D×D Summit Review AI×IoTシステムをアジャイル&DevOpsで実現する

ビジネスのデジタライゼーションに苦戦する日本企業にとって、現状脱却のカギとなるのが「開発力」だ。アジャイル/DevOpsや、プログラミングを極力排するローコード開発などを取り入れ、戦略的サービスの要となるアプリケーションやシステムを高速に開発するー。情報システム担当者は、これまで以上に多様なアイデアやスキルを習得し、業務に生かしていく必要があるだろう。そこで日経 xTECHでは、「開発力(Development)でデジタル(Digital)ビジネスを創出」をコンセプトとしたセミナーを開催。先行する日本企業の事例や、ベンダーのソリューションを紹介することで、将来のCDO(Chief Digital Officer)人材を支援している。ここでは当日の模様を概括したい。

基調講演:住友生命保険 保険の新境地に挑むためのDX人材の育て方

住友生命保険相互会社 情報システム部担当部長 兼 代理店事業部担当部長 岸 和良氏
住友生命保険相互会社 情報システム部担当部長 兼 代理店事業部担当部長 岸 和良氏

住友生命保険(以下、住友生命)が2018年7月に提供を開始した「Vitality」は、健康増進を支援するこれまでにないタイプの保険だ。健康診断の受診や運動などの継続的な健康増進活動の有無によって保険料が変動したり、様々な特典が受けられたりする。

この新商品の開発には3年を要したという。保険契約者の活動を評価し、満足や感動を与えるといった新しい仕組みが必要になるからだ。「そのためには自社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速することが不可欠でした」と住友生命の岸 和良氏は振り返る。

まず取り組んだのが人づくりである。外部業者のテストや診断ツールを活用し、社員の資質や能力、知識を数値化。価値創造型人材教育プログラム「Vitality DX塾」を開設し、そこに高い適性を示す70人超の人材をアサインしてDX人材の育成を進めた。

スミセイ情報システム株式会社 個人保険システム部 プロジェクトマネージャ 青木 茂氏
スミセイ情報システム株式会社 個人保険システム部 プロジェクトマネージャ 青木 茂氏

では、どのような人材が高い適性を示したのか。DX人材候補に選出されたスミセイ情報システムの青木 茂氏は、自らAI/IoTの技術を学び、子供の夜泣き検知システムや高齢の親のための緊急連絡システムを手作りしていたという。「テストでは、自分のスキルレベルを客観的に知ることができ、ありがたく感じました」と青木氏は言う。

Vitality DX塾では実践型な集合研修に加え、継続的な遠隔型ワークショップも実施。特に「ビジネスを作り出す力」「価値を生み出す力」「現状を見直して解決する力」「プロジェクトマネジメント力」の4つの向上を意識しているという。「当社では、この能力を持つDX人材が、Vitalityのシステム開発や新たな価値創出を支えています」と岸氏は力を込める。

同社は、この人材育成手法を「アジャイル・ベースド・ラーニング」と命名し、現在も継続している。DX人材の育成に悩む企業にとって、1つのヒントになる事例といえるだろう。


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特別講演:ミクシィ ミクシィの新決済サービス「6gram」開発の舞台裏

株式会社ミクシィ ID・ペイメント事業部 システムグループ ソフトウェアエンジニア 中野 隆介氏
株式会社ミクシィ ID・ペイメント事業部 システムグループ ソフトウェアエンジニア 中野 隆介氏

ミクシィは新しい決済サービス「6gram」のAndroid版を2019年11月に先行リリースした。数人のグループで合算決済したり、バーチャルプリペイドカードをすぐに何枚でも発行したりできる。支払いはタッチ式の電子決済やクレジットカード決済にも対応する。

このシステム構築で最大の難所だったのが、クレジットカード会員データを守るために策定された国際的なデータセキュリティ基準、PCI DSSへの対応だ。「PCI DSSに準拠した決済システムをサーバーレスで開発・運用するため、採用したのが『コード管理』です」とミクシィの中野 隆介氏は語る。

コード管理とはインフラ構成、デプロイ手順、アカウント管理、ドキュメントもソースコード化して管理する手法。これにより、オペレーションミスのリスクを減らし、品質を担保する。「変更管理の把握が可能になり、問題があった場合の復元も容易です。コードという共通言語での情報共有が進み、開発の属人化も防げるほか、脆弱性検知のシミュレーションもやりやすくなります」と中野氏は言う。

株式会社ミクシィ ID・ペイメント事業部 システムグループ ソフトウェアエンジニア 林 友貴氏
株式会社ミクシィ ID・ペイメント事業部 システムグループ ソフトウェアエンジニア 林 友貴氏

開発環境にはアマゾン ウェブ サービス(AWS)のマネージド型のコンテナを利用した。「ミドルウエアとアプリケーションが一体化されており、マネージドサービスを活用することで、運用も効率化できます。ログアクセス権管理などPCI DSS要件の一部をAWSが既に満たしていることもメリットでした」とミクシィの林 友貴氏は語る。さらにコンテナ仮想化基盤はReadのみ許容することで、不正なファイル変更ができないようにし、リスク低減を図っている。

これらの取り組みにより、開発工数の削減とセキュリティ対策を両立し、限られた人的リソースで従来よりもはるかに短期間でのPCI DSSに準拠した決済サービスのリリースに成功した。今後も同社はコード管理の手法をベースに、より使いやすく便利な決済基盤の開発を行っていく。


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特別講演:三井不動産 事業化をゴールに据えたDX研修で 人材育成と活発な企画立案を促す

三井不動産株式会社 ITイノベーション部 開発グループ グループ長 塩谷 義 氏
三井不動産株式会社 ITイノベーション部 開発グループ グループ長 塩谷 義 氏

住宅、オフィス、商業施設、ホテルなどの領域で不動産ビジネスを手掛ける「街づくりの総合デベロッパー」三井不動産。同社は長期経営方針「VISION 2025」の中で、「テクノロジーの活用による不動産業そのものにかかわるイノベーションの創出」を重要なテーマとして掲げている。

その一環として、「デザイン思考」の普及に向けた社内研修「デジタルラボ」を2018年度に実施した。目的は、デジタル人材の育成、新たなビジネス価値の創造、つまりデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進だ。

「具体的にデジタルラボでは、ビル、商業、すまい、ホテルという当社の主要事業部門の若手をピックアップして、社内外のIT人材と混成させた4つのチームを構成。各チームが『不動産事業』×『デジタル』でどんなことができるかを考え、新サービスを企画します。企画したサービスはPoC(概念実証)まで実施し、企画内容とPoCの結果を事業部門長が評価。有望なものは、実際に事業化するという取り組みです」と三井不動産の塩谷 義氏は紹介する。

2018年度のデジタルラボでは、4つのサービスが企画され、最終的に1つが事業化に向けて動き出している。「バーチャルららぽーと」と呼ばれるものだ。

「当社の商業施設の共用部に大型サイネージを備えたブースを設置し、画面のアバターを受付役とした相談窓口を開設できるサービスです。例えば、保険業のお客様にテナントを利用していただき、アバターを通じて保険に関する相談を受け付ける。そこから、実際の店舗への送客に成功した際に利用料をいただくというビジネスモデルです」と塩谷氏は説明する。

また、有料サービス化は実現しなかったものの、販促キャンペーンに位置付けを変えて継続検討するサービスも誕生している。住宅を住む前に試すことができる「試住サービス」だ。実用化に向けて、今秋、柏の葉キャンパスの賃貸マンションを舞台にPoCを開始した。

次回は「データ活用」をテーマに据えたデジタルラボも構想しているという三井不動産。多くの企業がDXにおける「企画」でつまずく中、事業化をゴールに据えることで、実践的な研修を実現している同社の取り組みは注目を集めそうだ。


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