統合仮想化基盤構築事例/順天堂医院 ベンダー任せのシステム基盤を大改革統合仮想化基盤に刷新し、医療DXを加速

順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下、順天堂医院)はより良い医療の提供に向け、デジタルを活用した先駆的な取り組みを積極的に進めている。これを加速させるため、ほぼすべての医療情報システムを仮想化する大規模な基盤改革を決断。統合仮想化基盤の構築を進めている。既に一部システムは運用を開始し、成果を上げている。デジタル時代の医療をリードする順天堂医院の取り組みをひも解き、医療を支えるITのあるべき姿を考察する。

バーチャルホスピタルの共同実験をスタート

順天堂大学医学部附属順天堂医院 副院長
 同 医療情報センター 医療情報管理室 室長
学校法人順天堂 情報センター本部
 本郷地区情報センター センター長
順天堂大学大学院
 医学研究科放射線診断学
主任教授 桑鶴 良平氏

日本でいち早く西洋医学を取り入れた医学塾とした開設された順天堂医院。2018年で180周年を迎えた長い歴史を持つ医療機関だ。その後、開校した順天堂大学は学是に「仁」を掲げる。「人在りて我在り、他を思いやり、慈しむ心。これ即ち『仁』」という慈愛の念を一文字に込めたものである。順天堂医院をはじめとする同大学医学部附属病院もこれを医の根本理念とし、患者本位の医療を追求している。

「不断前進」の理念に象徴されるように進取の気性にも富んでいる。現状に満足せず、常に高い目標を目指す。最新のテクノロジーや治療法、医療サービスを取り入れ、医療・研究機関と連携し医学の進歩・発展にも貢献する。

出身校・国籍・性別による差別のない「三無主義」も大きな特徴である。女性研究者の割合は全国トップクラス。アジアを中心に多国籍の常勤医師、研修医、留学生が数多く在籍する。国際情勢の変化を踏まえ、ウクライナの学生・医師も15名以上受け入れているという。

こうした理念や学風から新しい医療サービスが次々に誕生している。2019年4月1日より開始した、クレジットカードによる医療費後払いサービスはその1つだ。事前登録すれば、診察後に支払窓口で会計せずにそのまま帰宅できる。「窓口の混雑や待ち時間を解消し、患者の負担やストレスを軽減するためのサービスです」。こう話すのは順天堂医院 副院長の桑鶴 良平氏だ。

学校法人順天堂 情報センター本部
 本郷地区情報センター
順天堂大学医学部附属順天堂医院
 医療情報センター 医療情報管理室
次長 杉村 雅文氏

処方薬も後払いにできる。「お薬配送サービス」と併せて利用すれば、処方薬は後日、自宅などの指定場所に届く。「医療費後払いサービスの登録者数は既に3万4000人以上。使用率は全支払いの24%で、4人に1人は使っていただいている計算です。お薬配送サービスも1日120人が利用しています」と桑鶴氏は続ける。

チャレンジはこれだけにとどまらない。順天堂医院を模した「順天堂バーチャルホスピタル」を産学連携で構築し、新しい医療サービスを研究・開発する取り組みを2022年4月より開始した。患者はアバターとしてバーチャルホスピタルを訪問し、空間内の医療従事者やほかの患者らと自由に交流できる。

「実際の治療を空間内で疑似体験し、治療に対する理解を深めてもらう。入院患者がコミュニティで家族や友人と交流し、心理的不安やストレスの軽減を図る。そんな活用法を考えています」と 順天堂の杉村 雅文氏は説明する。

今後は、臨床現場における有効性を学術的に検証し、患者満足度の向上と医療従事者の働き方改革、医療の質の向上と新たな治療法の確立を目指すという。

ベンダーロックインの弊害が医療DXを阻害

学校法人順天堂 情報センター本部
 本郷地区情報センター
順天堂大学医学部附属順天堂医院
 医療情報センター 医療情報管理室
主任 赤迫 裕太氏

先進的な取り組みを推進するためには、医療を支えるITインフラの最適化が欠かせない。しかし、医療分野はその実現が難しい“裏事情”がある。「医療情報システムは専門性が高く、提供するベンダーがそれぞれ異なる上、ハードウエアもベンダーが一括提供する形が多いのです」と杉村氏は理由を述べる。

システムおよびハードウエアの保守も含めて特定ベンダーから抜け出せないベンダーロックインが慣習化していたのだ。「医療DXには、データの一元管理やシステムをまたいだデータの連携・統合が不可欠ですが、それを実現したくてもできない状態だったのです」と杉村氏は続ける。

その結果、物理サーバー台数が肥大化し、その台数は約260台に膨れ上がっていた。設置スペースや電源、ネットワークもそれぞれ準備が必要で運用も煩雑になる。トラブルや障害発生時は専属の保守ベンダーしか対応できない。「どの保守ベンダーに依頼すべきか探し当てるだけでも大変なのに、期待するスピード感で対応してもらえない。調査しても原因特定に時間がかかることが多い」と順天堂の赤迫 裕太氏は振り返る。

ITインフラの“壁”があるため、リソースのムダも目に付いた。「ものによってはディスク容量を半分も使っていない。あるシステムのCPUやメモリ利用率は高いのに、別のシステムは余裕がある。そんな非効率な利用状況だったのです」と杉村氏は打ち明ける。

信頼・安定性の高い製品とサポート力を評価

医療機器やシステムは最新・最善のものを活用しつつ、ITインフラのベンダーロックインを脱却し、医療DXを推進する――。この実現に向け、順天堂医院はIT戦略を大転換した。統合仮想化基盤を構築し、そこに臨床系・事務系を含めた医療情報システムを集約することにしたのだ。物理サーバー台数を大幅に削減し、運用性やリソース利用効率が向上する。データの一元管理が可能になり、その利活用もやりやすくなる。

ただし、医療を支えるITインフラには極めて高い信頼性・安定性、ガバナンスを含むセキュリティレベルの確保が求められる。24時間365日、患者の生命と健康を支えているからだ。「無停止で安定稼働できることは譲れない要件です」と赤迫氏は強調する。

同時にITインフラは医療従事者や病院職員へのサービス提供基盤でもある。レスポンス性能や使いやすさも考える必要がある。順天堂医院をはじめとする順天堂大学医学部附属病院の患者数は国内最大だ。放射線画像診断システム、超音波画像解析システムなど大容量の動画像を扱うシステムも数多くある。「レスポンス性能や使いやすさを損なわず、環境変化に応じて簡単にスケールアウト/スケールインできることも重要な要件でした」と赤迫氏は続ける。

この統合仮想化基盤を支えるITインフラに採用したのが、デル・テクノロジーズ製品である。「HCI製品のVxRailやNAS製品でPowerScaleファミリーのIsilonを組み合わせた提案で、高い信頼性・安定性、セキュリティーを確保しつつ、将来を見据えたリソースの増加にも柔軟に対応できる拡張性を備えている。これを他社より低コストで導入できることが決め手になりました」と赤迫氏は話す。

統合仮想化基盤はVxRailをベースに構築するが、それと別にPowerScaleファミリーのIsilonを採用した理由について赤迫氏は次のように述べる。

「将来的には当院以外の附属病院のシステムも統合仮想化基盤に集約し、各病院の診療画像データや病理診断のデータも一元化する計画です。データ量が膨大になるため、スケールアウトによる容量拡張を念頭に置き、仮想サーバー基盤のリソースとは別にIsilonを採用したのです。Isilonは遠隔でのミラーリングが可能です。このメリットを生かせば、災害時でも必要なデータにアクセスして診療を継続できます。災害対策に加え、懸念が高まっている電力ひっ迫による停電対策も強化できると考えました」

世界トップクラスのサーバーシェアに支えられた安心感も大きかった。「世界トップクラスのシェアということは、不具合対処のフィードバックも世界屈指ということ。仮に機器の不具合が発生した場合でも、豊富な経験を基に迅速な対応が期待できます」(赤迫氏)。

実際、デル・テクノロジーズは国内にサポートセンターを持ち、4時間以内に対応するミッションクリティカルな保守体制を整備している。サーバーは運用を常時監視し、万が一、障害が発生した場合はコールセンターに自動でアラートが通知され、順天堂医院に連絡する仕組みだ。

「24時間以内の対応を売りにするベンダーもいらっしゃいますが、医療を支えるITインフラのサポートはそれでは話にならない。デル・テクノロジーズは医療の現場をよく理解しており、私たちと正面から向き合い、ユーザー目線で対応してくれる。ほかのハードウエアベンダーには見られなかった真摯な姿勢に感銘しました」と桑鶴氏は評価する。

診療画像データの表示速度が70%以上向上

こうして既存インフラを刷新し、VxRailをベースにした統合仮想化基盤を実現するプロジェクトがスタートした。移行対象は技術的に連携が難しい一部を除き、診療画像診断システム、血管造影システム、薬剤管理システム、医療事務システムなど臨床系・事務系を含めた医療情報システムのほぼすべて。方針決定後はベンダー側と綿密な調整を行い、各種システムが統合仮想化基盤と連携できることを順天堂の標準仕様に定め、ベンダーに対応を依頼した。

構築を進めている統合仮想化基盤のインフラ構成概要は図の通りだ。2022年8月までに対象システムすべての仮想サーバーを構築し、全システムを移行しての本格稼働は2023年1月を予定している。現状は全体の5割を新基盤に移行済みで、一部はその運用を開始している。

VxRailは先ず6ノードを導入。その後、医療情報システムの刷新に向け現在は9ノードで構成されている。VxRail以外の基盤も含めた統合仮想化基盤はCPUコア数は760コア、メモリは6.3TBで構成されている。仮想サーバー用のvSANストレージはオールフラッシュで現状の総容量は685TB。外付けのPowerScaleファミリーのIsilon A200は4筐体16ノード導入し、総容量は1.2PB。各ノードはPowerSwitchを用いた高速なネットワークでつながっている

以前は診療画像データの表示に時間がかかると医師からクレームが上がってくることがあったが、システムによっては性能が70%以上向上したという。「心臓超音波システムや心臓カテーテルの画像表示速度が格段に上がった。医師が画像を見たいときにすぐに見られる。タイムロスが少なくなったと好評です」と杉村氏は満足感を示す。

集約化により、サーバー台数も激減した。「50台以上の物理サーバーで運用していた画像ファイリングシステムは2台に集約できました。3ラック専有していたスペースは0.5ラックで済み、収容スペースも6分の1に激減しました。ハードウエアの保守費用も50%削減され、費用対効果も非常に大きい。消費電力も抑制できるため、その分のコスト削減も期待できます。CO2排出削減につながるため、SDGsにも貢献できます」と杉村氏は評価する。

診療をサポートする医療AIの開発を目指す

統合仮想化基盤は医療DXを見据えた運用支援機能も整備してある。それが「統合ビューア」だ。「どのベンダーの電子カルテシステムが入っても、すべてのデータを集約し、一元的に確認・活用できる。この強みを生かして医療AIの開発を進めたい」と桑鶴氏は前を向く。

医療AIに関しては、医療の安全や患者の病態把握などの活用を考えている。「例えば、検査結果で異常値が検出された。抗がん剤や抗凝固薬を処方する患者が血液検査を長期間行っていない。AIがそれを検知したら、自動で注意喚起を促す。そんな使い方を考えています」(桑鶴氏)。

医師の診療もAIでサポートする。医師はPC上で電子カルテや画像診断システムのデータを確認しながら診療を行う。一つひとつデータを呼び出すのは手間だし、時間もかかる。「医師の操作ログを分析し、次にどんなアクションを起こすかを予測し提案すれば、PC操作の時間を短縮し、患者の診療により多くの時間を費やせます。ミスを防止し、医療の安全にもつながる」と桑鶴氏は期待を寄せる。

新基盤はスケールアウトで簡単にサーバースペックやストレージ容量を増強可能だ。「データ量の増大ペースに応じてフレキシブルな拡張性を確保できたことも大きなメリットです」(赤迫氏)。将来的にはすべての附属病院のデータを集約し、データセンター化することも検討している。システムの性能向上、管理・保守性向上などのメリットもより大きなものになるだろう。

患者本位のより良い医療を提供するためには、ITおよびデジタルの進化をとらえ、機敏に対応することが重要である。「医療の質や安全の向上、患者満足度を高めるデジタル体験を実現するにはどうすべきか。今後もデル・テクノロジーズには親身な対応と有意義な提案を期待します」と桑鶴氏は述べる。

順天堂医院は2023年1月の新旧基盤切り替えに向け、引き続き統合仮想化基盤の構築と医療情報システムの集約化を進めていく。本格稼働後はこれを軸に医療DXの取り組みを加速させ、「不断前進」の理念に基づき患者および医療従事者が恩恵を受けられる新たな医療サービスの開発・提供を推進していく考えだ。

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