Online Seminar Review

人工知能サミット2020 〜ニューノーマル時代をAI活用で勝ち抜く〜 Online Seminar Review 人工知能サミット2020 〜ニューノーマル時代をAI活用で勝ち抜く〜

「コスト削減」や「業務の効率化」だけでなく、「新しいビジネスの創出」や「営業・マーケティング力の強化」を目的にした施策に利用されるなど、ビジネスにおける活用の幅が広がりつつある人工知能(AI)。しかし多くの企業では、活用以前に解決しなければならない課題を抱えているのが現状だ。例えば、データを収集・活用する環境が整っていなかったり、AIを扱える人材が不足している等々──。2020年11月30日(月)、オンラインで開催された「人工知能サミット2020」では、多彩な有識者がAI活用における課題を解決するヒントや成果につなげるポイント、さらには将来あるべき姿まで、様々な視点からAIに関する講演を実施。AIでビジネスを変革したい企業にとって有意義な機会となった。

理化学研究所 革新知能統合研究センター センター長 東京大学 大学院新領域創成科学 研究科・教授 杉山 将 氏

基調講演

機械学習研究の現状とこれから

理化学研究所

革新知能統合研究センター センター長
東京大学 大学院新領域創成科学 研究科・教授

杉山 将

技術の進化とともに活用領域も拡大し続け、まさにブーム冷めやらぬという感があるAI──。そんなAI研究の最前線ではどのような取り組みが行われているのか?興味が尽きないそのような疑問への答えや今後のAIのあるべき姿について、日本の機械学習研究の第一人者が言及したセッションの模様をお伝えする。

国際会議の動向から浮き彫りになる機械学習研究の現状

 登壇した理化学研究所の杉山氏は、セッションの冒頭、自身が研究に取り組んでいる機械学習分野の現状について説明。

 まず機械学習研究で国際的に権威のある「ICML」と「NeurIPS」の2つの国際会議における参加者数や論文投稿数が激増している事実を紹介し、ここ数年でさらに研究活動が活発化していることを示唆した。

 例えば「NeurIPS」の場合、2013年に1200人だった参加者が、2019年には1万3000人を超えるほどになり(2020年はオンラインで開催)、2013年に1420件だった論文投稿数も、2020年には9467件を数えたという。

 これらの論文は、「いまだに北米のIT企業や大学のものが大半を占めるものの、近年、中国の台頭が著しい印象」だと杉山氏。日本については、2015年と2019年の「NeurIPS」の実績を示した上で「日本の論文採択数も増えてはいますが、全体の2~3%程度で大きな変化はないという状況。前向きに考えると、競争が激化している中で、(割合が変わらないということは)一定のプレゼンスは維持できている」という見解を示した。

ICML、NeurIPSのこれまでの動向

「ICML」「NeurIPS」の動向をまとめたグラフを見ると、いずれの会議も参加者数、論文投稿数が激増していることが一目瞭然。また、会議へのスポンサー活動を行う企業の業種が多様になっていることも、AIへの注目度が高まっていることをうかがわせる。

日本のAI研究を先導する理研 AIPセンターの活動内容

 続いて、杉山氏は自らがセンター長を務める理化学研究所 革新知能統合研究(AIP)センターが取り組む研究の内容に言及。

 活動は「1. 次世代AI基盤技術の開発」「2. 科学研究の加速」「3. 社会的課題の解決」「4. 倫理的・法的課題への対応」「5. AI人材の育成」の5つの柱の下で進められているが、その内容は基礎研究から応用研究まで幅広いという。セッションでは、具体例として、次のような3つの研究内容が紹介された。

<具体例1>
深層学習の汎化能力の理論解明……
利用が進みながら、いまだ解明されていない深層学習が高い性能を発揮する原理を数学的に明らかにする研究。

<具体例2>
ゴーストサイトメトリー……
細胞の異常を検知する際、画像を介さずに符号化計測信号を直接機械学習解析する技術の研究。計算に時間を要する深層学習による画像認識の課題を解消し、リアルタイム解析の実現に貢献するもので、杉山氏いわく「現在、サービス化が進められており、実用化目前」とのことだ。

<具体例3>
前立腺病理画像からのがん検出……
これまで、AIのがん検出に必要だった教師データを使わずにがんを検出する技術の研究。110億枚の病理画像パッチから、教師なし深層学習とクラスタリングにより特徴抽出するもので、教師データを用意する際に必要な膨大なコストの削減に貢献することが期待されている。

 続いて、杉山氏は自身が取り組んでいる機械学習の研究の内容に触れ、最先端の機械学習研究がどのようなものかを解説した。

 紹介されたのは「ラベル雑音下での分類」と「弱教師付き学習」を実現しようとする2つの研究。前者は、AI処理の精度低下の原因となるデータの雑音を補正する技術の確立を目的としたもので、雑音ありデータから雑音の補正を行う「雑音遷移補正」や2つのニューラルネットワークを用いて、それぞれが誤差の小さいデータを選んで教え合う「共教示」、機械学習の訓練誤差が一定のレベル以下にならないようにする「洪水法」という3つのアプローチで研究が行われていることが説明された。

 後者は、通常の教師付き学習に必要なラベル付き訓練データの代わりに、低コストで集められる弱教師付きデータ(不十分なデータの意)を使って、機械学習で分類モデルを学習させる研究。パターンが属さないクラスを示すラベルを使う「補ラベル分類」や真のクラスを含むラベルのサブセットを活用する「部分ラベル分類」、様々な弱教師付きデータを用いた「二値分類」による研究を進めているとのことだ。

将来あるべきAIの姿──ヒューマン・インクルーシブAIとは?

 セッションの終盤、杉山氏は「分野を問わずあらゆる企業がAIをうたうようになり、世界的な研究開発競争、人材獲得競争が激化していること」「物理、宇宙、化学、材料、医学、生命、情報、制御など、サイエンス研究でのAI活用が活発化していること」「機械学習技術のさらなる高度化が進行していること」「プライバシーや公平性、説明性、法律、経済など、AIの社会的影響・倫理に関する議論が活発化していること」というAI研究に関するトレンドをまとめて紹介した上で、将来、AIがあるべき姿について次のように語った。

 「将来どのような方向を目指すべきなのかについては、まだまだ議論の余地があります。しかし本当に人間のような自律知能を持つAIが究極のAIかというと、必ずしもそうである必要はないと個人的には感じています。(中略)未来のAIというのは、人間と共生し、共に学ぶものではないかと考えています」

 なお、このような考えに至ったのは、自身が教授を務める東京大学で、2019年3月に行ったファッションショーにおける経験が基になっているとのことだ。こちらのファッションショーで披露されたドレスのデザインは、AIが提示したアイデアをファッションデザイナーのエマリエ氏がブラッシュアップし、それをAIにフィードバックするというプロセスを繰り返して行われ、非常に独創的なものになったのだという。

 杉山氏によると、人間と共生し、共に学ぶAIを「ヒューマン・インクルーシブAI」という言葉で表現することができるという。

ヒューマン・インクルーシブAI

「ヒューマン・インクルーシブAI(人間社会に包括されるAI)」を実現するためには、様々な分野の知見を組み合わせ、社会も巻き込んだ研究が必要なことを杉山氏は強調した。

 そのようなAIを実現するために必要なポイントについて、杉山氏は次のように話し、セッションを締めた。

 「いま行っているような数学的な機械学習の研究というのは、大事なベースになると思いますので、これを続けていく必要があります。そして、やはり人間の脳は自然のもので、一番学習能力を持っているものですので、脳科学の知見をAIに取り込んでいくということも非常に重要。また、デザインの例のように、人間の創造性、あるいは人間の知識も組み込んでいく必要があります。さらにこのAIの技術というのは、最後は人間社会に実装されるわけですので、人間の文化とか倫理感というのも取り込まなくてはなりません。つまり、数学や脳科学などのサイエンスと、人間の創造性、文化、倫理観などの文系の分野を併せて、AI開発を目指していく必要がある。これからは技術だけではなくて、社会も巻き込んだ AI研究をしていきたいと思っております」

日本生命 デジタル推進室 専門部長 デジタル推進担当部長 高倉 禎 氏

事例講演

⽇本⽣命のDX取り組み
(データ活用とAI)

日本生命

デジタル推進室 専門部長
デジタル推進担当部長

高倉 禎

日本生命は「デジタルが前提の社会」と「リアルとデジタルの融合」をコンセプトに、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる。2019年には社長を委員長とするDX推進のための特別委員会を設置。1年間の検討を経て「DX5カ年計画」を策定した。同社のDXの取り組みを紹介する。

業務変革と事業変革を中心に、5本柱でDXを推進

 日本生命はDX5カ年計画で5つの柱を掲げた。1つめが営業職員を中心に既存の事業スタイルをデジタルでバージョンアップする「業務変革」。2つめがデジタル技術の活用によって新しい事業を開拓する「事業変革」。3つめが「データの利活用」。高倉氏は「保険の契約は長期にわたるものですが、常にお客様と細かなやり取りが必要というわけではありません。他業態と比べてお客様の情報をリアルタイムで把握することが遅れていたと感じています」と語る。4つめがレガシーシステムが多く残る「インフラの整備」。そして最後がDXを推進しフル活用するための「社内風土の醸成と働き方の変革」だ。

DXのベースとなるデジタル5カ年計画

2019年に策定したDX5カ年計画に基づき、DXによる既存業務の変革と新事業創出をはじめとする事業の変革を中心に5つの取り組みを進める。

顧客への提案やトレーニングツールなど多様な分野でAIを活用

 DX5カ年計画と並行し先んじて整備したのが、営業職員用携帯端末「TASKALL(タスカル)」だ。以前から営業端末では保険プラン設計から加入手続きまで行えるようになっていたが、今回ここにAIを搭載。これまでに蓄積した15種類のDBを基にAI解析を行い、適切な保険提案とタイミングを予測し、職員に知らせる仕組みを加えた。「生産性向上に加え、お客様にとって最適なタイミングで提案できるようになります」(高倉氏)

 また営業職員が携帯するスマートフォン「N-Phone」に、AIを活用してロールプレイトレーニングができる機能を搭載した。従来ロールプレイは上司や同僚と行う必要があり、評価も人に依存していた。それを1人で⾏えるようになり、客観的かつ個人に最適化されたアドバイスが可能になった。

 2020年3月からは顧客向けスマートフォンアプリに、新たに入院や手術給付金の請求手続きができる機能を搭載。請求内容の簡単な入力と医療機関が発行する領収証を写真撮影するだけで手続きが完結するようになった。請求書の読み取りにはAI-OCRを活用し、給付の迅速化も実現している。

 その他、顧客向けAIチャットボット、AIスピーカーを活用した音声認識による認知症対策ゲーム「ニッセイ脳トレ」など、様々な分野でAIを活用している。

 このような取り組みを継続的に行っていくために、ビジネスへのデータ活用を企画できる人材育成にも力を入れている。「DXは方法論です。目的を見失うことなく、試行錯誤を繰り返すことによって、新たなスタンダードを見つけていきたい」と高倉氏は語った。

三越伊勢丹 MD統括部 デジタル事業グループ長 兼 ふるさと納税部部長 北川 竜也 氏

事例講演

三越伊勢丹のデジタル戦略

~老舗企業におけるデータ・AI活用の理想と現実~

三越伊勢丹

MD統括部 デジタル事業グループ長
兼 ふるさと納税部部長

北川 竜也

Eコマース市場が拡大し、新たな商形態が誕生する中、百貨店は厳しい状況が続く。その中で三越伊勢丹グループは、老舗ならではの信用をベースに、DXによって新たな顧客体験を提供しようと様々な取り組みを進めている。

リアルアセットの価値を生かしたデジタル化を追求

 三越伊勢丹グループは従来、店舗運営も多くの部分をアナログに依存していた。デジタルビジネスのトライアルも行ってはきたが、一過性の取り組みに終わっていた。

 そこで新たに「百貨店事業における取り組み」と「先⾏して始めたデジタル新規事業の取り組み」という2つの視点でデジタル化を推進。前者はデジタルを活用した接客の質の向上や顧客接点の拡大、オフラインとオンラインのシームレスな体験の提供を目指し、後者はもともと持つリアルアセットの価値をベースにしながら、デジタルを使って今までとは違う顧客接点や価値提供の仕方を探る取り組みだ。北川氏は「この2つを同時に行うことが大切です。お互い切磋琢磨(せっさたくま)することで、より良い価値やサービスが生まれます」と語る。

DXにおける2つの取り組み

「百貨店事業における取り組み」と「先⾏して始めたデジタル新規事業の取り組み」を両輪で進め、互いに切磋琢磨(せっさたくま)することで、より良い価値の創出を⽬指す。

AIを活用した新規事業にチャレンジ

 具体的な取り組みを紹介しよう。

 百貨店事業では2020年6月、Webサイトとアプリを全面的に刷新。またデジタルを活用したサービスとして、3D足型計測による最適な靴のレコメンドサービス「YourFIT365(ユアフィット365)」、身体サイズの3D計測を基に洋服選びのアドバイスをする「Match Palette(マッチパレット)」、店舗でしか取り扱いのない商品もオンラインで買える「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」などを展開している。

 先行して始めたデジタル新規事業の取り組みでは、定期宅配サービス「ISETAN DOOR(イセタンドア)」、百貨店コスメとバラエティーコスメの総合EC事業「meeco(ミーコ)」、バイヤーによるこだわりの返礼品を調達した「三越伊勢丹ふるさと納税」、写真2枚でカスタムオーダースーツ・オーダーシャツができる 「Hi TAILOR(ハイ・テーラー)」など多彩なサービスを展開している。

 その1つであるパーソナルスタイリング事業「DROBE(ドローブ)」は、約70問の詳細なプロフィールやお客さまの要望から、スタイリストが選定した商品が自宅に届き、気に入った商品のみを残して返送できるサービス。ここでAIを活用している。「商品選定プロセスにAIを導入することで、選定にかかっていた時間は1/3程度まで短縮でき、購入率も上がりました。この事業は革新的なビジネスに成長させるべく、あえて子会社として外部に切り出しています」(北川氏)

 また、デジタルギフト事業「MOO:D MARK(ムードマーク)」では、AIを活用しサイトデザインや操作性などと購買行動の関連性を超高速のABテストで調査。その結果に基づき、サイトの改善を続けている。このチームメンバーはすべて社内人材だが、データドリブンの仕事のやり方、アジャイル開発などが定着してきた。「これからもお客様に幸せを感じていただくためのAI活用の在り方を引き続き模索し、努力を続けていきます」(北川氏)

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