国によるスタートアップ・エコシステム拠点都市の選定を受け、NTTドコモ・ベンチャーズ(以下NDV)も各拠点都市との連携を開始した。地域発の新たなスタートアップの発掘に向け連続開催したオンラインイベント「地域スタートアップピッチ特集」の様子をレポートする。

「つくば」「関西」「札幌・北海道」「広島」発のオンラインイベントを開催

 内閣府は現在、文部科学省や経済産業省と連携し、スタートアップを支援する取り組みの1つである「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」を進めている。2020年7月には、本戦略に係る4つのグローバル拠点都市と4つの推進拠点都市が決定した。内閣府は各省庁と連携して、各都市に対する国の補助事業や海外展開支援、規制緩和などを積極的に実施していく。

 こうした動きを受け、NDVでも日本各地のスタートアップ・エコシステム拠点の形成に寄与する取り組みをスタート。その一環として「つくば」「関西」「札幌・北海道」「広島」の4地域と連携し、各地域発のオンラインイベント「地域スタートアップピッチ特集」を開催した。

 NDVでは取り組みや連携を通じて地域の有望なスタートアップを発掘し、PRなどの支援を通じてスタートアップ・エコシステム拠点の強化を図る。むろん、その地域ならではの新事業やアイデアに対しても注目と期待を寄せている。

 オンラインイベントにはさまざまな可能性がある。何より、「距離の壁」を越えられることが重要なポイントだ。地域のスタートアップにとって一気に全国や世界へと飛び出せるまたとないチャンスであり、NDVにとっても多彩な地域にアクセスできるメリットは大きい。そうした背景からも、今回の取り組みが「新たな交流の場」となることは間違いない。

 今回は、2021年1〜2月に連続開催した「地域スタートアップピッチ特集」にフォーカスし、各地域拠点のサポート体制とともに、スタートアップのピッチ内容をレポートする。

●地域特集 vol.1【つくば発】スタートアップピッチ


 JAXAや産総研、NIMS、筑波大学などが存在し、豊かな自然と最先端技術が共存する茨城県つくば市。「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」の参画メンバーでもあり、「スタートアップ・エコシステム拠点都市」の形成と発展に取り組んでいる。つくば市 政策イノベーション部スタートアップ推進室 主任の永井将大氏は、「つくば市のスタートアップ・エコシステムを理解するためのキーワードは『ディープテック』『アジャイル行政』『社会実装』の3つ」と語った。

つくば市 政策イノベーション部スタートアップ推進室 主任 永井将大氏

 つくば市には官民合わせて約150の研究機関があり、長年にわたって多くの基礎研究を蓄積してきた土壌がある。2018年4月には行政トップが主導して全国の自治体初となるスタートアップ推進室が設置され、ソフトとハードの両面でスタートアップをサポート。また、モビリティロボット実験特区と国際戦略総合特区に選ばれており、10年来の実証実験の経験を持つ。これらの総合的な強みがスタートアップの栄養素となっている。

 ピッチでは、筑波大学の通信衛星開発プロジェクトから派生した宇宙ベンチャーである「ワープスペース」ら5社が登壇した。ワープスペースがめざすのは、世界初となる小型衛星による宇宙空間光通信ネットワークの実現である。2022年には、光通信衛星の初号機を打ち上げる予定だ。

ワープスペース 取締役CEO 常間地悟氏

 同社 取締役CEOの常間地悟氏によれば、ワープスペースの光通信ネットワークでは、低軌道の通信衛星がどこにいても常に高速通信サービスにアクセスでき、周波数の獲得も不要になるという。これを実現できれば、従来では1日1地点1画像だった衛星によるセンシングがリアルタイムに近い頻度で分析できるようになるため、常間地氏は「地球観測のビックデータ化がより加速する」と説明する。これにより、安全保障や気象観測のみならず、金融や海運・海上保険、一次産業などさまざまな産業にも貢献できるとする。

●地域特集 vol.2【関西発】スタートアップピッチ


 関西では、近畿経済産業局が「J-Startup KANSAI」を展開するとともに、大阪市より委託を受けて公益財団法人大阪産業局が運営する「Osaka Innovation Hub」がスタートアップの支援に参画している。

 J-Startup KANSAIは、経済産業省が取り組むスタートアップ支援プログラム「J-Startup」の関西版となる取り組みである。大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアムが内閣府のスタートアップ・エコシステム拠点都市に選ばれたことをきっかけに、京阪神の自治体などが連携し2020年秋に立ち上げた。近畿経済産業局 産業部 創業・経営支援課 課長の黒木啓良氏は「スキームはJ-Startupと同様。関西一円のエコシステムが総力を挙げて支援していく」と話す。

Osaka Innovation Hub 大阪産業局 イノベーション推進部 野崎麻衣氏(左)とJ-Startup KANSAI 近畿経済産業局 産業部 創業・経営支援課 課長 黒木啓良氏(右)

 Osaka Innovation Hubは、2013年に大阪市がグランフロント大阪内に開設したイノベーション創出拠点。大阪産業局 イノベーション推進部 野崎麻衣氏は「イノベーションを起こす人材・企業を呼び込み生み出していく『イノベーション・エコシステム』の構築・循環をミッションとし、起業家や起業をめざしている方を、パートナー団体やVCなどとともにサポートしている」と活動内容を説明した。

 ピッチでは、関西発スタートアップとしてヘルスケア分野に取り組む3社が登壇。その1社である「ライトタッチテクノロジー」は、採血不要の血糖値センサーを開発している。同社が着目したのは、食後に短時間ながら血糖値が急上昇する「血糖値スパイク」。血糖値スパイクが頻繁に起こると脳梗塞などの突然死リスクが高くなるものの、健康診断で空腹時に行なわれる検査では見つけられないとの課題があった。そこでライトタッチテクノロジー 代表取締役 山川考一氏は、「普段から血糖値を計測してもらうために、従来型のような針による採血が不要で、指先を光センサーにかざすだけで測定できる新しい検査機器を開発する」と狙いを語った。

ライトタッチテクノロジー 代表取締役 山川考一氏

 コア技術は中赤外線レーザーを用いた血糖測定技術。すでに本技術を採用した世界初の非侵襲血糖値センサーの開発に成功しており、一定の条件下において、臨床に求められる測定精度を実現した。現在は量産試作器の開発に着手しており、今後は臨床試験や薬機法の申請を経て、2023年の上市をめざしている。ターゲットとしてはまず1型と2型の糖尿病患者にリーチし、その後は糖尿病の予備軍や健常者の未病・予防に役立つデバイスとして拡大する。

●地域特集 vol.3【札幌・北海道発】スタートアップピッチ


 札幌・北海道では、札幌市、さっぽろ産業振興財団、D2Garageが事務局を務める「STARTUP CITY SAPPORO」がスタートアップの支援事業に取り組んでいる。2019年9月の「STARTUP CITY宣言」に基づいてスタートしたプロジェクトで、札幌市 経済観光局 産業振興部 IT・イノベーション課 スタートアップ推進担当係長 阿部正明氏は「情報発信や相談窓口、学生向けのアントレプレナー教育、道内企業とのスタートアップによるオープンイノベーションの推進などが目的」と説明した。

札幌市 経済観光局 産業振興部 IT・イノベーション課 スタートアップ推進担当係長 阿部正明氏

 これに加え、2020年には経済産業省のJ-Startup北海道版として「J-Startup HOKKAIDO」が始動。グローバルな活躍をめざす地域発のスタートアップを22社選定し、公的機関と民間企業が連携して集中支援することで「札幌・北海道発のグローバルな企業を創出」(阿部氏)していく考えだ。

 ピッチでは、2021年1月からのNDV伴走型インキュベーションプログラムにも採択されたハンター向け情報共有サービスの「Fant」ら5社が登壇。中でも北海道ならではのサービスとして印象的だったのが「VETELL」だ。VETELLは代表取締役で獣医師でもある池田哲平氏の経験をもとに、農家と獣医師が牛の健康情報を共有できる電子カルテシステムを開発している。池田氏は「獣医学、畜産学、農業経営学を統合するまったく新しい畜産デジタルインフラを整備することが事業目標」とアピールした。

VETELL 代表取締役・獣医師 池田哲平氏

 具体的には農家の管理記録と獣医師の診療記録を同じプラットフォームで統合し、「エサの摂取量」「治療データ」「収支管理」の3つのデータを共有できるシステム。関係者が同じデータを把握することで、「農家は効果的な経営判断や専門家への相談によって収益向上につながり、獣医師は正確な診断や効果的な治療、予防提案が遠隔からでも可能になる」とし、最終的にはすべての畜産・酪農関係者がプラットフォームを通じてつながることを目標とする。

●地域特集 vol.4【広島発】スタートアップピッチ


 広島県には、イノベーション・エコシステムの形成を目指す施設として「イノベーション・ハブ・ひろしまCamps」がある。「新たなつながりやイノベーションを生み出す好循環の創出」が目的で、施設内にはワークショップやセミナーエリア、マルシェエリアなどがある。イノベーション・ハブ・ひろしまCamps コーディネーター 竹内佑太氏によれば、Campsのネーミングは一般的な“キャンプ”をイメージしているとのこと。「さまざまな人が短期間で集い、交流しながら新しい気づきやイノベーションを起こす」(竹内氏)ことがコンセプトだ。

イノベーション・ハブ・ひろしまCamps コーディネーター 竹内佑太氏

 活動内容としては、「会員に対する事業相談」「ベンチャー企業の成長を支援するCAP(Camps Acceleration Program)」「会員相互の交流を深めるMeet Up Camps」「オンラインの勉強会・交流会」「会員が特定の興味でつながる部活動」「定期的に開催されるイベント」などが挙げられる。竹内氏は「Campsに来れば誰かと出会えるのが特徴」と語った。

 広島のピッチでは、プライベート防災倉庫を提供する「スクエアメーター」ら3社が登壇した。スクエアメーター 代表取締役の益本秀則氏は、数々の災害経験を経て個人による防災倉庫の重要性を痛感し、狭小地対応型の収納庫「オサマール」を開発。すでに駐車場の空きスペースに設置済で好評を博しているという。今後は宅配ボックスやEV充電器などの用途を拡大するほか、地元のクリーニング店やスーパーなどと提携し、収納庫を起点とした物流拠点の「オサマールIoT構想(プライベートロジスティックス)」を計画している。

スクエアメーター 代表取締役 益本秀則氏

 オンラインの活用によって、全国のあらゆる場所からスタートアップがチャンスをつかめるようになりつつある昨今。NDVは「未知なる世界を創る挑戦者の良き伴走者“Fast Follower”として、より革新的な未来を創造していく」という基本方針を掲げており、スタートアップ・エコシステム拠点の形成についても「Fast Followerとして盛り上げていく」考えだ。そして従来からの取り組みとともに、今回のような“オンラインだからこそのメリット”を活かしたインキュベーション活動を推進していく。

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