IDCフロンティアが2020年12月に開設した「東京府中データセンター」は、最大受電容量50MW、延べ床面積4.5万㎡超と、非常に大規模なデータセンターだ。
同社は、北九州に最大拡張時60MW、白河にも最大拡張時50 MWの巨大データセンターを保有するが、同規模のデータセンターを都内に開設するのは初めて。業界全体でも首都圏にこれほど巨大なデータセンターを置くケースは珍しく、注目を集めている。
「パブリッククラウドをはじめとするハイパースケーラーや、データを活用して大規模なビジネスを展開するエンタープライズなどの需要に応えるため、数年ぶりの大型投資に踏み切りました。かつては、都内のデータセンターといえば小規模から中規模のものが中心でしたが、ビジネスの変化とともに需要も大きく移り変わっています」と語るのは、同社データセンター本部本部長の伴忠章氏である。
クラウドサービスの拡大やDX(デジタルトランスフォーメーション)の急速な進展とともに、企業が利用するデータの量は急増している。その格納や処理の受け皿となるデータセンターも、おのずと大規模なものが求められるようになってきたのだ。
巨大データセンターが求められている背景には、AIの活用が進んできたこともあるという。「膨大なデータを高速でAI解析するためには、大型のサーバーを設置しなければなりません。おのずと設置に必要なスペースも大きくなり、これまでのデータセンターでは収まらなくなっています」と説明するのは、同部担当課長の中西重能氏である。
高速のAI解析に用いるサーバーは、サイズだけでなく、消費電力も大きい。しかも処理中に高熱を発するので、冷気を効率よく送りながら、パフォーマンスを安定させる必要がある。
東京府中データセンターは、これらの課題にもしっかり対応している。
通常、データセンターの1ラック当たり電力は2~4kVAだが、同センターは7kVAと非常に大きい。今後さらに高電力化を図り、2021年8月には局所的に冷却するシステムを東京府中データセンターに導入し、最大20kVAの高負荷にも対応できるラックで様々なニーズに応えていく予定だ。
さらに、サーバーのサイズ拡大や、大規模なサーバーを複数台設置するニーズに対応し、ラック単位だけでなく、部屋単位でスペースを提供する「データホール」というサービスも用意。「ハイパースケーラーからコンテンツ配信業者、エンタープライズまで、あらゆる規模や種類のビジネスに対応した使い方が選べるようになっています」と中西氏は説明する。
もう一つ、東京府中データセンターのユニークな特徴といえるのが、顔認証システムを使って非対面かつ非接触で入館できることだ。
通常、データセンターに入館する際には、受付で入館記録を書く必要があるケースが多いが、コロナ禍に対応して、セキュリティーを担保しながら極力接触を減らす仕組みを採り入れた。サーバールームへの入退室も、顔認証に静脈認証などを組み合わせることで、出入りできる。ニューノーマル時代に対応して、いち早くこうしたサービスを採り入れている点には、進取の精神が感じられる。
IDCフロンティアはソフトバンクとグループ企業のデータセンターも含めて全国で16拠点のデータセンターを運用。また、国内全域をカバーするデータセンター事業の他に、クラウド事業も提供している。
「データセンター、クラウド、ネットワークと、幅広い階層のITインフラサービスをワンストップで提供できるのが当社の強みです。他にもソフトバンクのグループ企業との連携によって、様々なニーズにお応えできます」と語るのは、同部の村上めぐみ氏である。各レイヤーを相互連携させて、顧客に合わせたITインフラを自在に構築できる同社の総合力は、他社とは一線を画する強みといえるだろう。
同社は、今後も新たなデータセンターを開設し、クラウドサービスの普及やDXの進展とともに拡大し続ける需要に応えていく方針だ。
伴氏は、「コロナ禍によって、テレワークの普及やオンラインショッピング、コンテンツ配信などの利用が増えた結果、データセンターの需要はますます高まっています。ニューノーマルの定着とともに、この傾向は今後も続くことは間違いないので、当社としても、しっかり受け皿を整えていきたいと考えています」と語る。
また、IDCフロンティアがデータセンターの新設に積極的に取り組もうとしているのには、都内にある老朽化したデータセンターが消滅しつつあることに対応する狙いもあるという。
「都内にあるデータセンターは2000年代に開設されたものが多く、設備の陳腐化などを理由に閉鎖を選択する事業者も少なくありません。それによって別のデータセンターに乗り換えざるを得なくなるお客様のためにも、より多くの受け皿を提供していきたいと考えています」と伴氏は語る。
IDCフロンティアの今後の取り組みにも注目したい。