NTTドコモ・ベンチャーズ(以下NDV)が毎年開催してきた「NTT DOCOMO VENTURES DAY 」。2021年のテーマに掲げた「Adapt To The Future」には、積極的適応の意味を込めた。変化が加速する世の中でNDV、そして協業パートナーが見つめる未来とは何か。関係者の言葉を交えながらレポートする。

2020年は歴史的な転換点

 「Adapt To The Future〜新しい日常、その先へ〜」をテーマに開催された「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2021」。6回目を迎えた2021年は新型コロナの状況を鑑みて初のオンライン開催となった。挨拶に立ったNDV 代表取締役社長の稲川尚之氏は、「ある意味、地理的な束縛にとらわれずたくさんの方々に参加していただけるチャンス」と述べた。

 冒頭、ビデオメッセージを寄せたNTTドコモ代表取締役社長 井伊基之氏は「社会全体が急速にリモート型へと進化。5Gサービスが始まり、デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速して、私たちのライフスタイルやワークスタイルも大きく変化している」と2021年の現状を分析。その上で、今後もNTTドコモはイノベーション創出に挑戦するスタートアップを力強く支援していく方針を示した。

ビデオメッセージを寄せたNTTドコモ代表取締役社長 井伊基之氏

 基調講演で稲川氏は、この1年間で起きた社会や技術の変化について言及。「大きな変化の波が押し寄せているが、受け身ではなく変化に対して自ら能動的に適応できるかどうかが問われている」とし、今回のイベントを通じて歴史的な転換点に立ち向かうヒントを提示したいと語った。

 2020年、NDVでもリモート環境下でのグローバル投資が進んだ。昨年のNTT DOCOMO VENTURES DAY以降の新規出資先11社のうち、海外のスタートアップは5社を数える。この日は、スウェーデンのCrosser Technologies AB、日本のストックマークを新たな出資先として発表。前者は製造業向けデータ活用プラットフォーム、後者は文章解析AIによる意思決定支援サービスだ。稲川氏は、ともにデータ解析によって社会課題やワークスタイルの向上に貢献することをポイントに挙げた。

基調講演に立つNDV 代表取締役社長の稲川尚之氏

 協業も順調に発展し、追加出資を実施した米Otter.aiが提供する英語書き起こしサービス「Otter」をNTTドコモが日本販売することが決定。さらにこの1年間で5社の出資先がマザーズに上場を果たすなど、協業を通じた支援が実を結んだ。また、2019年からスタートしたインキュベーションプログラムでは伴走型でシード/アーリー期のスタートアップをフォローするなど、“自ら育てる”活動を継続している。

 稲川氏は改めて2020年を振り返り、「新型コロナは歴史に残る大きな出来事、つまりパラダイムシフトにほかならない。だが歴史を振り返ると、人類は時代の変化を促す存在としてウイルスに対峙してきた」と説明。天然痘ワクチンを開発したエドワード・ジェンナー医師や胎盤の獲得を例に出しながら「環境の変化に積極的に適応することで、人類は進化してきた」と話す。

 こうした進化と同じく、モバイルネットワークの世界ではおよそ10年周期で世代が交代し、高速通信を実現してきた。

 「4Gが出てきた10年前はそんな高速回線は不要だと言われたが、今やYouTubeの視聴やオンライン会議が当たり前になった。3Gではこれらのライフスタイルを享受できない。これから5Gが普及し、2030年代には6Gが広がる。そしてスタートアップは常にチャレンジして変化を起こす役割を担ってきた。今後も次世代通信インフラを活用しつつスタートアップとともに進化していきたい」(稲川氏)

Adapt To The Futureのコンセプトについて語る稲川氏

 Adapt To The Futureのコンセプトには、「こういう時代だからこそ積極的に変化に適応して行動していかないと何も変わらない」とのメッセージを込めている。稲川氏によれば、セミの幼虫が地中から出てきてサナギの殻を破り、明るい世界へと飛び立つ姿を重ね合わせているという。

 「2021年の世界は思い描いていた未来ではないかもしれない。だが、困難に適応してこそ見つかる何かがある。これまでとは違うエッセンスを加えることで物事の思考、取り組み方は変わる――新型コロナはそのことを浮き彫りにした。あれだけDXに慎重だったのに、一気に浸透し始めたのが良い例だ。オンライン化が進み、今日のイベントのように世界中の人たちにアクセスできるようになった。何かを伝えたい、何かを与えたいと思っている人たちにとっては、非常に行動しやすい時代になったと思う」(稲川氏)


ノウハウではなくノウフー(Know Who)が重要

 「思考と行動の狭間」と題したゲストセッションに登場したのは別所哲也氏。日本を代表する俳優でありながら、ラジオパーソナリティ、コメンテーターと幅広い活躍を見せる才人である。日本初の国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル」を主宰し、株式会社ビジュアルボイスの代表を務め映画界を牽引している。

ゲストセッションに登場した別所哲也氏

 1990年、映画デビューをハリウッドで飾った際には米国流のアプローチを学んだ。「アクター(Actor)とは、演技をする人という以前に行動する人の意味だと教わった。目の前にある物事にためらいなくチャレンジすること、向き合って行動することが俳優としての第一歩なのだと。それから俳優に対する概念ががらりと変わった」(別所氏)。

 もう1つ、「自分が得たものを“誰”とつながって共有すべきか。ノウハウ以上にノウフー(Know Who)が大事であることも学んだ」と話す。ハリウッドでは、自分たちが実現したい映画の内容を語り尽くし、それを実現する人材やテクノロジーがなければ必死になって探して取り込む文化があるとする。

 「レンズもコンピューターもソフトウエアもない。ならば作れる人間を連れてきて作ればいいという発想。その根底にあるのが人のつながり、すなわちノウフーだ。日本人は定められた基準内ではベストパフォーマンスを発揮するが、規格外のことに挑むマインドセットを持っている人は少ない。好きなことを成し遂げるためには、いわゆるゼロイチの精神が必要だと痛感した」(別所氏)

 コロナ禍により、2020年は国際短編映画祭の開催が6月から9月に延期になり、出演予定の舞台もキャンセルになる影響を受けた。「エンターテインメントは不要不急。昨年の夏頃までは、何が社会にとって優先されるのかを自問自答する日が続いた」(別所氏)。だが、オンラインによって世界中のクリエイターたちとつながり、ドイツのプロデューサーと意気投合するなどの副産物も生まれた。

 「世界とつながりたい。その思いがあるから、俳優も映画祭もラジオもやっている。俳優のオーディションも、起業家の出資者に対するプレゼンテーションも自分を売り込む意味では一緒だが、目の前にあるものは何一つムダではないとの気持ちがあれば、たとえ失敗しても自分を信じ続けられる。捨てる神あれば拾う神ありと気持ちを切り替えればいい。自分のやりたいことに突き進めば、いろんな人たちとのつながりがきっと増えてくるだろう」(別所氏)


Adaptを実践する“変化に強い”2社が登壇

 フューチャーセッションには、NDVが出資・協業を行なうスペースマーケット 代表取締役社長 重松大輔氏とRevComm(レブコム)代表取締役 會田武史氏が登壇。元ミクシィ社長を務めたシニフィアン 共同代表の朝倉祐介氏をモデレーターに迎え、「スタートアップ変革最前線」をテーマにディスカッションを行なった。

フューチャーセッションの様子。左から朝倉氏、重松氏、會田氏

 スペースマーケットは2014年に創業。空きスペースを1時間単位で借りることができるスペースシェアリングの先駆者だ。新型コロナの影響について聞かれた重松氏は「初の緊急事態宣言が出された2020年4〜5月は前年同期比で売上が3分の1に減少。それでも3分の1が利用していることに事業可能性を感じた」と振り返った。

 他方、テレワークの普及によるサテライトワークスペース活用が急伸した。「スタートアップは“こういう世の中になってほしい”とのビジョンを掲げて前進するが、コロナ前からテレワーク需要を掘り起こす施策を考えていた。期せずしてテレワークが加速したのはポジティブな側面と言える」(重松氏)。

新たな需要をキャッチアップする重松氏

 RevCommは音声解析AI電話「MiiTel(ミーテル)」によって、電話営業やコールセンターの会話の質を可視化するサービスを提供している。「創業した2017年当時、今後10年で組織の在り方がマネージメントからエンゲージメントに大きく変わるうねりが出てきた。この流れは不可逆なものであり、コロナの影響でさらに早まったと感じている」(會田氏)。

 會田氏はMiiTelを「セルフコーチングツール」と定義する。営業やコールセンター業務をはじめとした顧客対応における自分の行動様式を改めて振り返り、強みを見出し、クセや欠点を修正することで成約率や売上向上を図るのが1つの目的だ。「モノを売るのではなく自分を売れ、相手の立場に立って話を聞け。現場では感覚的で曖昧な営業のアドバイスが多く聞かれるが、それではわからない。MiiTelはそのブラックボックス問題にメスを入れ、話速(話す速度)など定量データを示すことができる」(會田氏)。リモート営業の浸透によってMiiTelの導入も相次ぎ、厳しい経済下にもかかわらずビジネスは堅調だとする。

 ICT事業のスタートアップだけにどちらもテレワークを基本とするが、社員間コミュニケーションを活性化させるためにどんな対策をとっているのか。スペースマーケットではSlackで趣味のチャンネルを作ったり、雑談の時間を作ったりなど、プライベートも含めてコミュニケーションを取るようにした。対するRevCommはHappines・Accountability・Passion・Professionalism・Youthfulnessの頭文字をとった「HAPPY」という自社のバリューを浸透させつつ、毎月1on1ミーティングを実施。現在はボトムアップで社員の声を集めながら、バリューをリビルディングする「カルチャー会」を開いている。

 「會田さんの言うように、会社のカルチャーをみんなで一緒に作っていく姿勢は大切。スペースマーケットでは新卒・経験者を問わずに採用しているが、理想とするのはラグビー日本代表のようにさまざまな経験値を持つ人がミッションやビジョンに共感して集まってくれること。これからの社会の姿を考えても理にかなっている」(重松氏)

 続いて朝倉氏が「新型コロナを人類が克服したとして、どこからどこまでが元の世界に戻るか」と質問。これに対し重松氏は、出張需要は戻らず、最終段階のみリアルで会う“メリハリのある”方式に変わるのではないかと予想した。「事実、ビジネスホテルのスペース登録が増えている。中にはベッドを取り払い、完全にワークスペースに転換するホテルも出てきた。これにより近隣に住む人たちのテレワーク利用が見込めるからだ」(重松氏)。一方では人と会えないフラストレーションが鬱積していることから、コミュニティ単位の集まりや飲み会のニーズはすぐに戻るだろうとも語った。

デジタル化の流れは不可逆だとする會田氏

 會田氏は「(コロナが契機となった)ビジネスにおける効率化の流れは止まらない」と指摘。苦しい状況でクラウドやDXなどのIT投資をできるか否かが今後3〜5年の経営の在り方を左右するのではないかと話した。

 スペースマーケットは現在の1万5000件から5万件、10万件と登録を増やし「自由自在に、服を着替えるような感覚で用途に合わせてスペースを活用してもらいたい」(重松氏)との構想を持っている。RevCommがめざすのは最新テクノロジー活用による日本社会の生産性向上。生産年齢人口の急減が見えている中で、「1人あたりの生産性を上げていくことは必須の課題」(會田氏)だからだ。いずれにせよ、2社とも予期せぬ事態に適応しながら新たなニーズを発掘し、自社ビジネスを推進していることに異論はない。まさに“Adapt To The Future”にふさわしいスタートアップと言えよう。

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