NTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)が出資した国産の法人向けクラウドストレージ「ファイルフォース」が、NTT東日本による中小企業向けテレワーク支援サービスの要素技術として採用された。NTT東日本のような基幹インフラ企業がサービスのコア部分にベンチャーの技術を採用することは極めて珍しいケースだ。本サービスがもたらすインパクトと可能性について、関係者に話を聞いた。

ローカルの使い勝手を維持しながら強固な閉域網でテレワークをサポート

 新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の影響によって多くの人びとがテレワークを余儀なくされ、オンラインツールが日常生活に欠かせない手段となった現在。遠隔から社内のファイルにアクセス可能なクラウドストレージは必須のアイテムになりつつある。NDVが2019年10月に出資したファイルフォースは国産の法人向けクラウドストレージを提供するベンチャー。まさにwithコロナに最適なサービスである。

 特徴は「日本のファイル活用」に特化した点にある。クラウドストレージは外資系ITサービスがリードしており、ユーザー体験(UX)やユーザーインタフェース(UI)がどうしても海外基準になりがちだ。だがファイルフォースはWindows PCにドライブとしてマウントすることにより、ローカルストレージや既存の共有フォルダ同様にデスクトップ感覚で利用可能。クラウドとローカルの境界線をなくし、従来どおりの操作性でクラウドサービスのメリットを享受できる。

 NTT東日本では「コワークストレージ」の要素技術にファイルフォースを採用し、2021年4月から中小企業向けのテレワーク支援サービスとして提供を開始した。背景には、社内に設置したNAS(ネットワーク対応HDD)やファイルサーバーと同等の利用環境を継続したいとの中小企業の切実な思いがある。加えて、昨今取り沙汰されているZIPファイルとパスワード別送問題の「PPAP」(※)対策としても非常に有効なサービスとなる。

※PPAP:Password付きZIPファイルを送った後でPasswordを送り、An号化(暗号化)したつもりになるProtocol(プロトコル)とその運用に関する造語

 シームレスなファイル共有のみが利点ではない。コワークストレージではNTT東日本の回線認証機能(※)を実装し、閉域網によって自宅や職場など複数拠点からのセキュアなアクセスを実現する(本機能は2021年8月下旬以降提供を予定)。小規模のスタートプラン(100GB/5ID)は月額2750円、従業員30名程度のアドバンストプラン(3TB/30ID)は月額2万3100円と低コストで導入・運用でき、なかなかテレワークに踏み出せなかった中小企業にとって“DX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩”となる可能性を秘めている。

※NTT東日本・NTT西日本が提供する「フレッツ光」及び光コラボレーション事業者がNTT東日本・NTT西日本より提供を受けた光アクセスサービスに限る

NTT東日本によるコワークストレージのサービスイメージ

コワークストレージはこちら

 偶然にもwithコロナとタイミングが合ったが、冒頭に記したようにNDVではCOVID-19以前からファイルフォースの実力を高く評価していた。出資した当初からNTTグループとの協業を視野に入れており、最良の形でコラボレーションが実った形だ。コワークストレージは、日本の中小企業における“ニューノーマルの働き方”にどんなインパクトを与えるのか。NTT東日本、ファイルフォース、NDVの関係者に話を聞いた。鼎談出席者は以下のメンバー。

・NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門 クラウドサービス担当 担当課長 石塚 淳氏
・ファイルフォース 代表取締役 アラム サルキシャン氏
・NTTドコモ・ベンチャーズ 田口知宏氏

鼎談の参加者。左からNDVの田口氏、NTT東日本の石塚氏、ファイルフォースのアラム氏


日本には日本ならではの情報管理がある

――NDVが出資に至った経緯は。

田口氏 日本の中小企業におけるクラウド化のきっかけとして最適だと思ったからです。ご存知のとおり中小企業の現場は、大企業以上に慢性的なIT人材不足に悩んでいます。一方で従来のレガシーシステムが老朽化し、それらシステムの保守や維持に大きな労力とコストがかかる課題があります。

 その課題を解決する1つの手段がクラウドですが、中小企業は依然としてクラウドに対して不安を感じており、多くが導入に踏み切れていません。しかし、ファイルフォースは日本企業のニーズに合致したサービスです。クラウドストレージは海外のサービスが注目されがちですが、社内ファイルサーバーの構成を変更できない、ユーザー権限を柔軟に設定できないなどの制約があります。ファイルフォースにはこれらの制約がなく、非常に自由度が高い。社内でローカルPCを利用しているのと同じ操作性をそのままオンラインで再現できるのが特徴です。

 そこでレガシーシステムのクラウド化の潮流に、ファイルフォースのサービスがマッチングすると考えました。なぜならオンプレミスのファイルサーバーは従業員が日常的に利用するレガシーシステムの1つだからです。導入しやすく使いやすいサービスでまずは使う側の意識の転換が進めば、クラウドへの移行も加速します。ペースが遅いとは言え徐々にクラウドへの移行も進んでおり、中小企業の間でも「クラウドは便利なもの」と意識が変わってきたこともタイミングとして最適だったと思います。その点が出資の決め手となりました。

――出資は2019年10月です。その後のCOVID-19で企業の考え方も変わったと思いますがいかがでしょうか。

田口氏 さらにクラウドの重要性が増したことは間違いありません。場所を問わず、自宅やシェアオフィスなどで働くことを求められるようになりましたから。そのためにはクラウドサービスにアクセスして社内ファイルをやり取りすることが必須条件になってきます。今のような状況こそ、ファイルフォースの出番だと言えます。

「コワークストレージを機にDXを推進してほしい」と話す田口氏

――それがコワークストレージというサービスに結実したわけですね。NTT東日本がファイルフォースとパートナーシップを組もうと思った理由は。

石塚氏 我々は市場調査の結果から、中小企業でクラウド普及が進まない2つの大きな課題を把握しました。1つがITリテラシーの問題、もう1つがクラウドそのものに対する不安感です。まずITリテラシーに関しては、ゼロ情シス、ひとり情シスが常態化し、総務部門と兼任する担当者も少なくありません。

 不安感は主にセキュリティに起因します。今でも重要なデータをCD-ROMに焼いてバイク便で発送する行為は中小企業の現場で行なわれております。USBメモリを鍵付きの箱に入れて取引先に届けるといった方法も聞いたことがありますが、それほどまでに大事な社内のデータを外部に保管してもいいのか、そして海外事業者に預けてもいいのかとの懸念があるわけです。

NTT東日本によるクラウドストレージの課題感に関する調査結果

 このことからも、いかにクラウドと意識させずにローカルと同じように利用できるかが鍵を握ることを実感しました。ファイルフォースはPC上でドライブをマウントして、デスクトップのローカルフォルダであるかのようなUXを可能にしています。まさにクラウド/オンプレミスを意識せずに利用できる、我々のビジョンに適合するサービスだったことから採用に至りました。これにより、ITリテラシーの課題はすぐに解決できます。

――クラウドストレージの快適な操作性に加え、閉域網を活用したセキュリティ機能は中小企業のテレワークを推し進める仕組みだと思います。

石塚氏 おっしゃるとおりです。コワークストレージではインターネットの脅威にさらされることなく、回線認証によって閉域網でセキュアにデータアクセスができる機能を備えます。これぞNTT東日本の強みであり、安心安全に活用できるクラウドサービスだと自負しています。

石塚氏は「8割を占める非構造データを有効的に活用することが企業の競争力向上につながる」と語る

――では、アラムさんに伺います。海外のサービスが乱立する中で、あえて国産のクラウドストレージで勝負しようと思ったのはなぜですか。

アラム氏 確かに日本でも海外のクラウドストレージが普及していますが、それらはUSBメモリをクラウド化する発想から生まれました。もともと日本とは別の世界で進化してきたものです。すなわち、海外の基準でアップデートしてきたサービスをそのまま日本に適用していることになる。我々はそこに大きな違和感を感じてサービスを立ち上げました。

 日本のデータ管理方法、アクセス権限、データ所有権は中央集権的です。情報システム部門の担当者が適切に管理し、企業のものである共通のデータにすべての従業員が適切な権限のもとでアクセスする考え方になります。対して海外は個人主義が強く、むしろ個人のデータを幅広く共有することでイノベーションが生まれるという考え方です。もちろん、そのアプローチを否定はしませんが、情報システム部門から利用状況が見えづらく日本ではその方法はあまり受け入れられないのも事実。これらの違いがクラウド化が進まなかった理由だと分析しています。

 ですが、今のままではオンプレミスのシステム運用や保守に多大なリソースが割かれ、ひとり情シスが振り回されてしまうことは目に見えています。情シス担当者がファイルサーバーのお守りをしなくてはならず、障害発生時には急な呼び出しもあるとの話を実際に聞いたことがあります。解決策としてクラウドを導入しても、今までとUXが違うと今度は社内からブーイングが出て責められることもあるそうです。

 そのためファイルフォースでは、“これまでと同じUX”を製品コンセプトとして開発を続けてきました。サービス名が企業名であることからもわかるように、日本企業にとって最も使いやすい次世代のファイルサーバーとなるクラウドストレージをめざし、全社を挙げてこのサービスに取り組んできたのです。

――大企業以上に専門家が足りない中小企業だからこそ、どこでも働けることのコストメリットは大きいはずです。

アラム氏 ターゲットが中小企業なので、ほかのクラウドサービスと比較すれば断然安い自信はあります。NASを購入して自社構築・運用すればもっと安く済むとの声もありますが、そこにかかる担当者の時間、データ漏えいや消失のリスクといった無形のコストを金額換算すれば圧倒的にファイルフォースのほうが低コストです。

アラム氏には「ITツールを使うのにムダな時間を費やしてほしくない」との思いがある

田口氏 使い勝手をそのままに、新しい機能を付加できるのもSaaSならではの魅力です。ユーザーの声を拾い上げ、必要で便利な機能をスピーディに追加して改善を繰り返しています。結果は解約率に現れていて、一般的なSaaSよりも遥かに低い割合です。その意味でもきちんと日本市場のニーズにフィットしたサービスであることを物語っています。

――これまでに体験したことのないUXを提供することがITスタートアップの正義といった風潮もありますが、斬新なUXの追求だけが正解ではないことがよくわかりました。コワークストレージの活用によって、今後の中小企業の働き方が明らかに変わってきそうです。

アラム氏 DXが盛んに叫ばれる中で、IT人材の重要性はさらに高まっています。中小企業がその波に乗るためには、4つのステップがあると考えています。1つ目はオンプレミスからの脱却、2つ目は新しい働き方を受け入れること、3つ目はコラボレーションの効率化とデジタル化、そして4つ目でようやくビジネスプロセスのDXが見えてきます。

 ファイルフォースはオンプレミスにとどまっている企業を最終ステップに到達するまでしっかりと支援していきたい。ファイルサーバーを利用、管理、維持・保守するルーチンワークをSaaSに任せることで、貴重なリソースをクリエイティブな業務にあて、事業を発展させる原動力に振り分けてほしい。そのためにも、日本の中小企業の働き方のニーズをよく知るNTT東日本の認証技術と企業のファイル管理・共有のニーズに詳しいファイルフォースのUI、アプリケーションをひとつのサービスとして提供できることは、日本の中小企業のDX推進の大きな一歩として貢献ができるのではないかと考えています。

石塚氏 NTT東日本は、「中小企業の働き方を変えていきたい」とのアプローチからコワークストレージのサービス開発・提供に努めてきました。ファイルストレージの基盤を、クラウドなのにオンプレミスの操作性で使えたら世の中を変えることにつながります。

 コワークには“協働”の意味を込めています。クラウド上で皆が一緒になって仕事をするスタイルが当たり前になり、ほかのSaaSとの連携を深めてさらに利便性を高めるロードマップを想定しています。

田口氏 将来的には、ファイルアクセスの状況から従業員の働き方を可視化するサービスなどが生まれると面白いと話しています。高パフォーマンスの従業員がどのようなファイル活用をしているのかが見えてくれば、生産性のチェックができるかもしれません。社内の知見が国外に出てしまうリスクがなく、NTTグループでデータ分析した結果を還元できる可能性もあります。こうしたスキームも、国内サービスならではの良質な循環です。

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