プログラミングなしに業務システムを開発できるローコード開発環境が充実し、開発を外注から内製に切り替える企業が増えている。ハムやソーセージの製造販売で年間150億円を売り上げる信州ハム(上田市)もその1社だ。ローコード開発環境に詳しいIDC Japanの入谷光浩氏が最新事情を紹介しつつ、信州ハムのキーパーソンとの対談によってコスト効果と開発効率を圧倒的に高めた秘密に迫る。

国内でも多数の企業が内製化へシフト
2021年末までに7割がローコード/ノーコードを導入

IDC Japan
ソフトウェア&セキュリティ
グループマネージャー 入谷 光浩氏

入谷 デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中、システム開発に関するいくつかの課題が浮上しています。まず、旧来システムの運用保守が重すぎて、新システムへの投資が困難になりつつあること。

2つ目は、カスタマイズと修正を繰り返してきた現行システムが複雑かつ肥大化し、その全体像を把握しづらくなっていることです。3つ目は、開発を長年外注してきた結果、社内にノウハウが残らずシステムがブラックボックス化してしまっていること。4つ目が、このままシステムを外注しているとコストが高いうえに開発速度が遅くなり、DXのスピードに追いつけなくなることです。

(1列目左から)
信州ハム 小口 昇氏、久 聡紀氏、織部 航氏
(2列目)信州ハム・サービス 土屋 光弘氏

小口 まさにその通りです。当社も生産管理システムの更新が必要になりましたが、システムが分断化されており、工程全体を管理することが難しい状況でした。新規開発を外注するにしても数億円かかるという事態になりました。様々な方向性を検討した結果、ローコード開発環境の「Claris FileMaker Pro」で内製化しようというアイデアが浮上したのです。

私たちが実現したかったことは、大きく3つあります。まず、食品会社として最も重要な「トレーサビリティー」を確保すること。製品に問題が起きたとき、どの原料がどの製品にいつ使われたのかを迅速かつ正確に特定できる環境が必要です。2つ目は、製造工程の状態をデータによってリアルタイムに可視化することです。3つ目は、現場の担当者が使いやすいシステムを低コストでスピーディーに開発することです。

入谷 内製化には、いま述べられたすべてのメリットが期待できます。まず低コスト化。開発を外注すると、完成後の小さな修正や変更も外注しなければならず、コストがかかり続けます。内製化なら自前でできるのでコストを抑えられます。また、開発スピードも速いです。外注だと複雑なやり取りの末に数カ月かかるようなシステムでも、内製なら数週間から1カ月程度でできることも珍しくなく、ビジネス環境の変化にすばやく対応できます。さらに、内製化すれば開発のスキルとノウハウを社内に蓄積できます。

そのようなメリットを勘案し、システム開発を外注から内製に切り替える企業が増えているのです。

2020年8月にIDCが435社を対象に実施した調査によれば、ローコード/ノーコードプラットフォームを導入済み、または検討中の企業は44.8%でした。2021年末には、70%程度に増加すると予測しています。

ローコード/ノーコードプラットフォームを利用してシステム開発を内製化する 国内企業は増えている。2020年8月には導入済みと検討中を合わせて44.8%だったが、2021年は70%に増加すると予測(IDC調査)

生産管理基盤を半年で開発
すでに16の業務アプリを内製

土屋 きっかけは、2014年の「FileMakerカンファレンス」で食品メーカーの事例を耳にしたことです。かなり高度なアプリケーションでも、FileMakerならコーディング不要で容易に開発できることを知りました。FileMakerで簡単なプロトタイプを作り試してみましたが、試験運用しながら手軽に改修できることがFileMakerの良さだと感じました。また、端末はiPadを利用することで工場内の高温多湿な環境でもうまく運用できることもわかりました。

 私は以前の生産管理システムから担当していますが、私から見てもローコードツールであるFileMakerの使いやすさや柔軟性は新しいシステムを開発する上で大きなメリットがあり、使えるツールだと感じました。

織部 FileMakerを使えば、今まで外注していた以上のものを内製化できます。2015年3月に私と土屋の2人で開発をスタートし、半年後の9月にはハム製品用の生産管理システムが完成。試運転しながら改善を進め、2016年1月から本格稼働に入っています。ハム向けに開発したシステムをウインナーやベーコンにも展開し、現在ではFileMakerで内製した16ほどの業務アプリが稼働しています。

小さな成功を重ねた結果として、今ではERPのような基幹システムも内製で試してみようというカルチャーが根づきつつあります。なにしろ開発コストとスピードが圧倒的に違うのです。

小口 タブレットは誰にでも使いやすく、その場で業務が完結するので現場の方にも気に入ってもらえました。現場から改善要求が来ると、織部や土屋がその場で変更、修正、機能追加します。システムがすごいスピードで使いやすくなっていきます。

織部 工場内にIoTセンサーを配置し、生産現場の気温をリアルタイムに監視するシステムもFileMakerで開発しました。4台のセンサーでスタートし、現在では35台のセンサーが稼働しています。

小口 今後はシステムの枠を製品在庫まで拡大し、生産計画のさらなる最適化を目指す計画です。システムを内製化することで、自分たちの業務をより深く理解できることは、内製化のもう1つの利点だと思います。

実際に工場でFileMakerを使用している様子。オブジェクトは入力しやすいようできる限り大きくし、防水ケースに入れても見やすいよう工夫がされている

内製化に見る3つの注意点
ローコードで開発民主化へ

入谷 内製化を成功させるには、いくつか注意すべき点があります。

1点目はローコード開発ツールの選択です。市場には多くのツールがありますが、簡単な画面や特定のアプリケーションしか作れないもの、ローコードと言いつつコーディングが必要になるものなどがあるので、開発に関わる社内リソースの状況やニーズ、各ツールの機能性をよく勘案して選択する必要があります。

2点目は、これまで開発を担ってきた責任者やエンジニアが自分たちの努力が否定されたように感じ、内製化に拒否反応を示すケースがよく見られることです。内製化に際しては、社内への丁寧な説明やカルチャーの変革が必要になります。

3点目は、ガバナンスです。IT部門だけで開発する場合はよいですが、開発を各現場の担当者に任せる場合、不要なアプリケーションを作ってしまったり、データを不適切に扱うようなケースが見られます。正しい開発のためのルールやガバナンスに気を使う必要があります。

ローコード開発ツールの導入には、2つの潮流が見られます。1つは今回の事例に見られるような、開発コストとスピードの向上。もう1つは、開発の民主化です。

システム開発の権限がIT部門から各現場に移り、現場が必要とする簡単なツールを自分たちで作る時代になるでしょう。これが開発の民主化です。

どちらにも対応できるFileMakerのようなツールへの期待は、今後ますます高まるでしょう。

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信州ハム事例

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