「デジタル人材の育成」をテーマにしたパネルディスカッションでは、その冒頭に自民党の参議院議員・片山さつき氏が登壇。自民党デジタル本部の人材確保育成委員長としての立場から、政策の進捗と基本方針について説明した。
「2020年世界デジタル競争力ランキングによれば、日本は63カ国中27位、デジタル技術のスキルでは62位と低迷しています。70万人といわれるデジタル人材の約7割がITベンダーに集中しており、デジタル人材の偏在も大きな問題です」
こうした課題解決に向けて、政府では本腰をいれている。「アーキテクト、データサイエンティスト、サイバーセキュリティ技術者、エンジニア・オペレーターなど、職種ごとにきめ細かな育成計画を支援します。産学官連携で人材育成を進めながら、今後はスーパーシティやスマートシティなど、公的なシステム基盤連携プロジェクトの現場に人材を投入していきたい」と片山氏は抱負を述べる。
続いて本セッションでは、産学官を代表して3人のパネリストが登場。日本が直面するデジタル人材育成の「課題」と「対策」について積極的な議論が交わされた。
まずは、人材育成の課題について、ITベンダーで様々なプロジェクトを担当した経験を持つ、損害保険ジャパンの浦川 伸一氏は、「事業会社がシステムを企画し、ベンダーが開発するという従来の役割分担が、時代にそぐわなくなっています。ITベンダーが抱える人材のポートフォリオを変えなければなりません」と持論を述べた。
一方、iU学長の中村 伊知哉氏は、教育者としての立場から「今後はITベンダーに限らず、全業種・全職種でデジタル 人材が必要になるはずです。トップ人材のサイエンティストは大学で育成し、ミドル人材のビジネス層は企業研修などを行い、国民全員については学校の授業でデジタル・リテラシーを身につける、といったように、産学連携によりデジタル人材を3層で厚くしていく必要があると考えています」と語った。
これに対して、経済産業省の和泉 憲明氏は政策担当者としての立場から、「IT活用がクラウドにシフトし、ITベンダーが労働力提供型からサービス提供型のビジネスに移行すれば、究極的にはユーザー企業とベンダー企業の区別がなくなる」と指摘。「ITとビジネスの最適なバランスを追求しながら、クラウドネイティブでマルチサイドプラットフォームを構築・運用できることが、デジタル人材の1つの在り方になるのではないでしょうか」と予測した。
こうした課題の解消に向け、どのような対策を取るべきなのか。これについても様々な視点から討議が行われた。
浦川氏は、「先端テクノロジー人材やアーキテクト、データサイエンティストなどのデジタルの中核人材は、人体でいえば体幹や血液のような存在。しかし、体幹や血液だけでは人体は成り立たないのと同じで、IT人材だけではDXは実現しません」と指摘。「そのためには、ゼロからビジネスがデザインできる人材や、1を100にも1000にもスケールできる事業家が必要です。ビジネスとITの両軸から、横軸でどんどんシェアしていけるような経済圏の構築が望まれます」と期待を語った。
次に中村氏は、「教育面では、『地域 DX人材を育てるカリキュラム』の開発に加えて、『産学官連携で全国展開するためのソリューション』が必要となります。これらはオンラインも活用しながら、短期施策としてすぐにでも取り組む必要があるでしょう。モバイル世代が社長になるまでの10年をどう乗り切るかが勝負となります」と述べた。
いかにスピード感をもってデジタル人材の育成に取り組むか。これについて和泉氏は、「まずは位置情報、地図情報、気象情報といった業界横断的な領域から、産学官でアーキテクチャを作り、その上で地域のエコシステムや顧客体験を作っていく。このミドルアウト戦略が短期的なカンフル剤として必要です」と強調。「日本の産業競争力を強化するには、教習所を作ってペーパードライバーを量産するような、従来のIT政策ではうまくいかない。産学官で協力し、一気にインフラを作れるかどうかがカギとなるでしょう」と語った。
最後に、今回のファシリテーターを務めたデロイト トーマツ コンサルティングの森 修一氏は、一連の討論を受け、「デジタル人材の育成は、産学官が力を合わせて取り組むべき課題」と指摘。「このスピード感に追随できるフレームワークをいかに創るかが、非常に重要なポイントになるでしょう」と語り、本セッションの結びとした。