じディスプレイを装着した作業者の目前の仮想空間にホログラフィで投影できる。
作業者の目前の仮想空間に動画や指示をホログラフィで投影し、段階的に確認しながら作業できる
作業者は仮想空間に映し出される動画や指示を確認しながら、段階的に作業を進めることができるため、インストラクターがそこにいなくても、まるでその場にいるかのように丁寧なトレーニングを受けることが可能になる。しかもセルフラーニングなので、本人が納得するまで繰り返し学ぶことができるのだ。
米グローバルファウンドリーズは、このVuforia Expert Captureを熟練者の技術の伝承に活用している。
米IDCの調査「Commercial AR/VR Survey, 2019」によれば、高度なスキルや知識を持ったシニア世代の定年退職について、66%の企業が「非常に懸念がある」または「多少ある」と回答し、その対策にARが役に立つと回答した企業は、87%に上った。
「熟練者の技術やノウハウは企業の財産であり、競争力の源泉です。それが失われつつあるいま、その伝承には目先のコストに代えがたい価値があります」(成田氏)。熟練者の優れた技術をARで残しておけば、後継者は何度でもそれを見て学ぶことができるというわけだ。
また自動車メーカーのボルボは、製品の検査工程で同社のARツール「Vuforia Studio」を活用し、ヘッドマウントディスプレイを装着した作業者の視野に、様々な作業指示を実機と重ね合わせ合わせるようにCGで表示している。同社は多くの種類のエンジンを生産しており、その検査方法は機種ごとにすべて異なる。検査工程で作業者がミスしないよう、流れてくるエンジンを画像認識し、その正しい検査方法をARで指示しているという。
英ハウデンではVuforia StudioとIoTを組み合わせて活用。ヘッドマウントディスプレイを装着した作業者が設備に近づくと、IoTで収集されたデータが目前の仮想空間に投影される。データを参照する手間と時間を解消し、作業効率を大きく向上させている。
対象となる設備の最新データをIoTで収集し、作業者が装着したヘッドマウントディスプレイの仮想的な視野に実機と重ねて表示
米キャタピラーは電源車のメンテナンスにVuforia Studioを活用している。作業者が電源車に近づくと、過去のメンテナンス履歴や危険部位などの情報を、作業者が見ている電源車と重なるようにホログラフィで表示する。
ARで業務の効率を高めていくと、自然にデジタルツインの活用へとつながる。
例えばボルボのエンジン検査の例では、ARで投影している3Dデータは出荷時の部品表(BOM)を忠実に再現したデジタルツインといえる。
キャタピラーの事例にはさらにそれが顕著に表れている。ARで電源車に投影されるデータには、出荷時のBOMだけでなく、1台1台のメンテナンス履歴や交換された部品などの情報が反映されている。まさに、出荷された製品ごとに構築されたデジタルツインそのものだ。
「実務が必要とする情報によって構築されていくのが、真のデジタルツインだと思います」と、成田氏はそう力強い言葉を述べる。
デジタルツインの構築自体が目的化し、必要以上に精巧なデジタルツインを作ろうとして多大な時間とコストをかけている企業、また投資対効果(ROI)が低いと嘆く企業もある。
「実務に必要な部分は詳しく構築する必要がありますが、それ以外の部分についてはまずはこだわらないという姿勢でデジタルツインと向き合えば、その企業が本当に必要とするデジタルツインの姿が見えてくると思います」と成田氏は述べる。
PTCが考えるデジタルトランスフォーメーション(DX)とは、ARとデジタルツインの融合だ。
PTCが考えるDXの概念。フィジカルな製品からIoTでデータを収集してデジタルツインを構築し、それをARで業務の効率化や品質向上に活用する
ARによって様々な業務を効率化するには、フィジカルな製品からIoTで収集したデータを活用する必要がある。デジタルツインは、実務の改善や効率の向上に役立ってこそ真の価値がある。
例えば、ネジの形状や締め付けトルクまで正確に再現したデジタルツインが必要になる企業もあれば、ネジの位置さえ正確ならよい企業もある。その企業にとって、必要十分な情報と機能を備えたデジタルツインこそ、最も実効性の高いデジタルツインだと成田氏は考えている。
お問い合わせ
デジタルイノベーション事業部
TEL:03-3346-3659
(9:00 – 18:00 土日・祝日除く)
Email:hvsjapan@ptc.com
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