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大競争時代のビジネスを勝ち抜く
2020年展望
DIGITAL Foresight 2020
Review
エル・ティー・エス

DX推進するのは
欠かせない業務を説明する力とは

デジタル技術を活用して、ビジネスや業務を変革していく。ただし、業務の様々な部分が機械化され、部門や企業の垣根を越えた連携も進む中、かつての現場主導のアプローチだけでは、実現は困難だ。現在、求められるのは業務を分析する「ビジネスアナリシススキル」を備えた人材を中心に据えた取り組みだ。では、企業は、そのような人材をどのように育成していけばよいのか。実は、経験を積んだ人材は既に社内にいる可能性が高い。

変革のビジョンがなければ新技術を導入しても成果は薄い

株式会社エル・ティー・エス マーケティング部 執行役員 山本 政樹氏
株式会社エル・ティー・エス
マーケティング部 執行役員
山本 政樹
 AIやRPAなどのデジタル技術に対する期待が、これまでにないほど高まっている。しかし、度々指摘される通り、デジタル技術の導入はあくまでも手段。決して目的ではない。

 「デジタル技術によって自社のビジネスや業務をどう変革していきたいのか。そのビジョンをしっかりと描くことこそが重要。それができなければ、せっかくの技術も思うような成果につなげるのは難しい」と様々な企業に向けてコンサルティングサービスを提供してきた経験を持つエル・ティー・エスの山本 政樹氏は語る。

 実際、日本が高い競争力を発揮していた1980年代は、明確なビジョンのもと、繰り返し変革が行われていた。中心にいたのは「現場」である。

 「業務を実行しながら、自ら『カイゼン』を繰り返すという、他国には例を見ない現場が日本企業の成長を支えていたのです。これが日本の『現場力』の正体です」と山本氏は言う。

経験を重ねるだけでは業務の全容を理解することは困難

 では、再び現場力を発揮すればよい、と考える人もいるかもしれない。だが、現在の環境において、現場主導でビジョンを描き、カイゼンを成し遂げていくのは容易ではない。

 理由の1つは、業務の機械化が進んだことだ。

 「様々なシステムやロボットの導入が進み、一部の業務を人の代わりに実行するようになりました。結果、それらの業務はブラックボックス化が進み、そもそもどんなプロセスが実行されているのかすら把握できていない場合もあります。例えば、数字の根拠を尋ねられた経理部員が『システム上、そうなっているから』としか答えられない場面を目にしたことがありますが、これではカイゼンどころではありません」(山本氏)

 また、ビジネスプロセスに様々な専門性が介在するようになったことも理由として挙げられる。内部統制やコンプライアンス、事業継続性、個人情報保護、情報セキュリティなどの視点が盛り込まれた業務は、かつてとは比べものにならないほど複雑になっており、担当者が必要なルールのすべてを理解することは、およそ不可能といえる。

 さらに、かつてのカイゼンは主として部門内に閉じた活動だったが、今日のビジネス環境が求めるスピードに対応するには、オンライン、オフラインとマルチチャネル化する顧客接点に加えて、調達・生産・物流・販売を貫くサプライチェーン、技術開発、マーケティング、生産が連携して製品を開発するエンジニアリングチェーンなど、アウトソーシング先も含む部門横断的なEnd to Endのプロセスを踏まえた議論が必要となる。このような状況も現場によるカイゼンのハードルをさらに高くする。

 もはや、業務カイゼンは、経験を通して業務を習得した上で行うものではなく、専門性を活用して分析して実現するものとなっているのだ(図1)。

業務を構造的に分析して設計できる
専門人材の育成に取り組む

 そこで重要になるのが、全社の業務を俯瞰し「分析して、説明できる」人材、あるいはスキルだ。図2に示したように、その業務は、何をインプットして、どんな処理を行い、何をアウトプットするのか。処理に当たっては、何を参照したり、何を利用したりするのか。これらを理路整然と説明するのである。  このスキルは、ビジネスアナリシスと呼ばれ、欧米では、そのスキルを備えた人材をビジネスアナリスト(BA)と定義し、既に企業の間に定着している。

 「BAは経営が意図する戦略を踏まえて、既存のプロセスの課題を抽出し、新しいプロセスを描きながら、デジタル技術のスペシャリストであるエンジニアやビジネス部門と協力して、具体的なビジネスプロセスへと落とし込み、現場への定着を図るという役割を担っています」と山本氏は説明する。

 このようなBAは全世界で100万人以上が活躍しているともいわれる。

 「申し上げたいのはBA資格を取得しましょうという形式的な話ではなく、これからのDX推進のカギを握るビジネス変革人材は、このようなスキル、資質を備えた人材なのだということを理解し、育成をしていくことの大切さです。ただ、実は日本企業にも、ビジネスアナリシスの経験を積んだ人材はいます」と山本氏は話す。

 明確にBAという人材を認識していなくとも、業務を設計したり、改善したりするという取り組みは企業にとっては必須。日本企業では、特定のシステム構築プロジェクトなどに際して、新しい業務ロジックをシステムに実装するためにアサインされることが多い。つまり、テンポラリーなタスクになっているのである。

 「テンポラリーなタスクになっているため、アサインされた担当者が、毎回、一から試行錯誤を繰り返しています。プロジェクトが終わると現場に戻ってしまうため、ノウハウや知見が蓄積、継承されることもない。その状況を改め、IT部門やビジネス部門を問わず有望な人材を発掘して、しかるべき教育投資も行いながら、業務を構造的に説明し、設計していけるスキルを備えた人員を育てていけば必ずDXに貢献する人材となるはずです」と山本氏は強調する。既に、その重要性に気付き、全社を挙げて業務分析に取り組み、ビジネスアナリシス力の底上げに取り組んでいる日本企業もある。

 誰がDXに必要なビジョンを描き、業務を変革していくのか――。山本氏の指摘は、DX人材に悩む企業にとって大きな示唆となるはずだ。
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