AIを活用した従業員向け統合管理システムを提供するLegion Technologies, Inc.(以下Legion)。2020年9月にNTTドコモ・ベンチャーズ(以下NDV)が出資を行ない、本格的な日本展開を予定している。先行して実施したドコモショップ丸の内店でのPoC(概念実証)から見えてきた可能性を、本人たちの言葉を交えながら紹介する。

最適な人員配置が必須の時代

 米国カリフォルニア州のスタートアップ、Legionはワークフォースマネージメントシステムと呼ばれる人員配置の最適化プラットフォームを提供する。ワークフォースマネージメントシステムが登場した背景には、多様な働き方の浸透がある。フレックスタイムや時短勤務など勤務体系の違い、正社員・契約社員・アルバイト・副業といった勤務形態の混在など“働き方のカタチ”が複雑化してきたためだ。近年では単発のスポットで働くギグワーカーの台頭や、新型コロナウイルス感染拡大の影響によるリモートワークの普及、出社人数制限などが重なったことも要因に挙げられる。

同社 CEO and FounderのSanish Mondkar氏はかつてSAPのワークフォースマネージメントシステムの開発リーダーを務めた人物であり、これからの時代に求められる“適切な従業員管理”を実現すべく2016年にLegionを創業した。米国では小売、飲食、日用品チェーンなどを中心に導入が進み、コロナ禍の状況下において契約数が伸びている。急激な成長を支えるのは導入しやすいシステムだ。LegionのサービスはSaaS型のマルチテナント/マイクロサービスで構成され、各顧客企業の既存システムにプラグインとして追加可能。大企業では独自の勤務管理システムを運用しているケースが多いが、そうした環境でも導入が容易になる。Mondkar氏は「世界15カ国で約3万拠点と45万人以上の従業員をサポートしています」と語る。

Legionのサービス利用イメージ

 2020年9月、NDVはLegionに出資を行なった。NDV シリコンバレー支店の飯野友里恵氏は着目した理由を「米国では日本よりフレキシブルな働き方が数歩先に進んでいます。日本でも徐々に柔軟な働き方が浸透してきており、Legionのようなソリューションへのニーズが高まってくると考えました」と話す。

 出資前にはNDVの主導により、東京・有楽町の「ドコモショップ丸の内店」でPoC(概念実証)を実施。確実な手応えを得て、今後は日本での本格展開を予定している。現場で抱えていた課題は何か、その課題がLegionによってどのように解決したのか――。PoCに携わったドコモショップ丸の内店 店長 濱本康司氏、同 副店長 湯田武尊氏、そして飯野氏の3人に、Legionがもたらした効果と未来の可能性について聞いた。

シフト作成時間が7時間から1時間に、余剰リソースを創造的作業へ

――ワークフォースマネージメントシステムは日本ではまだ聞き慣れない概念です。まずはLegionの内容と活用イメージについて教えていただけますか。

飯野氏 さまざまな勤務体系や勤務形態が増えた結果、最適な人員数を調整する勤務シフトの作成に非常に多くの工数がかかることが世界共通の課題となっています。LegionのソリューションはAIの活用によって適切な人員配置を自動で作成してこれらの課題を解決します。

 顧客のニーズに沿って細かく勤務ルールを設定できるのが特徴です。通常勤務、時短勤務、フレックス勤務、新人とベテランの組み合わせといったルールベースの設定に加え、過去の来店者数や販売・稼働実績などに基づくデータ、さらに天候、周囲の混雑状況などの外部データを学習させます。そこから精度の高い将来の人員配置予測を割り出すのです。

 サービスはSaaSで提供され、管理者向けのWebダッシュボードと従業員向けのスマホアプリの2種類を用意しています。作成したシフトは従業員がタイムラインで閲覧可能で、ドラッグアンドドロップで簡単に人員を入れ替えたり、勤務時間を調整したりできます。シンプルなUI(ユーザーインタフェース)のため、誰でもすぐに使える点も好評です。現状、これらの煩雑な工程はExcelで作業していることがほとんどですが、Legionの利用により調整に関わる工数を大幅に削減できます。

NDV シリコンバレー支店 マネージャー 飯野友里恵氏

                                                                                                            

――今回、ドコモショップ丸の内店でPoCを実施したのはなぜですか。

飯野氏 丸の内店はドコモショップの中でも大型であり、1日100人を超える来客がある旗艦店と位置づけられています。そのため、現場の人員配置やシフト対応の効率化に悩まれていたので、Legionの日本進出のテストケースとしてふさわしいのではないかとのことでお願いしました。

――従来のシフト作成はどのようなフローだったのでしょうか。

湯田氏 PoCを実施した当時は、副店長である私が対応していました。勤務体系や休暇などの個人の事情を鑑みながら作成するのですが、その作業はまるでパズルを組み合わせるような難易度の高さです。どうしても上手く行かない場合は、特定の人に事前交渉しながらシフトを組み上げることも多々ありました。1日1~2時間で月に平均して7時間は費やしていました。

ドコモショップ丸の内店 副店長 湯田武尊氏

濱本氏 個人の負担はもちろんのこと、シフト作成が属人化したブラックホールになっていたことも問題でした。湯田自身、自らが身につけた“匠の技”を言語化できず、ほかのスタッフへの引き継ぎに苦労していたのです。一方、店長の立場としてはまず第一に最良の体制でお客様に対応したいとの思いがあります。その意味でも、業務効率化と最適な人員配置を実現できるLegionのPoCは渡りに船でした。

――どのような手順でPoCを進めたのですか。

飯野氏 Legionに過去1年半分の来店者向け発券機のデータを学習させました。これは「何月何日の何時何分に何人がどんな目的で来店したか」を蓄積した貴重なデータです。これを基本として、役職、スタッフのスキル、連勤のルール、勤務時間、希望休など詳細なデータを考慮して自動作成を行ないました。

濱本氏 連勤は3日まで、なるべく2連休を確保するなど、我々が提示するルールをすべて入れていただきました。

――PoCの効果は?

湯田氏 試しに作成していただいたシフトを見て驚きました。1時間程度の修正で済むだろうとの目安が立ったからです。実は以前、別のツールでシフトの自動作成にチャレンジして失敗した経験があり当初は心配していたのですが、今回は杞憂に終わりました。もし本格導入した暁には、もっと効率化が図れる手応えを感じています。

濱本氏 ドコモショップでは窓口での通常の手続きと並行して、故障対応などのアフターサポートやドコモスマホ教室、初期設定サポートなどの専任スタッフが必要な業務が数多くあります。それらスタッフを何人配置するかをシミュレーションしながら作成するのですが、今回はAIがきちんと考えて体制を組み、スタッフの希望を最大限反映してくれた安心感がありました。ES(従業員満足度)も向上したと思います。

 これまでも来客や新商品の動向は意識していましたが、シフト作成者の定性的な経験値に依存している状態でした。しかし自動化にあたってAIに読み込ませるデータを定量化する必要があるため、精度が高まったと思います。さらにシフトの要件を具体化・可視化していく過程は、自分たちの業務を棚卸するよい機会になりました。

ドコモショップ丸の内店 店長 濱本康司氏

――空いた時間をほかの業務に振り分けられる効果もあるのでは。

濱本氏 そのとおりです。シフト作成者の稼働削減分を生産的な業務に振り分けることができる効果はもちろんのこと、それに加えて最適な人員配置は、今まで以上に多くのお客様を受け入れられることを意味します。コロナの影響でオンライン化が進んだこともあり、リアルチャネルのあり方が改めて問われている中、我々も新しい施策に取り組もうとしています。そのためにも既存業務にかける時間をスリム化して稼働時間を確保しなくてはなりません。Legionの効果によって、そこに対する期待値も高まりました。

飯野氏 学習を重ねることで、誰と誰の組み合わせが最も高パフォーマンスなのかをAIが見つけてくれることもありました。もともとLegionの根本には、自動化によって生まれた余剰リソースを創造性の高い業務に充当して、事業最大化に役立てたいという思想があります。つまりシフト作成ではなく、売上を伸ばすためにどのように人材を組み合わせるかがゴール。PoCでは、ドコモショップの皆様とそうしたビジョンを共有できたことも大きな成果でした。

――とても実りのあるPoCだったようですね。NDVでは今後、どのように日本市場を開拓していくつもりですか。

確かな手応えを感じたPoCは、Legionの日本進出にとって有意義な足がかりとなった

飯野氏 すでにLegionでは日本人のスタッフを雇用して、日本語化に向けて動いています。NDVでもNTTドコモの法人窓口に協力を仰ぎながら、2020年度の下期いっぱいをかけて興味を持っていただける企業をくまなく調査しました。他業界で需要が高いのは、複雑なルールやスキームのもとに顧客対応を行なうコンタクトセンター。それから日々の荷量に応じて人員配置数が異なる倉庫業務などです。最終的にはAIと人が協力し合いながら、事業を成長させるための付加価値を生み出すことが理想です。

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