安川電機を中核とする安川グループのIT企業として1978年に創業し、新たな技術を積極的に取り入れたソリューションを提供してきたYE DIGITAL。遠藤 直人社長は、パンデミックは新型コロナウイルス感染症だけで終わりとは限らず、今後のニューノーマル時代に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が不可欠と語る。なかでも重要なのが、中小企業のDXをどのように推進していくか。さらにその先には、スマート化によるサステナブルな社会の実現があるという。
桔梗原 コロナ禍で働き方や価値観は大きく変わりました。企業にはどのような施策が求められるとお考えですか。
遠藤 先が見通しにくいニューノーマル時代を勝ち抜くには、DXが不可欠だと考えています。現在は新型コロナウイルスが問題になっていますが、パンデミックはこれで終わるわけではありません。歴史を振り返ると、1回ごとの規模は小さくなってはいるものの、以前よりも頻繁に発生していることが分かります。このような状況に対応するには、デジタル化が欠かせません。特に重要なのが中小企業のDXです。
桔梗原 確かに大企業ではテレワーク導入が進みましたが、中小企業ではなかなか難しいという声を聞きます。
遠藤 中小企業に共通する悩みは、紙や電話機、ファクスなど、オフィスにしかないものが数多く存在し、情報共有や進捗管理もオフィスでしかできないケースが多いということです。「オフィスにしかない」をなくすことで、職場のコミュニケーション革命を起こすことが求められます。製造現場についても、デジタル化による生産性の改善が必要です。そしてその先には、スマート化によるサステナブルな社会の実現があります。
桔梗原 課題を解決するには具体的に何が必要なのでしょうか。
遠藤 中小企業にはデジタル投資への十分な資金力がないので、自治体による支援が欠かせません。ここで重要になるのが、支援の結果どのような効果やメリットが生まれたかを、明確な形で可視化することです。当社は新社屋移転を機に2018年度からワークスタイル変革を推進していますが、労働生産性は2年間で21%向上し、残業時間も年間24%削減しています。このように効果を数値化してはっきりと見せることで、取り組みを継続できるようになるのです。
桔梗原 中小企業のDX推進に向けた自治体へのアプローチは既に始めているのですか。
遠藤 ある自治体に対して提案を行っています。中小企業にとってDXをもっと分かりやすく、身近に取り組めるように支援する提案です。当社には、IoTプラットフォームである「MMCloud」や、ITの導入効果を引き出す運用を支援するカスタマーサービス拠点「Smart Service AQUA」、さらにはユーザー定着サービスやコンサルティングサービスもあります。これらを組み合わせた基盤の上で複数の賛同企業のソリューションを動かし、地場の中小企業に提供することでDXを加速していく、というのがその具体的な内容です(図)。
図 YE DIGITALが提案している中小企業向けDX支援策
注目すべきポイントは、活用状況を可視化できる同社の基盤の上で、複数の賛同企業のソリューションを動かしている点にある
桔梗原 複数の賛同企業が一緒になってDXを支援するというのは、1つのモデルケースになりそうですね。
遠藤 ここで特に重要なのが、当社のDXプラットフォームによって、システム活用状況を可視化できるということです。実はこの提案を最初にしたときから「効果が分かるようにしてほしい」という要望を、自治体からもいただいていたのです。効果が見えれば単年度だけで終わることなく、次の取り組みにつながっていきます。既にこの自治体では、導入に向けた検討が進められています。
桔梗原 可視化に力点を置き、効果を実感してもらうことが継続につながるわけですね。
遠藤 当社のSmart Service AQUAは、SAP・ERPなどの運用監視をグローバルで進めています。中には4000台に上るPCを管理している事例もあります。管理対象となる拠点の温度や、その場所の気象状況も把握できるようになっており、グローバルIT企業のサポートと比較しても遜色ないと自負しています。
桔梗原 スマート化によるサステナブルな社会の実現に向けては、どのような取り組みを進めているのですか。
遠藤 IoTを活用して社会課題の解決に寄与する取り組みを「ソーシャルIoT」と名付けて進めています。その1つの例が、フードテック領域への応用です。食品製造の現場でこれまで人でなければ対応できなかった検査を、AIが学習することで代行していこうというものです。当社には「MMEye」というAI画像判定サービスがございますが、特に注目していただきたいのは、単に不良品を検知するだけではなく、結果を分析し、原因推定から製造工程へのフィードバックが支援できることです。専門家が即座に改善することでフードロスを減らせます。
もう1つ紹介したいのが「スマートバス停」です。バス停留所に設置されている時刻表をスマート化し、時刻表の物理的な書き換えを不要にするというものです。電源を確保できる繁華街では、液晶パネルで動画を配信することで広告収入も確保できます。電源がない場所では、電子ペーパーを採用しました。消費電力が少なく、電池だけで数年間稼働します。このように省エネと配信方法のバランスを重視することで、事業者に無理のないサステナブルなシステムの構築・導入が可能になります。当初は西鉄グループとの取り組みからスタートしましたが、現在では全国15事業者へと活用が広がっています。
桔梗原 DXによって社会課題を解決し、SDGsの達成に貢献しているわけですね。
遠藤 「DXは難しい」という声は少なくありませんが、私たちはDXをもっと分かりやすく、ぐっと身近なものにしていきたいと考えています。その目的は、働く皆さんの仕事をハッピーにするとともに、社会や生活もハッピーにしていくことです。DXが進んでいくことで、生産性が高く、ゆとりのあるニューノーマルが実現できるはずです。