オプティムが2021年5月にリリースした「OPTiM Geo Scan」は、現場の測量生産性向上のために開発された高精度3次元測量アプリだ。「現在、1万㎡超の大規模現場ではドローンを利⽤したUAV測量や3Dレーザー測量器による測量などが採用され、測量の効率化やコストの最適化が進んでいます。しかし、建設現場の約8割を占める小規模現場、中規模現場では、トータルステーションを利⽤した光波測量が主流。2人1組での作業が前提となり、測量に時間がかかる、技術習得の難易度が⾼いといった課題がありました」。同社 ゼネラルマネージャー 坂田泰章氏はこのように指摘する。
オプティムでは、従来より測量に関する課題に悩んでいた松尾建設(佐賀市)と提携。現場での作業性など実践的な面を考慮しながら、「OPTiM Geo Scan」の開発に取り組んだという。
「OPTiM Geo Scan」では、レーザー光によって対象物までの距離や位置、形状を正確に検知できるLiDAR(Light Detection and Ranging)の技術を利用。これに全球測位衛星システム「GNSS」の⾼精度位置情報を組み合わせて、⾼精度な測量を実現した。
作業手順は簡単だ。LiDARセンサー付きのiPhone/iPad Proで測量対象物をスキャンするだけでいい。従来の光波測量では、トータルステーションを操作する技術者とミラーを持つ技術者の2人が必要だったが、「OPTiM Geo Scan」であれば1人ですむ。
測量対象物をスキャンするだけで3次元データの取得が可能となるため、測量経験の浅い技術者でも業務をこなせるというメリットがある。「当社の検証では作業時間は光波測量と比べ、約60%削減。ドローン、レーザースキャナー等を使った既存の3D測量よりも導入コストは80%以上削減することができます」(坂田氏)。
また、リアルタイムに3次元データをスキャン、取得していくため、測量後に数時間かかっていたデータ化処理の作業が一切不要。「10,000㎡の起工測量でも開始から30分で3次元モデルを生成できた事例もあります。中小規模の現場においてもICT土工を導入することが可能です」(坂田氏)。
21年8月のバージョンアップでは、標定点の外側も点群取得が可能に。標定点を取りづらい斜⾯や壁なども簡単に測量できるようになった。また、測量中にリアルタイムで撮影済領域を⻘⾊で明確に⾊分け表⽰する機能も追加。スキャンしたエリアの漏れがわかりやすく確認できる。
さらに9月には、スキャン・エックス社と連携を開始。「OPTiM Geo Scan」で取得した3次元測量の点群データを、オンライン3D点群処理ソフト「スキャン・エックス」によってクラウド上で処理・解析・共有することができるようになった。面倒なデータ移行の作業は不要で、測量から3次元データの作成・編集後の施主とのデータ共有までシームレスな作業が可能だ。
また、10月からはトータルステーションとも連携を始め、GNSSレシーバーで位置情報が取得できなかった遮蔽物の多い現場や屋内でも、トータルステーションで計測した座標データをインポートして利用できるようになった。「以前から"トンネルや都市部のビル密集地帯など電波の届きにくい現場でも使いたい"というご要望がありましたので、サービスを拡充する形で対応しました」(坂田氏)。
今後は、外部連携を活用し、3次元設計データと、「OPTiM Geo Scan」でスキャンした出来形3次元測量データとの差分をヒートマップで表示する機能も、クラウド上で順次リリースしていく予定だ。
「OPTiM Geo Scan」を導入することで、測量にかかる人員やコストの負担が軽減されるだけでなく、現場における3次元データが活用しやすくなるというメリットは大きい。
これからは中小規模の工事現場でも、ICT施工やBIM、CIMの導入が進んでいくことが予想される。そうした建築・建設業界の変化に対応するうえで、建設業界におけるDX化促進を勢いづけるサービスとして期待されている。
また、「OPTiM Geo Scan」は、小規模現場での国土交通省の「ICT普及促進ワーキンググループ」※にも召集され、スマートフォンでの出来形測量への期待を受けており、今後一気に小規模現場を含め3次元データの活用が進むことに寄与しそうだ。
※「ICT普及促進ワーキンググループ」(座長:建山和由・立命館大学教授)
参考: https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/01089/
【須田建設様(埼玉県秩父郡)】
●測量の専門的な知識や技術がない入社1年未満の若手や女性の事務員でも、ゲーム感覚で3次元測量データを採取できる。
●従来の測量のような機材の運搬の必要がないので、一日に複数の現場を測量できる。
●治山、道路、川などの公共工事で利用。起工測量、施工中測量がそれぞれ3分の1に短縮。出来形測量に関わるところであれば50%以上削減できた。
【赤川建設興業様(北海道旭川市)】
●スキャンすればそのまま点群データになっているので、その後のデータ処理もスムーズ。
●施工後の出来形検査の際もスマートフォンでスキャンするだけなので、仕上がったところから検査をして、次に速やかに進められるため、工程を止めることなく測量できる。レーザースキャナー使用時よりも検査測量工程が約20%は短縮できている。
【宮崎県都城市】
●災害査定の際、被災地を3次元測量しておけば写真撮影は不要なので、現地に赴く回数を減らせる。
●災害調査にかかる工数が従来の3分の1になる。
【郷土建設藤村組様(新潟県上越市)】
●トンネルの保守業務で活用している。全長100mくらいのトンネルなら30分くらいで3次元測量することができる。
●河床工事での測量で10分かかっていた工程が「OPTiM Geo Scan」では2分程度で完了。
●複雑な形の構造物でも簡単に点群データにできて作業時間が短縮した。
●導入することで自社のDX化の促進が期待できそうだ。