新型コロナウイルスによって企業のデジタル化が進みつつある。しかし、その多くは「デジタルによる代替」であって「DX」といえるものではない。DXは既存のビジネスモデルから脱却して新たなモデルに転換すること。その“本気の変革”に向けた強力な支援を行っているのがベイカレント・コンサルティングだ。同社では、企業の変革を最後までサポートするための組織・体制を整備。幅広い経験を積んだコンサルタントが推進役となって、新しい価値の共創を行っていくという。
桔梗原 “コロナショック”は、多くの企業に「ビジネスモデルを大きく変えないと生き残れない」という危機感を与えました。こうした中、DXがより重要性を増すと思われます。日本企業の取り組み状況をどう見ていますか。
八木 多くの企業が「コロナ禍でデジタル化が進んだ」と口にしています。DX推進の遅れていた企業が、リモートワークによってオンラインミーティングを採用するようになったのは確かに進歩かもしれません。しかし、そのレベルのデジタル活用であればアナログの代替にすぎません。改めて認識しなければならないのは、デジタル活用はDX推進の「手段」であって「目的」ではないということです。大切なのは、“コロナショック”がもたらした変化を生かし、抜本的な変革につなげようとする姿勢ではないでしょうか。
則武 私たちは、DXに至るには3つのステップがあると考えています。最初のステップは、既存事業へ部分的にデジタル適用をする「デジタルパッチ」。コロナ禍で多くの企業が進めたデジタル化はここに相当するもので、まだDXの入り口にすぎないのです。
桔梗原 デジタルパッチが最初のステップだとすると、それ以降のステップはどう進めていくべきでしょうか。
則武 2つ目のステップは、デジタルを活用して既存ビジネスモデルの高度化・拡張を図っていく「デジタルインテグレーション」です。これは、自社の事業や組織全体にデジタルテクノロジーを溶け込ませていくことを意味しています。ただしその実現には、既存ビジネスを支える基幹システムを整理し、外部のデジタル要素を融合できる準備をしておくことが不可欠となります。そのためには老朽・複雑化したレガシーシステムがあれば、刷新しておく必要があるのです。
八木 そして最終ステップが、既存のビジネスモデルから脱却して新たなモデルに転換する「DX」です。革新的な顧客体験を実現することで、ディスラプターに立ち向かうわけです。この最終ステップは、2ステップ目に訪れるレガシー刷新が完了するのを待って着手するというものではありません。レガシーからの脱却を図りつつ、同時並行で「デジタル活用によってどんな新たな価値を創出できるか」を、しっかり見据えておく姿勢が求められるのです。
桔梗原 先進的にDXに取り組んでいる企業に見られる特徴はありますか。
八木 レガシーシステムの刷新はIT部門が行い、そこから先はデジタル部門が担うといった切り分け方をしている企業が見られますが、縦割りで分断してしまうとDXの成功は望めないと思います。成功している企業では部門間の連携が図られ、共創関係が生まれています。
則武 DXの推進役となるデジタル部門は、社内外から専門人材を集め、あたかも出島のような形で始められるケースも多いと思います。しかし、DXの推進は全社を挙げて取り組まなければなりませんので、デジタル部門がいつまでも独立したままというわけにはいきません。例えばデジタル部門がある程度、実績を積んできた三菱UFJ銀行では、リテールビジネス部門の一部とデジタル部門を一体化させようとしています。まだまだデジタルパッチの段階の企業が多い中、先行している企業ではこのようにデジタル部門と事業部門を融合させようと試みる動きが見られるようになってきました。
桔梗原 とはいえ、すべての企業が成果を上げているわけではありません。DXを成功に導くために大切なのはどんなことでしょうか。
八木 何のために変革をしたいかの“Why”と、デジタル化によって何を実現したいかの“What”を明確にした上で、デジタルテクノロジーをどう組織内に組み込むかという“How”を考えることです。デジタルテクノロジーは、これまでできなかったことをできるようにしてくれるものです。新たなビジネスモデルに転換し、新たな企業価値を生み出すというDXの本質をきちんと意識せずに“How”から始めたのでは、行き当たりばったりとなり、なかなか変革につなげることはできません。目的意識が明確であれば、社内の至るところをやみくもにデジタル化するのではなく、しっかり取捨選択できますので、DX推進担当者の負担も減るでしょう。そして、“How”を取捨選択した上で、“パッション(情熱・想い)”を込めることも不可欠です。例えば「ワクワクする」といった人間くさい要素を重視することが、実は変革を推進していく原動力となるからです。
桔梗原 そうした本質的な変革に向け、御社ではどのような支援を行っていますか。
則武 クライアント企業の直接的な悩みに応えるだけでは足りないと考えています。というのも、「どう変革していけばよいか」というアプローチの正解は誰も持っていないからです。だからこそ、我々はクライアント各社の課題に一緒になって向き合い、知見を基に考え抜くことで、クライアント自身が思いついていないゴールを設定するよう努めています。そのために、デジタル変革を最後まで伴走者として共創していくための組織・ノウハウ・人財を整えているのです。
桔梗原 ニューノーマル時代に向けた事業戦略の策定にあたり、企業はどのようなことを意識すべきですか。
則武 サステナビリティに関わる様々な問題が、大きな注目を集めるようになりました。今後はその解決のために、多くの投資が行われるようになるでしょう。これからの企業は、何らかの形でそこにリンクしていなければ収益性を高めることが難しくなるかもしれません。これまでSDGsは、あまり企業活動と結びついていませんでした。その実現に向けては、高い価値を多くの人に安価で提供する必要があるからです。しかし、デジタルを活用すれば質の高いサービスを低コストで世界中の人に届けられます。つまりDXは、SDGsへの貢献とも親和性が高いのです。
八木 例えばアフリカの貧しい子どもたちに教育を届けたい場合、これまでは現地に学校を建てて教師を派遣するというような、時間とコストのかかる方法しかありませんでした。しかし今では、タブレットPCを配布すればリモートで教育を提供することができる。ビジネスであれ、社会課題であれ、デジタル活用によってそれまでになかった価値を創出することが、最終的な目的につながっていくものであることを忘れてはなりません。