日本のカーシェア市場は、車両ステーション数約19000カ所、車両台数約43000台、会員数約224万人と、増加傾向が続く。必要なときに気軽に利用できるカーシェアの認知が広がる中で、エリアや車両台数の拡大を求めるユーザーの声も多い。今後のカーシェア事業では、需要と供給のバランスが命運を握るだろう。車両の稼働率は、収益に直接関わるからだ。カーシェア「EveryGo」を運営するホンダモビリティソリューションズは、マイクロソフト、シミュレーションを行うオートフリートと共創し、ダイナミック・プライシングを活用。需要と供給に応じた価格戦略で稼働の平準化に挑む。

※出典:公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団による2021年3月の調査

Hondaらしさを活かしたカーシェア「EveryGo」
価格の最適化、稼働の平準化が課題に

24時間365日、必要なときにスマホから専用アプリでクルマを予約し、利用の開始・返却は無人ステーションで行う。クルマを所有するのではなく、サービスとして利用できる気軽さは、カーシェアならではの魅力だ。利便性に加え、安全性や、クルマに乗るワクワク感を大切にしたカーシェアが「EveryGo」である。「カーシェアにおいてもHondaらしさをお客様に感じていただきたい」とホンダモビリティソリューションズ 第二ソリューション部 第二ソリューション課 課長 工藤芳子氏は話す。

ホンダモビリティソリューションズ株式会社
第二ソリューション部 第二ソリューション課
課長
工藤 芳子 氏

ホンダモビリティソリューションズは、2020年2月にモビリティサービス事業の企画・実証・運営に特化した会社として誕生した。現在は、EveryGoの運営、自動運転モビリティサービスの企画、Hondaの商材を活用したサービス開発の3つの事業が中心だ。

EveryGoにおける「Hondaらしさ」について工藤氏は説明する。「EveryGo全車両に標準で先進の安全運転支援システムHonda SENSINGを搭載しています。前走車との適切な車間距離の保持、前走車・歩行者・対向車との衝突を予測しブレーキをかけるなど、様々なシーンで運転をサポートします。また軽自動車、ミニバン、SUV(Sport Utility Vehicle)などHondaの最新ラインアップが揃っています。環境に配慮したVEZEL e:HEV、EV(電気自動車)のHonda eといった話題の車種の乗り心地を楽しむことが可能です。さらに、ハイグレードスピーカーなどHonda純正アクセサリー装着車の快適カーライフを体験できます。家族の一員であるペットも、ケージに入れることで同乗が可能です」。

Honda eをはじめとする時代の先頭を走るクルマの乗り心地を体験できるのも、EveryGoならではの魅力だ

ホンダモビリティソリューションズ株式会社
第二ソリューション部 第二ソリューション課
事業開発ユニット
アシスタントマネージャー
稲葉 雅人 氏

非対面によるカーシェアでは、細かなサービス品質が求められる。EveryGoは、クルマの使い方からドライブ中のトラブル対応まで24時間365日コーディネーターが幅広くケアする。カーライフの安心・安全に対する姿勢にも「Hondaらしさ」が表れている。

カーシェア市場では、自動車メーカーや駐車場運営はもとより、金融、不動産、インターネット関連サービス、通信事業者など、様々な分野から参入が相次ぐ。競争が激しさを増す中で、競争力を高め、収益向上を図るためには、変化に柔軟に応える価格戦略が必要だ。「EveryGoは初期費用・月会費無料です。サービス料金はクルマで異なる利用料金と、距離料金のみ、ガソリン代や保険料は利用料金に含まれます。ニーズが高い8時間利用で3780円からと、リーズナブルな価格設定となっています。問題は、価格設定が適切なのか、データに基づく明確な判断基準がないことです」と、第二ソリューション部 第二ソリューション課 事業開発ユニット アシスタントマネージャー 稲葉雅人氏は話す。価格の最適化と稼働の平準化は重要なテーマであり、それらは密接に関わっていく。

3社共創で価格の最適化、稼働の平準化に向け
ダイナミック・プライシングのシミュレーションを実施

マイクロソフトとはEveryGoの現状や将来についてフランクに会話できる間柄だと、稲葉氏はいう。「2017年に、EveryGoのインフラをオンプレミスからクラウドへとシフトした際に、マイクロソフトのクラウドサービス Azure を採用しました」。サポート体制が十分に整備されたマイクロソフトであれば、開発や運用における課題に対して共に解決できるとの確信が、採用の大きな理由だった。「マイクロソフトには、技術支援はもとよりビジネスパートナーとして、定例会に限らず気軽にいろいろと相談しています」(稲葉氏)。

EveryGoの課題について稲葉氏は言及する。「土曜日・日曜日、ゴールデンウィークなどの繁忙期は需要が多いのですが、平日はなかなか利用が進みません。また、カーシェアステーションの立地によって稼働にバラツキがあります。さらに、都市部では車両を置く広いスペースの確保が難しく、ニーズに対する台数増加が思い通りに行えません」。こうした現状をマイクロソフトに話すと、ダイナミック・プライシングで稼働を平準化するという提案とともに、テクノロジーパートナーとしてフリート稼働の最適化を強みとするスタートアップ企業、オートフリートの紹介を受けたという。

需要と供給に合わせて価格が変動するダイナミック・プライシングは、ホテルの宿泊料金や航空券などで導入が進む。カーシェアにどう活かすのか。「法律によりレンタカーやカーシェアでは、事前に価格帯を申請する必要があるため、リアルタイムで価格が変わる価格設定は行えません。今回は、価格の最適化、稼働の平準化に向けた事業戦略立案に活かすべく、全ステーションのオペレーションデータを活用しダイナミック・プライシングのシミュレーションを実施しました」(稲葉氏)。

同社はオートフリートとマイクロソフトとの共創により、2021年11月中旬から同年12月中旬の1か月間をかけてシミュレーションを実施。同社はステーションごとの稼働状況や利用者数、売上データなどの情報を提供し、オートフリートは日本向けにチューニングしたプラットフォームを使ってシミュレーションを実行。マイクロソフトはデータ活用の知見に基づくアドバイスや、オートフリートとの調整などプロジェクトマネジメントの支援を行う体制となった。

3社の特徴を生かし、共創によるダイナミック・プライシングのシミュレーションを実施

価格変動の効果が稼働に直結しないことも
エリアごとの価格戦略の重要性を再認識

3社によるコラボレーションはどのように行われたのか。第二ソリューション部 第二ソリューション課 カーシェア事業推進ユニット ペク スミン氏は話す。「最初は、一カ月間のデータを使って現状を可視化し、その結果を見ながら3社でオンライン会議を通じてディスカッションを行い、仮説を立てました」。例えば、稼働率の増減に対し、夜間割引ナイトパックの実施やステーションがオープンして日が浅いなど、当社が運営する中で想定される要因について説明。マイクロソフトからはデータ分析の視点に関するアドバイスを受けた。「3社会議後にシミュレーションを改善し、一週間後にまた会議を行うといったサイクルを繰り返して精度を向上させ、そこから一年分のデータを入れて季節変動を加味し、シミュレーションを実施しました」(ペク氏)。

ホンダモビリティソリューションズ株式会社
第二ソリューション部 第二ソリューション課
カーシェア事業推進ユニット
ペク スミン 氏

シミュレーションでは、ステーション別、曜日別・時間別、車種別などにおいて、価格変動により利用者数や売上がどう変わるのかを可視化した。その結果、様々な気づきが得られたとペク氏は話す。

「稼働が低いステーションでは、価格を下げても稼働率が上がらない結果が出たことから、価格以外で立地などに問題があるのではないかと気づくきっかけになりました。また稼働の高いステーションでは、価格を上げても稼働が下がることはないという結果が得られるなど、エリアごとの価格戦略の重要性を再認識できました」(ペク氏)

今回のシミュレーション結果をいかに稼働の平準化に生かしていくか。「稼働の平準化を図るために、平日時間帯の利用促進に向けてクーポンなどのインセンティブ設計に今回の結果を活かしていきたいと考えています。また、カーシェアでは他の利用者のためにガソリン給油や社内清掃をお願いしています。そのモチベーションアップに、クーポンの効果がどこまであるのかなど、オペレーション観点からのシミュレーション活用も検討していきたいと思います」(稲葉氏)。

価格設定では、ユーザーの納得感が重要になる。第二ソリューション部 第二ソリューション課 事業開発ユニット マネージャー 藤本恵介氏は強調する。

「料金改定時には、今回の結果を参考にしながらも、ユーザー調査を行う必要もあると考えています。また、すべてのステーションが必ずしも価格変動によって稼働や利用者数が変化するわけではないことが分かりました。ステーションごとの課題について改めて見直していきたいと思います」

ホンダモビリティソリューションズ株式会社
第二ソリューション部 第二ソリューション課
事業開発ユニット
マネージャー
藤本 恵介 氏

EveryGoの展望について藤本氏は、「お客様にHondaの特徴をしっかりと感じていただけるサービスに仕立て上げ、モビリティサービスを通じてお客様との接点をつくっていきたいという基本は変わりません。Hondaが展開するカーシェアのブランドイメージを強化することが重要なテーマです」と話し、こう続ける。「今回、テクノロジーの利用によりこれまで見えなかったものが、見えてくることも実感しました。これからも新しい技術やソリューションを積極的に活用し、お客様満足度の高いサービスを提供していきます。マイクロソフトとは気軽に相談できる関係性を大切に、モビリティサービスの可能性を開くための共創も取り組んでいきたいと思います」。

工藤氏は、マイクロソフトのデータ活用の知見を高く評価する。「リアルな現場において、異業種との掛け算による付加価値の創造を積極的に進めています。コラボレーションに取り組む際に、課題や効果に関して科学的分析や仮説づくりなど、マイクロソフトが持つデータ活用のノウハウを活かした提案や支援を期待しています」。

「移動を変え、日常を変え、未来を変える」をミッションとして掲げるホンダモビリティソリューションズ。EveryGoは、そのビジョンにつながる道程をまっすぐに進んでいる。

オートフリート社による、今回の事例を通したダイナミック・プライシングの説明動画(10分程度)。本記事への理解を補強する上で有用とされたい

ホンダモビリティソリューションズ

URL:https://www.honda.co.jp/honda-mobility-solutions/