新車開発時のシミュレーションは
高精度化の一途
「安心と愉しさ」をスローガンに掲げ、自動車、航空宇宙の2つの事業を展開するSUBARU。2017年に富士重工業から社名変更し、グローバルに事業を拡大している。とくに独自の技術で安全性、快適性を追求した自動車は日本、北米を中心に世界で高い評価を得ている。
群馬県太田市の群馬製作所本工場は、同社の自動車開発の本拠地である。その開発部門では、製品開発と将来技術の先行開発に取り組んでいる。技術本部 技術管理部 情報管理課 主事の竹熊義広氏は、開発業務の土台となるCAE※のインフラ業務を担当し、HPCを駆使したシミュレーション解析の企画・導入・運用を行い、車両の衝突安全性・走行音の研究開発チームと協働で製品開発を行っている。
※Computer Aided Engineeringの略。開発の初期段階から、コンピューターを用いた仮想試作・仮想試験を十分に行い、素性の良い、高品質な製品開発を行うためのコンピューターを活用した設計技術。
技術本部
技術管理部 情報管理課 主事
竹熊 義広 氏

かねてからHPC環境のオンプレミスからクラウドへの移行を検討していたが、そのためには3つの目的を果たさなければならなかったと竹熊氏は言う。その目的の1つ目は、「安心と愉しさ」の性能目標達成だ。「安心」の性能を提供するためには、机上のCAE解析と実車を用いた衝突実験を繰り返して、安全性が高い車体構造を造り上げる必要がある。
「1台の車両を開発するためには、何十台もの実車をぶつける実験をしなければいけません。実験とCAE、設計の三位一体で開発を進めますが、私たちのチームでは、CAE技術を高めるための土台(サーバー運営)を役目として、死亡事故ゼロを筆頭の目標にした、衝突安全・予防安全を進化させ、あらゆる場面で安全性を高めた車作りを進めています」
さらに、「愉しさ」の性能を提供するためには、空力操作安定性・風切り音のCAE解析適用を目論見通りの性能が求められるという。とくにEV(電気自動車)では、エンジン音がなくなり風切り音がより目立つことが想定される。それを踏まえた上で、SUBARU車で実現したい「愉しさ」への取り組み強化が、近々の課題として挙げられていた。
2つ目の目的は、開発のやり方を変え、開発日程の短縮と試験車を削減することだ。竹熊氏は「開発部門が主体的に、プロセスを変更することで、開発日程を短縮します。加えて、CAE解析の精度向上やCAE適用範囲の拡大による試験車削減を進めています。また、CAEインフラ部門が、クラウドを利用したプリ・ポスト環境にすることで、データ転送や投入コア数によるCAE計算の効率化を図ります」と語る。
そして、3つ目の目的は、導入・運用のコスト削減だ。コスト削減は、顧客が購入しやすい価格に設定するため、開発費用の削減も当然重要な切り口となる。
これらの3つの目的を達成し、「安心と愉しさ」を追求するためにCAEの重要性はますます高まっており、計算に使うコンピューターには高い性能が求められるようになった。それに伴い、自社のデータセンターに置かれた計算用サーバーの物理的なスペースと、消費電気の負担が大きくなっていった。
そこで同社では、HPC環境のクラウド化を決断した。その移行はどのように進められたのか。
