提供:SAS Institute Japan

旭化成事例に見る「製造業のDX」

“次代の価値創造”のキーとなるのは「人」「デジタル(データ)」「組織・風土」

日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボの調査では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を積極的に推進している企業が12.8%、少しは推進している企業が34.8%で、合計47.6%が何らかの形でDXを推進していると回答している。この機運は新型コロナウイルス禍により、さらに高まっている。しかしその一方で、まだ取り組みをスタートできていない企業が多いのも事実だ。ここではすでにDXを積極的に推進している旭化成の実例をもとに、同社生産技術本部デジタルイノベーションセンターの原田典明氏とSAS Institute Japan アカウントマネージャーの山下顕人氏が「ニューノーマルを見据えた製造業のDX戦略とは」をテーマに意見を交わした。

(モデレーター:日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原富夫氏)

2018年から4段階のステージで
DXを推進する旭化成

 2022年に創業100周年を迎える旭化成は、マテリアル、住宅、ヘルスケアという3つの領域で事業を展開している。マテリアル領域の主力製品は主に素材で樹脂や繊維、商品では「サランラップ」がある。住宅領域では「ヘーベルハウス」ブランドで住宅事業を展開し、ヘルスケア領域では医薬品やAED、ウィルスフィルターなどを提供している。

 旭化成の強みは多様性と変革力である。一方で、課題としては熟練・労働力不足、グローバル展開やデータ共有などの遅れが挙げられる。これらの課題を解消して、今後さらに多様性と変革力を強化するためには、スピード感をもってDXを推進することが必要だという。

写真:原田 典明 氏

旭化成
生産技術本部
デジタルイノベーションセンター

原田 典明

まずはデジタルイノベーションセンターの設立背景についてお聞かせください。

原田 2020年の労働人口は7400万人ですが、2050年には5200万人になると予測されています。3分の2に減った人材で、いかに工場を運営していくかが背景にあります。また海外では、オペレーターが定着しないという課題があります。そこで熟練オペレーターという属人化を、デジタルにより解消することも必要でした。

言うは易しですが、実際に遂行するのは大変だったと思います。どのように進められたのでしょうか。

原田 そもそもの組織発足についてはトップダウンの意思決定が効きました。組織を立ち上げたいという要望から半年後には組織が立ち上がっていました。これは弊社の中ではかなり異例です。ただ必要なスキルを持つ社員が少なかったので、当初は30名程度で立ち上げ、ほかの部署から異動してもらったり、社外から採用したりして組織を活性化させていきました。生産系の組織ということで、データサイエンティストやAI技術者だけでなく、セキュリティを含めたネットワーク技術、機械工学、化学工学、あるいはプラントエンジニアなど、多種多様なスキルを持ったメンバーが集まりました。

写真:山下 顕人氏

SAS Institute Japan
アカウントマネージャー

山下 顕人

山下 ほかの部署からの異動もあったとのことですが、当該部署にはどのように理解してもらったのでしょうか。

原田 リソースは限られているので、どの部署に重点を置くかはやはりトップダウンが効いています。現在は50名強が所属していますが、生産技術本部にいたメンバーが約半分、他部署からの異動が4分の1、社外からの採用が4分の1という構成比です。

山下 メンバーには何を期待しているのでしょうか。

原田 メンバーには自分で手が動かせるかどうかを期待しています。自分で手を動かした経験は、いろいろな場面で生きてきます。外部に依頼する事も可能ですが、DXに関しては社内メンバーで推進するというこだわりを持っています。

事業部長をDXリーダーとして育成している背景をうかがえますか。

原田 事業に関しては事業部のリーダーが一番良く理解しています。ただ、事業部のリーダーは事務系の人が多いこともあり、デジタルの知識はあまり持っていません。そこで、ワークショップなどを通じてデジタルの知識を高めてもらう取り組みを進めています。ビジネスの知見とデジタルの知識を合わせて、DXを推進してもらいます。

 旭化成のDXは4段階で推進されている。2018年までのステージ1では、DXを推進する専門組織であるデジタルイノベーションセンターに役割をアサインし、体制を構築。社内外からデ―タエンジニアを採用・育成しながら、AIやIoT、データ活用などのテーマを選定し、実証を通してノウハウを蓄積してきた。2020年までのステージ2では、習得したDX関連のノウハウを社内に横展開。ポイントとしては、事業部長クラスをDXリーダーとして育成する取り組みを行ってきた。今後のステージ3では、ビジネスで結果を出しながらビジネスモデルを変革。ステージ4以降ではDXによる新しい価値を社会に提供していくことを目指している。

 なお、中期経営計画に基づくDXの主要テーマは、効果的かつ効率的な戦略構築(デジタルマーケティング)、開発速度の劇的向上(マテリアルズインフォマティクス)、AIやIoTによる生産革新(生産技術革新)、知財による事業戦略構築(IPランドスケープ)の4つである。

2年前から考えていたDXの推進が
コロナ禍で加速

コロナ禍の対応で大変だったのはどんなことでしょうか。

原田 テレワークが一気に進み、アクセスが集中してネットワークが使えなくなったことです。ネットワークが使えないとビジネスも止まってしまいます。一方で、IT統括部が約2年前から考えていた「クラウドファースト」への移行が、コロナ禍により進みました。

 コロナ禍により旭化成でも在宅勤務がスタートしたが、社内ネットワークへのアクセスが集中したためVPNのパフォーマンスが低下。これを契機にクラウド活用やセキュリティ強化に拍車がかかり、利便性が向上した。また国内外で移動制限がかかったため、ウェブ会議やビデオ学習、スマートグラスを活用した機器設置作業の遠隔支援も行われたという。

図1:コロナ禍によるクラウド活用やセキュリティ強化で利便性が向上

図1:コロナ禍によるクラウド活用やセキュリティ強化で利便性が向上

DX推進のポイントは
「人、データ、組織・風土」の3つ

DXのさらなる強化ポイントとして「人」「データ」「組織・風土」の3つを挙げておられますが、これらの重要性についてうかがえますか。

原田 「人」に関してはいかにデジタルを理解し、価値に変えることができるかが重要です。そのためには教育が必要です。すでに動き始めていますが、使いこなしの面では成果が上がっています。経営トップはDXに新たなビジネスモデルの創出まで求めていますが、そこはこれからです。一方、この組織をスタートして最も重要だと思ったのは「データ」です。DXは突き詰めるとデータであり、データの重要性をメンバーに認知してもらうことに取り組んでいます。「組織・風土」に関しては、データエンジニア育成プログラムや専門性を高める制度の確立、デジタルを体験してもらうためのデジタルイノベーションスペース「CoCo-CAFE」の開設などに取り組んでいます。

山下 「人」の観点では人事制度まで踏み込んだ改革を進めていますが、そこでの苦労はなかったのでしょうか。

原田 人事制度自体は人事部主導で整備しています。2007年には、高度な専門技術を有する人材が事業に貢献するとともに、目標対象になることを目指し、「高度専門職」の制度をつくりました。また、キャリア採用によって優秀な人材を採用することも目的としています。2020年7月には元日本IBM CTOの久世和資がエグゼクティブフェローとして入社しました。これによりDXのさらなる加速を期待しています。

山下 成果を定点的に観測して、指標として公開しているのでしょうか。

原田 具体的なKPIはまだ確立できていません。当初は年間のテーマ数や要員計画などはつくりましたが、成果が見通せなかったために成果のKPIまでは至りませんでした。現状では成果も上がってきたので、今後はKPIを定めていくことが必要だと考えています。また現在は国内外に約140ある工場について、工場ごとにどれだけスマート化されているのかを見える化し、現場のレベルアップを図っていきたいと思っています。

 人材育成では現場力を向上していくことが重要とし、製造係員や生産系エンジニア向けに現在2期目となるデータエンジニア育成プログラムを実施している。データエンジニア育成プログラムはSASに講師を依頼した約6カ月の分析基礎セミナー、約1カ月のデータ分析活動(OJT)を経て、参加者の上司や工場トップも聴講する地区成果発表会を実施している。優秀な取り組みに関しては、年1回開催されるDX技術発表会で成果を発表し共有している。

 さらに、DXを加速させるためのデジタルイノベーションスペース「CoCo-CAFE」も新設。デジタル人財を集約し、マーケティング、R&D、生産技術部門、事業視点でのDXを加速する。実際にデジタルデバイスに触れて効果を実感することで、デジタル活用のイメージを膨らませる取り組みも推進している。

図2:「人」「データ」「組織・風土」の3つがDXの成功要因

図2:「人」「データ」「組織・風土」の3つがDXの成功要因

「素材×デジタル」による
新しい価値提供も模索

旭化成における今後のDX展開についてお聞かせください。

原田 身近な生産系の現場の変革は少しずつ進んでいますが、DXと呼ぶ以上はいかに事業を変革するか、新しいビジネスモデルを創出するかが重要です。そこは今後の取り組みにかかっています。また理想的には、「素材×デジタル」で新しい価値提供ができないかを模索しています。そのためにはデジタルインフラの整備が重要だと感じています。これからは、デジタルネイティブやソーシャルネイティブの若い人たちが日本を支えていくリーダーとなります。

 彼ら彼女らに次世代のデジタルインフラを提供することで、われわれ”オジサン世代”にはまったく想像できない価値を生み出してくれるに違いありません。

最後にDXにおけるSASの取り組みについてお聞かせください。

山下 SASではDXをドライブする「テクノロジー」、DXを継続的に推進して事業価値を生み出す「プロセス」、DXの企画・開発・分析・推進を担う関係者や組織である「ピープル」の3つの観点が、DXの成功には必要不可欠だと考えています。テクノロジーでは分析プラットフォームを、プロセスではコンサルティングサービスを、ピープルではエデュケーションサービスを包括的に提供します。

 さらにDXを推進するソフトウエア製品として、データに基づく意思決定で組織を動かし、ビジネスにおける価値を創出するオープンなAIプラットフォーム「SAS Viya」を提供しています。

本日はDX推進のポイントとなる「人、組織、プロセス」を中心にディスカッションを進めてきました。原田さんと山下さんのお話は、製造業の皆様がDXを推進していくうえで大いに参考になったのではないでしょうか。どうもありがとうございました。

図版3:4つの視点で工場の課題を解決し、生産系のデジタル化の取り組みを推進

図版3:4つの視点で工場の課題を解決し、生産系のデジタル化の取り組みを推進

図版4:SASは「ソフトウェア」「コンサルティング」「エデュケーション」でDXを支援

図版4:SASは「ソフトウェア」「コンサルティング」「エデュケーション」でDXを支援

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