デジタル変革の原動力となるAIは飛躍的な進歩を遂げ、識別や予測領域では人間の能力を凌駕しつつある。「大量のデータを基に帰納的なモデリングを行うAIが社会や産業に組み込まれることで、大きな便益が期待できます」と日本IBMの木村 亮朝氏は述べる。
既にAIは実社会で、様々な形で適用されている。あるエネルギー企業は燃料の売価の最適化にAIを活用。販売単価に対応する売り上げを予測し、利益が最大となる最適価格を導き出している。航空会社では飛行機の積み荷の最適化にAIを活用し、何をどの順番でどこに積むかAIを用いて算出し、積載量やバランスを調整しているという。
顧客ポートフォリオを可視化し、営業力強化に取り組む企業もある。「顧客ポートフォリオを基に、勝ちパターン・負けパターンを導出し、その後の営業活動に反映することで業績アップを目指しています」と木村氏は説明する。
それでは、AIを活用する際のポイントはどこにあるのか。「デジタル変革を複雑に捉えすぎてはいけません。シンプルに理解することが大切です」と木村氏は指摘する。
デジタル変革は「①データの見える化」「②成功法則の発見」「③ビジネス判断の最適化」の3ステップに集約できる(図1)。「社内外のデータを整理・解釈することで『勘』ではなく『経験と科学』に基づくビジネス判断が可能になります。これを様々なビジネスシーンに適用し、変革のシナリオを紡ぎ出していくのです」と木村氏は語る。この3ステップを軸に、データ分析を段階的に発展させていくことも重要だ。
ステップ1の目的は現状を局所的にではなく全体観をもって理解できるようにすることだ。統計分析や記述的分析を使い、まず「何が起きているのか」「どのくらいの頻度で起きているか」「どこで起きているか」などを明らかにする。
ステップ2では、「なぜ成功・失敗したのか」「この傾向が続くとどうなるか」を明らかにすべく、データ分析で事象の要因や法則性を見いだす。機械学習を活用し、既知のデータを学習させてモデルを開発する。このモデルを未知のデータに適用することで「それが起こった場合にどのような結果になるか」が予測できるようになる。
ステップ3 では、「どうすれば成果が上がるか」「次に何をすればいいか」など、実行すべき最適なアクションや判断を導出するためにデータ分析を活用する。機械学習に加え、強化学習や最適化技術を組み合わせることで、データ変革はより高度化する。最適解を導出するためのモデルを業務アプリケーションに組み込み最適な判断が自動的に適用されるようにプロセス化することも、このステップでの重要な取り組みだ。「ステップを飛び越えて、いきなり高度な分析に挑むと失敗する。データ分析はステップアップが重要なポイントになります」と木村氏は主張する。
しかし、こうしたシンプルなステップを進む中でも、必要なデータが活用できる状態にない「データの壁」や、分析しても思うような結果が得られない「分析の壁」、結果が出ても投資に見合わない、あるいは投資対効果を理解してもらえない「ROI の壁」、これらをクリアしても現場で使ってもらえない「定着の壁」などに直面する。これらの壁を乗り越えデジタル変革を成功させるには、6つの成功法則があるという(図2)。
1つ目は、骨太のユースケースを基にデータ活用を推進すること。「目指すゴールを明確に打ち出し、その実現のために多角的な視点から多くのユースケースを導出するのです」と木村氏は話す。
2つ目は、経営層、中間層、実務者層、そしてDXを推進する組織の4つの階層をバラバラにしないこと。データ提供者と利用者が協業できる組織をつくり、その活動を継続する。ビジネス戦略、データ活用、データマネジメント、データ分析基盤を統括するCDAO(Chief Data&Analytics Officer)を設置するのも1つの手だ。
3つ目は、ユーザー起点で短サイクルかつ段階的にAIシステム構築を進めること。「AIシステム構築に長い時間をかけすぎると、なかなか成果を得られずモチベーションが低下する。プロジェクトが失敗する大きな要因です」と木村氏は指摘する。
4つ目が、データ利用者とデータ提供者が短サイクルに協業できる仕組みの構築である。データ所在の明確化、データ品質の見える化、そしてデータ利用の適切な管理を実現する「データカタログ」の整備が欠かせない。「デジタル変革の立ち上げを加速させ、データ活用の有力な羅針盤になります」(木村氏)。
5つ目が、データとAIのライフサイクルをサポートするデータ基盤の構築だ。データの取得・加工・分析・閲覧をシームレスに実現できる基盤を構築する。
そして最後の6つ目が、デジタル人材の育成である。組織の中にデータ活用文化を醸成するためには、新たなビジネスを顧客とともにデザインし、デジタル技術を活用して新しい価値を創出できる人材が不可欠である。
IBMはこの成功法則を具現化するための方法論も提供する。例えば、骨太のユースケースはIBM自身が社内で実践している方法に基づいている。「自社のノウハウに基づき、成功のポイントや成果の最大化などを支援します」と話す木村氏。
CDAOを中心とした組織づくりと継続的な活動推進もサポート可能だ。
AIシステムを短サイクルで構築する「AI Garage」という方法論も提供している。「ビジネス変革につながるアイデアの創出からユースケース作成、PoC、そしてパイロット導入まで最短3カ月で実現できます」と木村氏は強みを述べる。
データの利用を促進するデータカタログやデータ基盤については、その設計・構築の方法論とサポートに加えIBM Cloud Pak for Dataといったソフトウエア製品も提供している。
今後もIBMは、こうした成功法則や方法論に基づいて、デジタル変革を成功に導き、顧客企業の課題解決と目指すゴールの実現をトータルにサポートしていく考えだ。
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