実際の成功事例で見えてきた データ活用を企業革新につなげる鉄則

データを価値に変え、ビジネスや業務を変革する。グローバルな競争環境が激化し、不透明な経済状況の中、日本企業は、その対応に向けて「待ったなし」の状況といえるだろう。しかし、その実践は決して容易ではない。企業内の様々なシステムに散在するデータを収集・整備するだけでなく、分析・活用に向けた人材や文化も作りあげていく必要があるからだ。では、データ活用に成功している企業やそれを支援したITベンダーはどのようなポイントを基に、こうした取り組みを実践しているだろうか。データサイエンスに取り組み、一定の成果を上げているコニカミノルタジャパンとデータ活用ソリューションを提供するSAS Institute Japanに話を聞いた。
(聞き手は戸川尚樹=日経BP総研 イノベーションICTラボ所長)

前編 データサイエンスの「極意」は皆がハッピーになる施策にあり後編 ツール選びから入ると失敗する成功に必要な3つのポイントとは

前編 コニカミノルタジャパン データサイエンスの「極意」は皆がハッピーになる施策にあり

デジタルテクノロジーを活用した戦略的なイノベーションへの期待が高まる中、SAS の統合型「ビジネス・アナリティクス」を用いて構築したIoTデータ分析環境をベースに、生産性向上と働き方改革に取り組み、大きな成果を上げているのがコニカミノルタジャパンである。データサイエンスの文化を現場の隅々まで浸透させるためのポイントはどこにあるのか。

生産性を高めないとサービスレベルが維持できない

コニカミノルタジャパン株式会社 データサイエンス推進室 室長 矢部 章一氏
コニカミノルタジャパン株式会社
データサイエンス推進室
室長
矢部 章一

戸川コニカミノルタジャパンでは、データサイエンスやAIを活用したイノベーションに取り組んでいます。何が目的なのでしょう。

矢部企業にとってデータは“血液”です。業務も財務も働き方も、経営陣はすべてデータで把握し、それで現場に指示を出しています。また現場もデータを把握して改善活動を行っています。当社は国内に販売拠点が48カ所ありますが、もしデータ品質に問題があればそれは血液が汚れているのと同じ。経営判断は脳死状態となり、現場も機能不全に陥ってしまうでしょう。そこで常に新鮮で正確なデータを循環させて会社の機能とつなげていく。そのためにデータサイエンスやAIを活用しています。

一般的にこれらの技術の活用法は大きく2つあります。1つは製品そのものを高度化するプロダクトイノベーション、もう1つが人の行動を変容して生産性を向上させるプロセスイノベーションです。当社は事業会社なのでプロセスイノベーションを重視した施策に取り組んでいます。

戸川保守サポートや営業を事業の主軸にしている企業なら、当然そうなりますね。プロセスイノベーションに取り組む背景には、経営上の危機感もあったのでしょうか。

矢部はい。当社でとある部門の人員推移をシミュレーションしたところ、2033年には生産性を40%高めないとサービスレベルを維持できないという結果が出ました。従業員の自然減と人手不足に対応するための効率化は一朝一夕にはできません。一人ひとりの働き方を変革するプロセス改革は、待ったなしの状況にあったのです。

日経BP総研イノベーションICTラボ 所長 戸川 尚樹
日経BP総研イノベーションICTラボ
所長
戸川 尚樹

戸川今回のプロジェクトに至るまでの経緯を教えていただけますか。

矢部私は転職して、一人で2014年からプロセス改革にデータサイエンスを活用するための調査を始めました。2015年にそれをプロジェクト化し、2016年にデータサイエンス推進室を設立し、本格的な活動を開始しました。当初は業務に関して全くの素人でしたので、まずはリアルに体験しようと、様々な現場へ行かせてもらいました。

戸川リーダーである矢部さん自ら、営業や保守サポートなどの現場業務を体験されたのですね。

矢部コールセンターやシステム開発の現場にも行きました。実際に現場へ入り込むと、そこでの課題を肌感覚で実感でき、現場のキーマンが誰かも分かり、お互いの関係も良好になります。その後、データサイエンスのための人材育成と全社への定着に向け、「可視化」「標準化」「最適化」のステップで運用の仕組み作りを進めていきました。


データサイエンスのスキルを個ではなく集団で実現

戸川3つのステップ、それぞれの内容を教えてください。

矢部「可視化」は、未経験者でもすぐに分析できる環境作りの取り組みです。まずはSAS Analyticsをベースに複数の社内システムからデータを集めて管理・活用できるデータレイクを作りました。そして分析用のER図(それぞれの事象にどんな関連性があるかを表現した図)を整備し、ナレッジデータベースとなる辞書として社内Wikiも作成しました。コードの記述も可能な限り排除し、属人化が発生しづらいGUIによる開発に切り替えました。Wikiがどんどん蓄積されているので、後から入ってきたメンバーもER図を見ながら、ほぼ一人で分析できる環境に進化しつつあります。

戸川可視化の次は「標準化」。これは全従業員がプロジェクトに参加できるようにする取り組みですね。

矢部その通りです。先ほどアナリストが現場に入り込むというお話をしましたが、それがまさに「標準化」のステップです。分析者が現場に入り、ニーズやウォンツを把握し、キーマンと合意形成することで、モデル作成の前に現場の想いを込めたコンセプトを固めることができます。そして参考データの質の良しあしを表すX軸と、効果の大きさを表すY軸で開発テーマの優先順位を定め、実装したモデルで現場と一緒に改善のPDCAを回していきます。つまり、ビジネススキルを持つ現場の人材と、ITスキルや分析スキルを持つアナリストが一体となって、全社的にデータサイエンスを推進していくMethodを独自開発して運用することにより、1年目で大量のモデルが作成されました。その効果は最初の1年で約7億4000万円のコスト削減を達成しました。

コニカミノルタジャパン株式会社 データサイエンス推進室 データアナリスト 松木 順氏
コニカミノルタジャパン株式会社
データサイエンス推進室
データアナリスト
松木 順

松木しかし、いくら良いモデルを大量に作っても、人が利用できなければ意味がありません。そこで次なるステップの「最適化」では、全従業員がデータサイエンスの恩恵を享受できるよう「最適化プラットフォーム」という仕組みを作りました。

例えば複合機の保守業務では、保守担当者の作業経験や力量により、お客様訪問数などにばらつきが出ます。その最小化と作業効率向上に向け、お客様先に設置した複合機ごとに故障予測やトナー予測といったモデルをひも付け、担当者の経験や力量、所持部品、予約された予定などを分析しながら、地図上でエリア内の訪問ルートをレコメンドしています。エリア内で別の障害が発生した場合は、どの担当者が駆けつけるのが最適かを再計算し、リアルタイムに別の訪問ルートをレコメンドします。こうした施策により移動時間の30%削減や訪問件数の増加を実現しました。

戸川インパクトのある数字ですね。この仕組みが機能すると、適正なタイミングでのトナー交換や予防保守により、顧客満足度も上がるし故障頻度も低くなる。コールセンターへの入電数も減っていくわけですね。

松木その通りです。データから故障予測できる部品についてのトラブルは最大50%削減しました。突発的なトラブルやクレームメンテナンスも大幅に減少しています。コールセンターのオペレーターは、例えば、お客様情報の中から“突然ウィーンという音がして、止まってしまった”といった特徴的な言葉を入力してくれるので、その機種名とひも付けて、交換する確率の高い部品を持っている担当者に、そのお客様先に向かうよう自動的に指示を出すアルゴリズムも開発しています。


現場にストレスを与えないチューニング

戸川現場の担当者から「AIなんかに指示されたくない」と反発する意見が出てくるような気もしますが。

矢部その通りです。現場に「これはいいね」と言っていただくまでが大変でした。最初は“自分のやり方の方が正しい”と考える現場の方もかなりいましたが、このプロジェクトが本来、全社的な働き方改革である「いいじかん設計」の実現に向け、自分の時間をコントロールしやすくするための施策であることを丁寧に説明することで、理解を得られました。

戸川「いいじかん設計」というのは、どのような取り組みですか。

矢部ルーチンワークである「作業じかん」を減らし、新企画や提案などの創造力を高める「創造じかん」、自己研鑽やリフレッシュに充てる「自分じかん」を増やすことで、生産性向上を実現する新しい働き方です。

戸川データ活用で作業時間を極力減らし、もっと有意義に創造的に働きましょうということですね。皆がハッピーになる施策なら、誰も文句は言いませんね。

松木現場にストレスを与えず使ってもらえるよう、最適化プラットフォームでは、様々なチューニングを施しています。例えば夏場は巡回車のエアコンが効きにくいから、スケジュールにゆとりを持たせるとか、このお客様先に行く場合は、近くに美味しい食堂があるから必ず寄りたいといった要望を満たそうとか。そういった担当者の好みも反映したルートを作るようにしています。ここに行き着くまでの改善に1年かかりました。

戸川データサイエンティスト自身が現場に入り込み、ニーズやウォンツを把握する効果が発揮されたわけですね。データ活用では、いかに推進チームと現場が密に対話できるかどうかが重要になることがわかります。御社では、データサイエンティストの採用基準でも、コミュニケーション能力を重視されているのですか。

矢部ビジネスで結果を出すことが目的なので、このツールを使えるから採用する、という判断基準は設けていません。私自身、正直な話、使えるツールにはこだわりません。まずは人と話すのが好きで、相手の考えが理解できて、そして自分が考えていることをわかりやすく伝えられる、ゼネラリスト型のデータサイエンティストを求めています。


今後も結果にコミットしたデータサイエンスを追求

戸川この取り組みでアナリティクス基盤としてSAS製品を採用した理由は何ですか。

矢部当社の場合、結果を出すには基幹システムと連動する必要がありました。よって分析だけのツールでなく、データマネジメントが非常に使いやすいツールが必要でした。SASに決めた理由はデータマネジメントが非常に使いやすく結果を出しやすいという点でした。SASならばあらゆるデータをアナリティクスに適した状態で準備できて、モデル開発後の運用も簡単に行えます。多くの社内システムとの連携や、様々なデータソースと接続できるアダプターやコネクターが豊富にそろっている点も魅力でした。またSASはPCベースのほかのソフトウエアと違い、サーバーベースで出来ているため、グローバル展開する際のスケーラビリティが高く、保守や大規模システム系を得意とするエンジニアが確保しやすい点も大きかったですね。

戸川使い勝手と運用といった観点を重視して、SAS製品を選ばれたわけですね。最後に今回のプロジェクトを通して感じられたこと、今後の目標などについて教えていただけますか。

松木個人的には、いろいろ新しい気づきを得られたプロジェクトでした。私も最初はそうでしたが、多くのアナリストは事業会社のプロジェクトにいきなり放り込まれても、基本一人では動けません。その会社の文化に合った分析の仕組みやナレッジが用意されているからこそ、本来の能力を発揮できるのです。DXを目指す企業は、まずデータ活用の方向性をしっかり見定めたビジョンと基盤作りにチャレンジすることが大切だと思います。

矢部今後も分析結果を活用する側、される側の両方に満足してもらえるような、結果にコミットしたデータサイエンスを追求していきたいですね。そして常にモデルを作った際のプロセスを可視化、ドキュメント化していくことで、皆で共有できる企業資産として蓄積、活用していきたいと思います。

戸川データ活用で成果を上げる風土を社内につくり、長期的な取り組みとして次世代に継承していくわけですね。属人化させないデータサイエンスの仕組み作りに、これからも注目していきます。


ツール選びから入ると失敗する 成功に必要な3つのポイントとは
お問い合わせ

SAS Institute Japan株式会社
https://www.sas.com/ja_jp/contact.html