2022年1月、NTTドコモが開催した最新技術の祭典「docomo Open House'22」。新しい価値や協創の実現を目指して幅広いパートナー企業が参加する中、NTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)が出資・支援する若きスタートアップたちも、自社のサービスやソリューションをアピールした。

救急、就活、AI、女性のスキル、自然言語処理の分野に挑む5社

 「docomo Open House'22」のスタートアップカテゴリーで参加した企業の中から、医療や就労、AIなどに関連した新しいビジネスやツールを提案する5社を紹介。自社プロダクトの概要やビジョン、将来の展望などとともに、NTTドコモグループとの協創への期待値についても聞いた。

ナビゲーターを務めた宮越愛恵さん

●ファストドクター

 ファストドクターは、患者と医師をつなぐ日本最大の時間外救急医療プラットフォーム「ファストドクター」を運営。通院が困難な夜間や休日において、救急相談や救急オンライン診療、救急往診に対応してくれる。一般的に思い浮かべる往診とは異なり、ムーバブルなレントゲンやエコー、心電図などのモバイル医療機器を活用することで、より高度な医療を提供する点も特徴だ。また、多くの医療機関と連携し、ITを活用しながら患者体験の向上や医療従事者の業務効率化にも貢献している。

 同社 広報部 シニアマネージャーの田島めぐみ氏が強みとして挙げたのは、日本における時間外救急医療プラットフォームのパイオニアとしての「圧倒的な機動力と信頼性」だ。現在は医師1500名、看護師200名が活動しており、全国10都府県で展開。さらに、その規模感でも高い機動力や品質を担保できるように「患者と医師を最短時間でマッチングする独自システムや、患者からの評価フィードバックに基づいた教育体制を有している」と話す。

ファストドクター 広報部 シニアマネージャー 田島めぐみ氏

 2016年からスタートしたが、2020年以降はコロナ禍の影響で、その存在意義にも変化が起きているという。例えば、病院に行きたくても行けない人が増えたことから「医師が自宅に来てくれることの希少性」が注目された。2021年からは自治体と連携し、自宅療養中の人にも診療提供を始めたことで「さらに存在意義が高まった」と田島氏は実感している。

 こうした先進的な救急医療と並び、ファストドクターでは「地域医療のエンパワーメント」を掲げており、患者とかかりつけ医のつながりをサポートすることで「生活者の医療をもっと身近にする」(田島氏)ことを目指している。そのためには、より多くの医療機関に自社サービスを利用してもらうことが重要となり、プレイヤーを増やしながら「疲弊することのない持続可能な地域医療」を実現していきたい考えだ。

AIによる「往診の効率化」も進めており、その開発ではNTTドコモグループの企業ネットワークを活用したさまざまなシナジーにも期待を寄せる

 フランスなどの諸外国では、民間の救急医療サービスが国と連携する形で「社会インフラの一部として当たり前のように成り立っている。ファストドクターも日本で当たり前の存在となることを目指したい」と田島氏は言う。NTTドコモグループとの連携をさらに加速させることでインフラとしての意味合いを一層強めていきたいと結んだ。

●ABABA

 これまでの就職活動では、就活生はどれだけ頑張っても落ちてしまえばその頑張りは評価されなかった。しかし、そういった現状を覆す新たなサービスを、スタートアップのABABA(アババ)が2022年2月にリリースする予定だ。

 ABABAでは、優秀だったがさまざまな理由から最終面接で採用に至らなかった就活生に対して、企業側が「推薦」という形で応援する仕組みを備えている。これにより、就活生は通常の不採用通知(いわゆる“お祈りメール”)を受け取って終わるのではなく、「その企業の最終面接まで頑張った」というお墨付きを得た状態でサービスを利用できる。

 一方で企業側は、例えば自社と事業内容が近しい別企業の最終選考にまで進んだ就活生への直接的なアプローチが可能となる、そのため、既存の採用と比べて「効率的なスクリーニングやマッチング精度の向上などを見込める点がメリットだ」と、同社 代表取締役 CEOの久保駿貴氏は説明する。

ABABA 代表取締役 CEO 久保駿貴氏

 「このサービスがあれば、就活生の努力をしっかり評価することが可能になる。さらに言えば“プロセスが評価される仕組み”は、就職活動に限らず、今後さまざまなシーンや業界で主流になっていくと考えている。だからこそ、プロセスが評価される社会を、ABABAを通して実現していきたい」(久保氏)

 グループ企業内での活用もポイントの1つ。大企業であれば採用の人数に比例して不採用の人数も増えるが、ABABAのサービスを利用すれば、優秀な人材をグループ企業へ効率的に推薦可能だ。「もちろん、これまでもアナログ的に同様の仕組みはあったかもしれないが、仕組みとしてしっかり確立することでグループ全体へメリットが波及するに違いない」(久保氏)。

就活生にとって「良い選考体験」になれば、不採用であったとしても「数年後に中途採用で来てくれたり、自社への就活を後輩に後押ししてくれたりすることがあり得る」(久保氏)

 久保氏は、ABABAの利用により「“学生に寄り添った採用を行う企業”というブランディングにも効果がある」と指摘。将来的には新卒採用に限らず中途採用などでの展開も視野に入れている。

●FastLabel

 AI開発において、そのAIを学習させるための「教師データ」は、非常に重要なファクターとなる。なぜなら、その教師データの質や量によってAIの性能が大きく変わってくるからだ。

 そもそも教師データを作るためには、その元となる動画・音声・テキストなどのデータに情報タグを付加する「アノテーション」という作業が必要となる。例えば、ネコを識別するためのAIを作る場合であれば、元となる画像に対して「どこがネコなのか」を示す情報タグを付与するといったものだ。これまで、基本的にアノテーションは人力作業がメインであり、より多くの高品質な教師データを集めることが難しかった。

FastLabel Dev Div. 開発者 武原大地氏

 この課題に対してFastLabel(ファストラベル)は、AI開発の領域における教師データの収集・作成から品質管理や運用後のチューニングまでを一気通貫でサポートするアノテーションプラットフォームを開発。「AI開発を10倍速くする」をミッションに掲げ、このプラットフォームでAI開発のボトルネックを解消することで、AI革命のさらなる加速を目指す。FastLabel Dev Div. 開発者 武原大地氏は、その特徴を次のように語る。

 「このプラットフォームを利用すれば、アノテーションの効率化が可能だ。例えば、元画像に対してある程度の範囲を指示すると、自動的に境目などを認識して簡単に特定の領域をピックアップできる。

 そのほか、仮に1000枚の画像データがあった場合、まずはそのうちの100枚を先にアノテーションし、それを学習用のデータとして登録。その登録データを使ってAIに学習させ、そのAIで残りの900枚のアノテーションを自動化させることもできる。これにより、900枚分のアノテーションをさらに効率化できる」(武原氏)

AIに任せられることは可能な限りAIに任せるような社会を構築し、「人でなければできないクリエイティブな作業に、人がしっかり集中できるような環境を作りたい」と武原氏は話す

 一方で、AI開発における学習データやアノテーションの重要性は、「日本では必ずしも認知されているとは言えず、二の次になっている部分も多い」という。だからこそ、NTTドコモグループと連携しながら「その重要性を広く認知していきたい」と語った。

●Timers

 子どもがいる女性向けのキャリア・金融教育サービスや、家族アルバムアプリを展開するライフデザインブランド「Famm」を展開するTimers(タイマーズ)は、子育て中の女性に向けたキャリア支援の一環として「Fammオンラインアシスタントサービス」を2021年4月からスタートした。オンラインワーカーと仕事を外注したい企業をマッチングするサービスで、企業側は月30時間/7万円~で依頼が可能。依頼できる業務内容も「事務業務」「Web制作」「Webマーケティング」「動画編集」などと幅広く、Timers プロダクトマネージャー 佐々木純平氏は「開始して一年足らずで導入数は累計90社を超え、多くの企業様からお問い合わせいただいている」と語る。

 サービスを生み出すうえで注目したのは、バリバリ仕事をしていた女性が結婚や出産を機に仕事を辞めて家庭に入ってしまうことで起きる、「その女性の貴重なスキルが埋もれてしまうデメリット」(佐々木氏)である。そのため、マッチングによってそのスキルを掘り起こすことが目的となる。

Timers プロダクトマネージャー 佐々木純平氏

 「企業側としては、ノンコア業務を外注化することでコア業務に費やせる時間が増え、『結果的に生産が上がった』という声をいただいている。さらに『コミュニケーションも取りやすい』といった声もあり、オンラインワーカーの評価も高い。逆にオンラインワーカー側からは、外部の人とコミュニケーションを取ることで『社会とのつながりができて楽しい』といった声があるほか、IT系の業務を行うことで『本来はキャリアブランクになってしまう可能性あった期間が、オンラインワーカーとしての機会を通じて自分自身のスキルアップにつながっている』というケースもある」(佐々木氏)

今後はNDVとの連携をさらに拡張し、NDVが出資するスタートアップなどの外注依頼にもつなげていきたい考えだ

 ほかにもTimersでは、子どもがいる女性が柔軟性のあるキャリアを描けるように、さまざまなサービスを展開している。その1つが「Fammママ専用スクール」だ。

 「Fammママ専用スクール」はWebデザインやグラフィックデザイン、動画クリエイターなどのスキルをベビーシッター付きで学べる1カ月の短期集中型オンラインスクール。子どもがいる女性の社会的なキャリアアップや自立を支援していくとともに、このスクールの卒業生が「Fammオンラインアシスタントサービスのオンラインワーカーとして働く」(佐々木氏)といった人材の循環も構築していく。

●Stockmark

 インターネット上には膨大な情報があふれているが、自分にとって本当に必要な情報を見つけるのは難しい。無関係なノイズ情報が多過ぎて、まるで宝探しをするような状態になってしまう経験は誰にでもあるはずだ。

 そこでStockmark(ストックマーク)は、自然言語処理技術を活用し、国内外約3万メディアの膨大なビジネスニュースを分類するシステムを開発。2つのサービスを展開することで、ビジネスチャンスの探索やスピーディーな意思決定などを支援する。

 1つ目のサービスは、利用する企業のビジネスやチームの担当業務と関連性の高い記事を、AIがレコメンド配信する「Anews」だ。必要な情報への効率的なアクセスに加えて、ユーザー自身が気づきにくい重要な情報やインサイトの獲得を実現し、組織の情報感度を高めて事業アイデアの着想と組織内での発展を促す。

 もう1つは、事業機会と活動事例の分析をサポートする「Astrategy」。調べたい領域のキーワードを検索するだけで、人力では捉えきれない膨大な情報から市場動向や競合の動きを、タイムリーに収集・整理して構造化する。Stockmark 橋本詩織氏は、同社の強みについてこう語る。

Stockmark 橋本詩織氏

 「情報の構造化では、当然のことながら“自然言語処理AIの精度”が重要なカギを握る。Stockmarkでは最先端の技術を用いており、事業環境の把握に必要な事例を一瞬で発見できる『事例集』機能の要素技術に関しては特許の出願も行なっている(特許出願番号:2021-2271)。また、2018年にGoogleが発表した自然言語処理モデル『BERT』に関する入門書の出版や東北大学大学院情報科乾研究室との説明可能なAIの実現に向けた共同研究の実施など、自然言語処理技術に関するさまざまな実績も重ねている」(橋本氏)

 また、同社代表取締役CEOの林達氏は、こうしたサービスが求められる背景と、自社の目指すビジョンについてこのように話してくれた。

 「ナレッジワーカーの業務において、情報収集は隠れたコストになっている。AIが発展する中で、ビジネスシーンでの情報収集は依然として進歩しておらず、特に事業創出における最適な情報収集サービスは生まれていないと考えている。皆様にサービスを活用いただくことで、あらゆるオープンデータを統合的に分析することを可能にし、より高度な意思決定と事業アイディアの創出を加速させていきたい。

 また、現在は、オープンデータの活用を中心にサービスを展開しているが、今後は社内データを対象に広げていくことを視野に入れている。社内外の情報を効率的に収集・構造化することで、ビジネスシーンでは欠かせない情報活用プラットフォームを構築し、価値創造の仕組みを再発明するという当社のミッションを実現したい」(林氏)

企業がStockmarkのサービスを利用する場合は、各サービスに組み込む形で「SaaSとして利用することになる」(橋本氏)

 NDVはこれからも「未知なる世界を創る挑戦者のよき伴走者」として、これらスタートアップとの協創のきっかけを作っていく考えだ。Timersのように、すでに連携を進めているスタートアップもあるなかで、今後どのような展開が見られるのか。各スタートアップの事業成長とともに、NTTドコモグループとの協創によって生まれる新たなシナジーにも期待したい。

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