クラウドへの移行を検討し始めた企業では、様々な懸念や誤解が生まれやすい。また、新たなクラウドサービスが続々と登場する中で、何をどう活用すればよいかわからなくなってしまう企業も少なくない。クラウド活用を成功させる秘訣は、ビジネスの目的に立ち返り、必要な機能やサービスを選択していくことだ。クラウド移行を確実に成功させるためのフレームワークや進め方の勘どころについて、SBテクノロジーとマイクロソフトのキーマンに聞いた。
クラウド活用はビジネス起点で考え、
必要なものを見極めよ
「オンプレミスからクラウドへの移行を検討し始めた企業には、いくつかの共通する懸念や誤解が見られます」(SBテクノロジー 法人公共事業統括 法人第2本部 法人3部の湯下達郎氏)。

法人公共事業統括
法人第2本部
法人3部
湯下 達郎 氏
まず多いのは、セキュリティに関する懸念だ。オンプレミスではネットワーク的な境界が明確だが、クラウドでは必ずしもそうではない。セキュリティに関して漠然とした不安を抱える人が多い。
アーキテクチャーに関する懸念もある。現行システムの構造が古いのだから、クラウドへ移行するには、一から作り直さなければならないのではないか? その労力とコストを考えると、移行へ踏み出せないという企業が少なくない。
また、コストに関する誤解もある。クラウドに移行すれば必ずコストが下がると信じているユーザーが多いが、「オンプレミスと全く同じ考えでクラウドへ移行すると、かえってコストが上がることもあります」(湯下氏)。
こうした懸念や誤解を解決するには、検討の初期段階において、クラウドの概念や構造を正しく理解しておく必要がある。
またクラウドの新たな機能やサービスが急増している中で、何をどう活用すべきかわからなくなってしまう企業も多い。そんなときに重要になるのは「ビジネスの目的に立ち返り、ビジネス起点でITやクラウド活用全般を考え直すことです」(SBテクノロジー 法人公共事業統括 法人第2本部 法人4部の鈴木恭平氏)。かつてSBテクノロジーが支援した、ある大手総合サービス企業はその好例だ。
数千台規模の仮想サーバーをクラウドへ移行、
さらに継続的な最適化でクラウド移行を成功に導く
その総合サービス企業は、膨大なコンテンツやサービスのデジタル化を成功させ、デリバリー効率を引き上げたいと考えていた。しかし「オンプレミスで運用していた現行システムのメンテナンスに労力を取られ過ぎ、IT部門のリソースを本来の業務に集中できない状態でした」(鈴木氏)。新たなデジタルサービスを頻度高く、マーケットインしていく上で、サポート終了製品(EOL)への対応、OSやアプリケーションのバージョンアップ、セキュリティパッチの適用などが大きな負担になっていたという。

法人公共事業統括
法人第2本部
法人4部
鈴木 恭平 氏
同社はIT担当者をシステム管理から解放し、本来の業務であるビジネスやサービスの充実に集中できる環境を取り戻すため、パブリッククラウドへの移行を決意。オンプレミスで稼働していた数千台規模の仮想サーバーを移行する大きなプロジェクトとなった。
これを成功させるため、SBテクノロジーはまず同社のIT担当者と共にクラウドのコンセプトを詳しく理解するためのワークショップから開始。実際にクラウドを触りながら、ガバナンスの方法や導入後の運用などについて周到な検討を重ねた。クラウド活用を成功させるには、まずコンセプトを正しく理解し、多数の機能やサービスの中から本当に必要なものだけを選択していくことが重要になる。SBテクノロジーはこの点を重視して支援した。
全社推奨パブリッククラウドとして、選定を決めたのが Microsoft Azure。2017年1月より環境構築、マニュアル整備、運用の立ち上げなどをスタートさせ、3年で自社データセンターの50%以上をクラウドへ移行させた。固定コストは20%以上の削減に成功。同社が課題としていた「オンプレミスと同等のセキュリティ対策」も、SBテクノロジーの協力によりクリアできたと責任者が述べているという。
これは、ガイドライン作成からクラウドセキュリティのコンセプト設計を考慮し、IPS/IDS等、WAFのサードパーティー製品やSBテクノロジーが提供するマネージドセキュリティサービスを活用することで実現している。
クラウドへの移行を確実に成功へ導く
フレームワーク「CAF」
日本マイクロソフト マーケティング&オペレーションズ部門 Azure ビジネス本部 製品マーケティング&テクノロジ部 プロダクトマネージャーの佐藤壮一氏は「クラウド導入に関する悩みはこの1~2年でかなり増えています」と指摘する。

マーケティング&オペレーションズ部門
Azure ビジネス本部
製品マーケティング&テクノロジ部
プロダクトマネージャー
佐藤 壮一 氏
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは本来、事業領域でソフトウエア活用を活性化し、トライアンドエラーのサイクルの短縮化を図りつつ、ビジネスをデジタルへ変革することを意味する。リモートワークや脱ハンコのような些末な話ではない。そのためには、クラウドネイティブな環境・体制としていく必要がある。そのための様々な方法論に関するフレームワーク化が進んでいる。それが「Case.8」でも紹介した「Azure Cloud Adoption Framework(CAF)」だ。
まずプロジェクトを推進する主体となる人や組織を立ち上げ、戦略を定義する。部分的な議論に終始せず、ビジネス戦略も含めた広い視野で検討し、計画、導入準備、導入へと進む。CAFはこのプロジェクトに必要な一連の方法論をまとめている。
このCAFを土台に、クラウド移行を確実に成功へと導けるパートナーを選定するため、マイクロソフトは「Advanced Specialization」というパートナー認証制度をグローバルに展開している。極めてレベルの高い認証で、申請資格はすでにマイクロソフトのGoldコンピテンシーを獲得しているパートナーのみに限定され、第三者機関による監査に合格して初めて取得できる。SBテクノロジーはこの Advanced Specialization 認証を取得した。2021年3月現在、国内ではまだ5社程度しか取得していない。
マイクロソフトはSBテクノロジーのような Advanced Specialization の認証を取得したパートナーとともに、お客様のクラウド活用サポートする様々なプログラムを提供している。


法人公共事業統括
法人第2本部
法人4部
神野 愛香 氏
SBテクノロジーは、これまで多くのエンタープライズ企業のお客さまに Microsoft Azure サービスをご提供してきた実績とノウハウ、CAF (Cloud Adoption Framework) の知識をもとに、失敗しないクラウド活用のために顧客のフェーズや目的に合わせて必要なプロセスを定義し、サービスを提供している。例えば、クラウド移行のニーズはあるが具体的な価値、コストメリット、プロセスが見えていないために一歩踏み出せていない企業にはワークショップを準備してプロジェクトの具体化をサポートする。実際に自社環境でどう役立つかという検証には、環境の棚卸からアセスメント、またエンタープライズ企業として安定的に安心して利用していくために枢要なガイドライン策定のサポートを行う。このような包括的なサービスを提供するなかで、Advanced Specialization パートナーとしてのマイクロソフトとの協業プログラムにより、マイクロソフトの「令和のサーバー移行キャンペーン」による50万円割引や大規模案件には移行コストやトレーニングのサポートが受けられるプログラムと連携が可能だ。
エンドユーザーがAdvanced Specialization認証パートナーをSI事業者に選べば、高い実績や技術力による確実なサービスを受けられるだけでなく、コスト面でも有利になるわけだ。
「Azure はたくさんサービスがあり、詳しい人ばかりではない。そのためCAFのロードマップに従い、Advanced Specialization 認証に裏付けられた確かな技術とノウハウを提供しつつ、一緒に考え、悩みながらお客様と共に共創することでクラウド活用を成功へと導きます」(SBテクノロジー 法人公共事業統括 法人第2本部 法人4部の神野愛香氏)。
DX投資の形は「終わりのない都市計画」へと変化する
コロナ禍に限らず、ビジネス環境の予期せぬ変化は今後も続くだろう。これからのビジネスにはスピードや柔軟性が必要だと言われるが、土台となるITインフラをしっかりと整備しておかなければ実現は難しいと湯下氏はいう。「実効性の高いIT投資を行うには、オンプレミスかクラウドかといった議論だけでなく、人、組織、プロセス、ガバナンスを含めて総合的に考え、投資すべき場所と内容を検討する必要があります」(湯下氏)。

佐藤氏はこれを建築に例えて話す。「従来のIT投資は、10~15年ごとに新しく建て直す一軒家のようなイメージでした。しかし今後のIT投資は、必要なインフラを長期的に構築していく終わりのない都市計画のような形になります」(佐藤氏)。その旅はどこからでも始められるが、早く動かなければその差は年々大きくなる。5年、10年経ってから急にやろうとしても、容易には追いつけなくなっているだろう。
