マネジメントから現場まで斬り込む 日本郵船のDcXと新たな挑戦

上段左より、日本郵船株式会社 専務執行役員 技術本部長 小山 智之氏、株式会社MTI 取締役 船舶物流技術部門長 安藤 英幸氏、日本郵船株式会社 イノベーション推進グループ グループ長 デジタルアカデミー学長 石澤 直孝氏、日本郵船株式会社 DX推進グループ チーフ・データサイエンティスト 仲山 紘史氏、下段左より、日本郵船株式会社 DX推進グループ グループ長 塚本 泰司氏、日本郵船株式会社 海務グループ グループ長代理 山田 省吾氏、日本郵船株式会社 DX推進グループ スマートワークチーム長 赤松 一氏、株式会社NYK Business Systems DXソリューション開発部 部長 三村 雄一氏

DX(デジタルトランスフォーメーション)の中でも、データ利活用を中心とする変革「DcX(データ・セントリック・トランスフォーメーション)」を提唱するのは、業界を問わず様々なビジネスを支えるインテルだ。その考え方に賛同し、全社を挙げてデータの利活用やビジネスの革新に取り組んでいるのが日本郵船である。同社が進める「DcX」と新たな取り組みの「いま」と「これから」に迫った。

日本郵船の「DcX」の
推進で見えてきた成果

「DcX」とは、経営の意思決定や現場での施策など、あらゆる場面においてデータを利活用し、攻めのビジネスを実現していくよう、インテルが提唱してきた概念である。しかし、実際のデータ利活用は企業や人によってばらつきがあり、データを使いこなす者と使いこなせない者に二極分化する「データデバイド(データ利活用の格差)」が生まれている。インテルは、この格差を埋め、あらゆる企業や人がデータを利活用できる「データの民主化」を実現したいと考えている。日本郵船はこのインテルの考え方に賛同し、経営や業務のあり方を変革する「DcX」を推進している。今回、専務執行役員 技術本部長の小山智之氏をはじめとした、日本郵船の様々な分野で精力的に取り組む8名の方々に語ってもらった。

まずは、貴社のこれまでの「DcX」の取り組みについてお聞かせいただけますか。

小山:日本郵船は3年ほど前から、全社を挙げて「DcX」を推進してきました。2020年にインテル様の鈴木国正代表取締役と対談(※)した頃から、まだ道半ばですが、少しずつ成果は表れています。データ利活用のためには、まず取り扱いやすいようにデータを整えなければなりません。そのうえで整ったデータを効率よく使えるように業務フローを変革する。この2つのステップを経て、ようやく利活用できる環境が整うと考えています。私たちは「会社のOSをアップデート」すると表現していますが、いまは全社のデータを整える作業がようやく終わったばかりで、本格的な利活用のステージに入るのはこれからです。

真の変革とは、手作業をテクノロジーに置き換えるといった物理的なことではなく、マインドそのものを変えることだと思います。「変わろう」という意識を社内に浸透させるため、「NYKデジタルアカデミー」という社内スクールを開校しました。社内における「データの民主化」の推進が、日本郵船の「DcX」をさらに加速させてくれると期待しています。

(※)小山氏と鈴木氏の対談記事はP4のリンク参照

少しずつ成果が表れているということですが、具体的にはどのような変化が起こっているのでしょうか。

安藤:たとえば、私が所属するMTI(日本郵船100%出資の研究開発機関)では、様々な課題解決のための研究に取り組んでいますが、船を完全自動操船で運航させる「自動運航船プロジェクト」に造船会社や舶用機器メーカーと共同で取り組んでいます。実証航海を今年の2~3月に行い、自動運航達成率98.6%(※東京港~津松阪港の往復で往路が97.4%、復路が99.7%の自動運航実績の平均で98.6%)という結果を出せました。この実証航海に至るまで、開発した自動操船システムは「データによるシミュレーションの航海」を何度も行っています。操縦運動性能など船の機能のモデルを仮想空間上に構築し、模型試験や実船から収集した様々なデータに基づきモデルをチューニングして、気象や交通流の実データをもとに現実空間で起こりうる様々な状況を仮想空間上に再現して船を走らせ、自動操船システムのテストを仮想空間で繰り返したことで、実際の船に自動操船システムを搭載する前にシステムの問題を徹底的に洗い出し、必要な改良を加えることができ、結果、本番の実証航海では高い自動運航達成率を実現することができました。サイバーフィジカルといいますか、サイバーとフィジカルのデータをフルに活用し本番に至る限られた時間の中でシステムの完成度を上げるというやり方が成功を収めた点で、「DcX」の典型例と言えるかもしれません。

写真:座談風景。小山 智之氏、安藤 英幸氏、石澤 直孝氏、仲山 紘史氏

※取材及び座談会はマスク着用で実施し、写真撮影時のみマスクを外しています。