【事例研究】中堅中小製造業のDXの挑戦 工場とオフィスでの情報格差を解消し 自律的な働き方を実現

「DXは大企業のもので、自社には縁遠いもの」。そう考えている中堅・中小企業の経営者やIT担当者はいないだろうか。その考えは誤っている。デジタル化の波は社会全体に及んでおり、企業規模は関係ない。むしろ中堅・中小企業ほど、DXによる効果が大きいという指摘もある。そこで、ここではDXで社員のモチベーションを高め、自律的な働き方を実現した福岡県の製造企業の事例を紹介する。中堅・中小企業がどのようにDXを推進すべきなのか、それによっていかなる効果が見込めるのか、参考になるはずだ。

「人と人をつなぐ情報基盤」の確立へ

株式会社西部技研 代表取締役社長 隈 扶三郎氏
株式会社西部技研
代表取締役社長
隈 扶三郎

西部技研は福岡県に本社と複数の工場を持つ製造企業。創業以来60年近く、独自の技術力を基に、全熱交換器やデシカント除湿機、有機溶剤濃縮装置といった画期的な製品を世に送り出してきた。グローバルに事業を展開し、売上比率も海外が6〜7割に達するが、資本金1億円、従業員数は約300人という、中堅企業だ。

「主要な事業領域は省エネルギーや環境保全で、最近ではバッテリー製造工場向けのNMP(N-メチル-ピロリドン:溶剤として使用され大気汚染の原因になる物質)冷却濃縮回収装置や、半導体工場から出る排ガスを浄化する装置、地球温暖化の原因となるCO2の分離回収装置などに力を入れています」と語るのは、同社社長の隈 扶三郎氏。これらの需要は世界的に高まっており、特に中国でのビジネスが伸びているという。

その一方で、最近ではDXへの取り組みも加速している。需要増大に対応できる生産能力を確保するため、20年ぶりに新規工場を立ち上げており、ここにIoTなどの技術を投入することで、自動化や効率化を進めている。目標は従来の半分の人員で、2倍の製品を製造できるようにすること。まだフル生産には至っていないが、生産効率は4倍になっており、ほぼ目論見通りの状況になりつつあるという。

株式会社西部技研 経営企画室 シニアプロジェクトマネージャ 本田 美保子氏
株式会社西部技研
経営企画室
シニアプロジェクトマネージャ
本田 美保子

その一方で西部技研では、もう1つのDXも進められている。それは「人と人をつなぐ情報基盤」の確立に向けた取り組みである。

「私は2年前にUターン転職で入社したのですが、当時の印象は『非常にアナログな世界』でした」と振り返るのは、西部技研の本田 美保子氏。同氏は以前、野村證券に勤務しており、2012年に約8000台のタブレットを大量導入した際の立役者としても知られる人物だ。「社内の情報基盤が十分に整備されておらず、このままでは世の中の動きに取り残されてしまうという危機感を感じました」と語る。

そこでまず行ったのが、社内ネットワークの整備だった。約1年かけてセキュリティも含めた基盤を整備。そのうえでMicrosoft 365の導入を前提に、端末環境の検討を進めていった。ここで大きな課題となったのが、工場で働く社員に対して、どのような端末を配布するかだった。

端末選定の決め手は対応OS世代数の多さ

「それまでPCが1人1台当たり前にある業界にいたので、まず工場で働く社員が情報端末を持っていないことに軽いショックを受けました。工場の現場では、紙のメモで指示がやり取りされており、生産管理に必須となる工数入力も、工場に数台置かれていた共用PCで入力するといった状況でした」と本田氏。このままでは効率が悪く、他の社員との情報共有も進まない。工数入力を効率化するとともに、事務系や営業系社員との情報格差を解消するには、どのような端末が必要なのか。その検討の中で見つけたのが、Androidベースのハンディターミナルだったという。

「初めて目にしたのは、2019年1月の展示会。第一印象は、バーコード読み取り機能を持つAndroidスマートフォンという感覚でした。これなら工数入力装置としても、Microsoft 365にアクセスする端末としても使えると直感。すぐに導入に向けた検討に着手しました」(本田氏)

その後、複数の企業から提案を受け、最終的にHoneywell社国内唯一のディストリビュータであるイメージャーの提案を採用。Google社のお墨付きを意味するAndroid Enterprise Recommendedの認証を取得したHoneywell社の「Dolphin CT40」を200台導入することに決定する。

「最大のポイントは、他社製品では1-2世代が多い中、最長で7世代のAndroid OSサポートが保証されていたことです。Android OSのバージョンアップ頻度を考えると、3世代では、端末の耐用年数が来る前に対応OSが古くなってしまい、アップデート対象から外れてしまう危険性があります。そうなってしまうとセキュリティ脅威が発生した場合に、対応できなくなると考えました。加えて当初からクラウドサービス利用を前提としていたので、サポート対象外となってしまうことも危惧したためです」と本田氏。

図1 端末と対応OSの関係

図1 端末と対応OSの関係

Honeywell製品は「Mobility Edge」と呼ばれるプラットフォームによって、最長で7世代のAndroid OSをサポート。アプリやクラウドサービスへの対応に加え、セキュリティ面でも長く安心して端末を利用でき、TCO削減の効果も見込める

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これは、ハードウエア、ソフトウエア両面で最長7世代のOSをサポートする「Mobility Edge」と呼ばれるプラットフォームで、Honeywell、Google、Qualcommの3社間の強力なパートナーシップ提携により実現したものだ。

並行して、端末管理ソリューションの選定も実施。これも複数社から提案を募り、最終的にアイキューブドシステムズの「CLOMO MDM」の採用を決めた。Dolphin CT40と同様に、CLOMO MDMも「Android Enterprise Recommended」の認証を受けている。決め手になったのは、多様な端末を一括管理できることと、プロキシやVPNなどのセキュリティ設定や、工場外でのネットワーク利用制限をするためのWi-Fi制御が、操作性の高い管理画面を通じて容易に実現できたことだ。

図2 MDM(モバイル端末管理)のポイント

図2 MDM(モバイル端末管理)のポイント

ハンディターミナルなどのモバイル端末の一括管理が可能な「CLOMO MDM」。使用可能なアプリや機能の制限に加え、WiFi設定の一括適用などセキュリティ対策も施せる。管理者側の運用負荷を低減できることも大きな魅力だ

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2020年10月にはCLOMO MDMの運用を開始し、既に配布済のスマートフォンとタブレットを他のMDMから載せ替え、2021年2月には、工場で働く社員への端末提供を行っている。これによって部門を超えた情報共有を実現。Microsoft 365に含まれるMicrosoft Teamsのグループチャット機能で、どこからでも連絡が取れるようになっている。

新たに立ち上げられた工場におけるDolphin CT40の利用シーン。その場で工数入力ができ、メールやチャットでのやり取りも行える

新たに立ち上げられた工場におけるDolphin CT40の利用シーン。
その場で工数入力ができ、メールやチャットでのやり取りも行える

部門間の垣根を越えた連携も自発的に増加

「例えば納期に問題が発生しそうな場合、内線電話で関係者を呼び出さなくても、即座にチャットで連絡できます。また口頭で話さないと伝わらないことに関しては、Microsoft Teamsの音声通話機能を活用。目で見て確認する必要がある場合はその場で写真を撮影し、チャットに上げています」(本田氏)。

工場でのDolphin CT40の保管場所。工場内端末は持ち出しが禁止されており、帰宅時にはここに端末を置き、翌日に備えて充電をしておく

工場でのDolphin CT40の保管場所。工場内端末は持ち出しが禁止されており、
帰宅時にはここに端末を置き、翌日に備えて充電をしておく

最近ではMicrosoft Teams上で、工場社員と営業担当者が参加するプロジェクトチームが結成されることも増えていると本田氏。これはトップダウンで指示したわけではなく、自然発生的に生まれた動きだという。若い社員はSNSやスマートフォンに慣れているので、環境さえあれば、自主的に動き出すのだろうと語る。

以前から活用していたNECの生産管理システム「EXPLANNER/J」との連携でも大きな変化が現れている。それまで生産現場での工数入力については、退社時に共用PCまで移動して入力していたが、各人がその場でハンディターミナルでバーコード入力を行うだけとなっており、入力を簡素化した。また、工数入力だけでなく、部材の発注、受入、移動、払出もハンディターミナルで行っており、作業と切り離されがちな入力作業を現場で完結させている。その結果、生産現場の状況が管理部門からリアルタイムに把握できるようになった。

実は、この生産管理システムとの連携でもひと工夫が凝らされている。同システムは標準機能ではWindows OSにしか対応しておらず、本来はかなりの開発が必要だった。しかし、サイボウズの業務改善プラットフォーム「kintone」を入力インターフェイスとして活用することで、自由度を保つとともにコストと開発期間の大幅削減を実現しているのだ。

かつkintoneが持つ通知機能を活用し、納期回答などがハンディターミナルの画面を通じて工場の現場でタイムリーに確認できる、というメリットがある。

図3 西部技研の取り組みの全体像

図3 西部技研の取り組みの全体像

Webフィルタリングは放牧場の外柵のようなイメージで、ユーザーが積極的に情報活用してくれるよう、情報漏えいにつながるもの以外は比較的自由度を高めている。指定したアプリのみ使用でき、ホワイトリスト型の制御を行っているハンディターミナルからは、出張申請や経費精算などの各種申請業務も可能で、ペーパーレス化にも貢献。今後は図面などをモニターに投影する機能の追加も検討中だ

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ここで気になるのが、大量の端末を一気に導入することで、管理工数が増えないのかということだ。中堅・中小企業では、IT専門の社員を採用することは決して簡単ではない。仮にIT担当として入社してもらっても、その後の育成も難しい。しかしアウトソーシングを適切に活用すれば、このような心配は無用だと本田氏は言う。実際に西部技研でも、IT担当の社員は2人しかいないのだ。

「以前は上からの指示を待って動くのが普通でしたが、最近では社員が自律的に動くようになったと感じています」と隈社長。コミュニケーションDXの最大の成果は、このような社員の意識の変革ではないかという。

社内の情報格差を解消することで、社員の意識や働き方は大きく変わっていく。社員数が限られる中堅・中小企業だからこそ、その効果は絶大だろう。

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