ITインフラ再構築事例 シチズン時計 グループ共通のインフラをクラウドで構築 安定稼働と運用の効率化を目指す

シチズングループの事業を統括するシチズン時計は、これまで個社ごとに運用されてきたITインフラに横串を通して最適な統合化を図るべく、グループ共通インフラのクラウド化に舵を切った。そこで採用したのが、日鉄ソリューションズ(以下、NSSOL)からの「将来的に全面的なパブリッククラウドの活用を目指し、直近3年は移行性の高いマネージドクラウドも併用する」という提案だ。今後のシチズングループのデジタルトランスフォーメーション(DX)も支えていくことになるこのプロジェクトは、どのように進められていったのか。

グループの全体最適化による効率化を図る

シチズン時計株式会社 情報システム部 部長 山﨑 真一氏
シチズン時計株式会社
情報システム部 部長
山﨑 真一

企業が持続的成長を遂げていくためには、ビジネスを取り巻く環境の急激な変化にキャッチアップしていくアジリティ(俊敏性)と、予測不能な事態にしなやかに対応できるレジリエンス(弾性力、回復力)を備える必要がある。

各種時計の企画・設計、販売を主事業とするシチズン時計が、この変革を目指してITインフラのクラウド化に乗り出したのは2018年のことだ。シチズングループは、時計をはじめ工作機械、電子デバイス、電子機器などの事業を手がけ、中核企業である同社は、時計事業及びグループ各社の経営戦略や技術開発を統括している。2016年度にスタートした前中期経営計画「シチズングローバルプラン2018」で、グループ企業に横串を通して全体最適化を図り、より効率的な企業運営を実現することでグループの総合力を高めていく、という方針が打ち出された。ITインフラのクラウド化もその大きな柱となるものとして着手したのである。

そもそも同社のITインフラはどんな課題を抱えていたのだろうか。シチズン時計の山﨑 真一氏は、「これまではグループ各社がばらばらにITインフラやシステムを導入していました。そのため、個社ごとに運用・サポート体制を整える必要があり、コストや人的リソースといった面でも多くの無駄が生じていました」と話す。

この非効率を解消するために、グループで共通利用できるITインフラについては標準化を進めていくという方針を打ち出したのだ。

もっとも、これまでもITインフラの標準化に向けた取り組みがなかったわけではない。同社がオンプレミスのデータセンターで運用している仮想化基盤からVM(仮想マシン)を切り出してグループ各社に提供しているのだが、まれにトラブルを起こすこともあり、利用はごく一部の業務にとどまっていた。「シチズングループ共通の業務基盤として提供するものである以上、各社に安心して使ってもらえる、より安定性・信頼性の高いITインフラを用意する必要があります」と山﨑氏は強調する。

製造業ならではの課題を理解した解決策

シチズン時計株式会社 情報システム部 グループIT環境課 課長 後藤 義明氏
シチズン時計株式会社
情報システム部 グループIT環境課 課長
後藤 義明

目標とする安定性・信頼性の高いグループ共通のITインフラをいかにして実現するか。そこで目をつけたのがクラウドである。

同社の後藤 義明氏は、「オンプレミスで保有するITインフラはハードウエアの経年劣化に伴うトラブルが避けられず、保守の工数が増大していきます。また、運用管理のプロセスも属人化していく傾向がありました。この課題を解消すべく、クラウド化に舵を切りました」と語る。

とはいえ、オンプレミスで運用している既存のITインフラをいきなりパブリッククラウドに移行するのはリスクが大きい。同社の増田 洋氏は「アプリケーションの中にはオンプレミスの独自環境でなければ動かないもの、IPアドレスの変更を伴うものなど、プログラムの改修やテストに多大なコストと工数がかかるものもあり、慎重な見極めが必要です」と語る。

そうした中、NSSOLから提案されたのが、「将来的に全面的なパブリッククラウドの活用を目指しつつ、既存のITインフラの品質問題からの早期脱却に向けて、直近3年間は移行性の高いマネージドクラウドも併用する」という解決策だ。

「NSSOLは製造業を母体とするITベンダーだけあって、私たちが抱えている課題をすぐに理解してくれました。また、私たちが目指すITインフラに非常に近いイメージの事例を多数提示してくださり、これなら何とかなると判断しました」と山﨑氏は語る。

こうして同社は2020年1月、NSSOLとともにグループ共通ITインフラのクラウド化プロジェクトを推進していくことを決定したのである。

コロナ禍でもリモート環境で計画を推進

プロジェクトの第1ステップとして描いたのは、パブリッククラウドとマネージドクラウド、オンプレミスで運用するITインフラの構成比率を、2022年3月までの約2年間でそれぞれ4:4:2に改めるという移行計画である(図1)。

図1 シチズン時計によるクラウド化の計画

図1 シチズン時計によるクラウド化の計画

2019年3月段階で、オンプレミス100%だった環境を、パブリッククラウドとマネージドクラウドに徐々に移行していく計画。その背景には、大規模広域災害時の事業継続性の確保のために、ディザスタリカバリーを実現したいというニーズもあった

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パブリッククラウドについては基本的にAWS(Amazon Web Services)環境の利用を想定。古いバージョンのOSで動作しているなど、直接的な移行が難しいシステムについては、一時的にNSSOLの「absonne」へ移行して改修やテストを行った後、システム更改のタイミングに合わせてAWS環境への移行を進めていくこととした(図2)。

一方で、マネージドクラウドやオンプレミスに残ったシステムの運用をどうするかという課題もあった。そこで、サーバーの運用管理全般をNSSOLにアウトソーシングすることで、情報システム部の負荷軽減を図るとともにITインフラの安定性・信頼性の向上を目指すことにした。

図2 クラウド移行プロジェクトの全体像

図2 クラウド移行プロジェクトの全体像

パブリッククラウドへの直接移行が難しいシステムは、NSSOLのマネージドクラウド「absonne」に移行。ノンコア業務と呼ばれるシステム運用については、NSSOLの次世代運用サービス「emerald」にアウトソースし、情報システム部の負荷軽減と安定稼働を目指す

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ただ、このプロジェクトを進めている過程では新型コロナウイルス感染症拡大という思わぬ事態も起こり、様々な苦労を重ねてきたのも事実だ。

「緊急事態宣言の発令を受けてプロジェクトメンバーのほぼ全員がリモートワークに移行しました。NSSOLとの打ち合わせもWeb会議となったのですが、いろいろと不慣れな面も多く、現行の運用プロセスに潜在する問題点の洗い出しや再設計には当初の予定よりも長い時間を要しました」と後藤氏は振り返る。そして、「そうした中にあってもNSSOLはしっかりヒアリングを行い、新たなグループ標準となるITインフラの運用手順書やドキュメントを整備してくれました」とNSSOLの貢献を評価する。

グループのIT人材の有効活用を目指す

パブリッククラウドおよびマネージドクラウドへの移行は2020年12月に開始。それから約1カ月を経た2021年1月の時点で、同社のクラウド化比率はパブリッククラウド「0.1」、マネージドクラウド「1.4」、オンプレミス「8.5」まで進んでいる。

シチズン時計株式会社 情報システム部 グループIT環境課 担当課長 増田 洋氏
シチズン時計株式会社
情報システム部 グループIT環境課 担当課長
増田 洋

まだ緒に就いたばかりであるが、早くも様々な成果も表れている。「メールアドレスの変更依頼など、社員からは毎月300件を超える依頼や要望が情報システム部に寄せられています。主に私が対応してきたのですが、マネージドクラウドに移行したシステムについてはNSSOL側に監視から対応まですべて任せられます。おかげで私の業務負荷は大幅に軽減され、ユーザーに対するレスポンスも向上しています」と増田氏は語る。

2020年3月に、予定どおりパブリッククラウド「4」、マネージドクラウド「4」、オンプレミス「2」のクラウド化比率を達成できれば、「コスト削減の明確な効果も表れてくるでしょう」と後藤氏は期待を示す。

もちろんプロジェクトはこれで終わりではない。同社は最終的にクラウド化比率をパブリッククラウド「6」、マネージドクラウド「2」、オンプレミス「2」まで高めていくことを目指しているのだ。「目標を完全に達成するまでには数年を要するかもしれませんが、そのころにはITインフラ運用に関する標準的な業務プロセスはグループ全体にしっかり根付いていると思います。情報システム部からのガバナンスを効かせやすくなり、ITインフラのさらなる安定性・信頼性を向上するとともに、個社ごとに閉じて活動していたIT人材の有効活用を図ることが可能となります」と山﨑氏は語る。

この結果として得られたITインフラのアジリティとマンパワーを生かしつつ、シチズングループ全体のDXを推進していくことが、今後に向けた同社の戦略である。

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