2年ぶりにリアル開催が復活した「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2022」。有望なスタートアップが集った会場には熱気があふれ、会場の各所で活発なコミュニケーションが交わされた。連続取材の第一回は基調講演、そしてアーティストのスプツニ子!さんを迎えたトークセッションの模様を紹介する。

2022年のテーマは未来を想像する「What’s your next?」

 NTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)が毎年開催してきたスタートアップの祭典「NTT DOCOMO VENTURES DAY」。2021年は新型コロナの影響によりオンライン開催となったが、7回目を迎えた今年は東京・日本橋の会場で2年ぶりのリアル開催が復活した。

 2022年は「What’s your next? 未来の景色を想像しよう」をテーマに据えた。基調講演に立ったNDV 代表取締役社長の笹原優子氏は、「VUCAと呼ばれる不確実性の高い時代の中で、自身の想いや価値観を問い続けなければいけない世の中になってきました」とした上で次のように語った。

 「私はiモードのローンチに携わり、たくさんの外部パートナーと共創を経験してきました。その経験から得たことで今も大切にしているのは、“オープン、フラット、ダイバーシティ”。答えのない世の中だからこそ、スタートアップの皆様とNTTグループがそれぞれの立ち位置で協力しながら答えを探していきたい。それがイノベーションを生み出すことにつながると考えています」(笹原氏)

NDV 代表取締役社長笹原優子氏

 最近のNDVの取り組みとして笹原氏が紹介したのは、米Avatour社と日本のファイルフォース社。前者は汎用的な機材で360度視点映像をリアルタイムで共有可能なソリューション、後者は日本企業の活用方法にマッチしたクラウドストレージサービスである。どちらも担当社員の「こうすれば社会がより良くなるのではないか」との想いが出発点となり、NTTグループとの協業に結びついたものだ。

 「根本にあるのは社員一人ひとりが意思を持つこと、そして強い意思を胸にパートナーと共創し、大きな力に変えることです。これを実現するために、NDVでは『世界の景色を変える力と想いが、世界中から集まるコーポレートベンチャーキャピタルへ。』というビジョンを策定しました」(笹原氏)

笹原氏が示したNDVのビジョン

 新ファンドの「ドコモ・イノベーションファンド3号」は総額150億円規模となり、「加速していく未来」「新たな動き」「サステナブルな社会の創造」の3本柱で共創を進める。加速していく未来ではヘルスケア、メディカル、XR、5G/IoTとの連携により新たなライフスタイルを創出。新たな動きでは、次の時代に本格化するだろう技術やサービスへの先鞭投資を行ない、サステナブルでは社会課題解決に挑むスタートアップを積極支援する。

 「私たちはスタートアップの実行力とNTTグループの社会実装力、さらにそれぞれの想いを“束ねる”ことで、未来への推進力を生み出します。そして世の中の景色を変えるインパクトを起こしていきます」(笹原氏)

 笹原氏に続けて登壇したNTTドコモ 代表取締役社長 井伊基之氏は「NTTドコモは、『あなたと世界を変えていく。』を新スローガンに打ち出しました。パートナーの皆様と一緒に世界を変えていくことがコンセプトです」と説明。そのために不可欠なことは、テクノロジー、ビジネスモデル、サービスなどのイノベーションであることを強調した。

NTTドコモ 代表取締役社長 井伊基之氏

 スタートアップとの協業によるNTTドコモの取り組みとしては、メドレー社、ミナカラ社とのオンライン医療事業、HIKKY社とのXR/メタバース事業を紹介。また、NDVを通じたNTTドコモとスタートアップの連携では、建設業界のDXソリューションを展開する米Reconstruct社などについて触れた。

 「このように、イノベーションは我々だけでは実現できません。今後もNDVが共創を橋渡しして、NTTドコモが社会実装に向けたアセットや技術力を提供しながら新規事業を展開していきたい。本日参加していただいたスタートアップの皆様には大いに期待しています」(井伊氏)


未来への「問い」から始めるスペキュラティブデザイン

 トークセッションの第一弾は、アーティスト/東京藝術大学デザイン科准教授のスプツニ子!さんを迎え、「スペキュラティブデザインが生み出す景色を想像しよう」をテーマにセッションを実施。ほかの参加者は笹原氏、IoTNEWS代表/株式会社アールジーン 代表取締役の小泉耕二氏で、モデレーターを小泉氏が務めた。

第一弾のトークセッションの様子

 スペキュラティブデザインとは、問題解決型ではなく、問題提起型で未来を変えていこうとするデザインの方法論だ。英国ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のアンソニー・ダン教授と教員のフィオナ・レイビー氏が提唱した概念で、スプツニ子!さんはダン教授の教え子でもある。

 「テクノロジーやビジネスの世界では、“5年後、10年後の未来はこうなる”ことを予測するのが主流です。しかしスペキュラティブデザインは、“こんな未来があってもいいのではないか”という想いに従ってシナリオをデザインしていきます。この思考は、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズなど、優れた起業家にも当てはまります。彼らは“こんな未来になれば面白いのに”とのアイデアを投げかけ、それを実践した人たちですから」(スプツニ子!さん)

 スプツニ子!さんはアーティストとして、スペキュラティブデザインを駆使して数々の作品を生み出してきた。男性が女性の生理の辛さを体感できる『生理マシーン、タカシの場合。』、カラスと会話する『カラスボット☆ジェニー』などがその例だ。中でも、茨城県つくば市にある農研機構の瀬筒秀樹教授の研究チームとともに生み出した『運命の赤い糸をはく蚕-タマキの恋』は、科学とアートがシンクロした代表作として名高い。

モデレーターを務めた小泉氏と盛り上がるスプツニ子!さん

 運命の赤い糸プロジェクトでは、瀬筒教授らが世界で初めて蚕の遺伝子組み換えに成功し、蛍光色に光るシルクを作れることに着目。スプツニ子!さんが「愛情ホルモンと言われるオキシトシンと赤色蛍光タンパク質を含んだ赤い糸が作れたら、東アジアで語り継がれる伝説の再現ができるのではないか?」と瀬筒教授に相談して実現した。

 「最初は瀬筒教授も驚いていましたが、8カ月後に完成しました。ここから学んだのは、無理だと諦めずに突き進むアイデアと意思が大切であること。まさにスペキュラティブデザインの発想で、アーティストと研究者のコラボでできた新しい糸です」(スプツニ子!さん)

 小泉氏から「その実行力はどこから生まれるのか?」と問われると、スプツニ子!さんは「インプットや、他者とつながる時間を重視しています。新しい何かに接したとき、これを何とつなげたら面白いのかという引き出しをたくさん持っていないと、コラボもできないし、そもそも思いつきません」と回答した。

 これを受け、笹原氏は「コーポレートベンチャーキャピタルは人と人をつなぐ仕事。私も時間を作って刺激をインプットするようにしています」と話した。インプットしすぎて頭がいっぱいになることもあるため、そのときは朝に思いのままをノートに書き連ねるモーニングページを実践し、頭の中をスッキリさせる習慣を心がけているという。

 「先ほどの講演でも“束ねる”ことを話しましたが、もともと私は人と人をつなげることが大好き。しかも単につなげるだけではなく、そこで化学反応が起きたらもっと面白いですよね。その姿勢でNDVの仕事にも取り組んでいます」(笹原氏)

 社会との関わりを深めるため、スプツニ子!さんは2022年4月にスタートアップの「Cradle(クレードル)」を起業した。ここではダイバーシティ&インクルージョン推進を支援する法人向けサービスを提供しており、すでに資生堂、JINS、双日、デロイトトーマツ、NECなどが活用している。

2022年4月にローンチした「Cradle(クレードル)」

 「フェムテックと呼ばれる女性向けの健康支援からスタートしました。生理、更年期、妊娠、出産は女性特有の悩みである一方、キャリアに大きな影響を与えるのも事実。日本社会ではこれらの点でまだまだジェンダーギャップがあります。課題を個人で克服するのではなく、企業が支援することを目的にしています。セミナーを開催して、女性社員だけではなく男性社員にも女性の健康に関するリテラシーを高めてもらう施策も実施します」(スプツニ子!さん)

 これまでアート作品で問題提起をしてきたスプツニ子!さんが起業した背景には、「プロダクトやサービスでより多くの人の生き方を変えたい」との想いがある。

「その意味でもスタートアップには社会を変える力があります。自分の中で、こうだったらいいのに、こんな未来があったらいいのにというアイデアを大事にしてほしい。そこに耳を澄ませると、きっと次のイノベーションが生まれるはずです」(スプツニ子!さん)

What’s your next?と問いかけながらNDVは未来を開拓していく

 「テーマをWhat’s your next?にしたのは、『それぞれが自分の未来を考えてみましょう』と問いかけたかったから」と笹原氏は話す。笹原氏は2019年にオランダを訪れ、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の最前線を目の当たりにし、一人ひとりが意思を持つ世界観が大事であることを改めて感じたという。その想いがテーマの根底にある。

 「未来は正解があるものではありません。基調講演でも直近の取り組みについては触れましたが、5年後、10年後の未来を語ることはしませんでした。ワクワクする未来は、皆さんがそれぞれ考えて切り開いていくものです。垣根を超えたセッションに象徴されるように、今回のイベントではいろんな未来の景色を示すことができたのではないかと自負しています」(笹原氏)

 先が読めない時代に必要なのは常に想定外を想像する柔軟なアプローチであり、NDVにはこうした遺伝子が宿っている。今後、協業を目指すスタートアップにとっても心強いパートナーとなるに違いない。

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