2021年1月、NTTドコモ・ベンチャーズ(以下NDV)による伴走型インキュベーションプログラムが第4期を迎えた。今回採択されたスタートアップは動画解析AIからハンター(狩猟者)のコミュニティまで多彩な顔ぶれだが、いずれもフットワークの軽さで激動の波を乗り越えるポテンシャルを秘めている。

Adapt To The Futureの精神で前進せよ

 2019年から開始したNDVによる伴走型のインキュベーションプログラムは、シード、アーリー期のICT関連スタートアップを対象に、本社併設のワークスペースを半年間無償で提供。経験豊富なメンターによるメンタリングやNDV関連イベントへの登壇など、事業成長を後押しする支援を行なってきた。

 本プログラムで重んじるのは、あくまでもスタートアップの自主性だ。それが伴走型と言われるゆえんである。それゆえ、自分の頭でとことん考え抜き、明確なビジョンを持ってプロダクト/サービスを創造・発展させる貪欲さが求められる。一方で壁に当たったときにはNDVの社員が方向性を示唆しながら前進することができる。創業間もないスタートアップにとっては、ある意味で理想のプログラムと言える。

 2021年1月には第4期となる5社を採択した。前回の第3期は2020年7月とコロナ禍が直撃する中での募集にもかかわらず応募が殺到。採択された4社は物理的なワークスペースを有効活用できない状況でアプリやサービスを磨き上げ、ローンチ。社会が大きく変動する中でも歩みを止めない姿勢を見せた。

 NDV 代表取締役社長の稲川尚之氏は、「世間ではネガティブな事象が大きく取り上げられる中、コロナ禍によって成長した分野もある」と分析する。これまでリアル対面での訪問を是としていた営業スタイルが根本から覆った点も大きい。もとよりスタートアップはZoomやTeamsなどのWeb会議ツールへの障壁はなく、世の中でもオンラインコミュニケーションが一般化してきたからだ。

NDV 代表取締役社長の稲川尚之氏

 「午前中だけで東京、大阪、福岡の3都市の担当者とミーティングができる。時差さえ調整すれば、海外の投資家との会議も可能だ。外出できないことを逆手に取って、時間とコストの節約に努め、逆にコミュニケーションの機会が増大した。予想以上の速さではあったものの、確実にDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだ」(稲川氏)

 こうした流れを受け、2021年のNDVは新たな指針を示した。2021年3月9日に開催する「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2021」では、「Adapt To The Future」をテーマに掲げている。この言葉に込めた意味を、稲川氏は次のように語る。

 「Adapt To The Futureは、変化に適応する能力のこと。2年前の今頃、コロナショックを予測できた人は誰ひとりとしていない。何が襲ってくるかわからない不透明な時代だからこそ、あえて変化を飲み込んで“この時代に求められるもの”にフォーカスし、しっかりと適応してアンテナの感度を高めることが重要になってくる。

 インキュベーションプログラムも第4期となったが、事業内容にかかわらずNDVが担うべきは水先案内人にほかならない。“この会社が伸びるにはどうすればいいか”“どこに突破口があるか”と伴走者になって寄り添うことでスタートアップも疲弊せずに前向きな気持ちになれるし、我々も学ぶところが多い」(稲川氏)

 今回選んだ5社は、「優れたアイディアや技術力を評価した。採択した中にはNTTドコモやNTTグループとの親和性をほとんど考慮しないスタートアップもある。だが、かけ離れている分、どんな化学反応が生まれるのか非常に楽しみにしている」と稲川氏は期待を寄せる。

バラエティに富んだ5社が事業にかける思い

●SpoLive Interactive 代表取締役CEO 岩田裕平氏


 SpoLive Interactiveは2020年10月に設立。「スポーツファンと、アスリートやチームの距離を、デジタルの力で縮める」をビジョンに、スポーツのライブ観戦アプリ「SpoLive」をすでに公開している。もともとNTTコミュニケーションズで提供していたサービスだが、同社で事業に携わっていた岩田氏がスピンアウトして立ち上げた。

 実況や解説をリアルタイムテキストや音声で配信し、ときにはチームや選手から直接コメントが届くなど、通常の映像視聴とは異なった側面から試合を楽しめる。試合で活躍している選手の情報もキャッチアップでき、不明なルールなどがあった場合はチャット画面から質問可能。「スーパー応援」と名付けたギフティング(投げ銭)機能もあり、アプリからデジタル応援グッズでチームを鼓舞するとともに支援ができるなど、社名ならではのインタラクティブ性が特徴だ。

SpoLive Interactive 代表取締役CEO 岩田裕平氏

 以上はファン向けのサービスだが、SpoLiveにはスポーツ関係者をサポートする管理サービスの一面もある。速報や試合に連動するコンテンツを発信し、試合のスタッツを管理できるクラウドサービスを用意した。ファンとチーム双方に目を向けた背景には、岩田氏が現場で感じた課題があった。

 「私たちはSpoLiveのサービスを作り上げる中で、自社のラグビーチームとともにさまざまな価値検証を行なっていた。その中で見えてきたのがチームの情報発信体制が貧弱だということ。チームとファンがつながれるようなコンテンツが提供されないためにファンは不満を感じていた。これらの課題をSpoLiveで解決したいと考えている」(岩田氏)

 その出自からラグビー中継に強く、2021年1月末にはジャパンラグビー トップリーグと試合コンテンツを利用したリモート応援におけるパートナー協定を締結。「NDVのインキュベーションプログラムは伴走型であり、各社のステージに応じて支援してくれる点が魅力。またNTTドコモはスポーツ関連のアセットを多数保持しているので、新しいパートナーと事業面での連携を図りたい」と岩田氏。リモート応援の需要がますます高まる昨今だけに、さらなる躍進が見込まれる。

●I’mbesideyou 代表取締役社長 神谷渉三氏


 2020年6月に設立したI’mbesideyouは、代表取締役社長の神谷氏を含む創業メンバーが全員NTTデータの出身。神谷氏はサラリーマン時代に教育プラットフォームの「Nei-Kid」や、小中高生向け起業家教育プログラム「TimeLeap Academy」に携わり、Nei-Kidは経済産業省の起業家育成プログラム「始動」で優秀賞を受賞している。

 同社が提供するのは、一人ひとりの個性にあわせたオンラインコミュニケーションを実現する動画解析AIサービス。創業メンバーがNTTデータ時代に体得した技術をフル活用する。神谷氏は起業のきっかけを「テストの点数ではなく、子どもたちの個性にあったモノサシで評価してもらえる世界を作りたかった」と話す。

I’mbesideyou 代表取締役社長 神谷渉三氏

 具体的には、オンラインコミュニケーションのデジタルデータから表情、顔の向き、視線、音声などの要素をすべてAIで複合解析して個々人の特徴を割り出す。「オンラインだとリアルと違って反応が読みにくい。このコロナ時代のペインを、テクノロジーの力でゲインにひっくり返す」(神谷氏)。知財管理のプロフェッショナルをパートナーに迎え、2021年1月末時点で35件の国際特許を出願済み。高度なシステムの提供と知財戦略を2本柱とする。

 オンライン家庭教師のバンザンでは本サービスを導入済みで、「オンライン教育のクオリティを向上させるために重要なAI」との評価を得ている。前日の授業データをAIで解析し、生徒とのコミュニケーション方法の改善点を洗い出す。また、良好なコミュニケーションの事例を全体で共有し、教師のモチベーションを高めることにも一役買っている。コロナの影響によって膨大な動画データが集まるようになり、AIが学習を重ねてどんどん賢くなっていることもプラスに働く。

 大手教育事業者との提携も見えてきており、まずは教育分野を足がかりにビジネスを拡大する。その後はオンラインセールス、HR(人事)、ヘルスケアといった領域での動画解析を想定している。「オンライン化が進んだおかげで、データドリブンなコミュニケーションが可能になった。我々はまさにコロナネイティブカンパニー」と神谷氏。時代のニーズを読み、チャンスをつかみ取ったスタートアップの快進撃は続く。

●メンヘラテクノロジー 代表取締役 高桑蘭佳氏


 2018年8月に設立したメンヘラテクノロジー。10〜20代の若い女性向けにチャットで悩み相談を行なう「メンヘラせんぱい」を提供している。代表取締役の高桑氏が数々のメディアに露出していることもあり、少なからず知っている人がいるに違いない。

 メンヘラせんぱいでは、「せんぱい」と呼ばれる相談の受け手役が悩みを聞く。「日常のちょっとしたモヤモヤや、自分の思考を整理したいときにサクッと相談できるサービスがあればいい」との思いから発想した。専門的なカウンセリングでは敷居が高く、公共の悩み電話相談では自分のタイミングで話せるかどうかわからない。ならば友だちや家族などに相談すればいいと考えがちだが、高桑氏は「現状は専門家と身近な存在の両極端の選択肢しかない。メンヘラせんぱいはその中間に位置する、利害関係のない第三者に悩みを聞いてもらうサービス」と話す。

メンヘラテクノロジー 代表取締役 高桑蘭佳氏

 30分300円から利用可能で、現在250人以上のせんぱいが所属する。せんぱいに登録するためにはオンラインによるペーパーテストやストレスチェック、模擬テストをクリアする必要があり、何より「話を聞くのが得意であること」が必須となる。「お気に入りのせんぱいが見つかるとユーザーのリピート率も高い。最近では話を聞くスキルを身に着けたいとの理由で、せんぱいの志願者もたくさんいる」(高桑氏)。

 カジュアルなCtoCモデルで、一見NDVとの接点が見当たらないが、高桑氏によれば企業から「自社従業員の悩み相談サービスとして利用できないか」とのオファーがあるのだという。「実際に大手銀行からコンタクトがあった。NDVのコネクションを活用すれば、従業員向けの福利厚生サービスとして展開できる可能性も出てくる」(高桑氏)。企業から対価を得るマネタイズを確立することでユーザーのコスト負担を軽減し、自社サービスの拡充を図りたいとの狙いもある。

 ボットに頼らない生っぽさがメンヘラせんぱいの武器だが、意図せぬヒューマンエラーや行き違いをなくすために受け答えのサポートシステムを現在構築中だ。高桑氏自身が東京工業大学大学院に在学中のエンジニアだけに、サービスに実装する日も近いだろう。

●Fant 代表取締役 高野沙月氏


 今期のウルトラCとも言えるのがFant。現役ハンターである高野沙月氏が運営するハンター向けのコミュニティプラットフォームで、高野氏は北海道の十勝地方から遠隔でプログラムに参加する。2019年7月に設立した。

 北海道出身の高野氏は進学を機に上京し、そのまま都内で就職したが「たまたま入ったジビエ料理店でジビエを食べて虜になった。それがきっかけで、狩猟免許を取得してハンターになって自分でも狩りをしてみたいと思った」と語る。Uターンして免許を取得後に地元の猟友会に入り、狩りの基本を学んだ。

Fant 代表取締役 高野沙月氏

 実は高野氏のように若い世代のハンターは年々増えている。しかし高野氏は「狩猟業界は高齢者が多く閉鎖的。私はオープンな環境でラッキーだったが、猟友会によっては人間関係の難しさで若い人が挫折してしまうケースが後を絶たない。特殊な世界なので、技術や知識を学ぼうにもツテがなくては始まらない」と課題を指摘する。そうした参入の課題を解決するステップとしてFantを開設した。

 Fantでは、ハンターたちがいつどこで何を狩猟したのかといった情報を写真・位置情報データとともに公開できる。現在全国から300人ほどが登録しており、活発な情報交換をかわしている。いずれは飲食店や食肉卸業者と連携して、「狩猟からジビエ提供までのワンストップのプラットフォームに発展させたい」と高野氏。何しろ専業の猟師がほとんどいない世界である。ジビエの商流が整備されれば安定した収入源にもつながり、ハンターの継続率向上にも貢献できるからだ。

 北海道のピッチコンテストでも注目され始めているFantは、NDVのプログラム参加を機に知名度のアップと狩猟文化の啓蒙を図る。大自然が舞台となるだけに、盤石な通信環境を持つNTTドコモのアドバイスにも期待している。

●doot 代表取締役CEO 岡本大河氏


 2020年11月に設立したdoot(ドット)。高校の同級生たちが起業したスタートアップで、代表の岡本氏は早稲田大学の4年生である。

doot 代表取締役CEO 岡本大河氏

 dootは、オンラインでの中古車売買プラットフォームをベースにカーラッピング広告サービスの普及発展を目的にサービス開発を進めている。岡本氏は「初期のうちは買い手と売り手をつなげることにフォーカスし、既存の中古車売買サービスよりも安い手数料での取引を実現、またカーラッピング広告事業も並行して行なうことで、dootの独自色を出していきたい」と意欲を見せる。

 「カーラッピング広告サービスは、車に広告を貼って普段通りにドライブするだけでお金が稼げるというもの。コロナ禍で収入が減る中でも、僕たちのような若い世代が車を手に入れやすく、維持費もできるだけ軽減できるような仕組みづくりをしていく。リリースは2021年6月の予定。車という資産を最大限活用し、日本の屋外広告、中古車売買業界の常識を変える意気込みで臨む」(岡本氏)

 社会人生活が未経験であることから、人的ネットワークの構築、またNTTドコモのもつ人流データなどのリソースを活用することを目的にインキュベーションプログラムに応募した。「実際にシェアバイクに広告を掲載するようなサービスを行なっていることに加え、多くのリソースを持っているNTTドコモに支援してもらえるのはとてもありがたい」(岡本氏)。ぜひフレッシュな空気を送り込んでほしい。

躍動する次世代コラボ「未来協創Lab」から見える明日 TOPへ戻る

お問い合わせ

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ
E-mail:village-application@nttdocomo-v.com