3年目に突入したコロナ禍。これまで多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を試みてきた。本誌でもその様子を追ってきたが、企業内DXの推進や業務効率化がスムーズに進まない事例はいまだ多い。こうした状況を踏まえ、今回焦点を絞ったのは「チャットボット」。有識者による講演や先進事例が集約し、盛況のうちに幕を閉じたセミナーの詳細をレポートする。チャットボットの最新動向、さらなる生産性向上・業務改革を実現するための導入・活用方法について様々な角度から紹介。DX推進のヒントがここに凝縮された。

主催者講演

三井住友銀行

先駆者、三井住友銀行が語る
AIチャットボット導入の勘所せっかく入れても使われない、そんな状況に陥らない

三井住友フィナンシャルグループ
IT企画部 上席推進役
三井住友銀行
システム統括部 上席推進役
森 敦夫 氏

三井住友銀行では2017年からチャットボットを活用し、各種問い合わせ業務の効率化を推進してきた。同行の森氏によるとチャットボットの導入は、まずITに関する社内問い合わせ業務から始めたという。その後に人事関連や金融市場関連業務、さらには顧客の照会業務の一部へと領域を広げていく。現在では三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMFG)全体にも展開し、実に6社52業務でチャットボットを活用している。

こう書くと、チャットボット導入は特に問題もなく順調に進んできたかのようにも思える。しかし森氏曰く、実際にはある程度プロジェクトが進んだところで「想定していなかった課題に直面した」という。当初想定よりも、チャットボットの利用件数が思うように伸びなかったのだ。

そこで同行では、不調の要因を探るべく調査を実施。結果、6つの原因があることを突き止めた。順に列挙すると「チャットボットの認知不足」「電話する習慣や文化の存在」「チャットボットへの不満足感」「AIエンジンの精度不足」「学習データ量の不足」、そして「管理者が登録した回答以外の問い合わせの存在」である。これら6つの課題に対し、それぞれ大幅な改善が必要という結論に至った。

それでは実際のところ、いかなる対策が講じられたのか。まずは精度不足の解消だ。「管理者が回答を準備する運用負担軽減、話し言葉の理解度向上、回答精度改善を目的に、進化の著しい最新技術を活用してAIエンジンのレベルアップを行いました」(森氏)。さらに認知向上のため、フクロウをモチーフとした同行のチャットボットのマスコットキャラクター『みどリエ』を展開、行内で宣伝活動を実施したことも効果的だった。

「加えてアクセス性向上を図るため、社内コミュニケーションツールへのチャットボット照会機能組み込みも実施しました」(森氏)。こうした各方面からの取り組みが功を奏し、利用件数増に成功したと森氏は振り返った。

講演の終盤、森氏は「SMFG内に散らばる知恵をチャットボットに集約し、分からないことは『みどリエ』に聞けばなんでも答えてくれるという状態をめざしてグループ各社、グローバル拠点を含め、導入業務を拡大させていく」という将来構想を掲げた。その実現には「従業員全員がデジタルツールを活用するというマインドへ、変わる必要がある」ことを強調する。まさに現在、SMFGでは知識詰め込み型ではない、このマインド変革を重視した「デジタル変革プログラム」を約5万人の全従業員を対象に実施しているという。森氏は最後にこのことに触れ、講演を締めくくった。

主催者講演

花王

人と組織のトランスフォーメーション、ナレッジも蓄積
部門横断で効果が波及する好循環ユーザー部門に寄り添った花王のDX推進体制

花王
中期経営戦略部門
デジタル事業創造部 部長(渉外担当)
コーポレート戦略部門 先端技術経営改革部
部長(デジタル運用担当)
内山 徹也 氏

2018年4月に先端技術戦略室を設立した花王。当時の専務執行役員が室長となって強力なトップダウンのもと、情報システムなどの関連部門を巻き込みDXを推進してきた。2019年12月の発展的解消後は、同室のメンバーが各部門に分かれて社内外のDX実現へ動く。花王ではシステム導入時に、内山氏が所属する先端技術経営改革部(SIT)がベンダーとユーザー部門の間に入って情報の蓄積・精査を行う。各部門との対話や要件整理を重ね、決裁はスピーディーに。導入システムの優劣をSIT内で見極め、情報集約化してから全社的に展開。これが大まかな流れだ。

花王がチャットボットの導入検討を始めたのは2019年。問い合わせ対応の業務能率化以外にも、ナレッジの共有や人財育成、様々な情報の検索性向上など幅広いシーンで活用できないか――そう考えた同社は、サポートの手厚さ、UIの簡便さ、コストの3点を重視し複数ベンダーの情報を収集。2社に絞り込んでPoCを実施した内山氏は「部門内で使い続けられるかと、自社に合ったソリューションかを見極める点で、一度はPoCを行うべき」と振り返る。

PoCを通し、継続的なメンテナンスや精度の改善が重要と内山氏は改めて確信。2社のうちアフターサポートが特に手厚い方を選択し、契約締結、支払手続き、全体窓口をSITが担当した。「ユーザー部門にはチャットボットの運営とFAQ整理に注力してもらいました」(内山氏)。使いたくなる仕掛けとして、画面にはアイコニックなキャラクターを用意。利用者に分かりやすい環境を作ることも重要と述べる。初期導入部門では、月間平均で約34時間の削減効果を得た。さらに部門としていかなるFAQに対応していくべきかという、ナレッジも蓄積された。その後花王では、新システム導入時に最初からチャットボットをセットで準備することで、業務能率化に大きく貢献することができたという。

今後はチャットボットを部門ごとに導入し、対応できるデバイスやFAQの種類を増やしていきたいと内山氏は話す。現在は全社統合版のチャットボットの構築を進め、部門横断型の能率化への貢献を担う。一方で、グループ全社でシステムやルールが全て統合されることは、現実的ではない。そのため、チャットボットの活用についても集約化と部門最適、機能最適とのバランスが重要だと語る。内山氏は、デジタル技術の活用を通じてトランスフォーメーションするのは人、そして組織だとした上で「最初に導入した部門は、まったくデジタルとの接点がありませんでした。しかし現在は自らチャットボットの管理運用まで担っています。さらにその部門が、他部門へ運用方法を教えていくという好循環も生まれつつあります。ツール導入だけで終わるのでなく、人および組織、さらにビジネスのあり方までを変えていくのがDXだと理解しています」と講演の最後に話している。