日経クロステック Special

東北から支える未来の通信インフラ アルチザネットワークスの挑戦 東北から支える未来の通信インフラ アルチザネットワークスの挑戦

道行く車はすべて無人の自動運転で、商談やショッピングはバーチャル空間のメタバー
スでこなし、難病も遠隔地に住む名医が診察や手術をして治してくれる――。様々
なモノやデータが超高速でつながる5G時代になると、夢のような世界がいよいよ
現実になってくる。実現のカギとなるのは通信インフラで、5Gが期待通りの性能
を発揮し安定稼働するには基地局の品質が今まで以上に重要となる。この品質を
担保するためのテストに欠かせないテスト装置を提供し、長年に渡って日本の通信
インフラの安定稼働を支えてきたのがアルチザネットワークスだ。テストのプロ
フェッショナル集団が、通信インフラの未来を描くために始めたのが、世界的にも珍し
い5G基地局のテストサービスである。

日本の通信を「テスト」で支えてきたアルチザネットワークス

アルチザネットワークスの創業は1990年に遡る。当初は有線通信の計測器を開発・提供することから事業を始め、3G通信の登場以降は基地局のシミュレーターなど無線通信にビジネスの範囲を拡大。4G/LTE、5Gと移動体通信が進化する中で、通信規格に従って無線基地局が通信負荷に耐えうるかを担保するための負荷テスト装置を中心に製品を提供してきた。

これまで市場に投入してきた負荷テスト装置は、LTE基地局向けの「DuoSIM」や5G基地局向けの「DuoSIM-5G」など。中でもDuoSIM-5Gは、5G基地局に対して世界で最も強力な負荷を掛けられるテスト装置である。自社開発の技術でニーズに対応してきたこれらの無線通信テスト装置は、国内市場では競合になる製品がない唯一無二の存在でもある。新しい通信規格が次々に生まれる移動体通信の世界では、アルチザネットワークスのテスト装置があってこそ、ベンダーやキャリアは信頼性の高い無線基地局の開発やサービスを提供できるのだ。

国内で2020年に商用サービスが始まった5Gに続き、今後はBeyond 5G・6Gと通信規格は進化していく。それに合わせて試験方法の見直しや、新たなハードウエアの開発も必要となるが、アルチザネットワークスでは既に6G時代を見据えた体制の強化に着手している。

世界でも画期的な基地局テストのサービスを事業化

テスト装置を開発・提供することで日本の通信インフラを縁の下から支えてきたアルチザネットワークスが新たに乗り出したのが、基地局のテストを実施するサービスである。創業者で現会長となる床次隆志氏が、一橋大学大学院教授 楠木建氏から「基地局のテストをサービスとして提供したらいい」という提言を受けて、短期間で具現化した。

テスト装置を購入するベンダーやキャリアが欲しいのは、テストの装置ではなくテストの結果である。5GからBeyond 5G、6Gへと進化していく中で無線基地局は一段と複雑化し、それに伴いテスト装置も高額になることが予測される。新しい規格が出る度に社内にテスト環境を用意するのは時間とコストがかかる。そのためベンダーやキャリアが必要なテスト結果を提供するサービスにはニーズがあると考え、世界でも先頭を走るサービス開発にいち早く取り組んだ。

新サービスの拠点となるのが、岩手県滝沢市にある「滝沢テレコムテストセンター(T3C)」というテストラボだ。約5年前にソフトウエアの開発拠点として建設した「滝沢デベロップメントセンター(TDC)」に隣接して2021年3月に新たに開設した施設で、ここで国内外の5G基地局のテストをサービスとして展開している。

右手前の建物が「滝沢テレコムテストセンター(T3C)」、奥に見えるのが「滝沢デベロップメントセンター(TDC)」 右手前の建物が「滝沢テレコムテストセンター(T3C)」、奥に見えるのが「滝沢デベロップメントセンター(TDC)」

拠点を滝沢市に構えたのはなぜか。TDCのセンター長を務める吉田恭三氏は、「都市部に加えて地方に拠点を持つことで技術人材を集められるのではという仮説を立てて開設しました」と経緯を説明する。その後、隣接する岩手県立大学のソフトウエア情報学部と交流しながら人材確保に結びつけて、開発拠点としての力を付けてきた。基地局テストのサービス化に向けた取り組みを始めた当初はTDC内部のラボを転用。しかし、反響があり多くの顧客の要望に応えるために専用の試験ラボ設備としてT3Cを建設することとした。

アルチザネットワークス 開発統括本部 滝沢デベロップメントセンター センター長 吉田 恭三氏

アルチザネットワークス

開発統括本部

滝沢デベロップメントセンター

センター長

吉田 恭三

T3Cの責任者であるセンター長の松田英志氏は、「T3Cには5つのラボがあり、それぞれ独立した環境を備えています。現時点では4G/5Gの基地局に対して負荷テストが可能な装置を3つのラボで稼働させて、基地局の負荷試験を実施しています」と説明する。

T3Cで提供するサービスには、3つの形態がある。(1)ラボの物理的な場所を提供するケース、(2)テスト装置と場所を含めてレンタルするケース、(3)基地局の設備を持ち込んでもらいテスト作業まで丸ごと引き受けるケース――だ。場所やテスト装置をレンタルする(1)と(2)のケースではベンダーやキャリアから技術者が常駐することもある。そのために、家族でも暮らせるほど快適で長期滞在が可能な宿泊スペースをラボの2階に用意している。複数の企業が同時にラボを利用することを想定し、それぞれのラボは独立させて機密が漏れる心配がないようセキュリティを確保している。

基地局装置の持ち込みとテスト装置の設定さえ完了していれば、テスト作業の運用や管理は遠隔地から実施できる。「委託試験ならば当社のスタッフがTDCの事務所から遠隔操作できますし、レンタルの場合には国内外を問わずお客様の拠点からリモートでテストをするケースもあります」(松田氏)。様々な形態で、無線基地局のテストが可能な環境が整えられている。

通信インフラの品質確保に貢献するT3Cサービス

実際のテストはどのように行われているのだろうか。松田氏は「移動体通信の規格に従って多くの機能を備えている基地局は、設置場所などに対する要求条件も異なります。規格が求める機能が正しく実装されているか、新しく規格に追加された機能に対応しているかをテストするほか、都市部と田園地域のような人口密度の違いを想定した通信負荷に対して正しい動作をするかのテストもします。1回のテストは2時間ほどですが、1つの基地局に対して非常に多くの種類のテストが必要なため、長期の滞在になるケースもあります」と語る。

アルチザネットワークス サービス事業本部 滝沢テレコムテストセンター 松田 英志氏

アルチザネットワークス

サービス事業本部

滝沢テレコムテストセンター

センター長

松田 英志

SDGsに対する企業の取り組みが注目されている現状では、テストにかかる電力量も悩ましい問題だ。基地局やテスト機器が並ぶ1つのラボの電力使用量は、通常家庭の数十倍ほどにもなるという。カーボンニュートラルを目指しCO2排出量の削減が求められる中で、ベンダーやキャリアにとって外部のテストサービスを利用するメリットは大きい。

問題の切り分けを目的とした利用も増えている。「アルチザネットワークスのテスト装置を所有している顧客が、社内のテストで発見した問題についてT3Cで同様のテストを実施して再現性を確認するケースがあります」(吉田氏)。基地局は、文字通り通信のインフラとしていったん稼働を開始すると簡単に停止できないため、フィールドに設置する前にトラブルの原因となり得る問題については事前に把握しておきたい。松田氏は「通常の量産ラインで行われる出荷試験では製品が正常であることが求められますが、私たちのテストではどれだけ問題を事前に検出できるかが成果につながります。市場に出す前に問題を見つけて事前に対処することで、通信インフラの品質確保に貢献しています」と力を込める。

テスト装置や基地局環境を設置できるラボ
長期滞在が可能な宿泊スペース
テスト装置や基地局環境を設置できるラボ(左)、長期滞在が可能な宿泊スペース(右)

多様なテストのサービス化を視野、地方活性化にも期待

T3Cをオープンさせたことで、アルチザネットワークスの事業ポートフォリオには、いわゆる物売りに加えてサービスが加わった。「設計後の試験はT3Cで請け負えるようになりました。一方で、設計の前工程にも多くの機能試験があり、そうしたテストもT3Cで請け負えるようにしていきたい」(松田氏)と語る。一方、ベンダーやキャリアにとっては、より多くのテストをT3Cに委託することで、リソースを付加価値の高い競争領域に向けられるWIN-WINの関係を実現できる。T3Cが、通信インフラを支える業界全体の効果的な進化への貢献につながるわけだ。

さらにT3Cでは、工場やキャンパスなどの特定エリアで専用の5Gネットワークを構築するローカル5Gや、2030年以降の6Gに対応した機器のテストも想定している。「ローカル5Gをマーケットが広がるチャンスとして捉え、今後ニーズに応じて短期間のテストサービスなどを検討していきます」と松田氏は語る。

アルチザネットワークスが技術拠点を滝沢市に置くことは、周辺地域の活性化につながっている。TDCの吉田氏はアルチザネットワークスの生え抜きだが、岩手へのUターン組である。機器ベンダー勤務後に 岩手へUターンして技術職を探していたT3Cの松田氏はアルチザネットワークスに出会い現職に就いた。既に岩手県立大学の卒業生が何人もアルチザネットワークスの社員として活躍している。「当社にとって人材不足の中で優秀な人材を確保することができますし、地域にとっても優秀な若手の流出を抑え、地方創生や地元の経済活性化にも一役買えていると思います」と松田氏は微笑む。

岩手県立大学の卒業生も多い、若い力が溢れるアルチザネットワークスの滝沢拠点 岩手県立大学の卒業生も多い、若い力が溢れるアルチザネットワークスの滝沢拠点

アルチザネットワークスの知名度は、一般的には限定的かもしれない。だが、世界でも最先端の技術を持ち、物売りからサービスへのシフトを進める技術企業として、世界の通信インフラを支えている。「自分たちがテストしたものが社会に貢献できている喜びは非常に大きいものがあります」と松田氏は語る。吉田氏も、「通信インフラがどこでも間違いなく使えるだけの品質を担保するための製品やサービスを提供することで、社会に貢献している実感が持てます」と、その魅力を語る。本社のある東京都立川市に加えて、滝沢市に拠点を設けたアルチザネットワークスは、技術と人材を通じて広く社会へ貢献する挑戦を続けている。

株式会社アルチザネットワークス

東京都立川市曙町2丁目36番2号ファーレ立川センタースクエア

Tel.042-529-3494