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大競争時代のビジネスを勝ち抜く
2020年展望
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Review
ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所

経営環境変化激化する時代
生き抜くための情報システムとは

企業が成長していくためには、継続的に変わり続ける必要がある。ところが、過去のITシステムは社内外の環境変化に応じて変え続けられる構造ではなかったため、システム内に組み込まれたノウハウやビジネスプロセスのスクラップ&ビルドが繰り返されてきた。独自のシステム開発手法を編み出したユニバーサル・シェル・プログラミング研究所の講演では、この悪循環から脱却する秘訣が紹介された。

優秀な人材を育成できる基幹システムの「式年遷宮」

有限会社ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所 代表取締役 當仲 寛哲氏
有限会社ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所
代表取締役
當仲 寛哲
 「基幹業務を支えるようなシステムでは、『式年遷宮』を行うことをお勧めします」。こう語るのは、ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所(USP研究所)を率いる當仲 寛哲氏だ。式年遷宮とは、伊勢神宮が20年ごとに社殿を更新している取り組みのこと。古くからの建築技術を継承するのが大きな狙いだ。

 どこの企業でも、基幹システムには競争優位性を生み出すためのビジネスの仕組みが盛り込まれているはずだ。しかし、既存システムの構築に携わった人材が社内にいなくなると、システムを刷新する際にそうした機能が継承されないケースが多くなっているという。

 「いくらシステムに搭載しているテクノロジーが新しくなったとしても、その会社の良いところが継承されていなければ競争優位性を失ってしまいます。システムの開発・運用を担うIT組織は今後、経営的な視点に立ってビジネスとITとのシナジー(相乗効果)を高めるための調整・リード役を務めなければなりません」(當仲氏)

 しかし現実はそう簡単ではない。デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功に導くためには、テクノロジーとビジネスの双方に精通したエンジニアの存在が欠かせないが、ほとんどの企業がそうした人材を育成する仕組みを持っていないからだ。

 それでは優れた人材を育成するにはどうすればよいのか。當仲氏は、フランス人の人類学者クロード・レヴィ=ストロースの『野生の思考』を引き合いに出し、優れた人材を育成するためのポイントを説明する。ストロースは同書の中で、あり合わせの素材を活用して必要なものを作る「ブリコラージュ」という概念を提示している。この考え方をシステム開発に応用し、基幹システムを定期的に更新していけば、若手に様々な経験と技術を習得させることができ、フルスタックエンジニアの育成につながるという。

コマンドとシェルスクリプトでアプリケーションを構築

 いかに人材を育てつつ、業務とシステムを継続的に変革するか。この実現に向けて、同社が開発したのが「ユニケージ開発手法」である(図1)。この開発手法は、UNIX系のOSとその上で動くシェルスクリプトだけでアプリケーションを構成することが大きな特徴だ。アプリケーションとOSの間にミドルウエアなどのソフトウエアが介在しないため、極めて処理速度が速い。  ユニケージでは移植性を高めるためにOSやシェルの「方言」の使用をなるべく避け、基本機能だけを組み合わせてアプリケーションを開発する。UNIX系のOSであれば必ずシェルを実装しているので、ユニケージで開発したアプリケーションはハードウエアのメーカーを問わずに動作することを意味する。

 シェルスクリプトの中核となるのが、OSが標準搭載しているコマンドである。ただし、「sort」や「cat」をはじめとするUNIXの標準コマンドだけでは、業務ロジックを記述することは難しい。そこでユニケージでは、ユーザーが独自のコマンドを作成できるというUNIXの特性を生かして過去に2000以上のコマンドを作成。現在は、それらを数十個のコマンドに集約している。

 ユニケージ独自のコマンドも多機能というわけではない。例えば「self/delf( 列の選択/ 削除)」、「join1/loopj(列/行のデータの結合)」といった具合だ。

 データはすべてテキスト形式で管理する。これをコマンドで読み書きする、あるいはコマンド間をパイプでつないで処理結果を引き継ぐことによって、複雑なデータ処理を可能にしているという。

 同社では、この開発技術を駆使して、顧客企業の変革を支援している。システムを刷新する場合は既存システムから移行するわけではなく、有用な機能はそのまま残して、その成果物をユニケージで開発したアプリケーションに引き継ぐといった形態になる。こうした特性を生かせば、式年遷宮が可能になるわけだ。

三菱UFJ銀行やKDDIなど多くの企業が
ユニケージ開発手法を採用する理由

 既に大手を含めて数多くの導入実績があり、その中には三菱UFJ銀行やKDDI、東京電力ホールディングスといった大手企業も含まれる。この開発手法を基に、業務とシステムを同時に変革することに成功した企業の1社が小型ユニバーサルジョイント(自在継手)でトップシェアを握る協和工業だ。

 当時の協和工業では、パッケージソフトを活用した生産管理システムが同社の改革活動の足かせになっていた。生産性の向上を目的としていたのにうまく機能せず、現場の社員がExcelと紙を使って手作業でMRP(資材所要量計画)を工場での生産指示に展開していたという。

 この状況を改善するためにUSP研究所のメンバーが、生産管理に携わる社員との合宿に参画。そこでワークショップを開いて業務改善策を洗い出し、ここで描いた新たな業務プロセスに基づいて新システムを開発していったという(図2)。  ただし、既存システムは現在も稼働している。現場の社員へ指示書を発行する部分など業務改善のために必要な新機能はユニケージで新規に開発したが、MRPを立案する部分などは既存システムの機能を流用している。既存システムとユニケージで開発したアプリケーションが連携する仕組みだ。「システム開発はあくまで改革の手段です。既存システムに良いものがあれば継承すればよいのです」と當仲氏は説明する。この後も、協和工業はUSP研究所の支援のもとで、業務改善に合わせてシステムの改修を続けているという。

 現在、世界中の企業がDXを推進しているが、當仲氏は最後に次のように警鐘を鳴らした。

 「テクノロジーの専門家を集めたのにDXが失敗に終わったというケースが頻発しています。システムの式年遷宮に取り組むなど、人材育成と企業DNAを継承するような仕組み作りが成功のカギとなるのではないでしょうか」
お問い合わせ
有限会社ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所 URL:https://www.usp-lab.com/
E-mail:koho@usp-lab.com