トップビジュアル:伊藤忠商事/SAP/CTCが“ワンチーム”でSAP ERP環境を刷新 SAP S/4HANAでDX基盤構築、成功の鍵は「ぶれないコンセプト」
トップビジュアル:伊藤忠商事/SAP/CTCが“ワンチーム”でSAP ERP環境を刷新 SAP S/4HANAでDX基盤構築、成功の鍵は「ぶれないコンセプト」
トップビジュアル:伊藤忠商事/SAP/CTCが“ワンチーム”でSAP ERP環境を刷新 SAP S/4HANAでDX基盤構築、成功の鍵は「ぶれないコンセプト」

世界63カ国、約120拠点でビジネスを展開する大手総合商社の伊藤忠商事。同社のグローバルビジネスは1996年に北米拠点、2001年に国内本社へと、SAP ERPを基幹システムに導入してきたことで支えられてきた。このSAP ERPを、国内本社は2018年5月にSAP S/4HANAに刷新し、海外拠点は2020年11月にSAP S/4HANA Cloudに刷新した。しかも刷新の大きな特長として、国内本社は「Brownfield」、海外拠点は「Greenfield」と呼ばれる刷新方法を採用している。

大規模プロジェクトの成功に向け、伊藤忠商事ではどのようなアプローチをとり、どのような課題に直面し、その課題をいかに解決したのか。伊藤忠商事のIT企画部全社システム室長 浦上善一郎氏、同 IT企画部全社システム室チームリーダー原田修作氏、SAPジャパンのバイスプレジデント コンシューマー産業統括本部統括本部長 高塚裕輝氏、および伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)のERPソリューション推進部課長 武井真里氏に、日経BP総合研究所 フェローの桔梗原富夫が聞いた。

写真:浦上 善一郎氏

伊藤忠商事
IT企画部
全社システム室長
浦上 善一郎

写真:原田 修作氏

伊藤忠商事
IT企画部 全社システム室  チームリーダー
ITストラテジスト
原田 修作

写真:高塚 裕輝氏

SAPジャパン
バイスプレジデント
コンシューマー産業統括本部  統括本部長
高塚 裕輝

写真:武井 真里氏

伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)
ERPソリューション推進第1部 部長代行
武井 真里
(SAPマイスターIQ)

写真:桔梗原 富夫氏

日経BP総合研究所
フェロー
桔梗原 富夫

伊藤忠商事のグローバルビジネスを20年以上支えたSAP ERP環境を刷新

 伊藤忠商事では20年以上にわたりSAPのERP環境を運用し、バージョンアップを繰り返してきた。そのため国内基幹システムは約8割がアドオンという状況で、非常に複雑な仕組みになり、ブラックボックス化やサポート要員の高齢化が大きな課題となっていた。また海外基幹システムは、アドオン率は低いものの、やはり20年以上使ってきたため、ビジネス環境の変化に対応しにくい仕組みとなっていた。さらに、SAP ERPの保守サポートが終了する2025年問題にも対応することが必要となっていた。こうした課題を解消して、デジタル変革(DX)も推進していくことを目的に、国内基幹システムはSAP S/4HANAに、海外基幹システムはSAP S/4HANA Cloudに刷新することを伊藤忠商事は決定した。

桔梗原 まずは、海外基幹システムの刷新プロジェクトについてお聞かせください。

原田 海外基幹システムは、SAP ECC 6.0が25カ国以上の約40社で利用されていました。導入から24年が経過して、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応することができなくなっていました。またUIやオペレーションが煩雑になり、SAP ERPが本来カバーしているプロセスや機能が利用できなくなっていました。

 そこで、伊藤忠商事のDXを推進するための基盤を構築する「S/4HANAトランスフォーメーションプロジェクト」をスタート。10年先までの利用を見据え、環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、常に最適なソリューションが提供できるプラットフォームをSAP S/4HANA Cloudをベースに構築しています。

 SAP S/4HANA Cloudへの刷新ではGreenfieldアプローチを採用しました。徹底的な標準回帰により、約3000オブジェクトあったモディフィケーションを全廃し、約500種類あったアドオン機能を90%削減、極めて標準に近いプラットフォームを実現しています。また柔軟な機動性かつ高い開発力の実現を目的に、標準機能の中から必要なものを組み合わせて使うFit to Standardで標準化を徹底しました。一方で、新機能や新技術を積極的に取り込んだほか、オフショア開発やSAP IBSO(Innovative Business Solution Organization)チームとの共同開発も行っています。

桔梗原 国内基幹システムの刷新では、CTCのクラウドサービスであるCUVICmc2を使っていますが、SAP S/4HANAとの連携などで苦労はありませんでしたか。

浦上 国内は、まずFit to Standardをしないかどうかが論点でしたが、2006年~11年に全社で業務改革を経験しているので、SAP S/4HANAへの刷新にあたり、業務改革は前提とせず、既存リソースをしっかりと生かし切るという方針からBrownfieldアプローチを採用しました。具体的には、アドオンにより属人化した機能をひも解いて、将来にわたり維持、運用できる形に作り直して、CUVICmc2上で稼働するSAP S/4HANAに移行しています。CUVICmc2の導入に関しては、CTCが迅速にサポートしてくれたおかげで苦労はありませんでした。今回のプロジェクトが期間内に終わったのは、CUVICmc2のおかげと言っても過言ではありません。

桔梗原 CTCはプライマリーベンダーとして、今回のプロジェクトをどのように支えたのでしょうか。

武井 今回、伊藤忠商事より“ワンチーム”の体制でプロジェクトを進めたいという話がありました。通常のプロジェクトでは、お客さま側とベンダー側の2つの体制で、それぞれに責任者がいて、PMがいて、リーダーがいますが、この体制では意思決定に時間がかかります。時間のロスを省くことを目的に、ワンチーム体制でプロジェクトを進めました。当初は戸惑いもありましたが、何とか実現したいと考えました。プロジェクトは階層が深くなると、承認プロセスが複雑になり時間がかかるので、なるべくフラットに考え、伊藤忠商事とCTC、伊藤忠商事の海外IT事業会社であるCISD(ASIA)CO.,LTD.(CISD)の3社を中心に、2階層の体制を確立しました。

 CISDとCTCはこれまでSAP ERPの導入から保守まで一緒に携わってきたので、人間関係や信頼関係も短期間で構築できました。またSAP IBSOチームには、高い知見と技術力を提供してもらうことで、たくさんの課題をスピーディーに解決できました。

図1:10年先までの利用を見据えたプラットフォームをSAP S/4HANAで実現

図1:10年先までの利用を見据えたプラットフォームをSAP S/4HANAで実現

プロジェクトの大きなポイントは「ビジョンやコンセプトがぶれない」

 国内外の基幹システムをSAP S/4HANAに刷新したことにより、海外基幹システムでは業務面とシステム導入面で大きな成果があった。まず業務面では、約10のシステムをAPIでつないだことで、インタフェース開発に時間をかけることなく、スムーズなシステム連携を可能にした。システム面では徹底した標準化により、保守と拡張のしやすさを実現している。一方、国内基幹システムではデータを活用・分析して、新たなビジネスを創出するDXを推進するための基盤を構築できたことが大きな成果だ。プロジェクトの成果はSAPからも高く評価されており、SAP主催のパートナー向けコンベンション「SAP Japan Partner Summit 2021 online」において、CTCが「プロジェクト・アワード優秀賞」を受賞している。

写真:座談会のイメージ

桔梗原 プロジェクトを進めていく上で、工夫した点をお聞きかせください。

原田 「目指すビジョンやコンセプトを、ずらさない、ぶらさない」ことを大事にしました。、プロジェクトメンバー全員がシステムをつくるだけでなく、現場の担当者からマネジメント層まで“使う人”に対する意識を強く持ったこともその一環です。例えば北米への導入では、グループ会社のCFOを集めたカンファレンスを実施して、何度も議論を重ね、コンセプトを理解してもらいました。現地のマネジメント層にはSAPが主催するカンファレンスにも参加してもらっています。

桔梗原 SAP S/4HANA Cloudを導入することで損益をリアルタイムに把握できるのは、CFOにも非常に響きますね。

浦上 会社の状況をリアルタイムに把握できるというのは、経営にとっても重要なことです。そこは海外拠点のCFOに高く評価されていると思います。

高塚 これまでたくさんのプロジェクトを見てきましたが、今回のプロジェクトではコンセプトを理解してもらうために、SAPのカンファレンスを利用していただくなど、いろいろな工夫がされていることが大きな特徴だと思います。ビジョンやコンセプトがぶれずにプロジェクトを必ず成功させるという強いメッセージが、シンプルかつ戦略的にCFOに伝わっています。こうした点は私自身も勉強させていただきました。

桔梗原 今回のプロジェクトの成果についてお聞かせください。

浦上 多くの企業がDXに取り組んでいますが、DXの基礎はオペレーショナルなデータがいかに正しく蓄積されているかだと思います。その意味で今回のプロジェクトにより、国内も、海外も、オペレーショナルデータを蓄積するための基盤、ビジネス環境の変化に強い基盤が、しっかりと構築できたと思っています。その点からもSAP S/4HANAは選択すべき基盤であったと思います。

桔梗原 変化に強い基盤をつくり上げたということですが、今後の構想としてはどのようなことをお考えですか。

浦上 少し概念的な話になりますが、伊藤忠商事の商売の基本に「か・け・ふ(稼ぐ・削る・防ぐ)」という三原則があります。商売なので稼ぐことは必要ですが、一方で必要のないことは削る、リスクのあることは防ぐことが必要です。今回プロジェクトは、削ると防ぐにはかなり貢献したと思っています。今後は今回のプロジェクトで構築した基盤を、稼ぐに活用していきたい、攻めの経営に貢献していきたいと思っています。

桔梗原 CTCとしては、今回のプロジェクトにどのような成果を感じていますか。

武井 今回のプロジェクトを通じて、最先端の技術やスキルを学ばせてもらったことが最大の成果です。国内初の事例となる移行ツールを利用するなど、いろいろなノウハウが社内に蓄積されたことを実感しています。もう1つ、プロジェクトの考え方の柔軟性です。伊藤忠商事から「失敗してもいいから、新しいものをどんどん試していこう」という後押しがあり、SAPから紹介された新しい技術や製品を貪欲に試せたことは非常に良かったと感じています。

桔梗原 失敗してもいいから挑戦するというのは、伊藤忠商事の文化でしょうか。

浦上 そうですね。新たな商人を目指すというか、会社全体としてイノベーションに向かうことが必要だと思っています。従来のように要件定義から始めて、稼働するのは4年後というのでは変化に追いつけません。チャレンジできるところは、チャレンジすることが重要です。

桔梗原 今回のプロジェクトでCTCがSAPのアワードを受賞しましたが、選定のポイントについてお聞きできますか。

高塚 プロジェクトの成功に向け、SAPも含めたワンチームで非常に大きな改革に取り組まれたことを高く評価しました。変革に向かってSAPのツールを最大限に活用していただき、経営の変化への対応力を見事に手中にされたと思います。ぶれないコンセプトやビジョンが最大のポイントでした。この点はSAPも勉強させていただいたし、特別なプロジェクトだと感じています。

 同時に、CTCの武井様が「SAPマイスターIQ」という特別な称号を受賞しています。このことからも、間違いなく注目度が高く、意義のあるプロジェクトだったと言えるのではないでしょうか。

桔梗原 最後に、基幹システムをSAP ERPに刷新することを考えている企業にメッセージをいただけますか。

浦上 基幹システムをSAP S/4HANAに刷新するには、Brownfield、Greenfieldという2つアプローチがあります。どちらのアプローチが良い悪いではなく、各社の置かれている状況で適切なアプローチを選ぶべきです。例えば売上情報を入力して決算するような競争力があまり必要のない業務プロセスに関しては、できるだけパッケージをそのまま使うGreenfieldが適しています。一方、基本的にはパッケージをそのまま使うものの、マイグレーションも必要な場合にはBrownfieldが適しています。どちらのアプローチを選んだとしても、データドリブン経営やDX推進につながるので、SAP S/4HANAはぜひ検討すべきソリューションであるというのが私からのメッセージです。

桔梗原 今回は伊藤忠商事のSAP S/4HANAへの移行プロジェクトを、どのようなアプローチで成功させたのか、その過程でどのような課題があり、どう解決したのかをお聞きしました。SAP ERPの移行を現在進めている企業、あるいはこれから移行を検討する企業の皆さまにとって、有益なヒントになれば幸いです。

図2:シンプルな組織による“ワンチーム”でプロジェクトをスムーズに推進

図2:シンプルな組織による“ワンチーム”でプロジェクトをスムーズに推進