キャッシュレス決済の進展により、現金決済では記録されない取り引き・属性データの蓄積が進んでいる。そこで三井住友カードは、こうしたキャッシュレスデータと多様なデータを組み合わせた分析で、加盟店の経営戦略立案やマーケティングを支援するサービス「Custella(カステラ)」の提供を開始した。ただし、同社にとってこれまでに前例のないサービスであるだけに、乗り越えるべきハードルが数多く存在したという。ここでは新サービスの概要やメリット、それを支える仕組みについて紹介したい。

企業の競争力向上に加え、
生活の質向上や社会課題解決を目指す

海外に比べ、これまでキャッシュレス比率が低い傾向にあった日本だが、少子高齢化や労働力人口の減少を背景に、政府も決済の省力化や利便性の向上が期待できるキャッシュレス化の推進に本腰を入れ始めた。これによりクレジットカードやデビットカード、電子マネー、QRコード決済など多様なキャッシュレス決済が年々広がりを見せている。

日本におけるクレジットカード事業の草分けとして1967年に創業し、常に先進的なサービス提供で、キャッシュレス決済市場の発展に貢献してきたのが三井住友カードである。

同社はキャッシュレス社会の本格化に向け、2019年にキャッシュレス決済戦略の新たなキーメッセージ「Have a good Cashless.」を掲げ、利用者と加盟店(事業者)双方の顧客目線で、様々なサービスのレベルアップを図る事業を展開。その一環として、加盟店をはじめとする幅広い企業や自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するデータ利活用サービスを提供している。

「社内に蓄積された膨大なデータの利活用は、企業の競争力向上だけでなく、個人の生活の質向上や、社会課題の解決につながる点でも大きな意義を持っています。その一方で、自社が保有するデータだけでは効果的な経営戦略の立案やヒット商品の開発、有効な販売促進手法などが見いだせないお客様、データの活用方法自体に課題を抱えているお客様も多数存在します。そこで、当社が保有するキャッシュレスデータと最先端のテクノロジーをベースに、幅広いお客様の課題解決を支援することをミッションとしているのが、我々『データ戦略部』です」と同社の白石 寛樹氏は語る。

マーケティング支援サービス
「Custella」の提供を開始

2020年4月に新設されたデータ戦略部では、取引先加盟店のリアル/ネット店舗双方の膨大なキャッシュレスデータや市場に存在する様々なデータを組み合わせたデータビジネスの企画・開発・推進を担当する。

このため生え抜きの社員だけでなく、異業種において多様な経験を積んだキャリア入社のデータアナリストやデータサイエンティスト、専門的なスキルを持つITエンジニアなどのプロフェッショナルを多数擁しているのも、大きな特徴となっている。

このデータ戦略部が中心となって新しく立ち上げたのが、マーケティング支援サービス「Custella(カステラ)」だ。

Custellaでは、まず三井住友カードが保有するキャッシュレスデータを、個人・加盟店が特定できないように統計化された顧客属性データ(新規、リピーター、インバウンド、年代、男女、地域など)に変換。それを集計・分析して提供する。同サービスを利用する加盟店や企業は、オンライン分析ツール「Custella Insight」を活用し、統計化された自社の購買実績データと業界消費動向データなどを、平日、休日、時間帯、エリアなど、様々な切り口で閲覧することができる。顧客行動がビジュアライズに可視化できるようになるため、効果的な販売戦略やプロモーションの立案などに役立てることが可能だ。

また、様々な消費トレンドの分析を毎月レポート形式で提供する「Custella Trend」は、利用者属性ごとの消費傾向比較や全43業種ごとの消費動向分析などから、いち早く顧客行動の変化をとらえ、今後の顧客動向を予測するヒントとして利用できる。このレポートは、カード加盟店以外でもWebからの無料配信サービスとして閲覧可能だ。

(出典:三井住友カード)

もう一歩踏み込んだサービスとなるのが、オーダーメイド分析受託「Custella Analytics」だ。これは加盟店や企業などが持つ個別の課題やニーズに対し、キャッシュレスデータと企業が保有するデータ、天候データ、クチコミデータなどを掛け合わせた分析や、独自の切り口での詳細分析、考察レポートなどを提供するサービスである。

「お客様からは、新規のビジネスやサービスを開発しようとする際、どのような顧客層にアプローチすべきか分からないというお悩みが多く寄せられます。そのような場合は、ビジネスの内容や課題を詳細にヒアリングした上で、お客様の既存顧客だけでなく、幅広い業種の購買行動や属性データをAIや機械学習の手法を使って分析していきます」と語るのは、同社の小林 史和氏だ。

さらに、Custella Analyticsによるデータ分析を起点に、購買意欲の高いカード会員に向けたDMプロモーションを行うサービスが「Custella Promotion」である。分析だけでなく、ターゲットとなりそうな購買意欲の高い顧客層に、DM(ダイレクトメール)やe-DM(メルマガ配信、メール配信)などの販促施策と連携させた具体的なアプローチやアクションを行い、効果検証のPDCAを回していく。顧客企業とは異なる他業種での利用傾向データを掛け合わせ、DMに反応した消費者のペルソナ像(人物像)を可視化することも可能で、今後のプロモーションのターゲット設定に活用することができる。

販促と同様、新たな出店計画を支援する際にも、キャッシュレスデータを活用した商圏分析や、富裕層・中間層などの購買エリア分析、国籍の内訳も含めた詳細なインバウンド分析などのレポートと具体的な施策が、顧客の要望に応じて提供される。

加盟店、消費者を巻き込んだ新たなサービスを共創

Custella AnalyticsとCustella Promotionは、個々の加盟店に合わせたオーダーメイドの分析&具体的な打ち手の提供となるだけに、顧客企業の経営戦略を支援するコンサルティングに近いサービスとなる。

「多くの小売業は、自社店舗での購買行動は把握できても、その前後に同じお客様が、どのエリアでどのようなお買い物をされているのか、休日にはどこでどのようなことをして楽しまれているのかといった、外の世界の購買行動をとらえることは難しいと考えています。しかし、当社のキャッシュレスデータを使えば、個々のお客様の購買行動をベースに、メインとなる商圏やライフイベント、趣味嗜好などをトータルに深掘りし、新たなアプローチを採ることができます」と小林氏は説明する。

Custella AnalyticsとCustella Promotionによる販売戦略・プロモーションの最適化は、エンドユーザーである消費者にも、心地よい顧客体験を提供する。例えば、誕生日や結婚記念日といったライフイベントに合わせたタイミングで、お気に入りのショップから最適な商品やサービスなどの情報が提供されれば、パーソナライズされた有意義な購入体験でカスタマーエクスペリエンスを一段と高める効果がある。まだ新しいサービスと巡り会っていないエンドユーザーへのアプローチは、そのショップやサービスを知る、いいきっかけにもなるだろう。

「Custellaは、事業者の皆様に新たな価値提供を行いながら、消費者目線で求められるサービス開発や、コミュニケーション手段の高度化も含め、新しいビジネスを共創していく側面も持っているのです」(白石氏)

Custellaはデータ分析とプロモーション戦略の事例も豊富だ。

例えば、生命保険会社A社は、自社データで既存の売上エリアは分かっても、今後ポテンシャルのあるエリアが掴めないという課題を抱えていた。そこで生命保険加入者の分析を行い、ターゲットとなる顧客属性や購買行動の特徴を可視化。その特徴に似た顧客が多く居住するエリアをターゲットとした広告出稿やセミナーの開催など、効率の高い営業戦略に貢献している。

また、百貨店B社は、新規会員の獲得を目指した効果的な広告戦略に向けて、属性や購買行動の特徴を表すターゲットモデルを作成。AIで、ターゲットモデルに似た顧客層を「見込み顧客」として抽出してDM配信を行うとともに、セグメントごとにクリック率やアプリダウンロード率を検証。PDCAを回した継続的なプロモーションで、新規顧客の拡大に成功している。

既存システムでは乗り越えられない課題が山積

このように新しいサービスとして浸透し始めたCustellaだが、同社が初めて取り組んだ外販型のアナリティクスサービスであるだけに、乗り越えるべきハードルが数多く存在したという。

「これまで社内で行っていたデータ分析は、カードやサービス利用の促進をメインとしていたので、キャッシュレスデータの分析軸やテーブルは、それほど複雑ではありませんでした。しかし今回は、様々な業種の加盟店や企業の課題を解決するため、業種ごとの商品やサービス、商圏、属性、売り上げ、時間帯といった複雑な分析軸とテーブルを用意しなければなりません。そのためデータベース構造の再設計からデータクレンジング段階でのAI適用など、やるべき作業が山積していました」と白石氏は振り返る。

一方、メインフレームで構築された基幹系システムや、長年使い続けている情報系システムは、DXで要求されるデータアクセスの柔軟性やレスポンスに課題があった。

「昨今のキャッシュレスの進展により、クレジットカードの決済データを中心にシステムが取り扱うデータ量が飛躍的に増加しています。そのため、年度末の繁忙期や月次データの更新が行われるタイミングなどでビジネスユーザーのアクセスが集中すると、処理パフォーマンスが著しく悪化してしまう課題がありました。また特定のベンダーが提供する分析アプリケーションでのプログラム言語でしかデータにアクセスできないため、例えばキャリア入社した分析担当者が前職で培ったスキルを生かしきれないことも悩みの1つでした」と小林氏は話す。

さらに、セキュリティポリシー上、クラウドサービスとの連携や外部データの活用も厳格に制限されていたため、Custellaのサービス構想を実現するには、全く別の発想でシステムインフラのアーキテクチャを考えなければならなかったのである。

Custellaを支えるデータ基盤に
スマートデータレイクを採用

レガシー基盤からの脱却と、DXの進展に向けた次世代データ活用を実現する新基盤の構築を模索する中で、同社が選択したのが、デル・テクノロジーズだ。

両社は、基幹系/情報系システムのトランザクションに負荷をかけず、膨大なキャッシュレスデータや周辺/外部データを柔軟かつスピーディーに活用できる「スマートデータレイク」の構築を決断した。これは、扱いの難しい基幹データを誰もが簡単に扱えるようにすることで、そこから得られる洞察をユーザーに広く開放し、真の意味で「データの民主化」を実現するものだ。

このデータ中心のアーキテクチャを実現するに当たり、分析システム基盤にHadoop/Apache Sparkミドルウエアを採用し、既存の日次バッチ処理データのほか、将来的なリアルタイムストリーミングデータの連携を見越したデータアクセス環境を整備した。また、これにより、既存の分析ツールのほか“R”や“Python”といった多様な言語を扱えるツールを導入し、分析体制を大きく拡大できるようになった。

そしてスマートデータレイクの中核に据えられたのが、デル・テクノロジーズのマルチプロトコル対応ストレージ「Dell EMC PowerScale(旧 Dell EMC Isilon F800)」と「Dell EMC PowerEdge R740」などのハードウエア群である。特にオールフラッシュで構成されたDell EMC PowerScaleは、CIFS/NFS/HDFS/FTP/HTTPなど、複数のファイル共有プロトコルに対応しているため、従来型のHadoopで必要だったプロトコル変換に費やす時間をゼロにし、より速い分析を可能にする。

「処理スピードが驚くほど速くなりました。例えば、機械学習用のデータマートをつくるだけで従来は丸2日、47時間程度かかっていたのですが、新システムでは同じ処理が1時間以内で完了します。また、クラウドサービスとのシステム連携が実現されたことで、手作業によるデータ更新が解消されたことに加えて、連携サイクルを短くすることができるようになり、サービス向上にもつながったのです」と小林氏は語る。

将来的な業務拡張で計算リソースや容量が足りなくなった場合も、Dell EMC PowerScaleなら計算ノードとデータノードを分けることができるため、最適なコストでの柔軟な拡張性が担保できるメリットがある。

今回の基盤構築では、デル・テクノロジーズのハードウエアだけでなく、Cloudera社を始めとする多数のソフトウエア/ソリューションベンダーの製品・サービスが使われたが、デル・テクノロジーズはこれらのパートナーと協業スキームを組み、窓口を一本化したトータルソリューションパッケージとして提供した点も高く評価された。

幅広い企業の「顧客提供価値」の拡大を目指す

処理能力の驚異的な速さ、データハンドリングの自由度の高さは、分析業務の最前線で活躍するデータアナリストやデータサイエンティストにとっても大きなポイントとなった。

「既存のシステムとは処理速度と自由度が全く違います。特に処理速度が向上したことで、クライアントにより満足していただくための分析アウトプットを出すために、分析設計、データ処理、検証のPDCAを何度も回せるようになったことはとても助かっています。また、各分析担当者が必要なキャッシュレスデータをスマートデータレイクからセルフで入手できるように様々な分析ツールを準備しています。一定の条件下であれば、新たなツールを選んでインストールすることも可能です。私が所属するデータ戦略部では、様々なスキルを持ったデータ人材がキャリア採用で集まってきているので、特定のツールに依存してしまうとなかなか活躍の幅が広がりません。新システムではツールの制約を極力解消し、自由度をあげることで、データ人材のパフォーマンスを最大限に発揮できることを目指しています。人材採用面のアピールポイントとしても期待できると考えています」(小林氏)

分析のスピードと自由度が高まることは、データアナリストやデータサイエンティストの視野の広がりと提供価値の向上に直結する。加盟店や企業が抱えている課題を解決するために必要となるデータは何か、インサイトはどこに潜んでいるか――その最適解へ近づくためのPDCAを回す回数が増えれば増えるほど、顧客との共創による新たなイノベーションが期待できるからだ。

「現在は、当社だけでなく小売業やほかの金融業のお客様も、自社のファーストパーティデータをどんどん深掘りされており、データ活用の質やリテラシーを高めています。そのため各社が得意とするデータやアイデアを持ち寄ることで今後、より高度なソリューションやサービスが創造できるという期待も大きくなっています。だからこそ我々も、Custellaのサービス価値と分析手法を磨き上げ、お客様から選ばれる共創パートナーとしての存在感を高めていきたいと考えています」(白石氏)

今後もデータ戦略部は、Custellaを活用した膨大なキャッシュレスデータと外部データ、顧客データなどを組み合わせた柔軟な分析により、加盟店をはじめとする幅広い企業との共創とイノベーションの拡大を目指していく考えだ。

三井住友カード株式会社

https://www.smbc-card.com/index.jsp

Dell Technologies

www.delltechnologies.com/ja-jp/