子どもがいる女性のスキル・教育支援オンラインサービスを展開するTimersにNTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)が出資した。背景には、ダイバーシティの浸透がより良い世の中を築くとの信念がある。協業の第一弾となったドコモgaccoが提供する「gacco」との取り組みを、関係者に聞いた。

“学びの融合”で女性活躍社会を後押し

 ダイバーシティの浸透により、男女共同参画社会が改めてクローズアップされている。だが、依然として出産や育児に伴う女性にかかる負担は大きい。内閣府男女共同参画局の調査によれば、2010〜2014年の5年間で第1子出産を機に離職する女性の割合は46.9%と高い状況にある。

 また、第一生命経済研究所の調査では、2017年に出産に伴って退職した人は約20万人と推定され、経済全体の付加価値損失は1兆1741億円にも上ると見込まれる。すなわち、働く女性たちが労働市場を離れてしまうことは日本経済にも大きな打撃を与えることになる。人口減少による深刻な労働力不足が叫ばれる中で、こうした社会のひずみは喫緊に解決すべき課題の1つと言える。

※調査結果参照
上記資料の1ページ、7ページ

 課題解決の一助となるべく、ITベンチャーのTimersではさまざまなサービスを提供する。2012年に創業した同社は“家族”という普遍的な価値観をベースに、ライフデザインブランド「Famm(ファム)」を展開。子育て家族向けの写真・動画共有サービス、金融教育サービス、出張撮影サービスなど、子育て世代の悩みを総合的に支援し、現在、約130万人の会員を誇る。

Timersが展開する「Famm」の概要

 中でも好評なのが「Fammママ専用スクール」だ。育休中のスキル習得やキャリアチェンジ、在宅ワークを始めたい子どもがいる女性に向けたオンラインによるWeb・ITスキル養成スクールで、1カ月の短期集中型で完結する。無料のシッターサービスが付帯しているので、安心して学びに集中できる。2019年3月の提供開始から卒業生は2000人を突破し、今ではオンラインでの体験提供を行なうことで全国各地から受講生が集うまで拡大した。

 しかも卒業後には、スキルを活かした仕事の受注までをサポート。そのほか、卒業生専用コミュニティ参加におけるネットワークづくりや、専門家による無料キャリアカウンセリングなどを設け、「学びがキャリアアップや在宅ワークに直結する」ビジネスモデルを確立した。中には育児のすき間時間を活用し、安定して月に在宅で10万円以上を稼ぐママも輩出し、新しい働き方を後押ししているという。

 以前からNTTドコモグループは多様な人材・働き方を企業の強みに変えていくダイバーシティ・マネージメントを推進しており、「女性活躍」に注力してきた経緯がある。このアプローチとTimersの取り組みの親和性が高いことから、NDVでは2021年7月にTimersへの出資を行なった。

 協業の第一弾として橋渡ししたのが、ドコモgaccoである。NTTドコモグループで教育事業を展開する同社では、MOOC(Massive Open Online Courses、大規模公開オンライン講座)サービスの「gacco(ガッコ)」を無料で提供し、日本最大の85万人を超える会員が利用している。近年は法人向けのeラーニング研修・スキルアップ講座も手がける。

 Timersとドコモgaccoに共通するのは“学び”にほかならない。子どもがいる女性向けと幅広い世代向けというそれぞれの特性を融合し、今後、両社が持つユーザー基盤、コンテンツを活用したオンラインセミナーの提供、学習コンテンツ拡充などをめざす。

 今回はTimers、ドコモgaccoに加え、出資に関わったNDVのメンバーを迎えて「女性活躍社会を見据えた次世代のビジネス協創」について語り合った。インタビューの出席者は以下のメンバー。

・Timers 代表取締役 田和晃一郎氏
・ドコモgacco 執行役員CLO ビジネスプロデュース事業部 部長 南圭氏
・NTTドコモ・ベンチャーズ マネージング ディレクター 高階匡史氏
・NTTドコモ・ベンチャーズ マネージャー 新井春香氏

インタビューの参加者。左からドコモgaccoの南氏、Timersの田和氏、NDVの新井氏、NDVの高階氏


女性がいろんなことを「あきらめている」現実を覆したい

――まずはNDVがTimersに出資しようと思った動機を教えてください。

高階氏 もともとTimersとは2013年に弊社のインキュベーションプログラムに参加いただいた頃からお付き合いがありました。その後Timersはビジネスモデルを転換し、ターゲットに寄り添う事業を展開してきました。その“寄り添う力”と組むことで、NTTドコモグループと実りある協業ができるのではないかと仮説を立てたのが出発点です。

田和氏 TimersはFammというブランドを通じて、家族の絆を深めようとしています。一口に家族と言ってもさまざまな切り口があり、お客様の声を深掘って聞いていくと、家族という枠の中で女性がいろんなことを「あきらめている」現実がありました。

 平成時代は女性の社会進出や活躍が進んだ30年間でしたが、それは出産という一大ライフイベントの前までに限られたものです。その後の女性の働き方・生き方については、社会デザインがまだまだ十分に追いついていません。育児とキャリアのバランスを取りながら、子どもに時間もお金もどちらもしっかりかけたいのに、継続的な就業や柔軟性ある働き方の道が閉ざされ、出産前に描いていた理想のライフデザインを断念せざるを得ない問題が出てきました。

 Fammママ専用スクールは、そうした壁を乗り越えて生き方や働き方の選択肢を増やすためのソリューションです。現在はWebサービスや動画クリエイターのスキル、Excelの中級以上のスキルなど、ITスキルを短期集中で学べる講座内容としています。ベビーシッターを派遣して自宅でオンライン受講できるスタイルが好評で、コロナ禍で広がったテレワークの時流ともマッチしました。

 Timersには「収入補償のある男性育休制度」「卵子凍結サービス利用補助」「両親誕生日お祝い補助」など、家族やプライベートの充実を大切にする福利厚生システムがある。2021年版アジア地域における「働きがいのある会社ランキング」では、中小企業部門のベストカンパニーにもランクインした

――ドコモgaccoと組もうと思ったきっかけは。

田和氏 今や人生100年時代と言われ、いずれ70歳まで働くことも普通になるでしょう。一方で出産の適齢期は30歳前後で変わらないため、その先の人生は70年近くもあります。そう考えると、出産する年齢というのはまだまだキャリアのスタートに近いんです。Fammママ専用スクールは短期間で実用的なスキルを身につけて柔軟性のある働き方を支援するものですが、長期的な視点で考えた場合、継続的に学んで、教養やWebやITの枠を超えた広い知識を得たほうが人生のプラスになります。Timersでは教養を中心としたコンテンツを保持していないため、ドコモgaccoと組むことで我々のお客様に対して幅広く質の高い学びの機会を提供したいと思ったのです。

南氏 ドコモgaccoのビジョンは「教養の民主化」です。民主化とは誰もが学びにリーチできることを意味し、MOOCサービスのgaccoは大学レベルの講義を数多く配信しています。田和さんがおっしゃったように、人生100年時代においては性別に関係なく定年後に数十年の人生が待っています。そこで学びをアップデートしないと人生を豊かに過ごすことは困難です。会社員時代の教養やスキルだけでは不足する世の中に変化してきたからです。

人生100年時代を豊かに過ごすためには、誰もが気軽に学べる「教養の民主化」が大切だと説く南氏

 昨夏にgaccoユーザーにインタビューしたところ、育休中の女性ユーザーは復帰しても浦島太郎状態になってしまうことを恐れていました。教養はすぐに仕事に役立つものではないかもしれませんが、新規事業を考えるヒントになったり、新たな気づきを与えるスパイスになったりするのも事実です。

 gaccoでは東京大学、京都大学、東北大学、早稲田大学、立命館大学などのアカデミアや、グーグルをはじめとする企業の協力を得て人文科学や社会科学から、AIやデジタルマーケティング、金融リテラシーに至るまで多種多様な講座を用意しています。このようにトレンドの話題もあるため、社会復帰に貢献できるはずです。

――なるほど。2つが組むことでパワーアップしそうですね。

高階氏 非常に相性が良いのは確かです。Timersは子育て中の女性がどのようなペインを抱え、それをどのように解決するかがテーマ。ドコモgaccoはすべての世代に幅広く届けられるのが特長です。お互いの持つ“深さと広さ”が融合して良好な形で発展することを期待しています。

仕掛け人の高階氏はスタートアップ支援の経験が豊富なベテランキャピタリスト


地方の活性化にもつながる可能性

――新井さんはFammママ専用スクールの体験講座を受講されたそうですが、いかがでしたか。

新井氏 子育て中の女性の共感を呼ぶコンテンツを提供していて、悩みや思いの共有などオンライン上においても受講者同士のコミュニケーションが活発に行われている姿が印象的でした。講師の方も地方都市に住みながら、子育ての合間に自宅でバナーやWebサイトを制作されていて、「もしかしたら自分にもできるかもしれない」と思わせる親近感がありました。

 今後、ますます労働人口が減少し、高齢化、予期せぬ災害やパンデミックが襲う時代にあっては、なおさら自分が働けるタイミングで望んだ働き方ができる社会が重要になってきます。私にも、パートナーの転勤に伴って会社をやめざるを得なかった友人がいますが、誰も知り合いがいない土地ではつながりが薄れて孤独になりがちです。Fammママ専用スクールはスキル習得だけでなくコミュニティづくりを実現し、全国各地にいる働く機会に恵まれていない女性たちを掘り起こすサービスだと思います。

働く女性の目線からTimersのサービスの“寄り添う姿勢”を実感したと話す新井氏

――2021年7月26日には、連携のキックオフイベントとして「女性・ママのキャリア形成において今から大切にするべきこと」をオンライン共催。360人ほどが集まり大盛況となりました。

南氏 イベントの参加者のうち約半数がgaccoユーザーでした。共催は初めてでしたが、いかにgaccoユーザーが女性のキャリア形成に興味・関心を抱いているかの裏付けにもなりました。Timersのようなパートナーと組むことで学びの間口を広げておくことは我々にとっても非常に意義のあることだと感じましたね。

田和氏 新井さんが話されたように、パートナーの転勤に備えてスキルの幅を広げておきたい女性はたくさんいます。赴任先が地方都市だとしたら、都市部で就いていたような仕事はなかなか見つけられず、ましてや子育てをしながらだとその方のキャリアプランから少し外れた一時的な地元のパート職に限られてしまうことも少なくありません。

共催イベントに登壇したノヴィータ代表取締役社長の三好怜子氏。仕事と家庭の両立について、自らの体験談をもとに丁寧に説明した。チャット欄には全国の参加者からの書き込みが後を絶たなかった

 ですがITスキルを身につけて在宅ワークができるようになれば、都市部の仕事に地方都市にいながら関わっていける可能性が出てきます。北海道の愛別町から受講した卒業生は、Fammママ専用スクールで学んだスキルを活かして実際にWebデザイン関連の仕事に挑戦しています。地方で育児をしていてもWeb・ITスキルを活かした仕事が受けられる結果、地元にきちんと子育て世代が根付き、都心部のお金も地方に流れ、地方の経済活動が持続することにもつながるのです。

南氏 Timersが素晴らしいのは就業支援まで提供しているところ。ドコモgaccoでも学んだ結果をどのようにアウトプットするかを検討しています。ただし、教養を学んだ成果を仕事に結びつけるための定量化は非常に難しい。米国では学びの修了証を職務経歴書に反映する文化がありますが、将来的には日本でも企業の採用基準に組み込めるような社会システムが求められるのではないでしょうか。

――改めて、NDVが感じる協業の可能性とは。

新井氏 私自身も含め、出産や転勤によって自分が望むキャリアを断念せざるを得ない状況をもどかしいと感じる方も多いと思います。しかし、コロナ禍でテレワークが普及したこともあり、場所や時間に縛られない柔軟な働き方が社会的にも認知されるようになってきました。わずか2年前はオフィスで働くことやリアルの教室に通うことが主流でしたが、今はFammママ専用スクールやgaccoを活用して、自宅にいながらオンラインで学び、習得したスキルや教養を活かして在宅ワークをするといった選択肢はごく当たり前になっています。こうした社会背景と「学ぶきっかけ」を与えてくれるパートナー同士の相乗効果によって、これまでうまく行かなかった人材の有効活用が進むと考えています。

高階氏 gaccoが与えるのは信頼のある学びのプラットフォーム。Timersが与えるのは細やかな寄り添うサービス。今後、Timersがgaccoを活用して生まれるノウハウをフィードバックし、お互いに高め合うことができると信じています。さらにその先には、NTTドコモという大きなプラットフォームがある。両社の取り組みがどのように社会を変えていけるのか、その点はしっかりと見ていきたいと思います。

今後の社会のあり方を含め、テーマは多岐にわたった

――では最後に、今後の展望をお願いします。

田和氏 女性の進出によって社会が変化してきた一方、日本経済は疲弊したままで年収もアップしません。未だに大黒柱の男性が一馬力で800万円を稼ぐことがある種のモデルケースのように語られることがありますが、そこに至る人たちは一握りに過ぎない。これからは男性、女性がそれぞれ半分ずつ稼いで育児や家事を平等にこなす社会があるべき姿だと捉えています。すでに若い世代は、そうした考え方が普通になりつつあります。

 両社に共通しているのは「なりたい自分」をサポートしている点。職場復帰するにせよ、在宅ワークを始めるにせよ、学んだスキルは“武器”になります。出産、転勤、育児などのライフイベントでキャリアを断絶されることなく、継続して学んでスキルアップを重ねることで満足の行くライフデザインが実現できる――そんな社会が当たり前になるようにしたいですね。

南氏 学びは生涯にわたってアップデートし続けるものなので、終わりはありません。今は30〜50代が主力ユーザーですが、Z世代などの若い世代やシニアのユーザーにも受け入れられるコンテンツも視野に入れています。世代や性別を問わず学びたい人にフィットするコンテンツを増やし、提供していくことがgaccoの役割と考えています。

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