日鉄ソリューションズ
ITインフラソリューション事業本部
デジタルプラットフォーム事業部
デジタルイノベーション推進部長
三橋 利也 氏
従来データサイエンティストでなければ作成できなかった機械学習モデルを、高度な知識を持たない“市民データサイエンティスト”でも作成可能にするDataRobot。以前はAIモデルの自動化機能のみだったが、最近は前提となるデータ準備やモデルのデプロイから管理・監視を行うMLOpsまで適用範囲を拡張し、一貫したサービスを提供できるようになった。
現在のDataRobotはモデル作成のみならず、データ準備からモデル運用まで一貫して行えるプラットフォームとなっている。
日鉄ソリューションズは1990年代から、継続的にAIに取り組んできた。その中で出合ったDataRobotのコンセプトや機能を評価。2016年に日本での代理店第1号となり、既に100社以上の導入を支援してきた。その業種は製造、金融、製薬、通信、エネルギーなど多岐にわたり、導入企業数も国内1位だ。
一方AI活用に取り組む企業は多いが、実運用できている企業はそれほど多くない。ボストン コンサルティングの調査※1によると、日本国内で一部でも業務をAIに置き換えた企業は11%、パイロット運用レベルで28%。両者を合わせても4割に満たない。ではDataRobotを使えばこの数字が飛躍的に改善するのだろうか。三橋氏は「確かに学習モデルは簡単にできますが、すぐに課題を解決することはできません」と語る。その理由として、機械学習の4つの壁を挙げる。「分析可能なデータがない“データの壁”、分析ができる人材がいない“分析の壁”、現場のエキスパートが導入を阻む“KKD(経験・勘・度胸)の壁”、採算が合わない“ROIの壁”です」(三橋氏)
実際に同社の顧客(導入後1年未満を除く)の実績から推計したところ、多くの社員がAIを活用できる、すなわちAIの民主化まで進んでいる企業は5%。実運用ができている企業が20%、パイロット運用が25%、試行錯誤中が45%、活用断念が5%という結果になった。前述の調査に比べるとかなり高いものの、模索中という企業も多い。三橋氏は、「試行錯誤をしている企業は、手を抜くとすぐに離脱しかねません。そうならないよう当社が民主化まで全力でサポートしますが、お客様にも成功させるという覚悟が必要です」と語る。
※1:ボストン コンサルティング グループ(2018年)「企業の人工知能(AI)の導入状況に関する各国調査」
多くのDataRobot導入を支援してきた日鉄ソリューションズは、その分成功例と失敗例も数多く見てきた。「あくまでも実話に基づいたフィクション」と断りながら、三橋氏は失敗例を紹介。例えば故障予測を目指した製造業A社では、故障データが2件しかなかったため学習ができず、実現可能性のあるテーマが見つかるまで中断となった。精度の高い離脱顧客の予測モデルを作り上げたオンラインサービスB社では、既に多様な離脱防止施策を展開しており、予測はできたが打ち手がなく失敗に終わった。さらに流通業C社では、現場の分析者は評価したものの、推進者が不在で停滞した。製造業D社では需要予測モデルを作成したが、営業の予測と大差ないと経営者が失望、計画が頓挫しかけた。推進担当者から、競合情報や販促費などのデータがなく予測には考慮されていない要素もあることを説明。現場には制約への理解を得た上でのモデルの使用を働きかけた。結果、パイロット運用を通じて現場に業務改善効果の実感が生まれ、現在も推進中となっている。「営業は販促費をたくさん使っても目標を達成しようとします。一方AIは客観的に予測するので、精度はあまり変わらなくても業務負荷を大幅に削減できます。経営層の期待値を適正化し、現場に業務改善効果を実感してもらうことが重要です」(三橋氏)
このような経験を踏まえ、日鉄ソリューションズはAI活用成功の要素を、以下の6つにまとめた。
1.ビジョンを明確にした上で素早くサイクルを回す「AI戦略・計画」
2.実現可能性とビジネスインパクトがある「テーマ」
3.自動化による効率化が可能な「優れたAIプラットフォーム」
4.業務理解と数理要素を持ち、覚悟のある「人材」
5.調整力と当事者意識の高い「推進組織」
6.推進部門を孤立させず、中長期でやり切らせる覚悟を持った「経営層のサポート」
この実現に向けて、日鉄ソリューションズはこれまでの経験や顧客ニーズなどから、体系化されたAI活用支援プログラム「DataRobot AIサクセスプラン」を開発。導入前の検討からPoC(概念実証)、導入、パイロット運用、実運用、民主化までの各フェーズに対し、計画策定、テーマ推進、人材育成、システムの4つの分野で様々なプログラムを用意している。
例えば初期段階の課題となる「テーマ創出・選定」については、ニーズとシーズのマッチングや、他社事例などの情報提供、テーマ創出ワークショップ、テーマ定義シートなどを用意。実現可能性が高く、成果につながるテーマの創出をサポートする。また人材育成やトレーニングに関しては、経営層から事業部門、システム担当のそれぞれについて、DataRobotと共に様々な研修を提供。エンジニアに対しては3カ月コースのAIアカデミーがあり、テーマ創出からシステム連携まで学ぶことができる。
これからのAI活用について三橋氏は「様々な要素技術とAIを組み合わせて高度化する方向に向かうでしょう」と語る。その一例として、同社が顧客の要望に応えて作成したDataRobotのアドオンソフト「InverSol※2」を紹介。例えば物性最適化の分野では、目的に適合した原料の配合や条件を探索できる。圧縮強度と曲げ強度など複数最適化することも可能だ。
まずDataRobotで物性予測モデルを作成。探索に当たっては変数と可動範囲を設定するが、動かしたくない変数をロックすることも可能だ。ランダム、グリッドサーチ、ベイズ最適化など複数のロジックが組み込まれており、最適なものを選択できる。稼働させるとパラメーターを生成し、DataRobotに大量の予測を送り付け、DataRobotが結果を返す。結果はグラフで表示され、有望な配合が分かりやすい。分析結果をダウンロードして最良のスコアをはじき出した配合で試作品を作製することで、試作の精度を大幅に高めることが可能。コスト削減やリードタイムの短縮が可能となる。
現在の応用例は物性最適化のみだが、マーケティング最適化など、他分野への応用にも取り組んでいる。
目的にかなった推奨素材や加工法をAIで予測することで、製品化の確率が向上し、コスト削減やリードタイム短縮が期待できる。
最後に三橋氏は「AI活用の成功に向けて、当社が全力でサポートいたしますので、お客様も覚悟を決めて総力戦で立ち向かってください」と締めくくった。
※2:InverSolは、日鉄ソリューションズ株式会社の商標です
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