スマートフォンの専用アプリでクルマのドアを開閉するデジタルキー。国内においても、デジタルキーを活用したカーシェアサービスや無人レンタカーサービスも登場し注目を集める。だが、デジタルキーのポテンシャルは自動車分野にとどまらない。移動とサービスを融合させるMaaSや、スマートシティを支える要素技術の1つとして期待が高まっている。設定時間が過ぎるとその機能を消失する「一時的に使えるカギ」という特性が、モノや場所の共有を促進するからだ。デジタルキーを開発する東海理化、事業を創造するdotD、クラウドサービス Azure を運営するマイクロソフトの3社がデジタルキー領域で協業。社会課題の解決や地域活性化に向け、彼らが取り組むのはデジタルキーを活用したスマートキーソリューションの活用拡大だ。3社のキーパーソンの対談を通し、これまでの足跡、そして今後見据える先を追う。

MaaS・スマートシティを支えるデジタルキー技術

――デジタルキーの開発背景と3社協業に至った経緯、意義についてお聞かせください、

株式会社東海理化
エレクトロニクスセンター
エレクトロニクス技術領域
領域長
加藤 久視 氏

加藤 東海理化は約70年にわたり、自動車メーカーのカギを開発し続けてきました。スマートフォンの専用アプリでカギを開閉するデジタルキーにもいち早く注目し、2004年から開発に取り組んでいます。トヨタ自動車と当社が共同開発したSKB(スマートキーボックス)には、当社のデジタルキー技術が活かされています。トヨタ自動車はSKBを活用したモビリティサービスを日米で展開しており、国内ではカーシェアリングサービス「トヨタシェア」、無人レンタカーサービス「チョクノリ!」がスタートし好評を博しています。

デジタルキーは一時的に利用できるカギで、設定時間が過ぎるとカギの機能が消失します。この特性が、新たなサービスや価値を生み出します。製造業からサービス企業への事業拡大を目指す当社は、MaaSやスマートシティを支える重要な要素技術としてデジタルキー技術を位置づけました。クルマ以外の領域にも積極的に展開する上で、ものづくり一筋の当社はサービス化やソフトウエア開発のノウハウが不足していたため、それらに強みを持つdotDさんと戦略的協業を行い、事業の本格化に取り組んでいます。

株式会社dotD
代表取締役CEO
小野田 久視 氏

小野田 最初は、デジタルキー事業における1つのプロジェクトの支援から始まりました。徐々に支援領域が広がり、今はパートナーとして東海理化さんとデジタルキー事業を一緒に創り上げています。デジタルキーを活用したスマートキーソリューションは、クラウド上にあるデジタルキーの管理や配布を担うシステムと、スマートフォンにインストールするユーザー向けカギ管理アプリ、クルマや建物などに設置するデジタルキー用デバイスにより構成されます。

当社の役割は、ソフトウエア開発はもとよりサービス開発も重要なテーマです。カギの管理やセキュリティ技術、デバイス開発といった、東海理化さんのコアテクノロジーをいかにサービスへ組み上げていくかという取り組みです。また、当社のソフトウエア事業に精通したスタッフがプロジェクトに入り一緒に活動することで、ソフトウエアビジネスのナレッジトランスファーも行っています。

スマートキーソリューションの事業化では、ユースケースを生み出し、エコシステムを形成することが重要です。この2つの観点を重視し、事業の基盤を担うクラウドベンダーにマイクロソフトさんを選択し、協業というかたちをお願いしました。もちろん、クラウドサービス Azure や Microsoft 365 をはじめとする強力なソフトウエア製品群、B to BとB to Cの両方をカバーしている点なども評価のポイントとなりました。

①Microsoft365 の製品群を利用しているユーザーはデジタルキーの利用が可能になる
②サービス事業者様のサービスを利用しているユーザーはデジタルキーの利用が可能になる
③Micrsoft365 の製品群とサービス事業者様のサービスを連携する事でデジタルキー含むサービスのシームレスな利用が可能になる

日本マイクロソフト株式会社
モビリティサービス営業統括本部
インダストリーアドバイザー
清水 宏之 氏

清水 マイクロソフトにとっても、今回の協業への参画には大きな意義があります。当社は様々な産業においてパートナーとのソリューション開発・提供の支援を行っています。デジタルキーを活用したスマートキーソリューションを、いかに産業に組み込むかという方向性は、当社が推進する産業別ソリューションと同じです。

スマートキーソリューションは、活用範囲が非常に広いと考えています。例えば、建築・不動産業界が取り組んでいるスマートビルディングソリューションと、スマートキーソリューションを組み合わせることで、Microsoft 365 と連携した入退室管理や備品管理への適用はもとより、会議室や社用車管理なども含めて社内のあらゆるカギの統合管理を実現できます。本協業への参画により、産業別ソリューションの横断的連携の可能性を感じています。

スマートキーソリューションが実現する
“フレキシブルワークスタイル”

――働き方の多様化に向け、スマートキーソリューションが果たす役割についてお聞かせください。

小野田 コロナ禍でリモートワークが普及し、多様な働き方を多くの人が経験しました。もはやコロナ禍以前の状態に戻ることはできないと思います。コロナ以後は、自宅よりも集中して仕事ができるサテライトオフィスやコワーキングスペース、シェアオフィスなどの利用はもとより、自家用車の中、近隣の駐車場、リゾート地でのワーケーションなど、働き方の多様化がさらに進んでいくと考えています。物理的な場所や設備を安心安全に利用できるスマートキーソリューションの果たす役割はますます重要になります。

清水 私も、小野田さんの「コロナ終息後も働き方の多様化は進む」という考えに同感です。マイクロソフトでは、在宅勤務を行う「自宅」という場所を特別な場所とせず、オフィスと同等の場所と捉え、また自宅だけでなく、コワーキングスペース、駅、リゾート地など、どこででも誰とでも仕事ができる“フレキシブルワークスタイル”を実践しています。

社会的にも徐々にこのスタイルが認知されつつあると思います。また、ボランティア活動や副業を推奨する企業も出てきており、都心部の副業人材による地方創生に期待する、地域ニーズにもマッチしています。

「MaaS×働き方改革」の考え方を踏まえたフレキシブルワークスタイルは、Microsoft 365 とスマートキーソリューションの連携により、企業の管理下でオフィスと同じように、安心・安全なワークスペースをオフィスの外に広げることができる。この点が特に重要です。

加藤 フレキシブルワークスタイルの試みを1つ紹介しましょう。浜松市では、コロナ禍の在宅勤務において、働く場所に困る市民を対象にクルマをオフィスとして活用する「浜松テレワークパーク」の実証実験を実施しています。

これはワンボックスカーに机などを据え付け、仕事しやすい環境を整備したオフィスカーを借りて移動し、指定の駐車場や公園で仕事を行うという内容です。課題となった車両のカギの受け渡しは、デジタルキーの技術を活用することで解決しました。非対面でサービスが利用できるため、感染対策はもとより、利便性と運用管理工数の削減を図れます。ワーケーションにもつながる取り組みですね。

3社協業は大きな展望の始まり
新たな事業を共に創造する第一歩

――今後の展望について、またデジタル変革に取り組む企業や地方自治体に向けたメッセージをお願いします。

加藤 地方自治体などから問い合わせが増えているのが、公共施設へのスマートキーソリューションの活用です。体育館などを市民に貸し出す際、カギを渡すために学校の先生が現場に行かなくても、遠隔から管理することが可能となります。また、宅配やレンタカー、ホテル・民泊をシームレスに連携した、新たな顧客体験を提供する「手ぶら観光」も、コロナ以後に高まる観光のニーズに応えます。

スマートキーソリューションは、企業の予約管理システムなどとのAPI連携や、既存のアプリケーションに組み込むことも容易です。より多くの企業や公共機関にご利用いただくため、2023年度には業界横断の団体Car Connectivity Consortium(CCC)が策定する、次世代グローバル標準仕様に対応したデジタルキーの開発・提供も予定しています。

今後も3社協業を進めるとともに、様々な産業の企業とコラボレーションすることで、地域の活性化や社会課題の解決に貢献していきたいですね。

小野田 ハードウエア、ソフトウエア、クラウドといったそれぞれの強みを持つ3社の協業は、スマートキーソリューションのビジネスにおいて第一段階に過ぎません。このソリューションを通じて、新しいビジネスモデルを創造する企業や、地域の変革に取り組む地方自治体・市民が連携するエコシステムを広げていくことで、新たな価値を社会に提供し続けていきたいと思います。

スマートキーソリューションのプロジェクトにご賛同いただける方々が、もっと増えてほしい。ぜひ、MaaSやスマートシティの実現に向け、新たな事業を一緒に創造していきましょう。

スマートキーソリューションは社会に対し継続的に、新たな価値の提供を目指す。その第一段階が今回の3社協業だ。今後はこれにとどまらずエコシステムの拡大を志向し、ユースケースを積み重ね、社会課題の解決へ新事業を創造する。その先にあるのはMaaS、スマートシティの実現だ(画像はクリックで拡大)

清水 スマートキーソリューションの活用シーンが広がるほどに、個人認証基盤が重要となります。企業内であれば、マイクロソフトのユーザー認証技術 Azure Active Directory と連携することで対応が可能です。今後、様々な事業者によりエコシステムを形成していく中で、1つの認証基盤だけでなくマイナンバーなどとの連携もテーマとなります。また、スマートシティにおける個人認証の手法として注目されているのが、当社も開発している「分散型ID」です。これは例えば、身分証明書を提示する代わりに、その情報を証明する検証済みのデジタルIDを利用し個人認証を行うもの。個人認証の技術革新は、スマートキーソリーションの可能性をも広げるでしょう。

今後目指すエコシステムの拡張を通し、フレキシブルワークスタイルによる生産性向上のみならず、産業や社会の目指す姿の実現に向けて大きく貢献できる。そう確信しています。

※CCC スマートフォンから自動車への接続ソリューション向けの技術開発等を推進する業界横断的な組織。自動車関連企業のほか、スマートフォンメーカー、セキュリティ事業者など2021年2月18日現在、世界で128社が加盟。

TOKAI RIKA Digitalkey

URL:https://digitalkey.jp/

東海理化

URL:http://www.tokai-rika.co.jp/

株式会社dotD

URL:https://dotd-inc.com/