MaaS(Mobility as a Service)で持続可能なまちづくりを――。温泉地として知られる長野県千曲市は、LINEアプリで地元のタクシー会社と繋がる「温泉MaaS」の実証実験を行った。多くの人が普段使い慣れているLINEアプリを活用することで、今後モビリティサービスに加え、旅館やレストランなど周辺サービスと連携し、地域の活性化や地域交通の課題解決につなげる。柔軟性や拡張性が求められるサービス連携基盤は、クラウドプラットフォーム Microsoft Azure 上で構築。MicrosoftとLINEによる「地域×MaaS」モデルの全国展開を目指し、SIパートナーと連携した支援体制も整えた。移動手段のシームレスな連携の観点から語られることが多いMaaS。事例を挙げながら、働き方改革、まちづくりなど、社会課題を解決するMaaSの可能性を探る。

「働き方改革×MaaS」でニューノーマル時代に応える
新たな体験こそが定着化のカギ

日本マイクロソフト株式会社
エンタープライズ事業本部
運輸・サービス営業統括本部
MaaS & Smart Infrastructureソリューション本部
専任部長
清水 宏之 氏

日本において、MaaS(Mobility as a Service)はまだ揺籃期にある。MaaSとは、バス、電車、タクシーからライドシェア、シェアサイクルなどあらゆる移動手段を1つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念だ。MaaSが社会に浸透していくためには、人が「移動」する目的に着目することが重要なポイントとなる。ハードウエアではなく、利用者視点でMaaSを捉えると、新たな可能性が見えてくる。

「働き方改革×MaaS」に着目したのがマイクロソフトだ。その理由について、日本マイクロソフト MaaS & Smart Infrastructureソリューション本部 専任部長 清水宏之氏は説明する。「マイクロソフトは、自ら働き方改革に対して先進的に取り組むことで得た知見やノウハウを活かし、Microsoft 365(旧Office 365)やコラボレーションハブ Teams などの提供を通じて企業の働き方改革を支援してきました。コロナ後は、仕事の内容や空き時間に合わせて働く場所を選ぶABW(Activity Based Working)が一般的になると思います。マイクロソフトは、ニューノーマル時代の働き方に応え、生産性のさらなる向上を図るために、移動を効率的に行う手段としてMaaSへの取り組みを始めました」

「働き方改革×MaaS」において、ビジネスパーソンは目的に合わせて様々なサービスを利用する。いちいちアプリを切り替えることなく、1つの入口で必要なサービスを利用できる仕組みが必要になると清水氏は話す。

「例えば、急に時間が空いたときにOutlook予定表を開いて、次の用務先を確認し、予定表から経路検索でルートを選択、その経路上にあるコワーキングスペースを予約して業務を行う。日常業務で使っている Outlook 予定表だけで、モビリティサービスと周辺サービスを利用できる、新たな体験こそが定着化のカギとなります」

「働き方改革×MaaS」におけるサービス連携の仕組みは、クラウド上で構築するのが適していると清水氏は続ける。「ハードウエアの調達・運用の必要がなく、スモールスタートで開始しサービス拡大に応じて拡張も容易です。マイクロソフトはパートナー企業に対し、クラウドプラットフォーム Microsoft Azure 上でサービス連携基盤を構築するためのひな形として、MaaSリファレンスアーキテクチャーの提供を始めています」。

日本マイクロソフト社内にて検証された、「働き方改革×MaaS」取り組み事例

Outlook 予定表を機軸とするサービスのシームレスな連携は、東京地下鉄とMaaS Tech Japan、日本マイクロソフトの3社が共同で進めるビジネスパーソン向けMaaSにおいて取り組んでいる。法人向けではローコード/ノーコードでアプリを開発できる Microsoft Power Platform を利用することにより、社内の交通費生産システムなどとの連携も容易に行える。

MicrosoftとLINEが実現する
MaaSによる持続可能なまちづくり

LINE株式会社
プラットフォーム事業開発室
ビジネスデザインチーム
福田 真氏

MaaSを支える Azure 上のサービス連携基盤は、ビジネスパーソン向けに限らず、観光客や生活者に向けても展開することが可能だ。「地域におけるMaaSを持続可能なかたちにしていくためには、移動手段と周辺サービスを連携させ、コト消費に結び付けていくことが必要です」と清水氏は強調する。「地域×MaaS」で課題となったのが、サービスを利用する入り口を1つにするために「ビジネスパーソンにおける Outlook 予定表のように、生活者が日常使うツールは何か」ということだった。

「パートナーと組むことを考えていたときに、LINEさんから『MaaS領域を一緒に取り組みませんか』とのお話がありました」と清水氏は振り返る。「LINEアプリは月間アクティブユーザー数が8,600万人(2020年9月時点)に達し、いまや生活インフラとして定着しています。LINEアプリを起点に、移動手段はもとより、小売店や病院、美容院など地域の様々なサービスがつながっていくイメージがすぐに浮かびました」

LINEは、なぜMaaS領域に力を入れるのか。その理由についてLINE株式会社 プラットフォーム事業開発室 ビジネスデザインチームの福田真氏は説明する。

「ニューノーマルな時代に求められる新しい顧客体験を実現するためには、LINEが得意とするオンラインのコミュニケーションはもちろんのこと、オフラインの実体験をいかにシームレスに繋ぐかが重要です。そのため、それぞれの体験の節目に発生する『移動』は、新しい顧客体験を提供するために欠かすことのできないピースになると考えています。

一方で、MaaSにより解決が期待される課題は全国各地域によって様々であり、当社だけで一つ一つの課題を解決へと導くのは困難です。そこで、日本マイクロソフト様と当社で、地域に根差した課題解決を進める方々を支援するためのプロジェクトを開始しました。目指すのは、『ユーザーにとって身近で簡単なMaaS』です」。

「MaaS×地域」では、MaaS事業者を支援するのがLINEと日本マイクロソフトの立場だ

LINEは、企業や外部の開発者に向けて、各種サービスとの連携が可能になる様々なAPI(Application Programming Interface)を提供しており、ユースケース、デモなどを紹介するサイト(LINE API Use Case)も公開している。LINE APIを利用することで、配車の予約システムなども簡単に連携することができると福田氏は話す。

「例えば、LINEアプリを通じてユーザーからの配車予約の依頼を受け付け、回答メッセージを返すといった予約フローから、乗車料金の決済までLINEアプリ内で完結することができます」

LINE APIは、初期投資を抑えたい地域企業のMaaS参入に対する障壁をなくすと清水氏は付け加える。「デジタル化の進んでいない地域でサービスをどう連携するか。この難題に対して、LINE APIは突破する手段になると考えています」。

日本マイクロソフトもLINEもMaaS事業を展開するわけではない。あくまでMaaSのサービス基盤を提供する立場だ。MaaS事業者のアプリケーション開発に関しては、SIパートナーとの連携による支援体制を整えている。

日常生活で使っているLINEアプリの活用が
MaaS導入の敷居を低くする

ふろしきや
代表取締役
田村 英彦 氏

2021年2月、長野県千曲市のワーケーション体験会において、LINEアプリを使って地元のタクシーサービスを利用する「温泉MaaS」の実証実験が実施された。ワーケーション体験会を手掛ける「ふろしきや」をまとめ役に、ワーケーション参加企業、地元の市民開発者、日本マイクロソフト、LINEがスタートしたプロジェクトだ。そもそも最高の景色で働くことが醍醐味のワーケーションでは、細やかな移動が不可欠で、移動に対して潜在的な課題があった。LINE APIで簡単に配車アプリを開発し、地元のタクシー会社と利用者を結ぶ配車システムを構築。参加者は普段使っているLINEアプリから温泉MaaSのLINE公式アカウントと友だちになるだけで、配車の依頼、予約後の手配完了・未手配の通知を、LINEのメッセージで受け取ることができる。

ふろしきやが手掛ける千曲市のワーケーションは、アクセスの良さ、美しい自然や温泉街を有する優れたロケーションに加え、“体験”を大切にしている点がユニークだ。ふろしきや 代表取締役 田村英彦氏は「地域との交流を通じて、参加者は地域の課題解決に知恵を貸すとともに、新しい知見を得て本業に活かすことができます」と話し、実証実験につながった2020年11月に開催された千曲市ワーケーション体験会「温泉MaaSアイデアソン」に言及する。「アイデアソンには、ワーケーション参加者、地元の市役所、鉄道会社、タクシー会社、商工会、温泉旅館経営者、小売業経営者、市民など30名が参加しました。共同のファシリテーターとして清水さんにもご参加いただきました」。

「温泉MaaS」の実証実験の成果について清水氏は「参加者の評価は上々でした。ご協力いただいたタクシー会社様も、普段電話で取次を行っている時よりも配車の効率が上がったと仰っていただきました。また私にとっては、需要と供給のバランスを上手くとることも、MaaSの重要な役割のひとつだという気付きを得る機会となりました」と話す。

参加者からは普段使っているLINEアプリでスムーズに利用できると好評を集めた

「こんなに早く実証実験が実現できるとは思っていなかったので非常に驚きました」と福田氏は話し、こう続ける。「田村さんのコーディネート力のもと、タクシー会社様をはじめとする地元のみなさまのご協力による成果を目の当たりにし、いかに地元の方を巻き込んでいくか、その重要性を再認識しました。今後もLINE APIの提供を通じて地域社会の発展を支援し、『地域×MaaS』で様々な社会課題の解決に貢献したいと考えています」。

LINEを活用することで、MaaSを身近に感じることができたと田村氏は話す。「コロナ禍で移動のあり方を見直す動きも出てきています。地域づくりを考える上で、MaaSを切り口として小さなペルソナをつくってサービス化していくアプローチの大切さを、今回の実証実験で学びました。今後、MaaSサービスに関しては移動手段やサービスをつなげ、市民が利用できるインフラに育てていきたいと思います。また、ワーケーション体験会も千曲市を含めた広域で展開していく計画を立てています」。

今回の実証実験でアプリから配車依頼する便利さに気づいたという地元の声もあったと清水氏は話す。「配車アプリやタクシーアプリが普及していない地域でMaaSを立ち上げるためには、まず簡単な仕組みをつくって実際に使ってもらうことで、その便利さを実感していただくことから始めることが大切です。日本マイクロソフトは、地に足のついた取り組みでMaaSの裾野を広げていくために、LINEさんやSIパートナーとともに『地域×MaaS』の全国展開を進めていきます。“MaaSで持続可能なまちづくりを!”、一緒に一歩ずつ進んできましょう」。

MicrosoftとLINEとふろしきや。そこからは無限の「地域×MaaS」の可能性が広がっていく。

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