小学校におけるプログラミング教育の必修化を受け、すでに教科書にも掲載、全国各地の教育現場で取り入れられている先駆的なツールがある。その名も「MESH」。最初にクラウドファンディングに参加したのは6年前。同年には「CES」にも出展、幾度も顧客との意見交換や試行錯誤を重ねながら事業化に漕ぎつけた。決して平坦ではない道程の中、SSAPは如何にして光を示したのか。プロジェクトリーダーの萩原 丈博 氏に、挑戦の内幕を聞いた。

行くべき道が決まるまで、
重ねたフィードバック

MESHプロジェクトリーダー
萩原 丈博 氏

人感センサー、スイッチなどの役割を持ったブロックを組み合わせることで、専門知識がなくても簡単にプログラミングを楽しめるIoTブロック「MESH」。その誕生は、開発を担当した萩原丈博氏自身の「課題解決」からスタートした。

朝が苦手で、なかなか起きられないことに悩んでいた萩原氏。目覚まし時計をかけても無意識に止めてしまい、寝過ごすこともしばしばあった。目覚まし時計のストップボタンを別の部屋に置き、歩いていって止める仕様にすれば、さすがに目が覚めるのではないか。市場にはそのような製品がなかったので自作しようと考えたが、そのためには無線や電子回路の仕組みの知識が必要だと知り、断念した。

「自分の課題に着目してから、家の中の見え方も変わってきました。例えば出張中に自宅にいる家族が倒れた時、それを知らせるセンサーがあればいい。見守り機能付きの家電を買い足すという手もありますが、いつも使っている冷蔵庫やトイレのドアに取り付けるだけの手軽なセンサーが作れないものだろうかと考えました」

解決したい課題は人によって異なるという認識もあった。以前ソニーの公募留学制度で米国の大学でコンピュータサイエンスの研究室に在籍していた際、人の健康をサポートする技術の研究開発に携わっていた。だが一口に健康のサポートといっても、食事の記録や自己の行動記録など人によって関心が異なり、多岐にわたることに気づいた。そのため、歩数計や心拍計などのように商品化されているものだけでなく、それぞれの生活や悩みに合わせてカスタマイズできるものが必要なのではないかと学んだ。

2012年に作製したプロトタイプは、単なる紙工作だった。実際に動かせるものを作り始めたのは、その半年後。「配線もぐちゃぐちゃで、コンパクトにまとまってはいなかった」と萩原氏は苦笑する。だが、ワークショップを行ううちに「お金を出して買いたい」という人も現れた。

製品として出す価値があるかどうかを見極めるため、2014年5月に米・カリフォルニアの「Maker Faire Bay Area」に出展。ここにはMESHのような製品に関心の高そうな人が多く集まると考えたからだ。

「出展前は不安もありましたが、想像以上に良い反応が得られました。デザイナー、ウェブ関係の人が仕事で使いたいなど、当初想定していた『家の中』以外の用途を希望する人も多かったです。もしかしたらMESHには『誰かのアイデアを生かすための製品』としての価値があるのではないかと、より強くイメージを掴むことができました」

萩原氏のアイデアから生まれたものが、誰かのアイデアを具現化するための製品に。いくたびかの変遷を乗り越え、MESHのコンセプトがいよいよ固まりつつあった。

MESHのプロトタイプを公開した「Maker Faire Bay Area」。ここでのコミュニケーションを元に、コンセプトが形となっていった

スタートから3年、
歯車が回りだす

ニーズを掴みつつあったMESHだが、事業化にはいくつもの壁があった。当時、萩原氏は研究開発の部署に所属し、「将来のビジネスの種になるものとして」MESHの開発に取り組んでいた。ビジネスとして成り立たせるためには事業部に移管する必要があったが、MESHはテレビでもカメラでもオーディオでもない。MESHのような商品を扱う部署が、当時のソニーにはなかったのだ。このまま研究開発の一つの結果として埋もれてしまうのか。心が折れそうになっていた矢先に、SSAPの母体である新規事業創出部(現Startup Acceleration部門)が始動。Maker FaireでのMESHの反響に期待が寄せられSSAPへの参画が決定する。明日のソニーを作る新たなビジネスとしての一歩を、MESHは歩み始めたのだ。

参画から間もなく、2015年の1月を期日に米国のクラウドファンディングサイト「Indiegogo」挑戦が決定。米国のサイトを選択した理由を「将来も含めて、市場に顧客がいるのかをきっちりと見極めたかった」と萩原氏は振り返る。

「2014年当時、IoT領域で一番進んでいたのが米国の西海岸でした。そこにいる目の肥えた人たちが欲しいと思ってくれるかどうかを知りたかったのです」

Maker Faireからわずか7ヶ月での、海外クラウドファンディングサイトへの掲載。当時MESHの開発メンバーは5人で、萩原氏以外はソフトウエアの専門家が2人、機械関係が1人、電気関係が1人。ビジネスに明るいメンバーがいなかったため、短期間で進めるに当たりSSAPの事業化支援プロ集団「アクセラレーター」から様々なサポートを受けた。広報、知財、法務や品質管理、さらに輸出入まで。「足りない部分は全てサポートしてもらった」と萩原氏は話す。

掲載の際に意識したのは「ソニー製品であることを前面に出さない」こと。隠すわけにはいかないが、ロゴやソニー商品であることは出さず、ソニーのエンジニアが開発したということだけプロフィールに添えた。

「ソニーというブランド名で興味を持ってくれる人は多い。その場合社名に惹きつけられたのか、商品で惹きつけられたかわからなくなってしまいます。ソニー製品ということを訴求することなくクラウドファンディングを行ったことで、MESHという商品としてのニーズを確認することができました」

Indiegogoにて掲載直後に購入した人は、以前からMESHについて知っていた人がほとんど。しかし中盤以降は、サイト上で初めてMESHに出会った人が多かった。ソニー製品であってもなくても、MESHを理解して興味を持ってくれる人がいる。確かな手応えを感じた瞬間だった。

同月にはラスベガスで開催される世界最大のテクノロジー見本市「CES」にも出展。ここでもソニーが毎年出展している大きなブース内ではなく、あえてスタートアップが出展しているエリアを選んだ。ブースには連日メディアが訪れ、商談を持ちかけてくる人もいたという。

2015年7月、ついに一般販売を開始したMESH。すると、早速思いがけない展開が訪れた。MESHを使った子ども向けワークショップの誘いがかかったのだ。メンバーが講師を務め、水を飲もうとするとコップがしゃべったり、うちわを使うと花火の音がしたりするデモンストレーションを披露すると、子どもたちの目が輝いた。

当時の子ども向けワークショップの様子

「MESHを通して、身近なものがパワーアップする瞬間を見てもらえたことで、子どもたちのものの見え方が変わったような気がしました。こうした視点の転換も、MESHの価値であると改めて感じました」

このワークショップによって萩原氏自身の視点もまた変化したわけだが、その裏にはSSAPで受けた指導も影響していた。顧客の発言だけを鵜呑みにするのではなく、感じていること、考えていることを読み解くこと。マーケティングを専門とするアクセラレーターからインサイトを見抜くトレーニングを受けていたことで、MESHの新たな方向性に気づけたのだ。

教育分野での躍進。2021年、
「MESH」が拡散するとき

2016年には学校向けの教材を扱うメーカーから引き合いがあり、理科の教材とMESHを組み合わせるという取り組みも始まった。徐々に教育界でMESHの注目度が高まり、2020年度から使われている小学校6年生の理科の教科書にも掲載された。

だが、ここに至るまで浮き沈みはあった。教育方面から注目を浴びつつも、どこにフォーカスをしていけばいいのか見えづらい時期もあったという。そんな中で、SSAPのアクセラレーターと話し合ったのはやらないことを決めることだった。やりたいことはたくさんある。しかしビジネスにおいては、時に削ぎ落とすことも重要だ。ここから教育分野への進出を明確にするという道筋が見えた。

時に厳しくも、温かく支えてくれるアクセラレーターから学んだのは、どんなことも最終的にメンバーである自分たちが解決するということ。

「小さいチームなので、1人でも違う方向を向いてしまうとどんどんずれが生じてしまいます。課題をどう捉えるか、常に目線を合わせるのが最も重要なことでした。次々と訪れる試練を自分たちで解決するように支援してもらえたことで、チームの足並みも揃い、ひとりひとりが大きく成長しました」

ビジネスを座学で学ぶだけなら、本を読んだり誰かの講演を聞くという方法もあるかもしれない。しかし、課題を解決してビジネスを生み出す人間を育成するために実践の場を提供するSSAPの枠組みこそが、SSAPの真骨頂ではないか。そう萩原氏は力説する。

「何かをやり遂げたいという強い意志を持っている人なら、SSAPは最適なプログラムと思います。最初から素晴らしいアイデアはなくていい。最後までやり切る強い意志があれば、足りない部分を補って成長させてくれるはずです」

SSAPとともに歩んできたMESH。今、萩原氏は新たな未来を見据えている。

「プログラミング教育が必修化されましたが、将来的にはプログラミング的思考は当たり前になっていくはず。一歩先に進んで、課題解決の手法を身につけるという点でもMESHを役立ててもらえればうれしいです。SSAPが新規事業の支援に取り組むように、課題解決は今後も大きなテーマになっていくと思います。その際にMESHが貢献できるよう、先を目指していきます」

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