日経クロステック
SPECIAL INTERVIEW

ビジネスの価値最大化のカギを握る「DevOps」導入のあり方

コロナ禍でデジタル化が進んだと言われながら、“本丸”の課題であるDXへの取り組みに課題を抱えている企業は意外にまだ多い。課題解決の大前提として知っておきたい「DevOps」の概念、その具現化の選択肢として注目を集めるエンジニア・コミュニティ「Topcoder」について、2人のキーマンに聞く。

  • 須藤義人氏
  • 加藤学氏

約95%の企業のDX推進が停滞……
DevOps導入が重要

「本格的・持続的に実施している」と自己評価する企業はわずか約5%で、残りの約95%の企業は「未着手、あるいは一部部門での取り組みに留まっている」ーーこれは2020年末、経済産業省が発表した「DXレポート2」で明らかにされた日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みの実態だ。コロナ禍でデジタル化が加速化したと言われながら、実は国内のDX推進状況はというと予想外に進んでいないことが分かる。

なぜだろうか。その背景として、「業務効率化をゴールとする従来のIT化から、新たな付加価値を踏み出すためのDXを推進するには、まさに企業文化も含めた組織の変革からスタートする必要があります」。そう指摘するのはIT関連製品・サービスの製造・流通・販売を担うSB C&Sの加藤学氏。そのベースとなる考え方、プラットフォームとして、DevOps導入の重要性を挙げる。

加藤学氏
MANABU KATO

DevOpsというと、一般的には開発・運用部門が連携、協力し合う開発スタイルを指すこともあるが、同社では「ビジネスの価値を最大化することを目標とし、迅速かつ高品質なソフトウエア開発を実践する継続的な組織活動」と定義。2016年よりDevOps関連事業を強化し、加藤氏はそのリード役を担う。

さらに加藤氏はこう語る。「DXによって目指すべきBX(ビジネストランスフォーメーション)を果たしていく上では、スピード感を持って必要最小限の成果物、MVP(Minimum Viable Product)を生み出し、フィードバックを取り込みながら迅速かつ継続的にサービス開発・改善を進めていく。そうしたリーンなプロセス、仕組みの構築が欠かせません」。

ギグ(※)やフリーランスのエンジニアを活用したアジャイル開発サービスを軸に、広くDX推進支援を手掛けるTC3代表取締役・須藤義人氏も同様の指摘をする。

須藤義人氏
YOSHITO SUDO

「そのためには、従来型の特定ベンダーへの受託システム開発スタイルから脱し、ITベンダーとユーザー企業のDX部門が共同体となって、アジャイルにモノを作る関係性を築くことが重要です」と須藤氏は語る。

とはいえ、IT人材不足が深刻化する中、自社のリソースのみでDevOpsを目指し、DX、BXの世界を実現するのはいかにもハードルが高い。その新たな解決策、選択肢の一つとして注目したいのが、世界で150万人以上の開発者、データサイエンスエンジニア、デザイナーが登録するエンジニア・コミュニティ「Topcoder」だ。

2001年、米国で競技プログラミングのコミュニティとして誕生し、現在はデジタル領域の課題解決を行うオープンイノベーションコミュニティとして機能。オンラインの競技・コンテスト形式で登録メンバーに様々なソフトウエア開発、アルゴリズム構築などを依頼できるのが特徴で、日本市場では「Topcoder」のパートナー企業としてTC3がサービスを提供。SB C&Sとも協業しながら、「Topcoder」を始めギグワーカーのパワーを活用した開発フロー、そのエコシステムの世界観を広げるべく事業を展開している。

※インターネット上での受発注を基本に単発やプロジェクトベースで業務を行うワーキングスタイル

ハイスキルな技術者が
グローバルでしのぎを削る「Topcoder」

では、「Topcoder」の革新性、強みはどこにあるのか。

1つ目が、情報オリンピックや数学オリンピックの上位者などハイスキルな技術者が在籍していることだ。例えば過去にはFacebookを立ち上げた、あのマーク・ザッカーバーグもコンテストに参加していたといい、「腕に自信のあるギグ・エンジニアが競い合うことで、より良い成果物が期待できる点が挙げられます」と須藤氏。

2つ目が、データサイエンス、ソフトウエア開発、UI/UX開発などの領域別にトップレベルのギグ・エンジニアにアクセスし、オンデマンドでその力を活用できることが挙げられる。

まさにギグの語源である、ジャズなどの音楽セッションで曲ごとにメンバーが入れ替わり演奏していくようなスタイルで、領域ごとにコアな強みを持ったギグがチームに出入りする形で開発を推進しているのだ。

「コンテストは数日から2週間程度に課題を切り分け、メンバー1人が単独で行えるサイズに設定されています」と須藤氏。個々のメンバーの得意領域へのフォーカスと敗北時の損失最小化を実現している点も、優秀なフリーランスのエンジニアを引きつける特徴といえよう。

既にグローバルでは、ハーバード大学やファイザー社、IBM、NASAなどの名だたる企業・大学・国家機関が先端的プロジェクトに際し、「Topcoder」を活用。そのラインアップを見てもコミュニティとしてのクオリティ、生み出す価値の高さがうかがえるだろう。

日本においてもTC3が伴走する形で富士通やソフトバンク、日立製作所といったテクノロジー企業を中心に「Topcoder」へのニーズが高まりを見せているが(参考)、ここでは2018年に実施された経済産業省・中小企業庁のユースケースを紹介しよう。

一般的に行政のITシステム開発というと、特定のベンダーに任せウォーターフォールで実践するスタイルが一般的だ。だが、同庁ではその硬直化した開発スタイルが使い勝手の悪さに起因しているのではという課題感から、「Topcoder」に着目。TC3との共創で中小企業向け成功施策事例集のデジタル化プロジェクトを進めていくことになる。

ベンダー任せのスタイルとは異なり、「Topcoder」を活用するに当たっては目指すゴールを明らかにした上で、課題を複数のコンテストに切り分けるなど、企業サイドにも一定のITリテラシーや、そもそも「何を目指すのか」を明確にし、具現化していくためのコミュニケーション力も必須となる。

その観点から、「いわゆる“テックリード”としてテクノロジーコンサルティングから実装・運用までをワンストップで支援できるのが当社の強みです」と須藤氏。

顧客の要望のヒアリングからスタートし、要件定義と並行しコンテスト開催内容を決めるために機能モジュールや要件に合った課題の細分化、グローバルのスキルやアイデアを活用したい部分の切り分け、「Topcoder」の担当者と連携してのコンテスト開催、成果物の評価・採点・統合までをアジャイル開発のプロジェクト運営スタイルでトータルでサポート。

中小企業庁のケースでは、UI/UXデザインコンテスト、モジュール開発コンテストを計10回開催し、累計で211人ものエンジニアが参加。約6カ月のプロジェクトで5000ユニークユーザー向けのβ版Webアプリを完成させた。

官公庁として、極めて異例ともいえるスピード感のあるユースケースに位置付けられよう。

プロジェクト全体スケジュール
プロジェクト全体スケジュール
Topcoderコンテストを活用しながら、プラットフォーム構築の全体統括を行い、QA・品質保証や運用サポートを実施。プロジェクト進行中は、週次でミーティングを実施し、進捗状況やプロトタイプのレビューなども踏まえ方向性を確認。DevOps基盤を最初に整え、週次で成果物を確認しながらフィードバックを基に改善を繰り返す、まさにアジャイル型で実施し、短期間でより良いプロダクトを実現した

優秀なギグが得意分野を
発揮できるエコシステムを実現

自身も「Topcoder」に参加経験を持つ加藤氏は、そのメリットを高く評価しつつ、「すべての技術開発が、『Topcoder』を始めとするギグを活用したアジャイルの開発スタイルに移行すべきだとは思いませんし、プロジェクトによっても企業によってもフィットする開発スタイルは異なります」と指摘。

ただし、新たな技術が続々と誕生する中、すべてに精通するような優秀なエンジニアが欲しくても、そんな逸材を探し、採用するのはもはや現実的ではない。ならば、最新技術の活用や高難度課題の解決に際し、「新たな選択肢として『Topcoder』などの社外の知見を部分的に取り入れるなど、柔軟性の高いDevOps体制を構築することが、目指すBX、DXへ近づく一歩になるのでは」と加藤氏は提言する。

須藤氏も、「これからはプロジェクト単位、もっと言えば技術要素単位でスキルの秀でたメンバーをグローバルからクイックに集めて開発からリリースまで実施していくような流れが加速化していくのではないでしょうか」と指摘。

そうした時代の要請も受け、世界中の優秀なギグ、フリーランスの開発者たちが自分の得意分野や専門性に基づく価値を提供し、切磋琢磨しながらスキルを高められるようなエコシステムを強化し、エンタープライズ企業のイノベーションにつなげていければと語る。

ユニークな共創プロジェクト体制
ユニークな共創プロジェクト体制<
顧客とTC3の共創プロジェクトとしてチームを組成。「Topcoder」を始めギグの力を効果的に活用し、開発を推進していく。顧客としては優秀な技術者にオンデマンドでアクセスできるのもメリット

こうした世界観を実現していく上で、「当社としてもさらにDevOps関連のソリューション、サービス拡充に一層の力を入れてまいります」と加藤氏も語る。

テクノロジーだけでなく、その開発スタイル、人材のあり方も大きく変化する中、どの道を進むべきか。DevOpsやギグアジャイル開発などの最新情報を発信するSB C&Sの「DevOps Hub」や、TC3の「”Gig”abyte」なども参考に、まずは新たな視点から自社の課題、目指すゴールを見つめ直すことからスタートしたい。