NTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)は、日本国内の有望なスタートアップをさまざまなプログラムで後押しする一方で、世界中の優良なスタートアップの掘り起こしにも尽力している。今、世界の最前線では何が求められているのか――NDVのシリコンバレー支店が注目するスタートアップを前後編に分けて紹介する。

コロナ禍のライフスタイル変化が成長のエンジンに

 世界のオープンイノベーションを積極的に取り入れるべく、グローバルな投資活動を礎として設立されたNDVのシリコンバレー支店。2017年の本格的な活動開始以降、米国を中心とした最先端のスタートアップとのやり取りを担っている。ここでは、そのNDVシリコンバレー支店のメンバーそれぞれが注目する気鋭のスタートアップにフォーカス。前編となる今回は、オープンソースのクラウドデータベース、斬新な動画技術を紹介する。

●TileDB

 TileDBは、ビッグデータを高速に処理するオープンソースのクラウドデータベースを開発する、米国マサチューセッツ州のスタートアップ。技術面での重要なキーワードとしてNDV シリコンバレー支店の下城拓也氏が挙げるのは、自然言語処理やゲノムデータ解析、LiDARの画像処理などの先進的な領域で用いられている「疎なデータ」である。

 例えば横軸に商品名、縦軸に顧客情報を取ったデータがあった場合、それぞれの顧客がどんな商品を何個買ったのかというデータベースを構築できるわけだが、このデータのほとんどは“Null”(=ゼロや空欄)になってしまうことになる。また、LiDARなどの点群データの場合も、点がないところはすべてNullになってしまうのだが、そのようなNullが多いデータが疎なデータと呼ばれている。

 従来のデータベースでは、すべてのテーブルデータを一旦データベースからメモリに送信し、そこからインデックスなどの処理を行なうことで必要なデータだけを取得する仕組みになっている。しかしその仕組みだと、疎なデータを取り扱う場合は「データベースとメモリの間で不必要な処理(=Nullの部分)が膨大に発生する」(下城氏)ボトルネックがあった。

 一方、TileDBは最初にデータベース側でNullとNull以外の部分を算出して効率的に格納し、呼び出しの際にNull以外の部分を高速に持ってくる仕組みを搭載している。これにより、インプットとアウトプットのデータ量を大きく削減できるため、「処理の高速化や消費電力の削減などが期待できる」と下城氏は説明する。

 疎なデータだけでなく、Nullがないような“密なデータ”の保存にも対応する特徴もある。TileDBではこれを「ユニバーサルデータベース」と呼んでいる。このユニバーサルデータベースでは、疎なデータや密なデータにかかわらず、さまざまなデータを一元的にデータベースに盛り込むことができる。そのため、用途によってデータベースを変える、あるいは特定の用途では使用できないといった弱点を克服しており、「幅広いユースケースに対応できるのが強み」(下城氏)となっている。また、オープンソースでさまざまなエンジニアがTileDBの発展に携わっている点も注目を集めている。

NDV シリコンバレー支店の下城拓也氏

 NTTドコモとしては、「モバイル空間統計」などでの連携を模索している。モバイル空間統計では、「例えば日本全国を細かなメッシュに分割し、それぞれに性別や居住地などの情報を乗せていく」(下城氏)ことから、結果的に多次元の疎なデータを膨大に保存することになる。そのため、効率化の面でTileDBに寄せる期待は大きい。

 NDVでは2021年9月に出資。良好な技術評価も出つつあり、将来的には「TileDBをモバイル空間統計に活用しつつ、機械学習や自然言語処理などの部門にも横展開していきたい」と下城氏は考えている。

●Genvid Technologies

 Genvid Technologies(以下、Genvid)は米国ニューヨーク州のスタートアップで、NDVはこれまでに2020年1月と2021年5月の2回投資を実施。初回の投資では、Genvidのメイン事業の1つである「インタラクティブ・ストリーミング技術」に着目したと、NDV シリコンバレー支店の飯野友里恵氏は説明する。

 Genvidの技術を利用すると、YouTubeやTwitchなどで配信している動画に対して、インタラクティブな機能の追加が可能になる。例えば対戦ゲームのゲーム実況を配信する動画に対して、視聴者が何らかのアクション(画面タッチや操作など)を起こすと、別アングルの画面に切り替えたり各チームの詳細を確認できたりするほか、プレーヤーに対して応援のエフェクトを表示させたり、アイテムやポイントを贈ったりすることができるようになる。

 飯野氏によれば、2020年1月当時はちょうどコロナ禍が起き始めたタイミングで、「YouTubeのアクティブユーザー数は数倍にまで増加している状況にあった」という。このような時代背景にプラスして、一部の専門プラットフォームでは、視聴者からの“投げ銭”という形でコンテンツ配信者のマネタイズを実現する仕組みに注目が集まっていた。このことから、NDVは「Genvidの技術を組み込むことで、YouTubeやTwitchなどでも投げ銭のような機能の実装が可能になる」と着目し、初回の投資に至った。

 2回目の追加出資でフォーカスしたのは、Genvidの新しい取り組みとしてスタートしていたインタラクティブなコンテンツ「Rival Peak」。Rival Peak は、Facebookのライブ動画「Facebook Watch」上で配信されたもので、複数のAIキャラクターが生き残りをかけて繰り広げるサバイバルゲームを、視聴者として能動的に楽しむコンテンツとなっている。

 Rival Peak は2020年に米国やメキシコ、ブラジル、インド、フィリピンなど、さまざまな国で配信されて大きな話題となり、再生回数は累計で約1億分に到達。さらに2022年以降、有名なIPやコンテンツプロバイダなどとコラボレーションし、Rival Peakのようなインタラクティブなバーチャルコンテンツを精力的に配信していくとのこと。そうした動きも含めて、Genvidが非常に有力なポジションに成長したことから、追加出資を実施した。

NDV シリコンバレー支店の飯野友里恵氏

 なお、NTTドコモとの協創については、さまざまな可能性について議論を進めているとのこと。NTTドコモには動画配信の部署や一部でIPとしてキャラクターコンテンツをライブストリーミングで配信している部署もあるため、IPのライブストリーミングやライブパフォーマンスを行なう際に「GenvidのSDKを導入し、インタラクティブな動画配信やマネタイズを実現する可能性は大いにあり得る」(飯野氏)という。

 またGenvidの技術を活用することで、例えばeスポーツの場合ではゲームのプレイ画面に加えて「ゲームをするプレーヤーの姿を多彩な視点から見せるような映像も配信できる点がとても興味深い」(飯野氏)と指摘。これを踏まえると、今後メタバースやeスポーツなどが広がっていく際には、自分の推しプレーヤーやキャラクターの応援する「ファンコミュニティのような盛り上がりが出てくる可能性も考えられる」と付け加えた。

 後編では3Dモデルを活用した建設土木事業向け進捗・維持管理システム、法人向けクラウド型ディレクトリサービスを取り上げる。どちらも実ビジネスが抱える切実な課題を解決するもので、まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)を体現したソリューションとなっている。

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