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待ったなし、自治体業務のデジタル化 逼迫業務から着手して 逐次拡大を目指せ

SPECIAL INTERVIEW

総務省自治体システム等標準化検討会 座長
武蔵大学 社会学部
メディア社会学科 教授

庄司 昌彦

×

株式会社セールスフォース・ドットコム
常務執行役員
エンタープライズ公共・金融営業統括本部長

田村 英則

日本でも自治体業務のデジタル化に本格的に取り組む機運が、いよいよ高まってきた。新型コロナウイルス(新型コロナ)の影響は、現状の業務体制がいかにレジリエントではないかを露呈。同時にデジタル技術の効果を広く知らしめた。2040年に訪れる少子高齢化のピークで起こることを、 20年早く垣間見た思いだ。総務省の自治体システム等標準化検討会の座長を務める庄司昌彦氏とセールスフォース・ドットコムでデジタルガバメントの仕組みの構築・運用を指揮する田村英則氏が、今求められている自治体のデジタル化のあるべき姿について議論した。

武蔵大学

社会学部 メディア社会学科 教授

庄司 昌彦 氏

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株式会社セールスフォース・ドットコム

常務執行役員

田村 英則 氏

coming soon

デジタル化で、地方を元気にする余力を生む

なぜ今、自治体の行政サービスのデジタル化を推し進める必要があるのでしょうか。

庄司 近い将来に日本中で顕在化する社会問題に対応する体制づくりを、行政サービスのデジタル化によって整えることができるのは、今がラストチャンスだからです。

2040年には、団塊ジュニアが65歳以上に達して高齢者人口のピークを迎えます。これを「2040年問題」と呼びますが、 福祉や介護のニーズが極大化することは確実。しかし、ニーズに見合った行政職員の増員は望めず、財政状況も逼迫していることでしょう。そんな危機的状態を見据えて、あらゆる施策を打っておく必要があります。中でも、オンライン申請やAIの活用などによる行政のデジタル化は、効果的なサービスを効率的に提供していくために欠かせません。

総務省自治体システム等標準化検討会 座長 武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 教授 庄司 昌彦氏

総務省自治体システム等標準化検討会
座長武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 教授

庄司 昌彦

こうした話をしても、「2040年まで猶予がある」と考える人がいるかもしれません。しかし、それは間違いです。既に高齢者の比率が40%を超えている自治体がたくさんあるからです。自治体を崩壊させないため、デジタル化の取り組みを今すぐ加速させる必要があります。

また、行政のデジタル化は、構想が実践に結びつきにくい傾向があります。ペーパーレスも、ハンコの不要化も、できることにすぐに着手していかないと、10年経っても今と同じ状態が続くことでしょう。

2020年、社会の価値観と生活様式を一変させたコロナ禍によって、デジタル化の必要性を多くの人が身に沁みて感じました。図らずも、これまで躊躇していた領域でのデジタル化を進める好機が到来しています。いまこそ、真剣にデジタル化に取り組むべき時期なのです。

総務省自治体システム等標準化検討会 座長 武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 教授 庄司 昌彦氏

株式会社セールスフォース・ドットコム
常務執行役員
エンタープライズ公共・金融営業統括本部長

田村 英則

田村 本来、自治体には、地元を元気にする事業の創出やサービスの提供が望まれているのだと思います。しかし、職員の方々の手が足りず、その本来の仕事に着手できない状態にある自治体が多くあるのは残念なことです。

今回のコロナ禍では、営業の自粛によって存亡の危機に陥る地元の中小企業が多くありました。そこで、地域の金融機関をデジタル化し、同時に金融機関の取引先の中小企業の業務もデジタル化して両者をつなげ、高付加価値なビジネスを展開できる素地づくりに取り組んでいます。クラウドならば、たとえ従業員が少ない企業でも、素早くコストをかけずに導入することが可能になります。金融機関が保有するデータを基に、コロナ禍によって変化した事業環境に適応した、即効性のある解を提供できると考えたのです。

また、この取り組みに先駆けて、山口県萩市には、2019年に「萩 明倫館 アプリ開発センター」と呼ぶ、ITを活用して新たなデジタルビジネスを想像する拠点を開設しています。ここでは、日本の地方からグローバルビジネスを展開する足がかりを作るとともに、世界で活躍できるIT人材を育成しています。これも地方に活力を注ぐ取り組みだと考えています。

これらの取り組みでは、いずれも民間の側から微力ながら地方の活性化に貢献していくことを目指したものです。同じ枠組みの中で、自治体とも密接に協力できれば、さらに効果が高まるはずです。デジタル化の輪を地方から世界にまで広げていくことも、夢ではないと考えています。

庄司 とても興味深い取り組みですね。ただし、現在の自治体の多くは、地元を元気にするところまで取り組みが行き着かず、足元の課題への対応で手一杯の状態です。コロナ禍に際しての給付金業務でも、自治体によっては人海戦術に頼るしかなく、疲弊してしまっているのも事実です。一刻も早く負荷を軽減し、創造的な仕事に力と時間を振り向けていくべきです。突然巨大な負荷が降ってきた今回のコロナ禍で表面化した、問題を抱えた業務、可及的速やかに改善すべき業務などを総括し、反省すべき点は反省して、デジタル化の弾みにしていく必要があります。

ITの潜在能力を活用できない仕組みを改革

行政サービスのデジタル化を推し進める際に、難しさを感じる部分はどこでしょうか。

田村 セールスフォース・ドットコムでは、コロナ禍に伴って突然必要になった特別定額給付金の申請を受け付ける仕組みを40近くの自治体に提供しました。私たちの即効性と柔軟性に優れたSaaSを活用することで、要求に見合ったシステムを1週間以内にお届けできました。

ただし、システムの潜在能力を目一杯まで利用できる状態にできたのかと問われれば、そうとは言い難い部分があります。本来は、給付金の申請だけでなく、感染症に罹患した疑いがある住民に対応する保健所の業務などにも適用し、住民を対象にした自治体の顧客関係管理(Customer Relationship Management:CRM)を迅速に構築できる潜在能力を持っています。各部門や業務で用いるデータベースに横のつながりができると、もっと大きな効果が得られることは確実です。

庄司 そのとおりですね。データベースが共通化されていれば、様々な業務で目覚ましい効率化を期待できることでしょう。しかし実際には、組織の縦割りや歴史的経緯もあり、まだつながっていない状況です。ただし、ここに関しては光明が見えています。現在、デジタル庁の創設やマイナンバー制度の見直し検討に際して、デジタル社会の基盤となる重要情報「ベース・レジストリー」がキーワードになっています。様々な行政業務にまたがって利用できるデータベースをきっちり作っていこうというものです。これによって、行政のデジタル化がやっと本格化してきました。

田村 これからの展開に、大いに期待したいところですね。ぜひ、民間も含めて広く利用できるものにしていただきたい。住民目線で最も感じるのが、引っ越ししたときに、住所変更を何度もしなければいけないなどの無駄です。金融機関からすれば、住民票を移したら、公共料金の登録情報をすべて同時に変更してもらいたいと思っているはずです。今は、一つひとつ、それも紙で手続きする必要があったりします。住民が感じる非効率は、職員の方々にとっても負担を増す要因になっていることでしょう。

庄司 行政は、新しいことに取り組む際に新たなリスクを抱えることを嫌う傾向があります。日本では、行政、教育、医療・福祉の領域でIT化が遅れていると指摘されています。これらの領域は人の命や財産などに関わる業務を行っており、万が一にも失敗できないため、どうしても熟れた方法に固執してしまい、効率的な手法よりも人手を掛けてがんばればよいといった発想になってしまいます。ただし、2040年を見据えれば、こうした人海戦術は一切できなくなることは自明です。今、キッチリと見直しておく必要があるのです。

1700の自治体が個別対応する必要はない

行政サービスのデジタル化は、まず何から優先的に着手すべきなのでしょうか。

庄司 ハンコを全部なくすべきとか、手続きを100%オンライン化すべきといった議論がありますが、難しく考えず、頻繁に利用する業務から進めて行けば良いと思います。例えば、企業に関わる部分では、納税や社会保障関係がそれに該当します。デジタル化の成果を実感しやすい業務から始めることが重要なのです。

田村 確かに、税金などを扱うところは30年間全くシステムが変わっていません。そういった業務を優先的に変えれば、インパクトが大きいと思います。その際に、別の業務もつなげて同じ仕組みを利用できるようにする可能性を用意しておくと、効果とインパクトはより大きくなるのではないでしょうか。

庄司 また、コロナ禍に際して発生した業務のように、国からの要望で緊急で対応が必要なこと、また税や介護など毎年のように制度が変わることを1700の自治体で、1700通りの対応をしてもらう必要はありません。国が仕組みの基盤をつくり、そこに各自治体でデータを投入してもらってサービスを共用するような方法が求められているのです。

デジタル化する際、方法論として留意しておくべきことは。

庄司 デジタル化して、以前よりも不便になってしまったのでは元も子もありません。いかに苦労して業務をデジタル化しても、継続的に利用してはくれません。

改めて考えると、承認手法としてのハンコは、セキュリティ的にもリスクがあるし、手続き面で面倒な点もありますが、極めて単純明快ではあります。デジタルで換えるのならば、それと同等くらいの明快さが求められるでしょう。ただし、それは十分可能です。

デジタル化は、決して手続きを難しくすることではないことを誰もが実感できなければなりません。そうした方法を選ぶ必要があります。むしろ、読み上げができるとか、大きく表示できるとか、デジタルでなければできない、あらゆる人にやさしい仕組みが整うはずだと考えています。

田村 同感ですね。特に、デジタル化の始点となる部分では、初めて使う人が便利さを実感できることが絶対重要です。加えて、そこに別の業務が逐次つながり、拡張していけるシステム構築の手法を取ることも大切だと考えています。

私たちが取り組んだシステム構築例の中に、船橋市の保健所に、感染症に罹患した疑いがある住民からの問い合わせを受け付けるシステムがあります。それまで殺到する電話に職員が総出で紙にメモ書きしながら対応していたものを効率化したものでした、ところがその後、厚生労働省から全国の保健所に向けて全国統一の仕組みが公開されました。私たちが提供したものはもはや不要になったのではと考えていました。しかし、実際には今も使い続けてくださっています。使いやすく効果も実感できるシステムだと評価いただきました。現在当社では、ワクチン摂取の優先順位をつけて病院の予約を入れるといった拡張を提案しています。

デジタルだから可能な人との密なつながり

住民や職員の中には、デジタルはとかく扱いが面倒で、人と対する手段として冷たい印象があると考える人もいます。

庄司 その部分に関しては、コロナ禍の中で多くの人の認識が変わってきたことを感じています。好むと好まざるに関わらず、デジタル化したコミュニケーションを活用し、その恩恵を実感しました。逆に、ITがない状態で今回のようなコロナ禍に見舞われたとしたら、どんな悲惨なことになっていたかと思うほどです。不安な時、孤独な時に簡単に人とつながるありがたさを感じている人は多いのではないでしょうか。

田村 AIやデジタルは、人の仕事や居場所を奪うという短絡的な議論を耳にすることが多々あります。しかし、人と人、人とシステムがデジタル技術でつながることで、これまで10人の住民にしか寄り添えなかったものが、 100人に密接に寄り添える。その方が、質の高い行政サービスを提供する上でよほど重要だと考えます。

庄司 Salesforceは、行政関係の先進的な取り組みに多く使われていると聞きます。行政サービスのデジタル化でも、素早い対応、業務を横断的につなぐといったところでの対応が求められるケースがよくあります。その経験、知見を広くシェアして、社会の全面的なデジタル化を進めていく上での原動力になることを期待します。

田村 セールスフォース・ドットコムでは、「トラスト(信頼)」という言葉をコアバリューにしています。ユーザーに寄り添い、利用していただく中でSalesforceを使ってよかったと思ってもらうことが願いです。行政の仕組みが大きく変わるこのタイミングで、信頼を高める貢献をしていくことは私たちの使命です。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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