これまでなかなか進まなかった現場DX(デジタルトランスフォーメーション)が大きく動き出した。原動力は、マイクロソフトの Power Platform に代表されるノーコード・ローコード開発の発展だ。コードを書けないはずの現場部門がもし、自らアプリを開発し業務改善を進められたら? IT人材不足の中、期待は大きい。特に効果的なのは、SAPなどの基幹システム(ERP)へのデータ入力や基幹データを活用する、経理部門などの間接部門だ。従来、コストを抑制するためにERPの周辺開発でカスタマイズできなかった領域も、ノーコード・ローコード開発で自動化・効率化を実現できる。現場主体でIT部門が支援する新しい開発のあり方が始まっている。

ERPの標準機能と現場業務とのギャップ
人的運用によるカバーで負荷が増大

日常業務では、手間がかかる非効率な作業も多く存在している。例えば、取引先との間で大量の紙のやりとりで支払処理などを実施する場合、経理部門は目視で照合し確認作業を行う。基幹システムへの請求書情報や、支払情報などを手動で入力する際のチェックも工数と時間を要する。また営業部門からの様々な問い合わせへの対応も、経理部門の負荷を増加させる。さらにコロナ禍における在宅での経理業務では、メールで申請し確認するプロセスの中で、見落としのリスクや、紙ベースのワークフローの限界といった新たな課題も発生。コロナ禍に紙伝票を処理するためだけに出社するケースも生じた。

日常業務における非効率な作業は、これまでシステム化が後回しになってきた領域だ。従来のワークフローで業務が回っており、多少のムダ・ムリは仕方がないといった社内の雰囲気も醸成されていたのではないか。こうした現場業務におけるシステム化対応の遅れは、ERPパッケージの導入において、導入コストやバージョンアップ時の改修コストの肥大化を防ぐために、既存業務をパッケージの標準機能に合わせるといったアプローチにも課題があったといえるだろう。ERPの標準機能と現場業務との間ではギャップも多く、そのギャップを埋めるために人的運用を行い、業務負荷の増大を招く要因にもなった。

技術革新は、これまで「できなかったこと」を可能にする。人手不足の深刻化、コロナ禍に伴うテレワークの普及などにより、ニューノーマルな働き方が求められる中、日常業務のプロセス改善を推進するノーコード・ローコード開発が注目を集めている。高いスキルを必要とせず業務アプリを開発できるこの開発手法は、従来のERP周辺開発の考え方を大きく変える。

ノーコード・ローコード開発で
人的運用を極小化、開発コストも抑制

これからのERP周辺開発は、ノーコード・ローコード開発へのシフトによりシステム対応範囲を拡大し、人的運用業務の極小化を図ることがトレンドとなるだろう。これまで人手で行ってきた日常業務の非効率な作業を自動化・効率化することで、業務スピードの向上や本来業務に集中する時間の創出ができる。また、独自言語のスキルを必要とするSAPをはじめとする基幹システムの周辺開発は開発コストも高く、技術者不足が課題となっていた。独自言語開発からノーコード・ローコード開発中心に変えることで、コスト削減と技術者不足の解消も可能だ。

ノーコード・ローコード開発の革新性は、開発者の裾野拡大と開発プロセスの変革にある。コードを書けない、IT部門以外の現場部門の担当者が市民開発者として現場の業務知識を生かしながらアプリ開発を行う。またIT担当者や、情報システム構築を支援する社外のプロ開発者(SIer)は、開発の効率化やスピードの向上が図れる。重要なポイントは、3者における役割分担だ。プロ開発者に依頼する範囲は縮小し、導入コストの削減を図る。また、市民開発者の参画により業務改善アプリを自ら作成し効果を積み上げることで、現場のDXを推進する。

基幹システム周辺のノーコード・ローコード開発において、市民開発者がすべての開発を担当するのは現実的ではない。市民開発者は難易度の低いUI(ユーザーインターフェース)などを担当し、データの追加・変更・削除といった難易度の高い処理はIT部門がサポートする形が望ましい。また早期に市民開発者の開発環境を立ち上げるためには、パートナーのノウハウ活用も検討する必要がある。

開発のあり方を変革するノーコード・ローコード開発は、本格的な実践段階に入った。先頭に立って牽引しているのが、マイクロソフトの Power Platform だ。Power Platform は、PowerPoint と同様にキャンパスで描くようにアプリを開発できる Power Apps、ワークフローと業務プロセスの自動化を実現し、600種類以上のデータソースと連携できる Power Automate、BIツールの Power BI、開発者の手を借りることなくチャットボットを作成できる Power Virtual Agents で構成される。

多くの企業で Power Platform の導入が進む理由は、SAPとの連携はもとより、日常業務で利用する Microsoft 365、SaaS(Software as a Service)型のCRM(顧客管理)/SFA(営業支援)/ERPである Dynamics 365、パブリッククラウドサービス Azure をシームレスに統合し、付加価値を高めることができるからだ。例えば、コミュニケーションハブの Microsoft Teams と連携した各種自動通知などによりコミュニケーションの質とスピードの向上も図れる。

支払状況の可視化、SAPとの自動連携――
経理部門の“困りごと”を自社アプリで解決

Power Platform を利用することで経理業務はどう変わるのか。例えば、Power Apps により支払申請アプリを自社開発し、支払状況や承認状況を可視化し、最終承認したことをSAPにも自動連携し支払処理を行う。またテレワーク普及にあわせ、外出先からモバイルデバイスで基幹データを活用し業務が行えるアプリも Power Apps で開発できる。さらに、Power Apps、Power Virtual Agents を活用し、売掛債権残高、与信限度問い合わせアプリの開発も可能だ。営業からの現状の与信枠、売掛金残高の問い合わせにチャットボット形式で対応することで、営業へのレスポンス向上、経理部門の負荷軽減の両方を実現できる。

Power Automate によりSAPへの請求書情報などの登録の自動化も、効率化のメリットが大きい。定型フォーマットを Power Automate の機能である AI Builder で学習させ、受領した請求書情報を文字認識(AI)し自動的に取り込み、Power Automate for desktop(RPA)を活用しSAPへデータ登録し、登録完了後にTeamsで担当者に通知する。

Power Platform によるノーコード・ローコード開発は、市民開発者の活躍によりIT部門の負荷を軽減しつつ、内製化を図れる点が従来型開発との大きな違いだ。SAP ERP(ECC6.0)、最新世代ERPプラットフォームSAP S/4HANAの両バージョンで Power Platform の活用が進む。アドオン開発ではないため、バーションアップの際も改修コストを抑制できる。まずは個人単位、業務単位で身近な“困りごと”を Power Platform で解決し、小さな成果を積み重ね、部門や全社の業務プロセス改革へとつなげていく。Power Platform による社員のIT人材化は、継続的なDX推進を可能にし、その効果を拡大させる。

日本企業においても、現場プロセス改革に向けて Power Platform の活用が広がっている。

2000時間の経理業務削減を実現した Power Platform 活用事例として、「ペーパーレス化、電子帳簿対応に取り組む、伊藤忠丸紅鉄鋼のDXの第一歩」と題するウェビナーが公開中だ。Power Platform の活用により、「従来、当たり前だった紙文化」の変革に挑戦した経験談や、ノーコード・ローコード開発における成功の秘訣を伝授する。

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