現実と仮想がシームレスに融合するXRが本格的なサービスとして花開こうとしている。背景にあるのはデバイスをはじめ関連する各テクノロジー、そして5Gに代表される通信ネットワークの進化だ。XRによって切り開かれる未来の風景は一体どんなものなのか。NTTドコモ、NTTドコモ・ベンチャーズ(以下NDV)の関係者がその可能性を語り合った。

技術の発展により、XRコンテンツが身近なものに

 VR(Virtual Reality、仮想現実)、AR(Augmented Reality、拡張現実)、MR(Mixed Reality、複合現実)。XRとは、現実と仮想が融合するこれら先端技術の総称を指す。かつてはゲームを中心としたエンターテインメントでの活用シーンが主だったが、ここ数年の急激な技術の発展に伴い、今後はBtoBを含むさまざまな領域での活用が期待されている。

 2021年1月、NTTドコモは東京・お台場のテレコムセンタービル内にXR専用の撮影スタジオ「docomo XR Studio(以下、XRスタジオ)」を開設した。撮影した画像からリアリティのある3D空間を再構成する「Volumetric Video(以下、ボリュメトリックビデオ)」の撮影装置を備え、次代の3Dコンテンツ制作をサポートする。

docomo XR Studio。中央に被写体が立ち、行なった動作の様子をあらゆる角度から撮影してボリュメトリックビデオを作成する

ボリュメトリックビデオは360度から被写体を撮影することで、その人物を容易に3D空間上に投影することが可能になる3Dスキャン技術。左が撮影風景、右がデジタルヒューマンとして取り込まれたイメージ。XR空間にリアリティを与えることに大きく貢献し、すでにミュージックビデオやゲームなどで活用されている

 NTTドコモではVRやARの取り組みを2010年代半ばから行なってきた。そうした取り組みの目的には、XRの社会実装がある。そうした中、NDVでは2021年5月にXR関連の米国発スタートアップ、Arcturus Studios Holdings, Inc.(以下、Arcturus社)、Avatour Technologies, Inc.(以下、Avatour社)に出資。NTTドコモの5Gを利用したソリューションの創出や、NTTグループのアセットと組み合わせた新規ビジネスの開拓に向けて取り組みを強化している。

 今回のインタビューでは、XRスタジオに関わるNTTドコモ 移動機開発部 第一アプリ開発担当 担当課長の的場直人氏、NDV シリコンバレー支店 井上正裕氏(Arcturus担当)、同 飯野友里恵氏(Avatour担当)を迎え、“XRが変えていく未来”をテーマに鼎談を実施した。的場氏は、2015年からVRの事業化やXRの技術開発に努めてきたNTTドコモにおけるXRのキーパーソンである。なお、取材はXRスタジオを構えるオフィスにて行なった。

左からNDVの飯野氏、NTTドコモの的場氏、NDVの井上氏

ボリュメトリックビデオと360度映像配信のインパクトは大きい

――的場さんは長くXRの最前線を見てこられたわけですが、この5年間の変化について教えてください。

的場氏 まずはデバイスの進化があります。こと撮影に関して言えば、5年前は機材も多くセットアップに半日ほどかけていたものが、今ではスタンドアローンで手軽にセッティングできるようになりました。

 もう1つは通信環境の進化です。NTTドコモでも2020年に商用5Gがスタートして、日々エリアが広がっています。XR関連のコンテンツはデータが大容量のため、従来はローカルで閉じていることが多かったのですが、ようやくネットワークを介して配信できるようになりつつあります。やはり、5Gに対する期待感は大きいです。

NTTドコモでXR畑を耕し続ける的場氏。2010年代半ばからの技術的な変遷を現場で体感してきた

――ボリュメトリックビデオが撮影できるXRスタジオを開設したのも、まさに技術進化の証明だと思います。目新しい概念ですが、技術的にはどのようなものなのでしょうか。

的場氏 数十台のカメラを用いて360度から人物を撮影し、被写体の動きも含めてリアルな3Dモデルを高精度に生成する技術です。デジタルの中に被写体を取り込んでいくイメージで、あらゆる視点から高精細な3DCG映像を閲覧できます。世界中で導入が進んでいて、映画やコンサートなどのエンターテインメント、スポーツ、CMなどで“新しい映像体験”の手段として注目を浴びています。

 3Dオブジェクトを取り込む技法として最近ではクロマキーが不要な技術なども登場し、XRスタジオではそうした技術の1つを採用しています。このように、最近さまざまなキャプチャ方法が出現してきています。そこでArctrus社のソリューションが有効になってきます。

――なるほど。Arcturus社はボリュメトリックビデオ向けのソリューションと聞きました。その内容を説明していただけますか。

井上氏 ボリュメトリックビデオはまだ新しい概念のため、撮影技術を持つハードメーカーにそれぞれ独自仕様があり、記録形式や再生方式が統一されていません。Arcturus社の「HoloSuite」はこうした課題を解決する、ボリュメトリックビデオを汎用的に編集・配信できる統合プラットフォームになります。

Arctrus社のソリューションが求められる背景には、ボリュメトリックビデオのコンテンツフォーマットや視聴デバイスの複雑化がある

 HoloSuiteは編集機能の「HoloEdit」、配信機能の「HoloStream」から構成されています。各仕様を取りまとめる編集機能もさることながら、膨大なデータ量をさまざまなデバイスへ一定品質を保ち配信までワンストップで提供できることで、ボリュメトリックビデオをぐっと身近なものにした技術と言えるでしょう。

Arcturus社のHoloSuiteはボリュメトリックビデオの普及に貢献すると語る井上氏

的場氏 我々も大いに期待しています。HoloSuiteの技術的な面白さは、ストリーミング配信ができる点。しかも視聴者のデバイスや通信環境に最適化した形で自動調整して配信するので、ボタンを押したらすぐに視聴できるのが魅力です。これまでは短時間の視聴しかできませんでしたが、安定した通信状況であれば持続的にストリーミング形式での視聴を楽しむことができます。

――事業面におけるNTTドコモとの協業は何を想定していますか。

井上氏 現在、NTTドコモとArcturus社で配信技術を開発しているところです。その基盤をしっかりと構築した上で、例えばファッション向けのEC(電子商取引)にXRを導入して購入したい服のイメージを強く持ってもらうことで購入の促進や返品率を下げることに活用したり、スポーツの新たな視聴体験につなげたりできないかと検討しています。NTTドコモやNTTグループの持つ幅広い領域とマッチングを図りながら新しいビジネスを生み出していきたいですね。

――もう1つのAvatour社はどのようなソリューションですか。

飯野氏 市販の360度カメラで撮影した映像を立体化し、スマートフォンなどの通信機器を介してリアルタイム配信する技術です。同社のソフト上で遠隔地からでも360度空間映像を閲覧・確認できるサービスで、スマートフォンやPCに加え、VRヘッドセットでも視聴可能です。

飯野氏は、「遠隔地から360度空間映像を確認できるソリューションはBtoBで威力を発揮する」と話す

 360度空間映像は、たとえるならGoogleストリートビューに近いものですが、動きを伴った映像をリアルタイム配信できるため、実際にその場所にいるかのような臨場感のある体験ができます。市販のカメラを活用するため、導入しやすいのも強みです。

 用途としてはまず建設現場や工場など、立体的な情報を必要とする遠隔地からの確認を想定しています。新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の影響で現地に足を運んでの目視が難しい状況にある中、リアリティのある自由視点映像へのニーズが非常に高まっているからです。もう1つ、観光体験も有力なコンテンツです。例えばツアーガイドが歩きながら観光スポットを解説すれば、一緒に移動している感覚で現地の様子を楽しめます。

Avatourの活用イメージ。2021年6月11日にはNTTビズリンクが国内販売を開始した

――まさに今の時代のニーズを反映したXRと言えます。

飯野氏 そうですね。これからさまざまな用途での活用を検討予定です。

的場氏 例えば、鉄道線路や建物の検査に使いたいとのオファーを受けています。4Kの高精細な映像でも平面では空間認識が不足するので、俯瞰できる360度映像が有用と言われています。検査は豊富な経験を持つベテラン社員が担当するのですが、貴重な人材が現場に行かずとも遠隔から確認できるようになれば、業務効率化に加えコスト削減をも同時に実現できるのではと考えています。このようにAvatour社のソリューションは、BtoBではマネタイズしやすいビジネスモデルなのです。

伸びしろは大きい、XRが描く未来とは?

――XRの分野はエンターテインメントが牽引してきた印象が強かったのですが、改めて見ると幅広い領域への応用が実現しそうですね。

的場氏 それは間違いありません。ただし、ここ数年事業化に携わってきた立場から言えば、まだまだ伸びしろはあると思っています。明確な課題やニーズがあり、そのためにXRを活用したいという事例はさほどないのが現状です。ただ、これらもテクノロジーの進化が解決してくれるはずです。デバイスの価格は一桁も下がりましたし、5Gも着々と整備されていますから。

XRスタジオで撮影したブレイクダンサーのボリュメトリックビデオ。動きに合わせて洋服が衣擦れする様子もきちんと追いかける。非常に高精細で立体感がある

井上氏 COVID-19の影響により、世界各地でXRを活用した教育の研究が盛んに行なわれています。日本でもSTEAM教育(文系・理系の垣根を超え、科学的な思考でアプローチする教育)の重要性が叫ばれていますが、オンライン授業で実験ができないときにリアリティのある立体的なXRは非常に効果があると教育関係者が注目し始めたのです。これは小中学校だけではなく、例えば大学医学部の解剖シミュレーションや、実業高校での機械の組み立てシミュレーションなどにも有効です。

飯野氏 VRヘッドセットを装着する行為はハードルが高いままですが、CGの特性を活かし、現実では不可能な体験が可能になれば、より多くの人に夢を与えられるようになるのではないでしょうか。江戸時代の街並みや、訪れることが難しい世界の秘境でリアルな自分の分身が動き回れたら、とてもワクワクすると思います。

アイドルのボリュメトリックビデオをVRヘッドセットで体験。右手に持ったモーションセンサーを動かすと、映像内でアイドルと握手ができる仕組み

 私は大学生の頃にモーションキャプチャーでダンスの撮影をしていました。当時は撮影したものを空間に入れるために相当の作業がかかったものでした。あれから10年が経過してボリュメトリックビデオや360度空間映像がいとも簡単に活用が現実になったことを踏まえると、私が挙げたような体験も夢物語ではないと思います。

的場氏 確かに8Kですら現実的になってきましたから、5年先、10年先は想像を超えた世界が待ち構えているはずです。ただ、事業的な観点で言えばコンテンツドリブンからの意識変革を望んでいます。アイドルにしろVTuberにしろアーティストにしろ、今は「どうしても観たい、体験したい」という人たちが市場を支えています。しかし、それでは限りがある。今回のようにBtoBからブレイクスルーが起きて万人が使えるような技術や仕様に落とし込んでいくことが重要です。そこまで行けば、さらなる一般市場への拡大や社会実装に弾みがつくと考えています。

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