テレビ業界の業務の特徴は、人手による作業が多く、時間がかかることだ。このため、長時間労働や深夜残業などが課題となってきた。しかし、コロナ禍によって業界の意識も大きく変わり、三密を避けながら番組制作を続けるための環境整備が急がれている。テレビ業界を含むメディア業界全般の働き方改革を推進してきたマイクロソフトの大友太一朗氏に、テレビ業界特有の課題と働き方改革の進め方、成功事例などについて聞いた。

人手と時間がかかるテレビ番組制作の業務

日本マイクロソフト株式会社
エンタープライズ事業本部
通信メディア営業統括本部
インダストリーエグゼクティブ
大友 太一朗 氏

日本マイクロソフト株式会社
エンタープライズ事業本部
通信メディア営業統括本部
インダストリーエグゼクティブ
大友 太一朗 氏

テレビ番組の制作には、出演者やディレクター、プロデューサー、作家、カメラ、音声、編集を含む制作者やエンジニア、リサーチャー、学者、翻訳家、法律家、広告会社、スポンサーなど、多くの人が関わる。番組はどれも一品生産のため自動化が難しく、労働集約的な働き方が主流となってきた。

「テレビ業界の業務には2つの特徴があります。人手による作業が多いことと、時間がかかる工程が多いことです」(日本マイクロソフト株式会社の大友太一朗氏)。

例えば、映像素材の中の会話を文字に起こしたり、それを翻訳したり、必要な部分を抜き出して編集したり、音響や効果を入れるなど、人の技能を要する業務が中心となる。制作現場での緊急対応も多々あり、とにかく人手に頼る仕事が多い。

また、テレビ番組が完成するまでには膨大な時間がかかる。1時間の番組を作るために数十時間分の撮影素材が必要になることもザラにあり、タレントやスタッフの待ち時間も長い。撮影後も素材チェックや編集、効果、テロップ作成などにも時間がかかる。

その結果、長時間労働や深夜残業が課題となってきた。

しかし、このコロナ禍によって業界の意識も急速に変化している。三密を避けなければならない中で、大勢が集まって撮影したり、ディレクターと編集者が編集室に長くこもって作業したりすることなどが難しくなった。まさに、テレビ業界は働き方改革が待ったなしの段階に来ている。

Teamsでコミュニケーションを迅速化

大友氏によれば、テレビ業界の働き方改革は2つのステップで進む。コミュニケーションの改善とオペレーションの効率化だ。

まず、対面でのミーティングや紙媒体のやり取りを中心に進めてきたコミュニケーションを Microsoft 365 でデジタル化し、多くの関係者がリモートで共同作業できる環境を作る。Word や Excel などのソフトウェアはテレビ業界でも古くから利用されているが、ファイルの共有や管理に問題がある。例えばファイルの命名ルールがなく、フォルダに無造作に貯めていく結果、目的のファイルが見つからない、どれが最新かわからないといった問題がよく起きている。

これを、Microsoft Teams で整理する。案件ごとのチームを作り、ファイルもそこで共有する。ある在京キー局では、すでにこれを実践している。

Microsoft Teams を使用し、番組で使用するフリップボードを1時間で完成させた例

スタジオ控室で議論したホワイトボードをスマートフォンで撮影し、その画像を制作会社との Teams のチャットに貼り付けてフリップボードの作成を依頼する。約40分後にクリエイターから Teams にゲラがアップされ、約10分でディレクターが確認し、最初の議論からわずか1時間で完成した。従来は、物理的な移動を伴う対面でのミーティングなどが中心となり、この作業に半日ほどかかっていたという。

Teams によって整理すれば、コミュニケーションが速くなる。複数の案件を同時並行で進めることも可能になり、業務効率が飛躍的に向上する。

編集環境を丸ごとクラウド上に構築、遠隔地から共同作業

映像制作等、テレビ業界におけるオペレーションの効率化に関しては、アビッドテクノロジーやグラスバレー、ソニーなど、テレビ業界を支えるパートナー企業と協力して推進している。

従来の編集作業は、ディレクターと編集エンジニアが編集室に入って行う。ディレクターの細かい指示に従って編集エンジニアがツールを操作し、完成を目指していた。これと全く同じ編集環境をマイクロソフトのパブリッククラウド「Microsoft Azure」上に構築し、ディレクターと編集エンジニアが遠隔地からアクセスして共同作業を進められる環境を整備する。

STV札幌テレビ放送は、働き方改革の1つの取り組みとしてこれを実践した。

同社は毎年、沖縄で行われるプロ野球のキャンプにディレクターと編集エンジニアを派遣している。約1カ月間、非常に多くのスタッフが沖縄に滞在する。通常は、ディレクターが現場を取材して映像を撮影、午後からはそれを編集エンジニアと共に編集し、夜のニュース番組に間に合わせる。

これには複数の難点があった。まず、のべ3人で約1ヵ月間の取材を担当する編集エンジニアは、取材期間中は沖縄に張り付きでの勤務となるため、数週間のスケジュール調整が必要となり、札幌本社での業務を行うことができない。また、編集機材一式を札幌から運び込み1カ月間滞在するために、膨大なコストと時間がかかっていた。

そこで、アビッドの編集環境とストレージを Azure上に構築し、沖縄のディレクターと札幌の編集エンジニアが協働して映像を編集できる環境を整備した。

Azure上にアビッドの編集環境を構築し、沖縄にいるディレクターと札幌にいる編集エンジニアが共同で編集作業を進行

沖縄にはディレクターだけが滞在し、編集エンジニアは札幌に残った。ディレクターが撮影した動画をクラウドストレージにアップする。午後、編集に取りかかるタイミングで編集エンジニアがアビッドのシステムにアクセスし、編集エンジニアとディレクターが同じ画面を共有しながら編集作業を行う。

これなら、札幌にいる編集エンジニアは本社で他の仕事を進める合間に沖縄で撮影した映像素材の編集業務ができる。また、毎日違う編集エンジニアが対応できるようになり、柔軟な人員配置が可能になった。

AIによる自動化で業務効率をさらに向上

テレビ業界の働き方改革を支援するもう1つの柱は、人工知能(AI)による自動化だ。クラウド上に構築した編集環境とAPI接続することで、「Azure Cognitive Services」が利用可能になる。「Microsoft Azure」上に実装された学習済みのAIモジュールだ。これにより、人手に頼っていた単純作業の自動化や映像分析などが可能になる。

例えば、映像内で出演者が話している内容の文字起こしや、多言語の翻訳などが自動化できる。また、AIによる映像分析を活用すれば、映像に映り込んでいる対象物を特定できる。

これにより、特定の人物や著作物が映っている場面の検索や、特定の言葉が話された場面だけを自動的に抜き出すような編集が可能になる。長尺の映像素材を人の目で確認する必要がなくなり、業務効率が向上する。さらに、AIにより生成されたこれらの情報をメタデータとして映像素材に付加することで、膨大な映像素材の検索性や利活用の可能性が飛躍的に高まり、これまでに蓄積された映像素材の収益化にも貢献する。

「ただし、テレビ業界ではセキュリティへの十分な配慮が必要です」(大友氏)。報道や情報番組などの現場では、極めてセンシティブな情報を扱う。また、テレビ局の従業員だけでなく、関連会社、制作会社、フリーランスなど、外部の人材が協力して仕事をしなければならない。

そうした状況でリモートワークを推進するには、特定のネットワーク内でセキュリティを確保する従来の考え方を捨て、場所を問わずどこからでも個人を正しく認証できる仕組みが必要になる。

これを実現するため、大友氏は「Azure Active Directory」という認証基盤を提案することが多い。マイクロソフトの製品だけでなく、あらゆるクラウドサービス、アプリケーション、自社製の業務用ツールなどを1つのIDとパスワードでセキュアに運用できる仕組みだ。

正規ユーザーがセキュリティ規約に即してアクセスしているかどうかを自動判別し、怪しい場合には多要素認証を要求、不正な場合はアクセスをブロックするなど、セキュリティを適切に管理できる。

「働き方改革やデジタルトランスフォーメーションといっても、何から手をつけて良いかわからないという声をよく聞きます」(大友氏)。メディア業界の働き方改革を支援するため、日本マイクロソフトは2021年2月・3月に2つのセミナーを開催する。

2月26日は「メディア業界における『半内製化』のススメ」だ。最先端のクラウドやツールを、マイクロソフトのサポートを受けながら自分たちで手を動かして活用することで働き方改革を進めているユーザー企業の担当者が登壇し、事例やノウハウを共有する。

3月5日は「メディア業界における働き方改革とは」だ。メディア業界の働き方改革の現状をふまえ、日本マイクロソフトとパートナー企業のソリューションが何を支援できるかを共有する。

「お気軽にご相談ください。商品の提案だけではなく、働き方改革に向けたカルチャーの醸成からテクノロジーの実装まで、しっかり伴走します」(大友氏)。

今年、メディア業界の働き方改革が大きく加速しようとしている。