AIの導入はコロナ禍の前後で様相が一変した。「時代の趨勢に従ってAIを活用」という感覚から「導入が生き残りの条件」という喫緊の課題になりつつある。このようにデータ活用におけるAIニーズが高まる中、日立ハイテクソリューションズは日立グループの一員として、様々な製造業の課題を共に考え、試行錯誤しながら解決してきた。その中から成果を上げてきたAIソリューションも多い。
その1つが10年分の電子カルテで診療スタッフを支援するリハビリテーションAI「awina」である。
「当社の製品を納入しているお客様の中に、回復期リハビリテーション病棟をもつ病院がありました。身体機能が低下してしまった患者様の訓練を支援することが主な業務となります。しかし病棟の増加で回復期リハビリに従事する医療スタッフを増員したところ、経験年数の浅さから適切な診断・訓練が困難になり、リハビリを効率化させないと病院経営にも支障を来すという課題に直面しました。そこで当社は、この課題をAI活用で解決できないかと考えたのです」と日立ハイテクソリューションズの岡田 吉弘氏は説明する。
全国から患者が集まる高い実績をもつリハビリ病院の協力を得て、同社は過去10年分(約1万8000件)の患者データを収集してクレンジング。AI学習によるデータ分析のモデリングで約1年5カ月の試行錯誤を重ねた後、現場の声をカスタマイズし、リハビリテーションAI awinaとして完成させた。
「awinaは新規および入院中の患者様に3つの予測値を提示できます。回復に向けたリハビリテーションプラン、予測退院日、退院時の回復指標です。これにより病院全体としてリハビリ効率と診療報酬の最適化を図りながら、回復に時間のかかる患者様サポートをじっくり行えるようになり、病院経営にも貢献できました。この事例を通して当社は、AIの精度を高め実際の現場で使えるツールとするためには、現場の声を取り入れる工程が不可欠であると実感しました」(岡田氏)
このリハビリテーションAIの開発から得た経験を化学業界に生かした事例が、化合物AI「Chemicals Informatics」だ(図1)。化学プラントや食品、医薬品プラントといった化学業界ではグローバルな競争激化で、高付加価値かつ差別化された製品の迅速な市場投入が課題となっている。だが、熟練開発者の不足で開発期間が遅れてしまうことに加え、化学品開発には10年単位の時間と数十億から数百億円の費用がかかることも珍しくない。
「そこで当社は、独自のNLP(自然言語処理)AIで蓄積した1億以上の化合物の公開データと、AIが生成した新規化合物データを掛け合わせ、目的とする特性をもつ可能性の高い未知の化合物を探し出し、特性予測や新規構造案を提示するプログラムを開発しました」(岡田氏)
Chemicals InformaticsはDNAの掛け合わせと、突然変異を組み合わせた生物進化を模した独自のAI探索手法により、従来の発想にとらわれない新たな領域の有望化合物を探索できるのが特長。高性能なAI解析用インフラを採用したクラウドサービスで提供することで、単独ジョブの場合、探索時間は平均120秒から180秒と非常にスピーディーだ。
「有用な化合物が見つかる確率も従来比で1000倍まで高まる可能性もあり、研究開発における時間とコストを大幅に削減できます」と岡田氏は言う。
「私たちはこれらAIツールを開発する中で、AIモデルの正確性とモデル作成のスピードアップがいかに大切かを思い知らされました。そのモデルの生成が数時間で可能になるツールが登場したことで、当社もそのスピード感を取り入れることにしました。それがAIモデラーです」(岡田氏)
米国のベンチャー SparkCognition社が開発し、日立ハイテクソリューションズが販売代理店として提供する「AIモデラー」は、ニューロエボリューションと呼ばれる手法によるAIモデル作成処理を、独自技術を使って高速化している。これはディープラーニングと独自のアルゴリズムを組み合わせたもので、準備されたデータに基づき、数十のモデルを第一世代で構築。それぞれのモデル同士を競わせ、最も優れたモデルを第二世代として採用する。さらにそこから再び異なるモデルを一定数構築する流れを自動かつ高速で繰り返し、最終的に最適なモデルを作り出す。つまり生物の進化にも似たステップでAIモデルの精度を上げていくのだ。
「AIモデラーはデータサイエンスの主要プロセスである『データ加工』『特徴の抽出』『AIモデル構築』を自動化し、これまで人手で数カ月から数年かかっていたモデリング作業をわずか数分から数時間程度と劇的に短縮することができます(図2)」(岡田氏)
これにより企業は、AIモデルの調整に費やしていた手間暇をなくし、課題の定義とデータ準備に注力でき、製品化までの時間も短縮可能となる。AIモデラーは優れた汎用性も特長としており、物流業界なら繁忙期の輸送量の高精度な予測、保険や金融業界なら市場モニタリング、社会インフラ事業であれば設備の故障予測やサイバー攻撃の検知など、幅広い分野で活用できるという。
「こうしたAIツールの開発・提供を通して私たちが得た教訓は、ツールを提供するだけでは、よほど優れたデータサイエンティストを擁する企業でない限り、成果は上がらないということ。本当の意味でデータ活用に必要なのは、その業界を知り、お客様を深く理解し、ツールが使えるようになるまでサポートするパートナーです。当社は、今後もこうした考えのもと、お客様の課題を解決するパートナーとして伴走していきます」と岡田氏は最後に語った。
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