NTTドコモが販売する360度リアルタイム空間共有ソリューション「Avatour(アヴァツアー)」が注目を集めている。2021年末には長崎県五島市の移住支援相談会で実証を行ない、都市部と現地をリアルタイムで結んだ。関係者の言葉からAvatourの魅力と可能性に迫る。

長崎の美しい離島と東京・日本橋をリアルタイムの360度映像と音声で結ぶ

 2020年以降、リモートワークは日常の一コマとなった。コミュニケーションツールとしてZoomやMicrosoft Teamsなどのリモート会議システムは不可欠であり、今や重要な社会インフラになりつつある。

 一方、それらのツールは平面情報のコミュニケーションを前提に設計されている。仮に現実世界と同様、離れた場所の様子を自由な視点でやり取りできれば、リモートコミュニケーションの可能性はぐんと高まる。

 Avatourは、こうした思いを具現化したソリューションである。市販の360度カメラやスマートフォンを利用し、自分が撮影した360度映像を複数の参加者向けにリアルタイムで配信できる画期的なテクノロジーだ。参加者はパソコンやスマートフォンで画面をドラッグしたり、VRゴーグルを用いて視点を移動したりするだけで、遠隔地の好きな場所を閲覧できる。

Avatourの利用イメージ

 加えて、双方向のリアルタイムコミュニケーションが可能。これにより、参加者が配信者に対して見たい場所を即時にリクエストしながらの会話も楽しめる。リモートでありながらこれまでにないリッチな立体空間を共有できるため、“よりリアル”な仮想体験に没入できるのが特徴だ。

 このように、AvatourはXR(VR、AR、MRなどの先端技術の総称)、あるいはメタバースと言われる技術を体現したものと言える。一刻も早い社会実装に向け、NTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)は2021年5月、Avatourを提供する米Avatour社に出資。続く7月にはNTTドコモが5Gパートナーソリューションとして販売を開始するなど、NTTドコモグループが連携して普及を後押しする。

 現在、Avatourを活用した複数の取り組みを進めており、2021年12月下旬には長崎県五島市の移住支援相談会で体験会を開催。東京にある「日本橋 長崎館」と五島市を結び、移住希望者を中心に、VRゴーグルによる360度リアルタイム空間共有体験を提供した。

 長崎県の西方100キロメートルに浮かぶ五島列島は、大小約150の島々から構成される。美しい海と豊かな自然が特徴で、観光地としても名高い。五島市は五島列島の南端に位置し、約3万5600人の人口を誇る五島列島の中心都市でもある。

中継会場の1つになった高浜海水浴場

 相談会では、五島市役所の職員が観光スポットをリアルタイムで配信。広大な東シナ海を一望できる魚籃観音展望所、白砂の天然海水浴場として人気の高い高浜海水浴場を案内した。12月25日、26日の2日間にわたって配信したが、取材に訪れた26日は雪がちらつき、強風が吹きすさぶあいにくの天気模様。だが、現地でガイドを務めた市役所職員の平野梓氏は「良いところも悪いところも含めて、360度でありのままのライブ映像を配信できたのは移住希望者にとってもメリットだったのではないか」と振り返った。

日本橋 長崎館でAvatourのリアルタイム観光ガイドを楽しむ参加者

日本橋 長崎館でAvatourのリアルタイム観光ガイドを楽しむ参加者

 遠く離れた東京会場の参加者たちは映像を見ながらのコミュニケーションを存分に楽しんでいた。「名産は何ですか?」「五島市の魅力は?」といった質問が次々に寄せられ、そのつど平野氏が地元住民ならではの切り口で誠実に答えていく。逆に高浜海水浴場では平野氏が「なぜ高浜の砂は白いのでしょうか?」といったクイズを出すなど、双方向性を生かした工夫も見られた。たとえるなら、スタジオの観客と現地リポーターを結ぶテレビ生中継のようなライブ感がある。それを360度視点で体験できるところに新しい価値がある。


ありのままを伝えることで得た手応え

 平野氏は五島市の魅力を「大自然が近くにありながら、総合病院や大型スーパー、コンビニやホームセンターなどがそろい、小学校から高校まである。田舎暮らしと、それなりの便利な暮らしを両立できる点がメリット」と語る。近年は移住者が増えており、2020年度の移住者数は204人。そのうち、30代以下が約8割にも上る。

現地でガイドを務めた生粋の島っ子の平野氏

 若年層の移住増加の背景には、移住定住促進サイト「五島やけんよか!」での活発な情報発信や、毎月第2木曜、第4土曜・日曜に開催している無料のオンライン移住相談会の実施がある。これらのオンライン活用との親和性が、一歩先をめざしたAvatourの実証へとつながった。

 「最大のきっかけは、新型コロナウイルス感染症の蔓延で五島市への下見が難しくなったこと。Avatourでライブ配信ができれば、現地に来なくても五島市のリアルな空気感や生活感を伝えられると考えた」(平野氏)

 活用して感じたのは「臨場感が伝わる」ということだった。前述したように相談会の2日目は曇天であり、決して五島市のベストな姿ではなかったが「生活すればキラキラした部分だけではない。良い天気の日もあれば悪い天気の日もある。それを包み隠さずに見せられたことが良かった」と平野氏は振り返った。

 今回はNTTドコモ九州支社が、地域活性化の一環として企画した。九州支社 ICTビジネスデザイン 担当課長の植松大輔氏は「五島市とは2020年7月に連携協定を締結。NTTドコモのICTソリューションを活用しながら五島市のまちづくりや魅力発見などに役立てていただくことを目的にしている」と説明する。

NTTドコモ九州支社の植松氏

 「観光案内をアーカイブしてVR視聴できる技術は数多いが、現地のガイドとリアルタイムで掛け合いをしながら360度映像を楽しめるソリューションはない。それこそAvatourの優位性と考えてご提案した」(植松氏)

 現地から配信をサポートした九州支社の日髙久登氏は「導入事例が少なく、シナリオ作りにも苦労したが、一般的な機材を使えるということで平野様をはじめとした担当者の方々がスムーズに操作できた。今回の案件ではその手軽さを確認できた」と話す。その上で「Avatourの簡便な操作性をベースに、移住相談や観光に限らず、より多くの領域で自由な発信ができる事例を作っていきたい」と意欲を見せた。

NTTドコモ九州支社の日髙氏

 植松氏は「Avatourは時間的・距離的な制約を超えることができ、360度映像によって映像フレームの枠組みを超えることができる。今回のユーザーの声を生かしながら九州内の自治体に事例をさらに展開していくつもりだ」と語った。平野氏も「仮想空間上で移住希望者たちがコミュニケーションできるようになれば、もっと面白くなる」と期待を寄せる。両者とも、新たなテクノロジーによる地域活性化に手応えをつかんだようだ。


飛躍が望めるBtoB領域

 実証計画の遂行や技術のチューニングを担ったのは、NTTドコモ イノベーション統括部である。イノベーション統括部は社会課題解決に資する新規ビジネスの創出を1つのミッションとしている。担当部長を務める福井景一氏は次のように語る。

 「遠隔地に臨場感のある映像を届け、撮影者と参加者の方々がお互いに楽しみながらコミュニケーションを取ることができたのは収穫だった。今回は移住支援がテーマだったが、教育や医療などほかの領域での事業展開にもチャレンジしていきたい」(福井氏)

NTTドコモ イノベーション統括部の福井氏

 同じくイノベーション統括部の野秋浩三氏は「ある程度のITリテラシーがあれば、現場で誰もがXRを手軽に活用できるレベルまで達していると感じた。将来的に参加者の視線データや音声データを分析して活用できるようになれば、バーチャル観光のツアー内容改善やマーケティングデータ活用もできるのではないか」と話す。

NTTドコモ イノベーション統括部の野秋氏

 Avatourは新しいソリューションだけに、円滑なコミュニケーションにはしっかりした準備が欠かせない。実証の現場となった五島市では、イノベーション統括部が先頭に立って調整作業を担当し、当日のライブ配信を支えるとともにソリューションの汎用性を高めてきた。こうしたNTTドコモの手厚いサポートも、協業パートナーにとっては力強い。

 NDVで出資を担当したシリコンバレー支店 マネージャー 飯野友里恵氏は「今回のような移住支援や観光用途ももちろんだが、BtoBでも大きな効果が見込める」とする。Avatour社との出会いはロックダウンが叫ばれた2020年初頭で、リモート会議が浸透し始めた頃。「それまでフェイス・トゥ・フェイスで行なっていた現場作業を、いかに距離を感じさせることなくリモート環境下で再現するか。その解として非常に有望な技術と感じて出資に至った」(飯野氏)。

NDV シリコンバレー支店 マネージャー 飯野友里恵氏

 具体的なBtoB用途には建設現場、工事現場、工場の視察などが挙げられる。「撮影者に指示を出すことなく、遠隔からの参加者が自分の望む視点で見たい場所を見ることができるのがポイント。この体験は、従来のリモート会議システムとは決定的に異なっており、実証した企業からは高い評価を得ている」と飯野氏。

 また、ここまで触れてきたように一般的な機材でセッティングできる点も大きい。「グローバル展開を見据えたとき、専用機材があるとコストや導入面でネックになってしまう。しかし360度カメラやスマートフォンは世界のどこでも販売されているので、Avatourのアプリケーションさえあればすぐに運用を開始できるのが強み」と飯野氏は言う。

 仮にコロナが収束しても、元の世界には戻らない。今後は5Gが本格的普及のフェーズに入り、AvatourのようなXR技術がさらに進化して社会の中に溶け込んでくると予想される。これまでの常識を覆す仮想空間と現実空間のハイブリッド体験、その実現に胸が膨らむ。

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