2022年1月、NTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)が展開する伴走型インキュベーションプログラム「/HuB(スラッシュハブ)」の第6期がスタートした。若いステージのスタートアップとともに創造し、短期間での事業成長をサポートすることを目的とする同プログラム。採択された4社の代表者に、未来に向けたビジョンを語ってもらった。

熱い思いを持った4社がそれぞれの分野で新風を巻き起こす

 2019年に開始されたNDVの「/HuB(スラッシュハブ)」は、これまでの第1期から第5期までに計20社の支援を実施してきた。それぞれのスタートアップの事業成長を第一目的にしており、既定の支援メニューではなく、採択されたスタートアップからのリクエストに応じたサポートを行なう点が特徴の1つ。中には、大手企業とのアライアンスや新規の資金調達に成功するなど、着実な事業成長を遂げたスタートアップも出てきている。

 ここからは、第6期から新規で入居した4社の取り組みを紹介する。自社プロダクトの概要や現状に加えて、今後の展望やNDV、NTTドコモグループへの期待などについても聞いた。

ZINE 代表取締役CEO 仁田坂淳史氏

 がんは現在、日本人の死因のトップであり、毎年100万人もの新規患者がいる。さらに85歳までの2人に1人ががんに罹患し、6人に1人ががんで亡くなっている。このような現状にあって1つの課題として挙げられるのが、がんになってしまった患者やその家族が医師に対して「必ずしも本音ですべてを相談できるわけではない」という点である。

 例えばプライバシーに関わる人間関係や職場のこと、あるいは経済的な事情などはなかなか話しにくい。また、医師の専門分野である医療に関する話であっても、「自分は素人だから……」と聞くことをためらってしまうこともある。そこでZINEは、匿名で24時間いつでも看護師や社労士などの認定アドバイザーに無料で相談できるオンラインがん相談サービス「CancerWith」を運営し、その課題解決に取り組んでいる。

ZINE 代表取締役CEO 仁田坂淳史氏

 仁田坂氏によれば、がんはいまだに「罹患すると余命は長くないのではないか」とのイメージが強く、それが患者や家族の冷静な判断を失わせることがあるという。実際、仁田坂氏自身も母が乳がんになった際には家族の一人として混乱した経験がある。100人を超えるがん患者にヒアリングしたところ、「正しくない情報にも飛びついてしまった」がん患者もいたそうだ。だからこそ「専門家に相談できていれば」と強く感じ、それをきっかけにCancerWithをスタートさせた。

 多くの人が生活習慣や遺伝によるものと考えるがんという病気も、実際には大半が偶発的に罹患している※という。「誰もが罹患する可能性がある」がんが当たり前の時代にあって、仁田坂氏が目指すのはCancerWithが医療福祉でカバーできない問題を解決する、「社会にとって当たり前のサービス」になることだ。ただ、業界に対して「革命を起こす」といった気負いがあるわけではなく、CancerWithの名前のように「がんを恐れることなく、がんと一緒に歩めるような世界をつくりたい」と語る。

※参考ブログ

 スピード感を持ってその思いを実現していく意味で、NDVやNTTドコモグループは強い味方となるはずだ。「さらなるサービス展開を進めていくなかでの大きな後ろ盾となることや、病院や製薬企業、医療メーカーなどへの連携など、期待する部分は大きい」(仁田坂氏)。

●エスケア 代表取締役 根本雅祥氏

 「健康(WELL-being)を意識しなくても、誰もが健康でいられる社会を作る」をビジョンに掲げるエスケア。これまでにはフードテックに着目し、2021年には食品小売店での購買履歴のデータを栄養状態に変換し、そのデータに応じて利用者に最適な商品やレシピ、コンテンツなどをレコメンドするサービス「WELL-being JOURNEY」をリリースしたほか、食にまつわるマンガや動画などのオリジナルコンテンツ制作などを手がけてきた。こうしたなか、新たなサービスとして現在開発に取り組んでいるのが、あらゆる手順書をナビゲーション化するSaaSプロダクト「ツギナビ」である。

 これまでのノウハウを活かし、ツギナビでまず取り組んでいるのが、ミールキットなどの調理工程をナビゲーションするサービス。従来の紙ベースでの手順書(あるいはレシピ)の場合、調理する人はまず手順書の1番目の行程を見て内容を理解し、そしてその内容に即して実際に調理する。次に、2番目の行程を見て内容を理解し、同様に調理するといった形で段階的に作業を進めていくものだった。

エスケア 代表取締役 根本雅祥氏

 しかし、このような作業の繰り返しは精神的な負荷がとても大きく、根本氏はウェルビーイングの観点から「精神的ストレスを増幅させる要素である」と指摘。例えば“手順書に目を向ける”や“手を拭く”といった些細な動作も積み重なることで大きなストレスになる。ツギナビでは、音声によるナビゲーションや操作でこれらのストレスを「ゼロに近づける」のが大きなポイントとなる。根本氏は、「料理であれば必要な情報をしっかり届けるとともに、手ぶらで快適に操作できることが重要だ」と説明する。

 今後の展開としては、家電製品の設定/操作マニュアルや家具の組み立てマニュアルなどへの対応を想定する。ただし、サービス自体はまだ立ち上げたばかりであることから、根本氏としてはまずNTTドコモグループの各社にツギナビを使ってもらい、そこから得られるフィードバックをもとに、さらなるブラッシュアップを進めていきたい考えだ。その上で、「1度でも使ってもらえれば、必ずその良さを実感してもらえるはず。まずは使ってみてもらいたい」と訴えた。

Tensor Energy 代表取締役 堀菜々氏

 前職ではエネルギー専門のコンサルティングに携わり、近年は再生可能エネルギー(以下、再エネ)の開発やファイナンスなどを手がけてきた堀氏。長年にわたって日本を含むグローバルの電力業界を観察してきたなかで着目したのは、補助金頼みになっている日本の再エネの現状である。その現状に危機感を抱き、再エネを日本の主力電源とするためには「速やかに自立させる(=民間の資金でビジネスを成り立たせる)ことが必要ではないか」と考えてきた。

 2021年初頭から金融業界では再エネやカーボンニュートラルに対して積極的に投資する流れが起き始め、それに追随する形で、膨大な電力を使用するグローバル企業などが再エネを積極的に活用する方向に舵を切り始めた。このような変化に対して堀氏は「今後、再エネが自立していくために足りないものは何か」を思案。かつての同僚とともに2021年11月にTensor Energyを設立した。

Tensor Energy 代表取締役 堀菜々氏

 Tensor Energyが現在開発しているのは、自動の電力取引や再エネ発電所のオペレーション自動化を実現するプラットフォームである。これまで再エネの発電事業者は補助金政策があったおかげで自社で電力取引を行なう必要がなかったため、電力取引のスキルセットを身につけるチャンスがなかった。しかし、今後制度が変わっていくなかで発電事業者にとっては「そういったスキルセットをどう保管していくかが、大きな課題になっている」(堀氏)。このことから、Tensor Energyはビジネスチャンスがあると見込んでいる。

 堀氏はNTTドコモグループ各社へのサポートや協業を通じて、開発の方向性を一緒に磨き上げていきたいとする。今後はさらに電力需要が増えるとともに、カーボンニュートラルへの配慮が一層求められていくことも予想される。再エネ業界を次の成長産業として育てていく意味で、堀氏は「リスクを極力なくし、活発な取引によって誰もがメリットを享受できる。成熟した市場の構築に寄与していきたい」と力強く語った。

Mentally 代表取締役CEO 西村創一朗氏

 Mentallyは現在、メンタルの不調を相談できる個人向けのWebアプリ「mentally」を開発中。2022年3月のリリースを予定する。同様のサービスには、プロのカウンセラーに相談できるオンラインマッチングサービスなどが存在する。しかし西村氏は「Mentallyはそれらとはやや異なる。ピアカウンセリングに近い」と解説する。

 ピア(peer)とは「同僚」や「仲間」を意味する。mentallyでは「うつ病やメンタルヘルスに苦しんだ経験のないカウンセラーではなく、資格はなくともこれまでにメンタルヘルスで苦しんだ経験がある人」(西村氏)に相談できる点が特徴となる。その人に悩みを聞いてもらったり、逆にその人の体験談を聞かせてもらったりすることで、自身の治療の参考にできる。

Mentally 代表取締役CEO 西村創一朗氏

 自身もメンタルの不調に苦しんだ経験がある西村氏は、「プロのカウンセラーだけでなく、まずは同じ体験をしてきた経験者へ、よりライトな価格で相談できる選択肢を与えることが相談するきっかけになる」と話す。

 2021年10月に設立したばかりのため、NDVには「経営に対するアドバイスや伴走」、NTTドコモグループには「個人向けサービスのノウハウ活用」を期待する。将来的には法人向けのサービス展開も視野に入れており、NTTドコモグループを通じた幅広い企業との事業提携や試験導入などを見据える。

 さらに西村氏は「ゆくゆくは日本の文化を変えたい」と意気込む。なぜなら、日本は「メンタル後進国」と言われており、メンタル不調が原因で一度でも休職や退職を経験してしまうと、復職をはじめとした「社会復帰が難しくなるのでは」という世の中の空気があるからだ。

「日本をメンタル先進国にするためにはその空気を払拭し、メンタルの不調をオープンに語れるようにする必要がある。mentallyを通じて、そうしたカルチャーを作っていくつもりだ」(西村氏)

 NDVではこれまで、さまざまなスタートアップの成長と新たな兆しの発見をサポートしてきた。それらスタートアップの事業内容と今回を比べてみると、SaaS全盛期の現在において、これまで以上にウェルビーイングなどの“新たな軸”が見えてきたと感じる。

 こうした傾向を踏まえると、今回のスタートアップがそれぞれの市場を席捲するころには、世の中の期待値が大きく変わってる可能性も十分にあるだろう。そんな未来にも思いを馳せつつ、彼らの今後の成長と将来の新たなコラボレーションの実現に期待したい。

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