一気に高まったかにみえるデジタル活用への意識だが、まだDXの領域にまで至っていないケースは少なくない。そうした中、新しいアプローチで日本の強みを生かすDXを提案しているのがテクノスジャパンだ。同社が提案しているのが「DX=ERP×CRM×CBP」というコンセプト。多くの企業が既に導入しているERPとCRMを新しいサービスで接続することでサプライチェーン全体の最適化、そして、高度なデータ活用を実現しようとしている。
桔梗原 コロナ禍をきっかけに企業のデジタル活用が加速しています。現在の状況をどのように見ていますか。
吉岡 デジタルに対する考え方は、この1年で大きく変わったと感じています。採用されているデジタル技術自体の多くは以前から存在していましたが、これまではあくまで一部の人が扱うものという認識だったのではないでしょうか。ところが現在は、企業の経営層やユーザー部門など、より多くの人がデジタルについて真摯に考え、積極的に利用するようになってきています。
桔梗原 とても良い変化だと思いますが、課題も見えてきているのでしょうか。
吉岡 企業のデジタル投資は旺盛にはなっているものの、DXという点では、まだ部分的なデジタル化に終始している企業が少なくないように感じます。
よく言われるように、デジタル化にはデジタイゼーションとデジタライゼーションの段階があり、その先にDXがあります。目の前の業務をデジタル化するだけでも一定の効果は得られますが、これからのニューノーマル社会で競争力を発揮していくには、より大きな変革が必要です。
桔梗原 デジタイゼーションやデジタライゼーションを超えて、DXを推進していくためには何が必要でしょうか。
吉岡 大きく4つのポイントがあると考えています。1つ目はトップダウン。経営者自身がDXの腹を決め、継続的に関与することです。2つ目は、業界全体で流れるデジタルデータを起点に業務を改革するデータドリブン経営・業務を実践すること。3つ目は、デジタルデータ指標としてKGIやKPIを明確にすること。そして4つ目は、自社内で完結させず、得意先や仕入先など企業間の垣根を越えて、Win-Winの関係を構築することです。
桔梗原 それに対してテクノスジャパンは、どのような提案を行っていますか。
吉岡 テクノスジャパンはERPやCRMの導入支援や運用支援、および双方の連携による経営基盤の強化を事業の大きな柱としてきました。そこにCBP(Connected Business Platform)を組み合わせた「DX=ERP×CRM×CBP」というコンセプトを提唱しています。
桔梗原 ユニークな方程式ですが、具体的に解説していただけますか。
吉岡 既に多くの企業がERPとCRMを導入し、経営&顧客情報という、最重要な2つの基幹データの管理を行っています。私たちは、それらのデジタルデータを取引先とつなげることによって、もっと有効活用できると考えています。そのために開発したのがCBPです。
CBPは、複数の企業のERPやCRM同士をつなぎ、会社間の共通データ管理ができるデジタル取引業務基盤としての役割を担います。それにより、得意先や仕入先を含めたサプライチェーン全体で、シンプルかつ整合性の取れたデータ管理とコミュニケーションの効率化を実現します。
取引業務において、受注と発注、納品・請求と検収は裏表の関係ですが、現在、それらの業務は各社が独自のやり方で行い、個別に管理されています。
それに対してCBPは、注文決済サービスとして受発注や入出荷、請求入金情報などの企業間の取引事実の受け渡しを行い、各社の基幹システムの間を取り持ちます。サプライチェーンを構成する各社がCBPを取引の共通基盤として利用することによって、各社のERPとCRM、ひいてはサプライチェーン全体を矛盾や認識違いなく連携させることが可能になるのです。
企業間連携の仕組みとしてはEDIがありますが、EDIは主に企業間1対1でデータを受け渡すことに主眼が置かれています。そのため取引先、得意先の数だけ仕組みを作ることとなり、注文、入出荷、請求など業務ごとにバラバラな接続となりがちですが、CBPは最初から多対多の視点で複数企業間をつなぎ、サプライチェーン全体で取引事実のライフサイクルをカバーできるよう設計しています。
テクノスジャパンが考えるDXコンセプト
企業システムを太陽系と見立てると、太陽の周りを惑星が回っているように、ERPを中心に複数のシステムが変化や成長の余地を残したまま疎結合で連携し合っている。その外側には、同じ構造を持つ仕入先や得意先のシステム群が、別の太陽系として存在。CBPが、その太陽系同士をつなぐことでサプライチェーン全体の最適化を実現する
桔梗原 サプライチェーン全体でデータをつなぐことが、どのような価値につながるのでしょうか。
吉岡 まず、各社の取引業務のうち、注文~決済業務をデジタル化するだけでも相当の効果があります。そして、データを起点に各社の取引業務が連携した先には、DCM/SCMの最適化が図れると考えています。
先に述べたように、企業の取引情報は、取引先や得意先で裏表の関係でつながっていますが、その業務と業務をつなぐために発注書や請求書のような書類(証憑)が存在し、各社は、その紙をやり取りした上で、各社の基幹システムに転記しているわけです。一方、CBPでお互いの基幹システムがつながり、会社間共通データとして管理されていれば、その必要はありません。取引事実を共有するわけですから、途中で手違いが生じる危険性も排除でき、大幅な業務効率化につながります。
この価値によって、まずはCBPを広く浸透させることを目標としますが、私たちはさらに大きな価値を目指しています。これらのデータは、サプライチェーン全体で蓄積することで新しい意味を持ち、市場を理解するためのインサイトにつながります。まずは決済注文サービスとして取引業務改革のお手伝いをし、その後、ERP×CRM×CBPのデータを組み合わせ、各業界のDCM/SCMの最適化に貢献することで、データドリブン経営・業務のカギとなるプラットフォームに育てたいと考えています。
桔梗原 ERPやCRMは、既に企業にとって欠かせないシステムですが、CBPがその価値をさらに高めてくれるのですね。
吉岡 私はCBPによって実現する環境をまさに「Beyond ERP」領域であると考えています。そして、製造業を中心にBtoB領域が強い日本だからこそ、世界に先駆け、この環境を実現し、新しいバリューチェーンとして発信していけると確信しています。今後も、私たちが信じるDX=ERP×CRM×CBPを強力に推進していきます。
DCM=デマンドチェーンマネジメント SCM=サプライチェーンマネジメント